17 (テクノロジー失業)〇
作業所。
「ジガ…それで 今度は何を作るんです?」
ジガが使っている作業場に行くと 性奴隷の中で最年少の少女で 多幸感…非常に幸せと言う意味の名前を持つ、ユーフィティア…ユフィが言う。
この娘は ウチらの技術に興味を持ってくれていて、最近は良くウチと一緒に行動している。
「浄水用のフィルタなんだけど…まぁその前に服かな…。
いつまでも そんなボロ服じゃ男も釣れないだろう。
まずは見た目からかな…。」
そう言うとウチは倉庫から 石英多めと粘土を混ぜて 焼いた陶磁器製の鍋を持って来て石窯の上に乗せる。
鍋中を見ると真ん中には 筒状の容器が見え、側面には 極小の穴が無数に開けられている。
その容器の下部は コマの様になっていて、更に容器の真ん中には棒が取り付けれており、紐が取り付けられている。
遠心分離機…分かりやすく言うなら 綿あめ機だ。
ユフィが石窯に火を入れて、陶磁器を熱っして容器に熱を加える。
その後、別の炉で融かしていたソーダ石灰ガラスを筒の容器に入れて、温度を維持しながらコマのように回転させると ガラスの綿あめが極小の穴から出てくる…これがソーダガラス繊維だ。
電気を通さない絶縁体で、断熱性に優れていて 薬品耐性も高く、布状に加工すれば、丈夫になり、粉状にすれば半導体の材料にもなる 非常に優秀な万能素材だ。
ウチは これをガラスの箸で回収して、綿あめのように絡めとって行く。
出来た綿はグラスウール…。
家の断熱材や 編み込めば 作業着や宇宙服の素材になるウチらの時代の服では 広く使われている素材だ。
そして、これをガラスの筒に敷き詰めて上から水を流して行くとゴミなどの不純物がグラスウールに引っかかり、綺麗な水となって出て来る浄水フィルタとなる。
「あ~この綿で服を作るんですね…。」
ユフィはそう言うとグラスウールを捻じって引っ張り、細い糸に変えて行く…。
「おー上手いな…。」
「私の村では 冬は大雪になりますので、冬場は 外での仕事は出来ず、服を編む内職をしていました。」
「なら服職人になれば 良かったのに…」
「いいえ…服は売れなくなりました。
領主様が外国から驚くほどに安い服を大量に仕入れるように なってしまい 、更に外国に綿を輸出してしまうので 材料の綿の値段が高くなってしまった からです。」
「あ~イギリスが工業化を始めたんだな。」
産業革命の始まり…ブリテンの綿工場の自動化が始まった事で 大量の服職人が解雇されて、機械をメンテナンス出来るエンジェニアだけが雇われる事になった。
それに伴って 当時服が非常に高かった一番の原因の人権費を大幅に削減出来た事で、1枚当たりの値段が大幅に下がって 外国に大量に輸出し、その代わり素材である綿を大量に輸入した。
これにより服の価格破壊が起き、手編みや機織り機などの手動では値段で対抗出来なくなり、軒並み潰れる事になる。
確か 服の生産が自動化されるのは1750年位で後50年はあるが、兆候自体は かなり前からあった見たいだ。
「詳しい事は 私には分かりませんが、そのせいで 毎年 春に服を売って返す はずの借金が返せなくなって、村は借金返済の為に私を売りました。」
「そっか…。」
ウチは言葉が見つからず…とりあえず 相づちを打つ。
生産性の向上、それに伴う商品価格の低下…。
低所得者でも手が届く範囲になった事で、ボロ布状態の服を身に付ける人の数が かなり 減った。
社会的にも文明的にも良い傾向だ。
この工業化が ブリテンの産業革命に繋がり、人類の発展に大きく貢献する。
そして この問題の犠牲者の数より より多くの人が幸福になった事で、少なくとも『元は取れた』…この犠牲は無駄では無かった…と言える。
だが それは、ウチが起きる未来を知っているから納得がいく物で、それを知らない目の前の失業者から見れば 生きるか死ぬかの問題だ。
この娘に『人類の為に犠牲に なって死ね』と言った所で納得しないだろう。
「出来ました」
気まずい沈黙の中、ユフィがグラスウールの綿から長い紐を作り上げた。
「OK…後は左右交互に編んで行けば グラスウールの布の完成だな。」
「意外と簡単ですね…。」
「まぁな…だけど精度は全然ダメ…。
繊維がまだ大きいし 綿あめ機の回転数と回転速度が 一定じゃないからムラが出来ている。
まぁ今は そこまでの精度を求められては いないんだが…。
それじゃあ…暇している奴らを集めて来るな…。」
そう言うとウチは 食料の瓶詰めが終わって 喋りながら休憩している性奴隷達の元に向かった。
性奴隷達にグラスウールの作り方を教え、どんどんとグラスウールが生産されて行き、綿を紐にする作業が追い付かなくなった所で作業を止めて 皆で紐を作り、そして編む。
まずは 縦方向のグラスウールの紐を それぞれの肩から膝の上辺りのサイズで切断する。
それを肩幅のサイズまで横に並べて束にした所で、一本の長い横紐で縦紐を交互に編み込んで行き、端に行った所で折り返して また交互に編んでいく…。
最初は ゆっくり編んでいた性奴隷達も1時間もすると どんどんとコツを学習して行き、スピードも上がって余裕が生まれたのか お喋りも始まっている。
このスピードなら1日で 1人 50cm×100cm位のサイズの布を2枚は作れるか?
「ジガは売春婦だったんですよね…。」
ガラス繊維の布を編みながら ふとユフィが言う。
「ああ…とは言え、金を貰っていた訳じゃないからな…性奴隷が近いか?
戦前と戦後を含めて現役だったのは 30年位かな…私を創ったマスターが死んだ事で引退したんだが…。」
「30年も…」
他の性奴隷が言う。
一般的に自分の身体を金に変換できると気付き始めるのが女性として身体が成長し始める13歳位で、そこから買い手が極端に付かなり始める30まで自分を売り続けても17年…。
ウチはそれよりか13年も長いし、後進育成をしていた期間も入れたら もっと長くなる。
「ただ 先輩として言うなら、ある程度稼いだら それを元手に勉強して別の仕事を目指した方が良い…。
若さを武器にして金を稼ぐ以上、老化すれば 極端に売れなくなるからな…。」
売春は若いと言う条件さえあれば 専門の資格もいらず、普通に働くより高額な賃金を一気に稼げる。
だが、その若さを自分の能力と勘違いして そのまま高い生活水準で生活して行ってしまい、30代になって周りから見向きもされ無くなって稼げなくなった所で 自分が一般で働くスキルを持っていない事に気付く…そんな 女をウチは沢山見て来た。
そうなると金づるになる男を見つけて結婚するか、若い頃の生活水準が忘れられず借金まみれになるか、厄介なのだと自分が見向きもされない事を差別として、男女平等主義になって男を差別し始めるか。
と どれを選んでもロクな人生にならない。
「それが分かっていて如何して30年も働いたんですか?」
ユフィがウチに聞く。
「ウチは人のように老化しないし、そもそも男を喜ばせる為に生まれて来たからな。
生後 数日で既に股を開いていたし、生後1ヵ月で店に出ていた。
単純に客に喜んで貰える事が嬉しかったし、もっと喜んでもらおうと色々と学習した…ただ頑張り過ぎたんだ。」
「頑張り過ぎた?」
「そう、ウチら セクサロイドの方が人の女より 男を喜ばせるテクニックが良く、安価で 大量生産出来る…見た目は人でも道具だからな…。
そんな訳で ウチらは『女性の性的搾取を無くす』為に女性の性業務を代替する為に生み出されたってのに、結果的には 女性が稼げる労働市場を破壊しちまったんだ。」
「あっ…服と同じ…。」
「そう…道具を使って効率化して 生産性を上げて行く以上、失業者はどんどん増え続ける…。
ナオは これを やろうと しているんだ。」
「ナオが やっている事は正しい事?」
「まっ正しい事は正しいよ…。
最終的には 大半の仕事を道具に代替させて働かない社会を造る気だろうし…。」
「働かない社会ね…。」
「さっ その辺で良いだろう…皆 2枚揃ったな…。
それじゃあ…服を作ろう。」
とは言っても もう殆ど出来ている。
ユフィがボロボロの服を脱いで全裸になり、ウチが グラスウールの布の前と後ろに当てて、肩の部分の布を紐で繋いで行く。
後は 両胸下、両腰を横紐で止めれば完成だ。
この服は古代から使われていた最初期の服で、布を折り畳んで子供用にしたり、身体が大きくなれば 紐を緩めて行けば、年齢、身長、体型、に関係無く 産まれてから死ぬまで着れる実用的な服だ。
しかも 肩紐を長くすると胸の谷間を強調出来、身体の側面の紐を緩くすれば、横乳や腰、太ももなどの肌を見せる事が出来るサイドスリット状態になり、肌面から布の内側を想像する視覚補整効果が発生して 男に大変 喜ばれる服になる。
「ほら…新しい服を皆に見せてこい。」
ウチがそう言うと夕暮れになって仕事を終えて来た男達の元に彼女らは向かって行った。
「さて…明日は本格的に浄水所かな…。」
ウチはそう言うとナオの元に向かった。
【解説メモ】
服の産業革命
(イギリス(イングランド王国)では 高性能な 機織り機出来たが、まだ蒸気機関が無い為、動力は手動の為、産業革命はまだ起きていない。)
セクサロイド
(ジガは女性の人権の向上により、性的業務を女性の代わりに代行する為に造られたヒューマノイド。
ただ、無限に学習して時間に比例してテクニックが向上して行くジガ達、セクサロイド達のせいで、女性の大量失業が始まり、女性の貧困が加速した。
そして、性的業務を女性が出来ない事が人権侵害だと主張が始まり、セクサロイド達は弾圧されて行ったが、男性ユーザーからは人気であり、需要は回復せず、VR空間で手軽に楽しむ事が流行し、ジガ達も手軽に非常に安価で出来る VR空間のAI達に負けて失業している。)