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20 (突貫工事)〇

 夏…。

 マーティンは保育器の普及の為に毎日、毎日、プレゼンを行い続けた。

 その甲斐もあったのか、暇つぶしに来た関係ない人を経由して医者の耳に届き、最初の時と比べ、各段に来る人数が増えて専門の医者も沢山来ている。

 今では ナオ(オレ)らのサクラは必要なく、椅子を追加で配置している状態だ。

 最初は心配だったが、上手く行っているな…。

 そんな訳で、余裕が生まれたクーニー夫妻は、ヒルデを連れて遊びに事も多くなり、ヒルデも満足の様だ。

 そして今日は 直径が45mで青と金色の球体に12星座が描かれた地球儀セレステに向かう。

 この球体の中はプラネタリウムになっており、列車 望遠鏡で観測した天体観測データを元に正確に空けた穴にライトを照らして光らせた物だ。

「ふああ…きれい」

 万博も中盤、来客の数が多くなっている中で少し窮屈だが、暗い室内に一面の星を眺められると言う施設は壮観だ。

 ヒルデがはしゃぎ、クーニー夫妻も満足げだ。

 それに付いて来たオレも その光景に驚く。


「つぎ、あれのる」

「はいはい…」

 クーニー夫妻は、笑顔になりつつ、ヒルデが指を差したのは、今出て来た ばかり地球儀だ。

 中がプラネタリウムになっている 地球儀の側面には スロープが設けられており、45mの頂上にある展望台に行ける。

 ただ…人数が多いし 列になっている…あれじゃあ 時間が掛るだろう。


 ん?

 メリメリメリ…軋む音が微かに聞こえる…あっヤバイ…。

 バギッ…大勢の客の体重を支えきれなかったのか スロープの一部が崩壊を始め、足場を失った大量の客が落下し、下の道路に叩きつけられる。

「うわっ…乗らなくて良かったな…」

 オレが暢気(のんき)に言う。

「うん…でも」

「分かっている…ちょっと見て来る。

 アナ達は 展示場に戻ってハルミを連れて来て…それと幌馬車も…多分、病院に運ぶ事になるから…」

「分かりました…ヒルデ、行こ」

「うん…」

「私も手伝います…小児科医ですけど…」

 マーティンがオレに言う。

「助かる」

 現場には悲鳴と人だかりが出来ているが、まだ驚いている様子で助ける人がいない。

「はい…オレ達は医者だ どいた、どいた…」

 群衆をかき分け、落下した怪我人の元に向かう。

 落下したのは30人程度…床が抜けたのは地上から10m位の地点…抜けた地点より 上の人は 取り残されてしまっている。

 こっちは後回しだな…。

 まずは、重傷者、死者の確認…。

「コイツはダメ…マーティン…コイツを向こうに どかして、こっちもか…ヒドイな。

 骨折か?これは 後回しだな…」

 頭から落ちて首が逝っている 死者、これから死者になる人が7人…他、13名が重傷…残り、10人は軽傷だ。

「マーティン 患者を移動させぞ…運ぶ時は丁寧に…」

 輸送中に神経を傷つけるかもしれない。

 オレ達は重傷者を運んで 寝かせる…軽傷者は 自力で動けている…これは放置で良いかな…。

 取りあえず 装備も無いし、ハルミが来る前に 出来る事は、トリアージと気道の確保と止血位だ。

 オレは怪我人の頭を上げさせて気道を確保させると、服の布をちぎって簡易的な止血帯にして止血作業にはいる。

 止血ヵ所は、出血している箇所の上…一切血が通らない様にキツく閉める。

 これで輸血が難しい環境で 貴重な血を失わずに済む。

「よし、止血 出来ました。」

 マーティンは ハルミの教育を受けているので、オレと同じで止血が早い。

「よし、良い腕…」


 バギーのエンジン音…来たか。

「ナオ…待たせた…状況は?」

 ハルミが医療バックを持ってやって来る。

「トリアージは済ませた、あっちが死亡()、こっちが緊急性あり()、で、こっちが緊急性なし(黄色)軽傷()は、どっか行った。

 赤を頼む…」

「了解…あ~残念、この2人は 黒…。」

 破片が胸の下に刺さっていて、出血と空いた穴から入った空気が心臓や肺を圧迫している患者だ。

 通常なら胸部開放創閉塞(チェスト)シールさえあれば 助けられるのだが、ハルミは装備がないので見捨てた。

 ハルミは別の患者の首を布でグルグルと厚く巻き、即席のギブスを作っている。

「よし、止血は ちゃんと出来ているな…。」

 ハルミは、時計を見てペンで止血した患者の皮膚に直接、今の時間を書いて行く。

 これは 血が通わなくなると出血ヵ所より下が壊死してしまうからだ。

 なので、30分程で止血帯を緩めないといけない。

「よし、幌馬車に積んで病院に運ぶ。

 さあ、急患だ どいた どいた」

 オレ達は幌馬車の荷台に患者を積み込み、ハルミは荷台に オレが運転席に、後部座席には マーティンが座る…。

「ナオ…時間より安全運転で…病院まで十分に持つ」

「了解…」

 オレはそう言うと、腹に穴が空いて呼吸が出来なくなって涙を流して こちらに助けを求めている 患者を置いて、病院までバギーで向かった。


 病院の前にバギーが止まりハルミ()は 荷台から降りて受付に突入する。

「急患だ…患者は全部で11名…10mからの転落、応急処置は既に済んでいる。」

「せっ先生を呼んできます…しばらくお待ちを…」

 受付の看護婦は走って出て行く。

 数分後、外科の先生達が出て来て、荷台から患者を降ろして状態を見る。

「良い応急処置です。

 状態も良い…これなら十分に望みがあります。」

「それでは、後を頼みます。」

「ええ…」

 医者はそう言うと、患者を連れて治療室に向かった。

「さあ帰ろう…」

「そうだな…」

 オレはハルミにそう言い、万博に戻って行った。

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