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27 (心情より利益)〇

 ハルミ()は サーカスの敷地から出る。

 ルナ・パークの端っこの土地には、芸人がパフォーマンスをして金を稼いでいるのだが、その中には腕や足が欠損した人や、明らかに言動が不自然(おか)しい精神障害者が見世物とされて見物客を集めている。

 胸糞悪いアトラクション、その2だ。

 この時代、身体障害者、精神障害者は見世物としての価値がある。

 その光景は 明らかに人権団体が発狂しそうな パフォーマンスだが、この時代では割と普通だ。

 日本にも精神障害者をキチガイと言ってアニメやら番組で笑いのネタにする文化があったからな…。

 まぁ まだ人権意識が成熟していないと言う事なのだろう…。

 私にとっては胸糞悪いが、ここの障害者から見ると生活保護なんかの社会システムが無い今の状況で、何とか収入を得られる数少ない方法なので、私が人権を振りかざして辞めさせる訳にもいかない…ある意味で ここは福祉施設と見る事も出来る。

 そして、世間的認識では、身体、精神の障害を持っているとされる未熟児が、見世物にされているマーティンの見世物小屋もここにある。


 屋内施設に 育器は3台…。

「ほらほら見て行って…生きている未熟児なんて ここでしか見れないよ~」

 マーティンが客を集めている。

 奥の保育器で寝ている3人中、2人の赤ん坊は、病院で処分されるはずだった未熟児…。

 1人は 医療費を払えない状態だった母親の子供で、診療所を使わずに 自力で赤ん坊を出産し、未熟児だと分かると、赤ん坊を助ける為、診療所のドアを叩いて助けを求めて来た。

 産まれて来た未熟児の治療費は、1人25セントの見世物小屋の収益で 補填する契約となっている。

 倫理的には明らかにアウト…。

 私はてっきりマーティンは クチコミを使った炎上方法で保育器の存在を広めようと考えているのだと思った…。

 が、実際の来た客は、どんな奇妙な形をしている化け物(クリーチャー)か?

 どんな奇怪な行動を取るのか?を楽しみに来ている…そして未熟児を見て 始めは落胆する。

 身体が小さいだけで、化け物の姿でもない普通の赤ん坊だからだ。

「これ…本当に未熟児なのか?」

「ええ…この子は、今日の時点で1750g…十分に未熟児です。」

「何と言うか普通の赤ん坊だが?」

「そうですよ…。

 この子は ただ、母親の腹から早く出て来てしまっただけで、普通の赤ん坊です。

 だから人工的に子宮を再現して、その不足分を補っているのです。

 今、この子達は この保育器から出した場合、外気で体温を奪われて簡単に死にます。

 でも、この状態で体重が3㎏を越えてしまえば、外気に当っても ちゃんと自分の体温を維持出来るようになります。

 ここまで体重を増やしてしまえば、後は普通の赤ん坊と同じです。」

「ふーん、予想外だったが、良い物を見せて貰った。

 追加で1ドル払うよ…救えると良いな その赤ん坊」

「ありがとうございます。

 大丈夫です…今まで この方法で何人もの赤ん坊を両親に返していますから…」


 入ってきた客は、始めは 見たかった物が見れなった表情はするが、騙されたと言って 返金を要求して来る程、怒る客はいない…それどころか、たまに追加で金を払ってくれる。

「ほう…これは…特許者は?」

 入ってきた彼は、未熟児より保育器の方に興味がある様だ。

「製作したのは私ですが、保育器を広める為 あえて特許を取得していません。」

「ふむ…構造は アルコールを燃やした熱で 鉄板を温め、水蒸気を作って 室温を上げているのか?

 箱の中の温度の調整はアルコールランプによる手動か?」

「ええ、それが一番安いですから…」

「とは言っても、交代で夜も温度を見続けるのだろう?

 電気で水を温め、室温が38℃になると加熱を停止し、36℃まで温度が下がると電気が通って加熱が再開される。

 そんな保育器を作れれば、アンタはもっとラクを出来るんじゃないか?」

「確かにそうですが…。

 アナタのお名前を聞かせて貰っても?」

「トーマス・エジソン」

「あなたが…あのエジソンですか…。

 この子達も交流電流で殺すのですか?」

「いや…あの戦争は10年前に終わった…私の敗北でね。

 それについて色々と恨みはあるけど、今更、復讐する気も無い。

 私は 私のアイディアを形にする為の研究で忙しいからな。」

「この保育器も次のアナタのアイディアになると…。」

「そうだ…発明は不便から生まれる…そうだな。

 今は、温めているのは この箱のサイズの空間だが、この部屋位の大きさの保育器を作ったら如何(どう)だ?

 37℃は…蒸し暑いだろうから、20℃~25℃…部屋の温度を この範囲に維持 出来れば、快適な部屋に なるのではないか?」

「……そこまで考えていませんでした。」

「私は電気式で、温度を自動調整が出来る保育器を開発する。

 具体的に保育器の環境を如何(どう)すれば良い?」

「えーとこちらです。」

「ふむ…十分に行けるな。

 まぁ何年掛かるかは分からないが、今後のテーマとしては面白い…私の興味を引いた」

「この保育器の特許を取って、また独占するのですか?」

「そうだ…金儲けをする為なら出資者は、私に投資をする。

 その金で私は研究開発が出来るし、ここのように苦労して 25セントを ちまちま集める必要もない。

 未熟児を救う事が目的なら、ビジネスモデルを作って 保育器で医者達を金持ちに させた方が良い。」

「ですが、医療費をまともに払えない両親の子供は、それでは救えない。

 救えるのは、医療費が払える金持ちの両親の子供だけです。」

「なら 私は その金持ちの子供を救うよ…キミは貧乏人の子供を救うと良い。

 道は違えど、目的は同じはずだ。

 それじゃあ、良い物を見せて貰った…私は行くよ…。

 あ~それと特許は ちゃんと取っておけ!必ずだ!

 これは金のなる木だ、後で絶対に痛い目を見る事になるぞ。」

「分かりました…ご忠告どーも」

 私がそう言うとエジソンは、去って行った。


 その後、マーティンはエジソンの忠告の通り特許を取った。

 マーティンとエジソンの出会いは 歴史には無かったし、マーティンは特許も取っていなかったはずだ。

 そして 見世物小屋の客の種類も、怖いもの見たさの客から、未熟児を好意的に見る客の割合が増えて来た。

 それに加え、エジソンがビジネスモデルを作って、記者を使って大々的に報道や宣伝を行った事により、未熟児を殺処分するより、生かすメリットの方が大きくなり、未熟児を殺処分してた医者達も 利益に目がくらみ、次々と意見を変えつつある。

 本来 保育器の正式導入は、1950年でマーティンが亡くなる直前…。

 私は彼の成果を見ずに適当な所でトニー王国に戻るつもりだったが、エジソンの介入で、流れは大きく変わり始めている。

 クーニー診療所の従業員の数も増えつつあるし、マーティンは エジソンを切っ掛けとした 色々な人の出資により、この国で闇では無い正式な医者になる為に、医大に通い始めた。

 もうそろそろ ここでの 私の仕事は 終わりかもしれない。

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