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09 (臆病者と ならない為に…)〇

 クラウド商会ベルリン支店。

「おい、アドルフ・ヒトラーとナオ・カンザキはいるか?」

 銃を持った軍人が商会のドアから突入し、ナオ(オレ)にルガーP08ハンドガンを向けようとする。

 オレは咄嗟に首を傾けて射線を回避し、軍人の手を押しのけて射線をズラし、腕を背中にまわして拘束する。

「くっ何をする」

「こっちこそ、何をするですよ…。

 銃を向けると言う事は 撃たれる覚悟があるのでしょうね」

「うぐっ…」

 後ろにいる仲間の警察がスリングベルトで 背中に背負っていた ボルトアクションの銃…Gew98をこちらに向けて構えるが、オレは軍人を動かして盾にする…これで相手は撃てない。

「銃を降ろして下さい…話し合いなら受け入れます。

 このまま、殺し合いを始めますか?」

 明らかに小柄なオレが軍人を見上げて言う。

「いや……銃を降ろせ」

 軍人が味方の軍人に言う。

「ですが…」

「降ろせ…話し合いで解決するなら それで良い。

 こちらも荒事にする気はない。」

 ルガーP08を持っている警察は、ホルスターに銃を収めて、他の警察は、Gew98を また背中に背負う。

 銃をヒトに向けている時点で十分に荒事じゃねぇか…。

「ふう…全く…飲み物は?奢りますよ…」

 オレは一応 紳士的に対応する。

「いや仕事中だ いい」

「そうですか…では カウンター席に どーぞ」


「それで…私がナオですが」

「オマエが?確かに東洋人は老化が遅いと聞くが…オマエは まだ子供だ。

 本当に35なのか?」

「まぁ記録上は…特殊体質でしてね…。

 血的には 中国と日本のハーフで移民です。」

「なるほど…どうりで体術が上手い訳だ。」

 ここで 日本人や中国人に会う機会なんて無いから、まだ東洋人は体術の達人と言う 一般認識になっている。

 まぁオレは柔道と合気道をメインにやっているから、認識としては間違っていないのだが…。

「それで…何の御用で?」

「そうだ…アドルフ・ヒトラーを受け渡して貰いたい。

 彼は、故郷のリンツで徴兵の検査を受けなかった兵役忌避罪と、その事実を隠して国外に逃亡した2つ罪に問われている…。

 彼をオーストリア領事館に引き渡し、処分が下されるだろう。

 そして、オマエは それを知って彼を匿っていた嫌疑が掛かっている」

「なるほど…私の嫌疑については、すぐに晴れるでしょう。

 はい…コレ…入社前にアディに書かせた物なのですが、国籍が無国籍と書かれていますね。」

「ふむ…つまり、オマエは騙されたと…。

 無国籍の時点で怪しくないか?何故雇った?」

「元々、この店の従業員には 薄暗い過去を持っていると思われる人が多くいます。

 ですが、そう言った過去は 私は聞かない様にしています。

 今の仕事がちゃんと出来れいれば、過去に何を起こしたかは関係無いですから…」

「つまり、オマエは 従業員に義理立てして庇うつもりか?」

「いいえ…引き渡しには応じますよ。

 それは契約書に ちゃんと書かれていますから…ほら ここ…。」

「確かに…それで、ヒトラーは?」

「もう そろそろ配達から帰って来るんじゃないですか?」

「ただいま…外が荒れている様だが…。

 ん?警察…」

「ああ、兵役忌避罪だってさ…。

 悪いな…とは言え 契約だから…」

「分かってる…難しいが無実を証明するさ…世話になった。」

「あっちょっと待て…はい、給料日前だが 今月の給料。

 問題が解決したら また来るといい…アンタの腕なら歓迎するよ」

「助かる…また頼らせてもらうよ。」

 2人の警察と共にアディが連れていかれる。

 そして、1人の警官が残った。

「それで、まだ御用で?」

「ああ…私は軍の志願兵を集めている。

 無資格とは言え、兵士を治せる医者は我が軍にとって貴重な人材だ。

 軍に志願してくれると助かるのだが…」

「そうですね…最低でも下士官…伍長の階級を貰えれば参加するのですが…」

 オレは軍人に答える。

 まだ戦争は始まっていないが、ほぼ確実に投入される 現場は 西部戦線の塹壕だ。

 ここは伍長より下の階級だと、機関銃座が大量に取り付けられている 敵の塹壕に向かって、皆で大量の弾幕の中を突撃し、敵の塹壕に侵入して戦闘を行う作戦を行う事となる。

 弾幕の中を無理やり進む為、投入戦力の90%以上を消耗すると言われるイカれ作戦の為、確率上、この作戦を3回以上 生き残れる兵士は まずいない。

 そんな人的資源を消耗するだけの戦場に付き合う必要もない。

 なので伍長以上の階級は 必須の条件となる。

「伍長か…士官学校を出ていないと難しいだろうな…」

「でしょうね…。

 バイエルン陸軍の義勇兵なら オレの能力を高く評価してくれると思うのですが…。」

 バイエルン王国はドイツの南に位置する国で、現在はドイツの同盟国となる。

 さっき逮捕されたヒトラーは 最終的に バイエルン王国の陸軍に義勇兵として志願し、バイエルン王国 第16予備歩兵連隊に所属するはずなので、そこで合流出来れば如何(どう)にか なるだろう。

「バイエルン王国か…戦う相手は一緒か…」

「私は そちらに行ってみます」

「分かった…では…」

 軍人は扉を開けて出て行った。

「ふう…戦争が始まるなら指示しておかないとだな。」

 オレが書類を見る。

 クラウド商会は、仮想敵国であるイギリスにも支店を持っている為、世間からの風当りが強い。

 ベルリン支店の対面や、従業員が臆病者扱いされない様にする為、クラウド商会は、傭兵としてドイツ軍への補給物資の輸送を担当する契約を結んだ。

 最前線の手前の補給基地まで輸送する仕事なので 死傷者も少なく、これで血気盛んな従業員の欲求と最低限の体裁を整えられるだろう。


 1914年7月28日…。

 ドイツがフランスのパリを墜とす為に侵攻ルート上にある邪魔な 中立国のベルギーを攻撃。

 ここから1918年11月11日まで続く 第一次世界大戦が始まった。

 その日 オレはベルリン支店を信用出来る従業員に任せ、ベイエルン陸軍に義勇兵として志願…。

 翌日には 入隊許可書が届き、オレは 3ヵ月の速成訓練を受ける事となった。

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