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24 (人は権威を信じる)〇

 ハルミ()達はボストン支店を拠点とし、各病院の状況を調べる。

 今までの経験上、片っ端から売り込みをして行くより、相手の病院の状況や売り込む対象の心情や考え方を見て、柔軟にアプローチを変えて行った方が受け入れやすいからだ。

 

 アメリカの医療技術は ドイツに並び、病院はどこも高水準の医療を受けられる。

 ただ、ドイツもそうだったが、アメリカの医療費は 更に上を行くレベルで高い…。

 これは、担当する医者の腕が良い場合、それに見合う人件費が支払われる事となり、その人件費が医療費に上乗せされて請求されてしまうからだ。

 流石に21世紀の盲腸手術に300万ドル掛かる規模では無い物の 保険や破産と言った手が使えない この時代では、金が無い人には 治療を受ける権利すらない。

 で、なら低所得者は如何(どう)しているかと言うと、これもドイツと同じで、医師免許を持っていない医療技術をかじった程度の闇医者になけなしの金を支払って 不確実な治療して貰うか、もしくは 教会で 無料、もしくは少額の寄付金で神父様の有難いお話を聞いて 精神的な苦痛を和らげ、快適な最期を迎えて死ぬかだ。

 この時代のアメリカ人の価値観として『死は回避 出来無い物、受け入れる物』と言う考え方が一般的で、ドイツでもフランスでも そうだったが、金の無い低所得者は 治療を受ける事が出来ないで死んで行く。


「これ…如何(どう)しますかね?」

 ボストン支店の部屋に皆が集まり、マーティン()が現状報告をしつつ言う。

「まずは、中流階級が医療を受けやすい環境を作ろう…。」

「つまり、ベルリンと同じで 中流階級向けの闇診療所を作る訳ですね。」

「そう…金を持っているヤツは、より確実性の高い医療を受ける。

 逆に金を持ってないヤツは、致命傷になる最低限の治療だけして、細かい所は金が無いからと無視をする。

 だけど 重病ってのは、その細かな異常が悪化して積み重なって 起きるから、病院に担ぎ込まれた時には 手に負えないレベルになっていると…。

 で、こまめに通院していれば安く済んだってのに、目先の金を節約すると トータルで高い金が必要になって来るんだ。

 マーティンも何回も見て気だろう…」

 ハルミが私に言う。

「ええ…となると場所は、ニューヨークに なりますかね…。

 旅費の事を考えると、そろそろ家を借りて金を稼がないと…もっと詳しい場所の要望はありますか?」

「そうだな…ここの近くがベストかな…」

 私が地図に指を差す。

「コニーアイランド?」

「遊園地…って行っても分からないか?

 万博の様な娯楽寄りの出し物をやっている場所…当然ここには人が集まって来る。

 診療所の客や、保育器の宣伝をするなら ここが良い。」

「ふむ…確かに…明日、周辺を確認しに行きましょう…」

 私はハルミにそう言うのだった。


 翌日…ソフィアからニューヨーク支店への紹介状を受け取り、ボストン支店の宿から出て、ニューヨークに支店に向かう。

 更にそこで、金を渡して不動産への紹介状を書いてもらう。

 不動産に側にとって 家賃をちゃんと払えるのか、現在の収入が非常に重要になって来る。

 だが、私達は 現在 放浪状態で預金を食い潰す生活の為、収入が無い。

 これでは不動産側の相手の対応が厳しくなってしまう。

 そこで 使うのが 紹介状だ。

 これで最低限の信用を確保出来るので、私達への対応が いくらか良くなる。


 不動産会社前。

 広い一軒家のドアの上に不動産の看板が取り付けられている民家で、ノックをして紹介状を見せると職場である書斎に通して貰える。


「ほう…無資格の闇医者ですか…。」

 調度品が多い書斎で、男が考える。

「ええ、この国に来たばかりで 正式な資格は取っていません。

 マーティン()は ドイツで小児科の名医であるピエール・ブーダンの元で、教育を受けました。

 メインは小児科ですが、一通りの治療は出来ます。」

 今後の保育器の普及の事も考え、保育器の発案者は フランスの産科医のステファン・タルニエ博士…。

 私は その保育器を元に、より洗練した改造型の保育器を作ったと言う事になっている。

 ピエールの弟子と名乗っているのも、有名な人物の権威に乗っかる事で、私の言葉に説得力を持たせて 保育器の営業がやり易くなるからだ。

 権威プロパガンダ…詐欺師時代の私が よく使っていた手法だ…。

「そちらの女性は?」

「彼女は、妻のアナ…こちらが、ウチで働いて貰っている看護婦のハルミ…2人に医療の知識を教えたのは私になります。」

「そうですか…。

 確かに ここら辺は 信用出来る闇医者が少ない…。

 比較的安価な医療費で、それなりの治療をして貰えるなら 確かに需要はあるでしょう。

 コニーアイランド付近で、客の入りまでを考えると ここです。」

 男は書類と地図を私に見せながら言う。

「あなたの医療術を知らない私としては、まずはこちらに住んで収入を得て下さい。

 ここは 古い家ですが、最低限 仕事と寝泊りが出来て、家賃も抑えられます。

 ここで開業して 収入が見込めましたら、次はこちらの区画にある家に引っ越し…。

 家賃は高いですが、まだ新しい丈夫な家が多く、面積も広い…この方法が良いかと…」

「ステップアップと言う事ですか…」

「ええ、家賃が高いせいで あなたの家計を圧迫するのも問題ですし、何より あなたに滞納されるリスクを考えますと、貸す側、借りる側、双方メリットがある提案かと…。」

「うん…良いでしょう。

 物件をいくつか見て見ましょう」

「ご案内します。」


 その後、コニーアイランド付近の見た目は古いが頑丈な一軒家で、1階で仕事が出来るタイプの家に決め、営業を開始…。

 信用がある不動産経由で この辺りにある酒場の情報屋に張り紙を送り、既存の闇医者に営業…。

 患者の医療費の1割を紹介料として 闇医者に渡す事を条件に、患者の数が多くて (さば)き切れなかった患者を紹介して貰い、各闇医者の負担を分散させる。

 後は 医者の腕次第で、自然とクチコミで広がって行く事となる…もちろん 良い噂だけでは無く、悪評もだが…。

 それは アーサーの時に 文字通り痛い位に学んだし、そのお陰で今もある…本当に人生は不思議だ。


 他の闇医者の腕は 基本は ちゃんと出来ているが、医学生としては 下手…。

 まぁ…多分、私の師であるハルミの指導が良かったのだろう。

 なので、小児科医とは言え 名医の弟子と言う事になっている私達には、手に負えない重病の厄介で面倒な患者を任される事が多く、当然 救えない命もあるが、私の詐欺用の紳士的な外面で対応した事で、評判が日に日に良くなり、闇医者達が完全に専門外だった産婦人科、小児科の仕事は 積極的に回して貰える事となって行った。

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