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26 (かわいそうなぞう、それを見る観客)〇

 1年後の1901年。

 ニューヨークのバッファローで行われた パンアメリカン万博で保育器の営業を行い、ニューヨークでの最低限の知名度を得て、不自由のない生活が出来る様になった。

 生活が安定して余裕が生まれたからだろうか?

 他人の子供の面倒ばかりを見ていた事に不満を言っていたヒルデの面倒を見れる様になり、最近ではヒルデの笑顔が増え、カタコトだが 英語も話せる様になって来ており、医術にも興味を持っている。

 とは言っても所詮は マーティン()は正規では無い 闇医者で詐欺師…。

 正規の病院の医者の権威が優先され、未熟児は生きられないと殺処分され続ける…権威の強さを知っているからこそ、(あら)えない事も知ってしまっている。

 治療を受ける患者の…いや人々の価値観を根本から塗り替える必要があった。

 私は次の作戦の為に コニーアイランドに行くのだった。

 

 1903年…コニーアイランド 1月…。

 コニーアイランドは アメリカの ニューヨーク市、ブルックリン区の南端にある島の名前だ。

 かつては ウサギが大量にいたらしいのだが、今は狩り尽くされて リゾート地となっている。

 ハルミ()は 園内に入る。

 つい先日まで、ここには アシカ(シーライオン)パークがあったのだが、経営不振と去年の大雨による収益の低下がトドメで、経営主が変って 遊園地の名前がルナ・パークとなり、まだシーライオン・パークのデザインのままだが、営業をしながらルナ・パークのデザインに改装工事をしている。

 ルナパーク内は パリ万博の様に芸術的なデザインになっており、倒壊しそうで別の意味で怖いジェットコースターや、アシカショーをやっている水族館…。

 象に乗って園内を移動出来たり、急角度の滑り台の上からカートに乗って、川に突っ込み、水しぶきを上げるアトラクションがある。

 その中で、動物を使ったサーカスが比較的人気だ。

 ただ、今日は 非常に胸糞悪いショーをやっている。


 サーカス敷地 屋外、客席。

 テントでは無い野外のサーカス会場には立ち見の観客が大量に来ていて、この時代では珍しいバカ デカいカメラを持って来ている人もいる。

 あれはエジソン・スタジオの記者か?

「と言う事は…おっ…」

 関係者の中にトーマス・エジソンがいる。

 トーマス・エジソンは、ニコラ・テスラと一般家庭への電力供給システムを直流にするか交流にするかを めぐっての電流戦争を行っている。

 国のライフラインに事業を組み込められれば、莫大な利益が見込まれるからだ。

 直流派閥の言い分は『家電製品には直流電源が必要であり、電線に交流電流を流した場合、直流電源に変換するプロセスが必要になってしまう。

 その変換作業に電力を多くロスしてしまう。

 なのでロスの少ない直流電源を使うべきだ』と言う主張だ。

 まぁ私も含めて2600年の家電の大半が直流電源だし、小さい宇宙船なら交流を使わず 直流電源で運用した方が、電気のロスが無く有効に使える。

 対して交流派閥は『交流送電の最大の利点は、変圧可能なことである。

 発電所から供給される電圧は、数十万ボルトという高い電圧で送電し、家庭に近づくにつれて降圧させることが可能である。

 更に交流電源から直流電源に切り替える機械を取り付けるのは簡単だが、直流から交流に切り替えるには機械が複雑化して大型化してしまう欠点がある。

 これでは家電製品の製造コストが上がり、家電製品の普及が遅れてしまう』と主張した。

 電気は、電線の長さが長ければ 長い程 電流の損失が多く発生してしまう。

 ただ、電圧を上げて一気に大量の電流を流せば、送電ロスを大幅に軽減 出来る。

 発電会社から数十km…数百kmの距離の電線を伸ばすなら 交流電源の方法が最適だろう。

 この通り、家電製品内では直流電源が最適、送電には電圧を変えられる交流が最適と言う結論になる。

 のだが、エジソンは それを承知ながら、送電システムの利益を得る為、ひたすら『交流電源は危険』だとネガキャン活動に専念した。

 具体的には 犬などの動物や死刑囚を交流電源で残虐に殺して報道させたりと言った活動だ。

 これにより 一般人は、エジソンが意図した通りに「交流は怖い」とイメージを持つ。

 が、これに対して 交流派は「電気での処刑という残虐行為を首謀した恐ろしい人物は エジソンだ」と言う交流の危険性を理解していながら、その印象を一般人から忘れさせ、攻撃対象を『交流電源』から『エジソン』へ切り替えさせ『エジソンは悪』と一般人の感情に訴えかける事で刷りこみ、エジソンの社会的地位を下げて弱体化させ、交流電源を採用させると言うプロパガンダ戦術を取った。

 まぁ…焚火でも人は殺せるし、爆発させたら核爆弾、熱量を制御して発電に使えば原子力発電所と同じ理屈だ…危険は技術で制御出来る。

 で、結果…一般人の反応は『電気は危ないから、灯油、アルコールを使おう』だった。

 今の街は電気による工業化が進んでいる様に思えるし、私は特許や裁判記録にも興味はないが、まだ電流戦争は 続いているのか?

 それとも、終戦しても ただプライドが高く、自分の意見を曲げられないから 交流が嫌いなだけ なのか、ただ見に来ているだけなのか…。


 1頭の象が飼育員に引っ張られてやって来る。

 彼女はトプシー…宣伝の為、アメリカで生まれた初の象と偽装されたメスのアジアゾウで、フォアポウ・サーカスで25年間働き、新聞では12人…恐らく正しい記録では 飼育員が2名が怪我もしくは 死亡、1902年には観客1名がトプシーにより確実に殺されている。

 彼女が観客を殺した原因は、観客が酔っぱらって象の小屋に忍び込み、象の中で一番敏感な鼻先に葉巻たばこの火を押し付けたのが原因だと言われている…まぁそんな事をすれば、観客は殺されて当然と言えば当然だ。

 そんな事があり、トプシーの評判は次第に降りて行き、トプシーと調教師アルトは、シーライオン・パークに雇用された。

 だがアルト調教師も1902年12月に 酔っ払ってトプシーに乗って、コニーアイランドの街中に繰り出し、警察署に進入し、トプシーが悪意なく警察内の物を鼻で破壊してしまい、アルト調教師が解雇された。

 さて、調教師が不在で問題を起こしまくっているとされるトプシーは、年末の目玉企画としてトプシーの公開処刑が企画されたのだが、一応良心は まだ残っていたのか、入場券の販売を『アメリカ動物虐待防止協会』に止められた。

 で この企画は『招待された人』、『報道関係者のみ』と規模を縮小する事で合意したのだが、実際には『金銭的な取引きで招待された人』、『金を払わずに意図的な偶然で、立ち寄って見に来た人』、『やけに報道的 中立性に欠いた報道関係者のメンバー』で行われる事となった。

「はぁ…公開処刑を楽しむなよ…」

 まぁ…剣闘士の時代から人は()()()()()()()殺し合いを楽しむ文化が あるし、リアルでは やらない にしても人は ゲーム内で大量殺戮を楽しむ。

 これも文化だと言ってしまえば、それまでだが…。


 そして、トプシーは毒を飲まされ、交流電気を一気に流される。

 白い煙が辺りを覆い、トプシーはバランスを維持出来ずに倒れたドスンと地面を鳴らして倒れた。

 最後に蒸気ウインチに繋げた太縄でのトプシーの首に巻き付け、首を絞めて 殺処分は完了だ。

 私は 何とも 不運が続いた 倒れた この かわいそうなぞうをチラリと見ると拍手して歓声を上げている観客を見つつ、私はサーカス場から離れた。

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