06 (技術は共有する物)〇
死の海域 付近。
「ひや…デカっ」
ハルミは 潜水艦の上で、Welcome to Tony Kingdom. welcome you(ようこそ トニー王国へ。あなたを歓迎します。)と手持ちの黒板にチョークで文字を書き、戦艦を見上げる。
全長が この潜水艦より50m程長い170m。
全幅は この潜水艦と同じ30m。
大型の2連装砲が 前方と後方に合計4門あり、ビルの様な高さの煙突からは 重油を燃やした煙が排気され、その手前に艦橋が建っている…レーダーが無い 有視界での戦闘なら見晴らしは かなり重要だ。
その他に、大小様々な砲門がハリネズミの様に隙間なく配置されており、接近は かなり難しいだろう。
ワイオミング級、戦艦アーカンソー…アメリカの海軍が持つ最新鋭の戦艦だ。
『ドラム…どう見る?潰せるか?』
私が無線で発令所のドラムに聞く。
『そうですね…海上からの接近は まず無理です。
ただ、艦底部は無防備…潜水艦の攻撃は想定されていないのでしょうか?
こちらの爆薬で船の推進器を破壊して 航行不能にし、同時に重油の燃料タンクに引火させて炎上させます。
重油は一度火が着けば、燃え続けてくれますから…』
『やっぱり そうなるか…』
『こちらは、正攻法で戦う事を想定していませんからね。』
『だから、怖いんだよな…』
モールスで事前に連絡を取っていたから、砲を こちらに向けている訳では無いが、威圧感が半端ない…砲艦外交か?
こちらも水圧に対抗する為に20cmの防音複合装甲を搭載しており、機銃弾程度なら防げるが 大砲が当たれば、いくら装甲を厚くしても誤差にしかならない。
これは 21世紀の軍艦でも同じで、ミサイルや機銃による迎撃能力の強化で被弾自体を防ぐ方式に変わった事により、装甲自体を減らして機動性を上げる方式に変わって行った。
こちらの船体のマークを確認した水兵達が 甲板に並んで敬礼を行っている…まぁ敵対はしていない見たいだな。
『ボートを降ろすそうです。』
ドラムが無線で言う。
『了解』
戦艦は ビルみたいに高い為、乗り降りの時には 小型のボートが使われる。
9m位の高さの装甲板の上から縄梯子を降ろして、背広姿の身なりの良い人達6人がボートに乗って、こちらまで やって来る。
「ようこそ…」
「お世話になります」
こちらも縄梯子を降ろし、上って来た外交官達と私は握手をする。
「どうぞ、こちらに…」
私は 前方にある人用のハッチから、6人を潜水艦に降ろす。
アーカンソーは 外交官が戻って来る1週間程 無線が通じる ここら辺で待機する事になる。
現状では、アメリカ、ブリテン共に こことは 距離が離れ過ぎていて無線が通じない。
無線を通じさせるには 電波のリレーを行う中継器が必要になるのだが、この時代は まだ手動による電信だ。
なので、この問題を解決するには 味方の軍艦は 電波でリレー出来る範囲内で行動する事によって、本国からの情報をすぐに受け取れるようにしている。
この方法の欠点は、中継する軍艦が 最前線に向かえないので 戦闘が出来ないと言う事。
なら 人数を少なくして 運用出来る 小型の中継艦を作れば良いのか?と言うとそうでも無く、今度は 前線からすり抜けて来た軍艦が中継艦を沈めやすくなってしまい、通信の分断が起きやすくなってしまう。
戦争は まだ始まっていないとは言え、こんな戦略の元にアメリカとブリテンの軍艦が行き来して緊張状態だ続いているのが、この北大西洋だ。
食堂
「さて、我々のスプリングフィールドライフルに ついてなのだが…」
食事後…早速、アメリカの軍人が私に話しかけて来た。
「なるほど…問題を理解しました。」
「あの銃の特許は こちらの国にある。
直ちに使用をやめて頂きたい。」
「まず、スプリングフィールドライフルの情報を こちらが 入手していたのは、本当です。
ただ、こちらが使っている弾に対応させる為に改造を施しました。」
「改造すれば、オリジナルだと…。」
「ええ…それに外国であるトニー王国には、アメリカの特許を守る必要はありません。
これは『技術は共有する物』と言うトニー王国の民族性でも ありますが…。」
「国際問題になりますよ」
「ええ…でも国際問題になるなら、我が国を国として認めてくれたと言う事になりますよね…」
「むっ…我が軍と戦争でもする気か?」
「いいえ…我が国は平和の国ですから…。
独立宣言時の領土を侵略されない限り、私達は文句を言いません。」
「領土ね…ここの土地も 船の一部通行を認めて貰えれば、各国に受け入れられるだろう。
だが、月の土地が欲しいとは 如何言う事だ?」
「我が国 トニー王国の建国した人物は、月から来ました。
彼女らは、光の速度を越える 宇宙船が故障して 月に不時着し、月の表面に文字を残して、後にトニー王国になる土地に降りました。
これはトニー王国の建国神話…と言うより、ほぼ史実です。」
「史実である証拠は?」
「月の文字…後は長さ20km直径6kmのシリンダー型の宇宙船…。
ただ、宇宙船は月の裏側…観測するには 月の裏に行く必要があります。
もっと確実なのは、その宇宙人の子孫がトニー王国にいるので確認して見て下さい。」
「何だと…」
「月から降りて来たのは、獣の耳と尻尾と腹に袋を持った獣人族の少女と、彼女を守る 御付きの機械人が4人です。
機械人4人がトニー王国に知識を与え、獣人族の宇宙人は、トニー王国で子供を産みました。」
「その子供の子孫に会えるのか?」
「そうです。
明らかに人とは 違う特徴を持っていますから…。
一度 悪魔付きの疑いを掛けられた位ですし…」
「悪魔付き…教会か…。
少なくとも、月に聖地があると言う事は本国に知らせておこう。
まだ月には 行けないのだろう?」
「ええ…飛行機はあるのですが…月は遠過ぎるので…。」
「飛行機か…確か、アメリカ軍にも2機あったな。
ライト兄弟が 偵察に使えるとか言って売り込んでいたが…」
「まぁ使えるとは思いますよ。
ただ アレはエンジンの性能が物を言いますから…」
「見せて貰う事は?」
「軍事機密ですからね…交渉はして見ますが…。
この潜水艦だって 下の階に行けば 射殺されますからね。」
「それは 分かってはいる。
だが、このような潜水艦を造れる国だ。
味方になれば心強い…」
「味方ですか…」
とは言っても 力が強い味方は排除するのでしょう。
3時間後…死の海域を潜水状態で抜け、トニー王国 本島であるユートピア島の周りにある小島の1つ…外交島にたどり着いた。