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22 (潜水艦で自給自足)〇

 ハルミ()は クーニー家族を潜水艦の中に入れてハッチを閉める。

 私は壁に取り付けられているインターフォン風の通信機を押して、発令所に情報を伝える。

「ハッチを閉めた…ゆっくりと潜航してくれ…深度は60だ。」

『了解しました…気密確認…センサーOK…潜水を開始します』

 ドラムの声がして潜水艦がグラつき、潜水が始まる。

「それじゃあ、皆こっちだ。」

 私は皆を連れて発令所に向かう。

 発令所の真ん中には プロジェクターがあり、壁に水上に浮かべているドローンからの映像が映し出され、椅子には 3体のドラムが この船をコントロールをしている。

「お待ちしておりました。

 私達はスレイブロイド…この船の制御を担当しています。」

 4足の足に2本の腕、ドラム缶の様な身体のドラムが私達を迎える。

「スレイブ…奴隷?自立型の機械人形ですか?」

 マーティンは少し驚いた様子で聞く。

「ええ、まぁ私達は機械なので、人の奴隷とは また違うのですが…。

 お名前をお(うかが)いしても?」

「ああ、私は マーティン・アーサー・クーニー。

 こっちは、妻のアナベル、娘のヒルデガルド…アナとヒルデです。」

「よろしくお願いします…マーティン、アナ、ヒルデ…。

 私達は あなた方を歓迎します。」

「それでキミの名前は?」

「私達は ドラムと言われています。

 この船のドラムとは 常に情報を共有していますので、個体の名前はありません。

 ドラムとお呼び下さい。」

「分かりました ドラム…アメリカに着くまで よろしく頼みます」

 マーティンとドラムが握手をする。

「お任せください。

 施設の案内は、ハルミに お願いします。」

「定期メンテの前と何か変わっているか?」

 私がドラムに聞く。

「船体の補修と、新型エンジンへの換装です。

 エンジン出力と静穏性が上がりました。

 後でデータで確認をして下さい。

 内装は そのままで、手を付けていません。」

「分かった。

 それじゃあ、案内をする…こっちだ。」

 私はそう言い、クニー家族を連れて発令所を出た。


「ここが医務室だ」

「医務室?病院じゃないのですか?」

 棚には一通りの薬や器具が揃っていて、CTスキャンの施設もあり、奥には無菌室の手術室があるので 大抵の手術は ここで出来る。

 レントゲンやCTスキャンは この時代には まだ普及していないからな。

「トニー王国だと この位が最低限かな…。

 それじゃあ次は食堂だな…」


 食堂には6人用のテーブル席が4台あり、24人が利用出来、奥にはキッチンや食糧庫がある…。

 ただ、クーニー家族以外の ここの乗員の食事は電気なので、今は 食糧庫には 袋詰めにされた ミドリムシパウダーとフードメーカーに使う調味料 位しかない。

 まぁ…調理済みのフリーズドライ加工された食品は 食えないが、ミドリムシの製造プラントも持って来ているので、見た目はともかく、味だけならどんな料理でもフードメーカーを使って再現が出来る。

「これはミドリムシでしたか?

 ドーバー支店の軽食屋で見ました。

 そのトニー王国はミドリムシが主食なのですか?」

「そ、今の農業だと種1つに付き、5倍から10倍が良い所…。

 だけどミドリムシなら1ヵ月で10億倍まで増える。」

「10億倍!?…ならトニー王国での農業は?」

「ミドリムシの効率が良過ぎて、畑は ほぼ全滅。

 大体の食べ物や香辛料はミドリムシで再現できるから、建国から今まで食糧不足に(おちい)った事はないな。」

「本当に凄い国なんですね…トニー王国って」

「ふぁああ、ねぇヒルデ、しょくじ より、ベッドが ほしい。」

「あ~そっか…今、夜中 だしな…。

 こっち…」

 私はヒルデの手を取って連れて行く。

 辿り着いたのは、2階建てベッドが左右にある4人部屋だ。

 ベッドの足元には 棚と机が取り付けらえており、マットレス、シーツ、毛布、枕は まず使う機会がなかったので 埃を被らない様に ガラス繊維の袋に入れられ、真空包装されている。

 私は袋から取り出して、ベットに敷いて行く。

「はい出来た…ヒルデお休み~」

 ヒルデを1階のベッドに寝かせ毛布を掛けてやると、長旅で疲れていたのか、すぐに眠り始めた。

「それじゃあ、ゆっくり休んで…時計は持ってるよな。

 ここは日が差さないから、着くまでは パリ時間で判断して」

「分かった。」

 マーティンはそう言うとベッドを整え、アナはヒルデと一緒のベッドで眠りに付いた。


 翌日…食堂

「おっ…おはよう…よく眠れたか?」

 私がキッチンで朝食の準備をしているとマーティンがやって来る。

「ああ…船の中だってのに…思ったより快適で驚きました。」

「まぁ潜水艦てのは静穏性が重要だからな。

 今、この上には ディーゼルエンジンの何処かの国の軍艦が走っているんだが、静かなもんだろう…。」

「えっ軍艦ですか?逃げませんと…」

「大丈夫…砲撃も海中に潜ってれば当たらないから…。

 まぁこっちもロクな装備がないから攻撃も出来ないんだけど…。

 それよりも今はメシだ。」

 私は クッキングヒーターで沸騰したお湯にミドリムシパウダーを鍋に入れて かき混ぜる。

 10分程で水を吸ったミドリムシが粘性を持ち始めたら出来上がりだ。

 私は珪素鋼の銀トレイに ミドリムシのポレンタを盛り付ける。

 汁物は味付けをしたミドリムシ スープを器に入れてトレイに乗せ、フルーツ味のショートブレッドを2つずつ乗せる。

 これは、ミドリムシパウダーと調味料をフードメーカーに入れて、ショートブレッドの形に加工した物だ。

 後は同じ手順で作ったソイフードの人工の厚切りハムとチーズを大皿に乗せて終了。

 飲み物は冷えた水で、これは風呂場の浴槽に海水を入れて 小型原子炉の熱で一度沸騰させ、その水蒸気を回収して水にした物になる。

 ミドリムシは この潜水艦で製造されているし、ミドリムシから成分抽出する事で調味料も生成出来る。

 今は 着色料を使っていないので食事が緑一食になっているのが 気になるが、この120mの潜水艦だけで 自給自足が出来ている。

「ほい出来上がり…おっアナ…ヒルデは?」

 私は遅れて食堂にやってきたアナに言う。

「もうそろそろ来ます。

 ほら来た…」

「おはよ…今、朝?」

「パリ時間では朝かな…上はまだ暗いけど…。」

「時差ですか…」

「そう…ニューヨークの方が6時間程 早いからな…。

 今、上は何時なんだろうな。

 よし…食事だ 沢山食べてくれ」

「わかった…メニューは?

 あ~これミドリムシ…あれ、おいしかった。」

 ヒルデはそう言うと席に着き、アナも座り、マーティンと私も座り食事を始める。

 私はUSBポートにケーブルを挿しこみ、もう片方の磁石の端子を首に接続して食事を開始する。

「何を…いや、そう言えば ハルミの食事をした事は これまでなかった。

 キミは 電気を食べているのか?」

 マーティンが聞いて来る。

「ああ…私は脳以外は機械の身体。

 見た目は 20代位に見えるけど 頭は もうおばあさん。

 で、身体が電気で動いていて 消化器官が無いから普通の食べ物が食べれない。」

 診療所の時は ずっと外食をしている事にしていたし、飲み会の時にも 殆ど飲んでいない。

 この身体で生活していると自然と食事を誤魔化すのが上手くなる。

「本当に私はハルミの事を知らなかったのですね。」

「まぁ隠してたからな…」

 ヒルデが先割れスプーン(スポーク)を使って美味しそうに食べる。

「う~ん…おいしい」

「この緑のハムもミドリムシか?

 おお…食感が少し違うが味は、高級ハムそのものだ。」

 マーティンはハムが気に入った様だ。

「人の味覚は 甘味、酸味、塩味、苦味、うま味、辛味…厳密には 辛味は舌の痛みだから味覚じゃないんだけど、この6種類の味の香辛料を混ぜる事で色々な味が再現 出来る。

 注文があれば作るが?」

「いや…今の所、これが良い」

「そっか…」


 その後、7日かけてボストンのミスティック湖に行き、分解して入れていた幌馬車を潜水艦から出して再度 組み立て、私達は ボストンへと向かった。

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