02 (神に逆らう国)〇
エレベーターの近くにある市役所の中に入る。
造りは コンテナハウスを組み合わせ、その上から塗装した形になっており、一定間隔で立っているコンテナの柱が多少気になるが それが この国の建物の特徴だろう。
個人的には 効率重視じゃなくて もう少し、見た目に気を使って欲しいと感じるんだが…。
会議室。
会議室の中には 囲むようなテーブルがあり、正面には レーザー投影型の大型モニターが設置されている。
「リアルで会うのは久しぶりだな」
クラウドがハルミに言う。
「25年を久しぶりと言う感覚…随分と馴染んで来たじゃないか…。」
「まぁ義体化してから 今年で160歳だし…。
100歳を越えると毎日が退屈になって来てな~そろそろ戦争が始まって面白くなるんだろ」
「退屈なのは分かるけど、この国が滅びるか、滅びない無いか、の瀬戸際なんだぞ。」
「とは言え、楽勝だろ…アイツらは 兵士の生産に最低でも15年は掛るんだから…。」
「その分、敵は こちらの何百倍の兵士がいて、何百倍の開発人員と資源がある。
質はこちらが圧勝とはいえ、物量を甘く見るのは 本当に危険だ。」
「でも、その兵士が死んだら、国内の労働者が減るだろ…。
ドラムで完全自動化をしていない国なら それを避けたいはずだ。」
「私達 トニー王国人なら そう考えるよな。
でも、相手が私達と同じ価値観とは 限らない。
敵は自分の国が 滅ばされると考えるから、今を生き残らないと後がないと考える。
国が無くなったら 労働人口なんて関係無いからな。」
「そんな 無茶苦茶な…。」
「クラウドは 寿命が無いから自分がいるはずの100年後の未来を考えて、今を考えられる…ヒトは自分が不利益になる事を 避けるからな。
でも、人が見通せるのは精々が30年…。
人は 自分が死んだ後の事は、身内さえ無事なら 後は如何でも良いと考えるから、未来の人間を犠牲にして今の利益を取る様に動く。
より短時間で、より利益を得る…人は こう行動する。
だから 世代を越えれば 越える程、次の世代を無視した利益 追求型の国になる。
今の状況なら、どの国も5年先も見えていないだろうな」
「さて、そろそろ良いですか?メンバーも集まりましたし…。」
私達が話している中、バードが言う。
「ああ、済まない」
私とクラウドは席に着く。
「さて、2人が少し話ていましたが、これから世界を巻き込んだ本格的な戦争、第一次世界大戦が はじまります。
私達は 建国当初から この戦争を知っており、今まで国の存在を隠しつつ、戦力の強化に努めて来ました。
では…人口統計」
「はい…現在の人口は、おおよそ25万人…建国当初の予定人数は既に越えています。
ただ この内、戦闘、生産に適さない 高齢者が比較的 多いです。
働けるのは20万人と言った所でしょう。
そして 現在、軍の人数は1万人…。
1939年では 動労可能人口は20万人を越え、軍の規模を2万人に出来る予定です。」
労働人口の10分の1を軍に回す。
しかも、残りの18万人も 弾薬や兵器を作る為の後方支援にまわる事になるだろう…完全に国家総動体制だ。
「よろしい、では次に軍の装備は?」
「現在、F-2000の改造銃、TM-19の配備が順調に進んでいます。
口径は7.62mm…1200m先の人の頭を撃ち抜ける性能です。
これをご覧ください。
この通り、排莢口を前方では無く、下に配置する構造にしました。
排莢口の前にマガジンを差し込む構造にしているのが、少し不安ではありますが、銃の性能を考えた場合、この排莢位置がベストです。」
「これ…薬莢が身体に当たるんじゃないか?」
「ええ、排莢口の形状を工夫して当たらないようにしていますが、ごく低確率で当たります。
ですが、仮に当たったとしても ドラムの装甲やパイロットスーツの上です。
熱さは感じないでしょう。」
「それで、その銃は人に扱えるのかね?」
「ええ…重量は弾倉込みで4.5㎏…。
ロクに身体を鍛えていない 我が軍の兵士には 確かに重いですが、パイロットスーツのアシストを使っていれば、短時間の戦闘なら問題無いでしょう。」
トニー王国は、極限まで生身の性能に期待していない。
大半の国民が『手を抜く事には手を抜かない』と言う考えを持っていて、何でもかんでも機械化してしまう怠け者だからだ。
なので、戦う為に必要な最低限の筋肉も 電極を筋肉に取り付けて刺激をする筋電気刺激が基本で、怠ける事への努力は惜しまない。
「パイロットスーツを着ない場合は?」
「一応撃てるとしか…。
筋力量も、体格差も、他国の兵の方が恵まれています。
装備無しでの格闘戦をやれば、我が軍は確実に負けるでしょう。
我々は それを 無理に身体を鍛えるのでは無く、パイロットスーツで補う事で、身体の性能を底上げしています。
まぁ単純に鍛えるのが面倒くさいから なのですが…。
なので、最低限 作戦行動中は パイロットスーツを脱がないで頂きたいですね。」
「ふむ…では次はDL」
「はい、現在 国内のDLは 1200機。
大半は 土木装備ですが、戦闘装備に換装する事で、敵の装甲車、戦車にも対応が出来る様になります。
装備は DL用に大型化したTM-19だけです。
後はDL用 対戦車ライフルを現在、開発中。
これで火力では 戦車に追いつけます。
後は、実際に戦車が出て来てから 装備を見直す事になるでしょう」
そう、まだ どの国も戦車を実戦配備していない…。
多分、何処の国もまだ基礎理論の段階だろうしな。
「分かりました。次、輸送…潜水艦」
「はい、現在潜水艦は、2種類あります。
1つは筒型潜水艦…これはコスト、積載量、静穏性に優れている機体で、今の主力はコレです…数は120…。
エアトラ用のエレベーターを搭載し、エアトラを最大3機、DLを6機 搭載出来ます。
ただ 水中内での潜水艦の武装は、水中用ドラムが船体に取り付き、爆発物を仕掛け、短波無線で爆発させる物です。
世界の戦艦と戦うには あまりにも非力…。
基本 戦わず、隠密行動を徹底する戦術になって来るでしょう。
それで、これを解決したのは シーウィング…。
平べったい形状をした潜水艦で、速度重視の機体です。
この機体は スーパーキャビテーションに対応しており、巡航速度は時速120km…。
これにより、近くまで静音モードで接近し、スーパーキャビテーションを使い目標地点まで到達。
短時間で作戦を終わらせて撤退する一撃離脱戦法が使える様になります。
こちらは現在6機…。」
「最終的にシーウィングに入れ換えるのですか?」
「いいえ、シーウィングは 積載量を増やす為、人が長期で生活する事を想定していません。
乗員の精神を考えるなら、これからもシリンダーが最適です。」
「分かりました。
戦況は?」
「トニー王国の周辺への船の数が増えています。
敵に発見された潜水艦は 今の所無し…。
相手の航路からは 死の海域は 少し離れていますが、発見されるのは時間の問題と考えて良いでしょう。
そろそろ 領土の主張と独立宣言を各国にした方が良いのかも しれません。」
「待った…現状で、アメリカ、ブリテンを相手にするのは危険なのではないか?」
「危険?まずは、周辺国のトップと会って、国際的な国と認めて貰う為の外交 交渉をします。
いきなり戦争をする訳では ありません。」
「だが、アメリカもブリテンも、トニー王国に基地を立てて補給拠点にするつもりだ。
戦時となれば、真っ先に攻撃を受けて補給拠点にされるぞ」
アメリカからブリテンまで 北大西洋を一気に航空機で渡るのは キツイ。
そこで、トニー王国で燃料を補給とパイロットの休憩をして、北大西洋を渡る訳だ。
これにより、航空機への燃料の量を減らして機体を軽くする事が出来る…当然、燃費も良くなるだろう。
「確かに…よし、決めました。
私達は 水面下で トニー王国を各国に知らせて、独立交渉を始めます。
決して脅す 外交戦略は取らないで下さい…。
まずは 相手を殺さずに、話し合いで解決を試みましょう。
各国の同盟国の動きが気になります…下手に荒立てず、各国の状況も調べて下さい。」
「一応 私は警告したぞ。」
私がバートに言う。
「ええ、分ってます。
アナタ達 神は私達の信仰対象ですが、ここは私達の国です。
神様は 神様らしく、私達のサポートに徹して下さい。」
「ハハハッ…分かったよ。
一応、最高権力者は まだ私達 神だ。
マズくなったら 指揮権を乗っ取るからな…。
それまでは この国の政府の方針に従うよ。」
私は笑いながらバートに言う。
「ありがとう ございます。」
神の言う事を だた妄信して聞くだけの信者になるのではなく、神はサポートに徹してろと言える都市長…良い感じに育ったものだ。
「では…新しく外交部を設立します。
目標は1年…それまでに人材の教育と より詳細な外交戦略を決めましょう。」
「了解しました。」
その後 細かい所の確認作業が入り、その日の会議は終わった。
「さて、少し早いが…国を見守るのが神様の役割だからな…。」
私はそう言い、太陽が無く、赤く輝く綺麗な夕焼け空の天井ディスプレイを見上げ、ここでの自分の宿舎に戻って行った。