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11 (オレの敵は味方だ。)〇

 西部戦線の50km前 道路…。

 軽快なエンジン音を鳴らして、軍用車の長蛇の列が道路を進んで行く。

 軍用車は 荷台に緑色のシートを取り付けたもので、基本は 幌馬車の荷台と同じだ。

 荷台に椅子は無く、皆が床に直に座っている。

「その銃…オマエの私物か?

 見せて貰えるか?」

 オレの目の前に座る二等兵が言う…結構若いな…大学生か?

 一応オレは伍長な訳だが…オレの身体が小さく、子供ぽく見えるからか?

 かなりフランクに話しかけている。

「ああ…これか…。」

 車に相乗りさせて貰っている オレは、私物で持ち込んだウージーマシンピストルのマガジンを外して本体を渡す。

「ほう…連発式の銃か…。

 実用化されていたんだな。」

 二等兵は銃を受け取り触る。

「まぁ部隊に支給するには採算が合わないってだけで技術自体は あるんだよ。

 オレの友人の優秀なガンスミスに作って貰った。」

 マシニングセンターだけどな…。

 オレの装備は、9x19mm(9)パラベラム弾(パラ)を使ったマシンピストル…ウージーマシンピストル。

 それに45口径のリボルバーであるお守り(アミュレット)リボルバー。

 それに背中に背負っているGew98ライフルだ。

 リュックの中には、オレが普段 仕事で使っている医療キットが入っている。

 下士官以上なら自費で私物の持ち込みが許される…。

 まぁ下士官とは言え 一番下っ端の伍長が 私物を持ち込むのは、生意気な行動になるらしいのだが…。

 だが、塹壕戦だと言うのに 取り回しが良い ハンドガンを支給されていないので 私物の持ち込みは 生き残る上で かなり重要だ。

 西部戦線で入手出来るハンドガンの弾は、まだ開発されてから それ程 時間が経っていない ドイツ軍が開発した 9パラ…。

 実際に銃を使うなら 補給がある程度出来るウージーマシンピストルになるだろう。

 アミュレットリボルバーに使われている45ACP弾は、アメリカ製…。

 アメリカの参戦は 終戦の少し前になるので、現地調達は難しいだろうな。


 西部戦線まで10km…後方補給地点。

 軍用車がテントに赤十字マークが描かれている野戦病院の前で止まる。

 ここの野戦病院は 最前線で応急処置を受けて運ばれて来た兵士を 後方の病院に運ぶまで延命させ続ける為の施設だ。

 辺りには 死体かと見間違える程の負傷兵が地面に無造作に寝かされ、うめき声を上げている。

「申し訳ありません…我々にはトラックが必要です。」

 赤十字の腕章を付けた 血だらけの白衣の軍医が言う。

「だが、日が暮れる前に コイツらを塹壕に運ばないといけない…無理だ」

「瀕死の重傷者が50人はいます…早く降りて下さい!

 ここの兵士を見捨てるなら、それは あなた方に返ってきますよ」

 中の兵士達は隊長の意見を無視して勝手に降りる。

「おい…」

 これは未来のコイツらの姿だ。

 自分が瀕死の重傷を負っているのに、後方の病院に運ばれ無くなるのが嫌なのだろう。 

「まぁ良い…これからは徒歩だ…急ぐぞ」

「はい!」

 そう言うとオレ達は、最前線まで歩く事となった。


 長蛇の歩兵の列が最前線の西部戦線まで続いている。

 ここは もう敵の大砲の射程圏内だし、この長蛇の列は かなり目立つ…狙われるだろう…。

 とは言え、この距離だと命中精度が悪く そうそう当たる事はない。


 ヒュー…。

 飛行機が高速で通過した様な空気を切り裂く音が聞こえ、オレは咄嗟に前の二等兵の頭を掴んで伏せさせる。

「何を」

 次の瞬間 辺りには爆音が鳴り響き、他の兵士も遅れて伏せる。

「砲撃だ…全員伏せろ!!」

 頭を掴んで地面に叩きつけている 前の兵士が この砲撃でパニック状態になっている。

「落ち着け…耳を塞ぎ、口を開いて目元を抑える。」

 爆発の熱は そこまで広がらない…だが、爆発で膨張した空気の衝撃波は別だ。

 鼓膜が破れない様に耳を塞ぎ、衝撃波の圧力から身体を守る為、口を大きく開け、圧力で内側から外へ 飛び出ようとする目玉を抑える。

 更に言うなら加熱された熱風で喉をやらない為に 息を止める事も重要になる。

 ただし…この時代の砲弾に そこまでの威力は無い…と思いたい。

 30秒か?60秒か?

 次々と砲弾が地面に当たり、地面をえぐって 行く…。

 細かな土や破片が降り注ぐが、背中にはリュックがあり、ある程度の貫通を防いでくれる。

 そして30秒砲撃が終了し、次々と味方が立ち上がって行く。

「まだ…後20秒…」

 立ち上がったタイミングで次の砲撃が来る可能性がある…。

 なので、砲撃が鳴り止んでから最低60秒は、伏せたままで いる必要がある。

「おい立て臆病者…。

 砲撃は去った…行くぞ」

「はい…自分は臆病者です。

 よっと…」

 きっちり60秒耐えて、オレを見下ろしている指揮官が吹っ飛ばない事を確認して、臆病者とは無縁の様子で オレは ゆっくりと立ち上がる。

「……整列しろ…行くぞ!!」

 そんなこんなで、日が沈む前に如何(どう)にか西部戦線の塹壕に潜り込めた。


 西部戦線は静かな物だ。

 敵の塹壕は200m先…。

 敵は常に この塹壕を狙っているので、ここから 頭を出せば 敵に頭を撃ち抜かれる。

 だが、逆に言うなら塹壕内なら安全だ。

 ここなら砲撃もピンポイントで撃ち込まない限り、被害はない…今の所は…。

「それじゃあ、オレは 救護班に行くから ここでお別れだな。」

 戦闘がメインのコイツらとは違い、オレは救護班への補充要因だ。

 同じ第16予備歩兵連隊だが、部隊が違う…。

「ああ…助かったよ…それじゃあ また…」

「いや…出来れば また合わないでくれると 助かるな…。」

 もちろん無傷なら生き残って欲しいが、それが出来ないなら負傷せずに即死して貰いたい物だ。

 この塹壕には 確実に1万の味方兵がいるだろう…。

 学の無い突撃に大量の負傷者…。

 衛生兵のオレにとって、敵は敵兵じゃない…医療リソースを食い尽くす味方だ。

「そうだな…怪我して運ばれない様に気を付けるよ」

 二等兵は オレの言葉をポジティブに受け取り、部隊の皆と一緒に去って行った。

「さて…オレの戦場に行きますか…」

 オレはそう言い、塹壕内の救護班がいる深い防空壕に行くのだった。

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