01 (地下都市-ジオフロント-)〇
1910年。
トニー王国、アトランティス街 跡地。
「連絡は受けていたが、随分と代わったな。」
ハルミは平地になって建物が無くなったアトランティス街の跡地をバギーで移動する。
一回帰ったけど私がトニー王国の外に出てから25年…。
現役だった国民が老いて老人になり、あの時の赤ん坊が 今、活躍し始めている頃だ。
この国が まだトニー王国になる前の創始者…レナが鉱物資源のゴミ捨て場として使っていた 埋立地の丘がアトランティス街だったのだが、今では鉱物資源をすべて取り付くして 完全な平地に変わっており、ここで 獲得した資源は リサイクルされ、半永久的に使用される。
リサイクルするには かなりの電力を使うのだが、小型核分裂炉がある以上、大した問題にならない。
ここがこの国の首都だと言うのに建物が殆ど無くなってしまった平地をバギーに乗って進む。
隣には ドラム缶型の身体に4本の脚が生えているスレイブロイドが、荷台を取り付けたバギーを運転している光景が見え、こちらを追い越す。
更に私の後ろには 4.5mの人型機動兵器DLがいる。
トニー王国の主力戦力の土木兵器で、先割れスプーン型のショベルを持って 移動しており、目指しているのは 私と同じ、アトランティス街の真ん中に建設された 大型倉庫…。
倉庫の中に入ると、あらゆる物資が キャスター付きのカゴ台車に入れられて 保管されている。
その真ん中には 地下に繋がっている2機の大型エレベーター施設があり、地上から地下に物資を送り続けている。
しかも、その作業を行っているのもドラムで、仕事の無人化が極限まで進んでいるのか 人の労働者の姿が全然 見当たらない。
「お客さんですか?」
1機のドラムが言う。
「ああ、下に行きたい…次のエレベーターの時間は?」
「後15分位です…今は ゴンドラへの積み込み中です。
あちらの控え室のお客さんと一緒に乗り込んでください。」
「分かった…ありがとう」
「いいえ…ヒトの為に仕事をするのは 私達の喜びですから…。」
ドラムは 人と区別する為にあえて設定されている 如何にも機械ぽい ゆっくり合成音声の女性1の声をしっかりと使いこなして言う。
トニー王国 国民が 世代を越えて しっかりと教育した事もあって、今のドラムの受け答えも動作も完璧だ。
今では 常時共有している経験値の他に、同期をしない個体値を設けた事で 個体事の僅かな性格差も出ているとか…。
スペースの限界まで人や荷物をゴンドラに載せまくった エレベーターが降りる。
エレベーターのゴンドラは 大型トラック2台分位の荷物を普通に運べる位には 広いはずだが、今は ただ ただ 積み込まれた荷物の圧迫感が広がっている。
ゴンドラは吊り下げられた6本の炭素繊維の電線ロープをタイヤで掴む事で、ゴンドラの重量を支えながら地下に降りている。
エレベーターの長さは10km…毎秒10mの速度で落ちるので、加減速 含めて 大体 片道20分位で 到着する計算になる。
扉の無い正面から見える壁には、炭素繊維とガラス繊維で補強された円柱型の縦穴がひらすら続いている。
そして…いきなり辺りが光で包まれ、一面が青色に染まった。
「おおっ」
旅行に来た乗客が歓声を上げ、転落防止用のスロープ板に手を置き、身体を乗り出す。
正面には いままで見えていた縦穴では無く、水蒸気を散布して作った人工雲にレーザーを反射させて描いた美しい空が見え、天井は孤を描くように綺麗に削られ、炭素繊維とガラス繊維の複合素材で補強されている。
下を見ると 12階建てのコンテナハウスを積み重ねたマンションが あちこちに見える…地下都市だ。
まだ端から端まで5km程…天井もまだ低い…これが直径が20kmになると 2100年位に 大量に作られた 私が見慣れている地下都市となる。
ジオフロントを作った最初の切っ掛けは、地上の環境破壊が進んで、森林や動物が少なくなっていた事…。
昔 獣人のロウも これについて指摘していて、当時の私達は 開発と発展を優先させて 森林や動植物を減らし続けたのだが、ここに来て、この問題が無視 出来ないレベルになり、自然を破壊する人と自然を完全に切り離す事になった。
そこの計画で生まれたのが 地下にドーム型の都市を造る 地下都市構想だ。
これはトニー王国の建国神話に出て来る 私達 神が住んでいたとされる 直径6km長さ20kmの筒型の人工都市…スペースコロニーを造る為の基礎研究もかねている。
まぁ…普通なら こんなの予算がいくらあっても足りないから やらないのが普通だ。
だが、この国は国全体の生産力の上限まで金を発行出来、その生産力もドラムを 無尽蔵に生産ので、実質の上限が無く、財政 問題が一切無い。
なので、国民の半数は生産活動をロクにしない純粋な消費者になっているのに国が問題無く運営出来ている訳だ。
ならロクに働かない国民は悪いのかと言うとこれも また違う。
国民の生活が安定して 暇な時間が増え、国から予算が付くなら、この様なロマンの塊でしかない事も普通にやれる。
それは 古代ローマが 労働の大半を奴隷によって自動化し、自分達は働かず、空いた時間を娯楽、勉強、研究、哲学に集中 出来たのと同じ理屈だ。
さて、6本の炭素繊維の電線ロープを タイヤで挟んで 電気駆動でゴンドラが降りて行く。
まだ 10kmと距離が短いが、これを途方も無く 伸ばしていけば 軌道エレベーターが出来る。
まぁ軌道エレベーター使うには ロープの強度が まだ足りないんだけど…。
電線ロープを伝って降りて来た、エレベーターが建物の上から中に入り、停止。
巻き取り式のシャッターが上に 上がって行く。
正面には、上から連絡を受けていた倉庫作業員のドラムがおり、シャッターが上がり終わった所で、転落用のスロープ板を元に戻し、私達はエレベーターを降りる。
それと ほぼ同時にドラムがエレベーターの中に入り、キャスター付きのカゴ台車を 引っ張って 素早く降ろして行く。
「本当に良く働くな~」
私が言うと、青年が私の前に来た。
「お待ちしていました。
アトランティス街の都市長のバートです。」
「バート?ああ、あの泣き虫バート?
随分と出世したんだな…」
「ええ、ただ これを出世と言うのかは微妙な所です。
街のすべての決定権が僕に有ると言うのは魅力的ですが、毎月100万で街の管理をするなんて、とても割に合いませんよ。」
「まぁ指導者が私利 私欲に走ったら、国が滅ぶからな。
多少 割りが合わなくても 善意でやってくれる人に任せた方が良い。」
「そうなんでしょうか?」
「そうなんだよ…経験的にね…。
それじゃあ、行こうか…クラウドも来ているんだろ」
「ええ、ご案内します。」
バートがそう言うと、私は近くの市役所まで足を運ぶのだった。