28 (やぶ医者の救世主)〇
1909年…シアトル博覧会…。
ハルミ仕込みの この時代では高水準の医学知識を持ったマーティンは、医大を好成績で卒業し、正式に医師免許を持った。
更に電気式保育器を完成させた エジソンのネームバリューもあり、会場の中は大盛況で、マーティンは 大型病院の有名な医者も席に座っている中で未熟児と保育器の講義をしている。
彼は 医師免許を持った事で 彼の言葉に説得力と権威が生まれ、コニーアイランドの見世物小屋で、未熟児を育てながら一生を捧げる必要も無くなった。
小屋の壁側には、マーティンの保育器と エジソンの電気式保育器が6台ずつ…計12台の保育器に赤ん坊が入れられていている。
私と無免許看護婦のアナ…今、医学生のヒルデが赤ん坊の体調を こまめに見ている。
外が騒がしいので 多少ストレス値が上がっているようにも見えるが、概ね健康だ。
「この様に…まだ自分で体温が維持出来ない未熟児も、この保育器で…科学の力で、救う事が出来ます。
目が悪い人がメガネをする様に…未熟児は 今では 障害者では無いのです。
私は今まで未熟児を殺処分して来た あなた方 医者を許しましょう。
今まで救えなかった命に気を病む必要はありません…ですが、これからは違う!
『未熟児は救える』が、これからの世界の常識となって来るでしょう…私はこれからも保育器の導入と、未熟児の殺処分の防止の為に活動して行きます。
如何か 皆さん、私に協力して頂きたい。
皆さんの未熟児を救うと言う少しの勇気が、今後の新しい医療業界の常識を作る事になるでしょう…。
ありがとうございました。」
パチパチパチ…。
溢れるばかりの拍手が辺りに響き渡り、騒音で赤ん坊のストレス値が上がる…ヤバイな。
「抑えて、抑えて」
私が観客に言うと一応 周りが静かになる。
博覧会が終わった1910年…。
各大型病院が 正式に保育器と未熟児の治療法のマニュアルを認可…。
医学的 お墨付きが付いた事で、エジソンの電気式保育器は爆発的な普及をし、エジソンに莫大な富を与えた。
とは言え、彼の電気式保育器が普及したのは 金持ちの為の病院だけ…。
低所得者向けの診療所は、今だに マーティン式のアルコールランプだ。
性能はエジソン式に劣るが 値段が安く、普及率は上々…。
コニーアイランド、ルナ・パーク、未熟児 見世物小屋。
写真屋が最新式のカメラを構える。
カメラの前には マーティン式、エジソン式の2つの保育器があり、その後ろにマーティンとエジソン、更にその後ろにアナ、ヒルデ、私が並んでいる。
「はいはい…取りますよ…」
写真屋が私達の集合写真を取る。
2つの保育器の中には 未熟児はいない。
見世物小屋は、保育器の普及に従って 仕入れる未熟児がいなくなり、見世物小屋を維持する必要が無くなったからだ。
この年 クーニー 一家は 不動産との提案 通り、遅めだが、大きな3階建ての家 兼、診療所を借りる事となり、もう私が手伝う 必要がなくなった。
「行くのですか?」
「ああ、後4年で騒がしくなるからな…」
「4年ですか?…前から気になっていましたが、あなたは未来人なのですか?」
「まっそうなるね…それじゃあ、良い人生を…」
私はそう言い、バギーの幌馬車を走らせる。
記録に残ってるマーティンと私の写真では、2人が未熟児を抱えて写真を撮っていた。
が、歴史は変わり 今回は 私達の集合写真が、歴史の記録として残るのだろう。
「それなりに楽しめたな…さっ…戦争まで後4年。
遊んでないで本業に戻らないとだな…」
私はそう呟き、潜水艦が止まっている場所へと向かった。
マーティンのその後の話をしよう。
マーティンは、1953年に死亡…史実より3年程長生きした。
彼の偉業を称える為、彼の伝記を作ろうとする小説家が現れ、彼の人生が徹底的に調べられた。
彼の記録は 正式に医者になってからの記録しか無く、その記録も2度の大戦で焼失しまった部分も多くある。
が、彼は彼の人脈を使って取材を続けた。
彼は、パリで彼の師ピエール・ブーダンから医学を習ったとの事だが、彼の闇医者時代の経歴は一切がデタラメ。
彼の出生地に行っても彼の存在を知る人はいなく、1896年のベルリン産業博覧会と、1900年のパリ万博に保育器を出し物として出店していた記録が残っている位だ。
彼が如何やって当時の最高水準の医療技術を手に入れていたのか 出所が一切 分からないし、血縁の家族や親戚すら騙しきって その生涯を終えた。
伝記である以上、脚色は せず、事実をありのままに書くのが良いのだが…データが無い以上、推測による所も多い…。
そして、伝記の最後には『もしかしたら、マーティン、もくしはマーティンの師は 未来人だったのではないか?』と冗談 交じりで書いてある。
ハルミは クスリと笑みを浮かべ、今は懐かしい私達の集合写真が表紙のマーティン・アーサー・クーニーの伝記『やぶ医者の救世主』の本を閉じた。
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