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07 (輸送機から爆撃機へ)〇

 潜水艦が防波堤で囲った港に到着し、各国の観光客が降りてくる。

「ふう…やっと着いた」

「お疲れ様です…こちらが外交をメインに行う外交島です。」

「何と言うか…名前が直球ですね…あちらに見える島は?」

 民俗学者が指を差す。

「あそこが 本島…ユートピア島です。

 事前にお話しした通り、あの島は軍事機密の塊で私達の拠点です。

 許可なく立ち入った場合、「射殺するですよね…分かっています」

 ハルミ()の話に民俗学者が割り込んで言う。

 ここからだとユートピア島はポツンとしか見えないのに良く分かったな…事前に送った簡易 地図か?

「それにしても 優秀な兵器があるなら 他国に兵器の力を見せつけて、警戒させるのが 良いのではないか?

 隠された兵器は 抑止力に ならないぞ…」

 アメリカの軍人が言う。

「ええ…ですが、どんな兵器があるか分からない状態は、迂闊に攻撃も出来ません。

 こちらが 宇宙人由来の超兵器を隠し持っている可能性もありますから…。」

「確かに…で、あるのかね…宇宙人の超兵器…。」

「私が知る限りでは、少なくとも1種類はありますね。

 使われた事はないですし、私が直接 見た訳でもないですが…」

「ほう…」

 パタパタパタパタ…。

「ヤッバッ…この音は…」 

 私達は 音がなる ユートピア島 方面の空を見る。

 そこには鳥の様に翼を広げ、2基のプロペラを軽快に回しながらやって来るエアトラの姿があった。

「ほう…複葉機じゃなのか…腹部分も大きい…かなりの荷物を詰めそうだ。」

「あっちゃあ…」

 エアトラは翼を斜め上に向けて減速を始め、外交用の潜水艦の隣に滑り込み、着水…海水を使って減速して船体が止まり、坂道のスロープを上って陸揚げ…。

 機体が停止して 後部ハッチが開き、中から出て来たのは パイロットスーツを着た 10歳位の獣人族の少女だ。

「おおハルミ、戻ったか…ん?お客さん」

 獣耳型に膨らんだヘルメットを脱ぎ、中から小麦色の肌を持つ黒人の少女の顔が見える。

「そう…外国からのね…」

「ああああ、今日だったの…全く、スケジュールに入ってたよ。

 怒るなら、飛行スケジュールを組んだ海軍に行って…。」

「アンタも海軍だろうに…」

「それで…この子が宇宙人の子孫?」

「ええ…ルゥ・ワイズ・ウルフ伍長…。」

 私がルゥを見て言う。

「伍長?こんな子供が?

 いや…でも飛行機を乗りこなせる 特殊技能持ちだと考えれば、その位は行くのか?」

「士官学校を卒業していますからね…。

 と言うか、今は 下士官より下が いませんので伍長が一番下です。」

「全員が軍学校を出た指揮官と言う訳か…。」

「そうです 彼女は今年で10歳…。

 獣人族の寿命は 30位なので、見た目はともかく頭の成長は早いのです…この年齢で 一児の母ですし…」

 私が言う。

「この見た目で母親ですか…。

 失礼…それは無理やりですか?」

 民俗学者が私に聞く。

「いいえ…合意の上です。

 トニー王国では『双方合意の無い性行為を しては ならない。』この一文だけしかありません。

 なので、同性愛者だろうが、子供を愛してようが、双方の合意が取れるなら合法と言う事です。

 まぁ…産まれた子供は 政府が一括管理で育てるので、始めてが10歳以下なんて事は割と普通なんですが…」

 トニー王国では男女を分けない…。

 なので、幼い男女が裸で風呂に入る事になり、おっ初めてしまう事もまぁまぁある。

 それを 容認出来るのも、子供が親になっても 養育 責任が発生しないからだ。

「同性愛者も、小児性愛者も 子供を作れない欠陥人種だ。

 我々の国では違法なんだが…何故(なぜ)庇う?」

 軍人が言う。

「あなたの国の価値観では違法でも、こちらの価値観では合法と言うだけです。

 どちらが間違っている訳でもありません…どちらも正しいのです。

 私達は この方法で、国を運営していて問題は起きていません。

 あなた方の常識と正義を押し付けないで下さい。」

「むう…確かにまだ国と認められていないが、国と認められれば自治権が発生する。

 非常に遺憾(いかん)だが、こちらの文化に干渉するのは内政干渉になるな」

「そうです…」

「なら、他に性文化で違う事はありますか?

 予め観光客に伝えられれば、トラブルを回避 出来るかもしれません。」

 険悪な雰囲気になりそうな中、民俗学者が話に割り込んでくる。

「そうですね…我が国には 結婚という概念がありません。

 産まれた子供は 政府の子供として一括で育てられるので、子供の養育責任を持つ親…つまり結婚が必要 無いんです。

 それに 自分で子供を育てる必要が無いので 男女共に 複数人の恋人がいるのが当たり前です。

 なので、妊娠した観光客がこちらで出産した場合、子供を政府に取り上げられてしまう事になります。」

「複数人が当たり前って…野蛮な」

「まぁ小規模の村でなら、産まれた子供を『村の子供』として 一括で育てる文化もありますから…。

 それを 200万人の規模でやるには 相当な資金が必要ですが、そこまで外れてはいない価値観ですね。

 妊婦の出産の問題までは 我々も考えていませんでした。

 これでトラブルも減るでしょう。」

 民俗学者が軍人を抑える様に少し明るく言う。

「はぁ…まぁ文化と言う事で受け入れるが…アレは乗れるのかね?」

 軍人がエアトラに指を差して言う。

「まぁ見られちゃいましたらかね。」

「私達は軍事機密を見た罪で射殺ですか?

 それなら、死ぬ前に飛行機に乗っておきたいのですが…」

「いやいや、そこまでは…」

 私は慌てて否定する。

 まぁ他国の歴史を見れば、そんな理不尽な事で処刑された前例は山ほどあるからな…それを警戒するのも分かる。

 そもそも彼らだって まだ安全が確認出来た訳でもない国を信用して安全の確認に来たんだ。

 ここでトニー王国が彼らを人質にしたとしても、彼らの国は切り捨てるだろう。

「ルゥ燃料は?」

「荷物 降ろせば、まだ 余裕ある…飛ばすの?」

「そう…皆を乗せてな…島を1周出来れば良いんだが…。」

「分かた」

 ルゥがエアトラを見る。

 後部ハッチが空いたエアトラでは、小型のゴムボートを使って荷物の荷下ろしが始まっている。

 荷物はすべて折り畳みコンテナ(折りコン)に入れられており、これが外交用の為 生産拠点がない この島の補給物資となる。


「終わりました…」

「おおっ今行く」

 ブリテンの軍人()は、獣人族で黒人のルゥと一緒に飛行機の後ろから乗る。

「窓は付いていないんだな…」

 私が飛行機の中の壁を見て言う。

 ルゥは 前方にある椅子に座り、出発作業をしている。

 その手慣れた動きから、彼女がこの飛行機の操縦に慣れている事が分かる。

「まぁ輸送機ですから…ルゥ…半開きで発進」

「落ちても知らんよ」

 ルゥの言葉に ハルミは 荷物を固定する為の壁に取り付けられている左右のレールに ベルトを取り付け、ベルトをキツく締める。

「これに掴まって…落ちない様に気を付けて…」

 私達はベルトを掴む。

「それじゃあルゥ…ゆっくりと出して…島一周を周ろう」

「分かた」

 ルゥがそう答えると開いていた扉が半開きで閉まり、海面から離れて行く。

「おおっ…浮かんでいる。

 しかも滑走も無しに…」

 私の隣にいるアメリカの軍人が言う。

 複葉機では正面にプロペラを配置する事で、後ろ向きの風を発生させ、翼を上に持ち上げる力を発生させていた。

 ただ、機体を持ち上げる為には速度を上げなくてはならず、舗装された平面の道…滑走路が必要になって来る。

 だが この飛行機は 翼に付いたプロペラを上に向ける事で、下向きに風を発生させて機体を持ち上げている。

 そして、ある程度の高さまで上がると今度は、翼の向き正面に向けて、複葉機の様に真っすぐに飛ぶ…。

 なるほど…死の海域では海上移動が難しいから、海中を進める潜水艦技術と空を移動する航空技術が発展したのか…。

「あっ…」

 今回 積んでいたのが 箱だったが、これが荷台に満載の爆弾だったら…。

 突然 私の頭にイメージが広がる。

 ロンドンの上空を飛ぶ この飛行機の後部扉が開き、その中から大量の爆弾がロンドンの街に雨の様に降り注ぎ、街が炎で包まれる光景を見た。

 これは爆弾を落とす飛行機として使える…本国に戻ったら飛行機の機数を増やして偵察だけでは無く、爆弾を落とせる様にしよう…。

 私はそう思い外の景色を見るのだった。


 この1週間後…。

 トニー王国は 事前の予定の通り 無事に観光客の接客を終えて国に帰らせ、この情報を元に 各国は正式にトニー王国を国と認め、領土を承認。

 忙しかったからだろうが、独立戦争も起きず、各国は 貿易などの国交を行う為に次の人員を送るのだった。

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