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18 (生産性の向上)〇

 午後3時に いつも通り道路工事の仕事を終えて、ナオ(オレ)は、ファントムで竹の森の拠点(きょてん)まで戻って来た。

 クラウドの紙幣の発行は順調に進んでいて、いくつものA3の雑草紙が干されている。

 生産は問題無さそうだな…。

 次、ジガ…ジガ達はガラス繊維の布を編んでいた。

 最近ジガと一緒にいる ユフィの編む速度が他の比べて各段に早いが…それでも遅く感じてしまう。

 生産性を上げる為にも遠心分離機、紡績機(ぼうせきき)と編み機は必須だろう。

 後でクオリアと相談して設計を始めるか…。

 そして、ハルミの植物工場に向かう。


 植物工場は 竹の壁に多数の窓ガラスをはめる事で造られており、外と同じように太陽の光が部屋の中を照らす設計になっている。

「ガラスだらけだな…。」

 植物工場の中に入ったオレが周りを見回しながらハルミに言う。

 ある程度補強されているとは言え、強度が心配だ。

「まぁガラス職人の育成の為かな…。

 ガラスは断熱性が高いし透過性も高いから 性能は良いんだけど手間が掛かる…一番良いのはビニールハウスなんだけど…フェノール樹脂から作るとしても 機材から作る必要が出て来るからな~」

 ハルミが竹のテーブルでの作業を中断して言う。

「ガラス繊維のシートは どうだ?」

「ガラス繊維は透過率が低いからな…太陽光が使えなくなる…。

 白熱電球でもあれば 光が無くても良いし、積層化(せきそうか)も出来るから良いんだが…。」

「照明か…発電機が出来たら作ってみるか…」

 白熱電球はガラスのケースの中に竹のフィラメントを入れて銅線を取り付け、フィラメントが熱で燃えないように ガラス容器内を二酸化炭素で満たしてやれば比較的 簡単に作れる。

 現場からの需要だ…こっちが作って その作り方を住民に教えて商品に出来れば、それが仕事になり 経済の活性化に繋がる。

「それで…畑はこれか?」

 オレは 竹で出来たテーブルの上に乗っているガラスケースを見る。

 ガラスケースの中には、透明な白っぽいゼリー状の土が入れられていてぱっと見、畑には見えない。

 多分この中に種が入っているのだろう。

「やり方自体は 水耕栽培と同じだ。

 根っこに最適な土の成分を再現した栄養液を(ひた)して成長させる方法だな…。

 で、今 色々な割合で その栄養液を調合して実験している(とこ)。」

「で、この土?は?」

「栄養液に1.5%の濃度でテングサから作った 寒天を加えた寒天培地(かんてんばいち)だ。

 元々は 微生物の培養(ばいよう)に使われていた方法なんだが、無菌室が造れない今の環境だと 栄養液が雑菌で汚染されちまうからな…。

 こうやって根っこを寒天で保護する事で雑菌の侵入を完全に防げる…食べ物経由の感染症は この方法で無くせる はずだ。

 後 寒天は95℃以上で液体になるから 液体の状態でポンプで一気に畑に送れるし、収獲の時に排水をすれば 自動的に排水溝まで流されて来れるってのも魅力(みりょく)だな。

 作業が大幅に楽になるし、将来 食料生産を自動化した場合の効率を考えると この方法が一番 確実だしな。」

「それで…収穫量は?」

 現状 狩猟と採取に頼った生活をしているが、このまま人口が増えて行けば、いずれ食料を(まか)いきれなくなり破綻(はたん)する。

 その前に畑を作って自分達の力で作物を育てないと行けない。

「一応 どれも食べられるようになるけど、これは まだ実験段階…。

 こっちの方が生産速度は良いんだろうけど、今は単純に畑の面積を増やしちまった方が楽だからな…。」

「とは言っても ここら辺の土地は塩害がヒドイからな~。

 やっぱ 現地民の土地が必要になって来るか…。」

「今の所はな…最終的には あちこちのミドリムシを掛け合わせて栄養価を引き上げた ミドリムシ食品だけで食事を取れるようにするのが当分の目標かな」

「分かった じゃあ 必要な物があれば言ってくれ。

 技術投資は惜しまないから…。」

「ああ…じゃあ、電球とエアコンを頼むよ…。」

 ハルミが笑いながら言う。

「電球はともかく エアコンか…電気を作れたら最速で作るよ…。」

 そう言うとオレは 機械の構造を考えながら自分の部屋に戻った。


 オレの部屋の作業場のテーブルに付きながらオレは 綿あめ機のCADデータを 目の前にARで表示し、動作を確認する。

 電気を使ったモーターの回転を歯車に伝え、()けた銅を入れた容器が高速回転し、小さい穴から次々と銅が銅線となって吐き出されて行く。

 次は光り輝く程 熱した鉄を放り込み、鉄線…。

 ガラスを入れれば ガラス繊維、コールタールを熱して軟化させた物を入れれば、炭素繊維が出来上がる。

 次はモーター横の取っ手を付けた大きな歯車を取り付けてグルグルと回す事で、手動による回転で糸を作って行く…動作確認は出来た。

「良し…これで良いだろう。」

「何をやっているんだ?」

 クラウドがオレを不思議そうに見ながら言う。

「あ~綿あめ機のCADデータを作って…って言っても分からないか…。」

 AR機能を持っていないクラウドには オレは何もない所で手をグルグルさせているとしか見えない。

 実際は オレの目の前には 設計から作った綿あめ機がある訳だが…。

 オレはクラウドが紙幣を発行する時に作っているA3の雑草紙に木炭に粘土を混ぜて固めたチャコペンで、綿あめ機のCADデータを正確に出力して行く。

「ジガが ガラスの綿を作る道具を作っていただろう…。

 これは その場で作った急増品じゃなくて ちゃんとしたヤツな」

 この義体(からだ)は定規を使わないフリーハンドでも直線を正確に引けるから非常に便利だ。

 そして、最後にオレは 動作確認が出来たCADデータを元に プラモデルのように1つ1つパーツを並べて大きな型の設計図を雑草紙に書いて行く。

「凄いな…これで アレを誰でも作れるようになるのか…。」

「そう、パーツも全部 鋳造(ちゅうぞう)で出来るようにしているから 型さえ 作ってしまえば、鉄を()かして 流し込むだけで出来る。」

 オレは倉庫から粘土板をテーブルに持って来て ガラスの器具を使って設計図通りに加工して行く…。

「ただ…この型を作るには それなりに技術がいるんだがな…。」

 とは言っても、粘土板を掘っているだけなので やり直しは無数に出来る…時間は掛るが オレの技術力でも問題は無いだろう。

 ただ、加工が容易ではあるが 粘土板では鉄の熱に耐えられ無いので、この型にグリスを塗って石灰モルタルを入れてパーツを作る。

 パーツが出来上がったら再度グリスを塗って、石英モルタルの板にパーツを沈めて型を取る事で、綿あめ機のパーツの型が完成する。

「さて、クラウドは 予備用の型を作ってくれ オレは紡績機(ぼうせきき)の型を作る。」

「言うと思っていた…っと」

 クラウドは オレが書いた設計図通りに粘土板を掘って行き、型を再現して行く。

 これを技術継承(ぎじゅつけいしょう)と言って良いのか分からないが、取りあえずオレ達がいなくなっても クラウドが入れば 設計図を元に型を作れるようになった。

 出来ればクラウドには 技術者の先生になって生徒に技術を教えて(もら)いたいのだが、周りに黒人奴隷しかいない今の状況では 黒人嫌いのクラウドは自分の生徒を持とうとしない…。

 山の頂上にいる現地民は見た所 白人なので、クラウドが教えても良いと思える生徒も出て来るかも知れないが…。

 同じ手順を踏み、紡績機(ぼうせきき)の型も完成…。

 ホープ号のデータバンクに有った 設計データを元に こちらの使用状況に合わせて改造しているだけなので、随分(ずいぶん)と楽だ。

 

「それで、クオリア…編み機は如何(どう)だ?」

 部屋の(すみ)で膨大な数の粘土板を掘っているクオリアに言う。

「あ~データは既に完成している…送る。」

 クオリアは量子通信でオレにCADデータを送り、オレは展開…。

「なんじゃこりゃ…すんごいパーツ数だな」

「ああ…ただ 同じパーツが多いだけで、仕組み自体は そこまで複雑な物では ない。」

 見た所、パーツ数の大半は 糸を編む為の鉤爪(かぎつめ)の部分で、その手前の板を左右に動かす事で(ひも)を編んでいく仕組みだ。

 綿あめ機も紡績機(ぼうせきき)も編み機も、横の歯車に付いている取っ手を手回しで 回転させる手動機構で、歯車を回す為の専用の作業員が必要だ。

 だが、電気が使えるようになったら この歯車の部分にモーターを取り付けてやれば (ほとん)どの動作が全自動になる仕組みになっている。

 これは オレとクオリアが、今後の事を考えて動力部分を規格化したからだ。

「よし、問題無いな…。」

 クオリアが最後の粘土板を作り完成…後はモルタルを入れるだけだ。

「手伝うよ…。」

「ああ…頼む。」

 その後 型作りは 日が傾いて来た所で今日の作業が終わり、大量の石灰モルタル製の型が出来上がった。


 翌日の朝から大量の型を使った部品作りの始まりだ。

 明らかに人手が足りない事は目に見えていたので、ガラスを作っていた奴隷達の他に ジガを中心に ガラス繊維を編んでいた女性達も集まらせる。

 彼女達も 紡績機(ぼうせきき)と編み機が導入出来る事で作業速度が飛躍的に上がるんだから文句は無いだろう。

「やっと製鉄だな…材料は?」

 炉に熱を加えて温めながらオレがクオリアに言う。

「もう(そろ)っている…鉄7、コークスの代わりの木炭2、酸化カルシウム1の割合で出来る。

 まぁ…コークスより炭素含有量が低い木炭を使うから3に なるかもしれないが…そこは調整だな。」

「それじゃあ 取りあえず作ってみるか…。」

「そうだな…。」

 クオリアがファントムで運んで来てくれた鉄と銅は それぞれ1t…。

 当分は この量さえあれば問題無い。


 さて、作り方の基本はガラスと同じだ。

 まずは 鉄鉱石を砕いて砂状になるまで潰して砂鉄の状態にして行き、ここから鉄だけを取り出して行く。

「天然の永久磁石があればな…。」

 クオリアが言う。

 磁石があれば 鉄をくっつける事が出来るので簡単に砂鉄の選別が出来る。

 が、今はその手が使えない為、砂浜の砂から石英を選別した時の様に風を吹かせて選別する比重選別しかない。

「見つかっていないのか…。」

「ああ…発電に必須な 天然の永久磁石が見つからない。」

 普段 永久磁石は簡単に作れるので あまり希少性は感じないが、一番最初の永久磁石を作る為に必要な 天然物の永久磁石には 鉄分を含む鉱山に雷が直撃する必要がある非常にレアな鉱石だ。

 クオリアが見つけた鉄の鉱山は標高が低いので雷が当たり難いのだろう。

「1つでも見つかれば 良いんだがな…。」

 そう言うとオレは 消石灰の水酸化カルシウムを水で薄めたアルカリ液に砂鉄を入れて()び取り、その後は 鉄7、木炭2、酸化カルシウム1を念入(ねんい)りに混ぜて後は炉で焼くだけだ。

 石英(せきえい)モルタルの容器の中に入っている木炭に熱が入って中の砂鉄の温度を上昇させ、酸化カルシウムが不純物を排除していき、鉄の純度を上げていく。

 鉄自体の温度が上がり 鉄の色が赤色、オレンジに…そして黄色に変わって来た。

 そして光り輝く白色になった所で 竹のトングで 容器を炉から取り出してドロドロになった鉄を型に流し込む。

 そして型ごと水に付ける事で、急速冷却 ジューと言う音と共に膨張(ぼうちょう)していた鉄が収縮(しゅうしゅく)し、鉄の密度が急激に上がり、綿あめ機のパーツが出来た。

「よし、問題無いな…。」

 後は ガラス作りで鋳造(ちゅうぞう)の技術を(きた)えていた住民達が中心となって、オレ達が作り方を教えて 住民達の力だけで作った複数の炉で 次々と鉄を熱して()かし、グリスを塗った石灰モルタルの型に流し込んで行き、水で急速冷却をして これをひたすら繰り返す。

「やっぱりマンパワーは重要だな…。」

 合計12基の炉の煙突から出る煙を見てオレが言う。

「出来も良い見たいだ。」

 クオリアは生み出されたパーツの検品を行っている。

 現状、パーツの精度誤差は大きく出ると想定して設計してある為、問題にはならないが、今後は精度を高める研究もしないと行けない。

 さて、マンパワーのゴリ押しでパーツが どんどん出来上がって行き、それと同時に組み立て作業も始まっている。

 その担当は その機械を使う ジガ組だ。

 オレが設計した綿あめ機、紡績機(ぼうせきき)は構造が簡単でパーツ数が少ないので早く済んだが、問題は編み機だ。

 上から たらされた糸を無数の鉤爪(かぎつめ)の上にある板に通し、左から右へ…右から左へと、板を動かす事で編まれて行く仕組みになっている。

 のだが、パーツ数が多い為、部品組み立てに時間が掛かり、しかも同じ型のパーツを2回作ってパーツがタブったりと言ったトラブルも発生している。

 クオリアが組み立ての説明書を紙に書いて作ってくれているし、パーツ自体に番号が刻まれているのでプラモデルの要領(ようりょう)で組み立てが出来る比較的簡単な構造に なっているが、それでも結構 難しい。

 結局 組み立てに丸一日掛かり、完成した頃には既に日が沈んでいた。


 (さら)に翌日…。

 昨日サボった分の道路工事も含めて、何とか今日分の作業を終わらせ、竹の森の拠点(きょてん)に戻る…。

 ジガが 女性達に綿あめ機と紡績機(ぼうせきき)、編み機の使い方を教えながら まだゆっくりとだが、手作業と比べて各段に早く布が仕上がって行く。

「凄い…コレが機械の力…。」

 編み機でガラス繊維を編んでいる ユフィが言う。

「凄いだろ…これが『生産性の向上』だ。

 1人辺り1日 1枚編んでいた所を 機械を使う事で、1日に100枚編めるようにする。

 そうなると単純計算で 布の値段を50分の1にしても通常の2倍は儲けられる事になる。」

 ナオ(オレ)が ユフィに言う。

 1人当たりの生産能力が上がる事により、国が経済成長出来、国民の生活も豊かになり 余った時間を研究に費やす事で、新たな機械を発明して (さら)に生産性が上がって行く好循環(こうじゅんかん)が発生する。

 最終的には 人口の(ほとんど)どが働かなくても成立する社会にする事が目標だ。

「私達が失業する訳だぁ こんなに簡単に出来るんだもの…。」

「安心しろ…今の1000倍以上の布を生産する事になるからな。」

 オレが少し笑いながら言う。

 服だけでは無くガラス繊維や炭素繊維も同じ機械で作れるので、仕事量は飛躍的に増えて行くだろう。

「と言う訳で、ジガ…日当1000トニーで頼む」

 札束をジガに渡して言う。

「おう、分かった。」

 水、ジュースなら5L…食事なら オレらが保証している食事の他に2食 食べられる金額だ。

 正直、給料が安すぎだが 税金が一切無いし 売れる物が少ない今の状況ならそれで十分だろう。

 そう思いながら、オレは 今回頑張ってくれた職人に日当を渡す為に向かって行った。

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