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16 (通貨発行)〇

 翌日、夜明けになると皆が起き、ナオ(オレ)達は 雨上がりの晴れた空を見ながら集まった。

「それで、成果は?」

 オレがジガに聞く。

 昨日は一応 休日だったし、ジガが営業を始めた事で 話を聞けなかったからだ。

「はい この通り…。」

 ジガが リュックの中から取り出したのは 大豆、ニンニク、ジャガイモ、小麦、テンサイの種や球根(きゅうこん)…。

 それに 赤い植物…多分これが、テングサ…。

 ただし どれも量は少ない。

「栽培できる程の量は無いのか…。」

「これは あくまでサンプルだからな…。

 構造さえ分かれば 空間ハッキングで再現可能だ。

 ただ生成に時間が掛かるから それだけを食料にするには 向かないんだが…。」

「一定量を作ってから 栽培するのか。

 やっぱり それなりに時間が掛るか…」

「まっ…工業製品とは違って こっちは 生物(なまもの)だからな…。

 ゆっくり やってくしかないさ…。

 それで 何処(どこ)まで進んでいる?」

 ジガがオレに聞く。

「今は炉を作ってガラスの量産が始まった所かな…。」

「早いな…となると もう風俗施設を造る事が出来るな。

 まずは浄水場を作って、その後に大浴場。

 その後にソープランドに繋げる感じだな…。」

「風呂に入る習慣を作れれば 衛生問題が、かなり良くなってくる だろうからな~。

 この時代の価値観では 身体を濡れたボロ布で身体を拭く事が一般で、わざわざ金の掛かる(まき)で大量の温水を作って そこに浸かると言う習慣は ないし、しかも、温度が上がって毛穴が開くと 活性化した細菌(病魔)が侵入して病気に掛かり易くなると言われている。」

 ハルミが言う。

「で、実際は如何(どう)なんだ?」

「実際、老廃物(ろうはいぶつ)が細菌から身体を守っているのは事実。

 だから1日に何回も徹底的に身体を洗う人間は病気に掛かり易いと言えるな…。

 ただ、老廃物(ろうはいぶつ)を残して置く事で発生するメリットに対してデメリットの方が圧倒的に大きい…。」

「まぁそうなるよな…。

 で、浄水所を建てるには 何を作れば良い?」

 オレはジガに聞く。

「本来なら消毒の為に 次亜塩素酸ナトリウムが必要なんだが、コイツは電気が無いと作れない。

 だから ガラス繊維のフィルタ層を通して ろ過した 水を熱して水蒸気にして水に戻す…蒸留だな。

 まぁ腹を壊さない レベルの水ならこれで十分。

 で、この水を40℃まで下げれば 風呂の完成だな。

 使った排水は また ろ過して浄水すれば使えるし、飲料水にも使える。」

「ガラス繊維か…。

 一度に10数人程度が使える施設となると それなりに大きくなるから、マンパワーも必要だよな…。

 と言う事は通貨発行して、給料を出さないと…。」

 オレが今後の事を考えながら言う。

 奴隷は給料が必要無いと言うメリットがあるが、仕事量に応じて報酬が変わる訳ではないので、ダラダラと仕事をするので非常に作業効率が悪い。

 なので 給料を支払って労働者に好きな物を買って貰い、経済を活性化させる事で 作業効率を上げさせる必要が出て来る。

「OK…通貨発行はオレがやる…。

 ハルミは?」

「私は植物工場を作る…。

 畑と違って天候に左右されないで食料を安定供給できるからな。」

「分かった…何か作って欲しい物があったら手伝うよ…。

 それで、浄水所、風呂はジガが担当で、クオリアは?」

「私は鉱山から鉄と銅を取って来る…今後 絶対に必要だから…。」

「分かった。

 それじゃあ…今日も頑張ろう。」

 オレはそう言うと立ち上がり、それぞれの作業に向かって行った。


 朝のミーティングが終わったナオ(オレ)は クラウドを連れて 竹で出来た4人部屋のサイズのオレの家に行く。

「さてと…いつまでも 国民をタダ働きさせる訳にも行かないからな…(かね)を作らないと…」

 オレの家の外に設置した 屋根だけで 壁が無い調理室に入り、(かま)を見ながら言う。

「だが、金や銀、銅なんかの貨幣(かへい)鉱物は まだ見つかっていない…。

 これから見つけに行くのか?」

 クラウドがオレに聞く。

「いや…銅はともかく、金や銀 何て希少物質を貨幣(かへい)にしたら|量産出来無いだろ」

「量産出来ない希少性があるから こそ、貨幣(かへい)に価値があるんじゃないか?

 金や銀の含有率(がんゆうりつ)を下げれば 貨幣(かへい)を一時的に多く発行出来るが、貨幣(かへい)自体の信用が落ちて、長期的には価値が下がる。」

「その考え方は 希少性の原理だな。

 水は人の生命活動に必須だが 大量にあるから値段が安く、ダイヤモンドなんかの宝石類は生存には必要無いが、希少なので高価で取引される。

 こんな感じの考え方か?」

「そうだ。」

 この時代の基準だが、クラウドは 商人と言う事もあって ちゃんと理解している…やっぱり賢いな…。

 オレは 調理(かま)にガラスの大鍋を乗せ、そこら辺に生えている大量の雑草を適当な大きさに切って入れて行き、その上から生石灰の酸化カルシウムと水を加えて ガラスの箸を使って煮込み始める。

「なら、金銀を大量に保有している別の国が 戦争を仕掛て来たら如何(どう)する?

 こっちの国は金銀が少ない訳だから 雇える兵士の数に差が出るし、武器に掛けられる(かね)も少なくなるから、余計に国が弱体化している…。

 その状況で如何(どう)やって(かね)を手に入れる?」

 オレは雑草を煮込みながらクラウドに聞く。

「他国に支援を求めるか、未来の税収を担保(たんぽ)に周辺諸国から(かね)を借りて戦争の資金に()てる。

 (かね)は戦後 増税する事で領地民から回収して借金の返済をする…何を当たり前の事を…」

「それじゃあ…。

 その 戦後 増税された国民は如何(どう)なる?

 税金が高くなって物が買えなくなるから国民は 貧困化するよな…。

 となると生産性が落ちるから税収も減る悪循環が始まる…さて如何(どう)する?」

「………そのリスクを込みでの借金だ。

 重税に悩まされている領民は 死ぬか、他国に移って 領地の人口が減り、金が回らなくなった 領主は親戚筋(しんせきすじ)の領地に逃げる…。

 その後は その土地は別の国に占領されて その国の領土となる。」

「ふむ…結局 国が滅びたな…。」

「でも仕方ない…。

 こういう事に ならないように 国は 貨幣(かへい)鉱物を溜め込んでおくんだ。」

「そうなると 今度は金銀での支払いが出来なくなるな…国が運営出来なくなる。」

極論(きょくろん)過ぎる…そのバランスを維持するのが国の仕事だ。」

「まっ確かに…。

 とは言え これが希少性の原理を利用して貨幣(かへい)を発行している国に起きるジレンマで弱点…。

 じゃあ次…今度は戦争を仕掛けてくる敵国の視点だ。

 この国は(きん)を製造出来る錬金術を持っていて、無尽蔵(むじんぞう)に純度の高い金貨を大量に作れる。

 さて、この国は何故(なぜ)強い?」

「それは 無尽蔵(むじんぞう)に金貨が作れるなら、大量の軍人や傭兵を雇って 武器職人をフル動員して武器を作り、新しい武器の開発も させられる。

 兵站(へいたん)に必要な保存食も十分な量 買えるし、馬車や馬なども(そろ)えられる。

 馬の機動力と武器の性能と歩兵の数、その兵と馬を支える食料が十分に確保出来るなら それが出来ない他国に比べて圧倒的な アドバンテージを得る事になる。」

「そう…つまり国の労働者を全員働かせている状態が 国にとって一番強い状態で、その状態に持って行く為に使われているのが貨幣(かへい)

 貨幣(かへい)があるから労働力が生まれるんじゃ無くて、労働力があるから貨幣(かへい)が生まれるんだ。

 皆 発想が逆なんだよ。」

「と言う事は 全員を働かせる事が出来るなら、貨幣(かへい)の素材は関係無い?」

「そう…そもそも 貨幣(かへい)に希少鉱物を使っているのは、国が没落(ぼつらく)して 貨幣(かへい)が使えなくなった状態でも 貨幣(かへい)を鉱物として別の通貨に換金(かんきん) 出来るからで、そこから 商業取引に希少鉱物を使う事が 一般化したんだ。

 だから 国民が(カネ)だと認識していれば、銅で作っていても、究極 紙に書いてある数字だけでも (カネ)として成立させる事が出来る。

 この国は潰れる予定は無いからな…。」

 オレは ガラスの大鍋で煮込んでいた雑草を見る。

 水に酸化カルシウムの生石灰を加えてた事で、水酸化カルシウムの強アルカリ性で雑草が溶けて 植物繊維の状態になり、紙の原料のパルプになる。

 そのパルプをガラスの箸で すくい上げ、縦297mm横420mmのA3サイズのガラスの型に均等に入れて、上からガラスのカバーで(はさ)んで雑草を押しつぶす。

 型の角に空いている穴から水酸化ナトリウム水溶液を鍋に戻し、液が垂れて来なくなった所で型から外して紙を取り出し、後は 竹を編んで作った板に乗せて 天日干(てんぴぼ)しで乾燥させる。

 時間を短縮したいなら型にパルプを入れたまま 上のカバーを外して容器を熱して水分を飛ばせば 良いが、現状ガラスの型の量産が出来ていないので天日干(てんぴぼ)しの方が効率が良い。

 これでA3サイズの雑草紙(ざっそうし)の完成だ。

「ほう…羊皮紙には劣るが、紙がこんなに簡単に作れるとはな…。

 相当に値段も安く出来るんじゃないか?」

 雑草紙(ざっそうし)を見てクラウドが言う。

 この時代の紙は羊の皮を使った羊皮紙が使われており 非常に高価で、これが 低所得者の識字率(しきじりつ)が上がらない要因でもある。

 いずれ もっと大きい型が出来れば、紙の大量生産も現実味を帯びてくるだろう。

「確かに漂白剤(ひょうはくざい)を使っていないから 多少緑色だし繊維の網目(あみめ)も不均一だが、実用としては これで問題無い。

 で、さっきの型に紙を入れて上から 紙幣のデザインに加工したガラスのスタンプを押す…。

 インクは 木炭や竹炭を砕いて砂状にした炭に粘土を混ぜて粘性(ねんせい)を上げた物だな。

 で、この線で切れば 紙の紙幣()の完成」

 出来たのは縦105mm、横148mmのA6サイズの紙幣で それが16枚だ。

 紙幣のデザインは左上に『トニーおうこく ぎんこう けん』と書かれ、中央には トニー王国の国旗になる十二の歯を持つ歯車、右横には紙幣価値を表す 100Tn(トニー)と書かれている。

「まずはドリンク類からかな…。

 ジガが作る安全な水をガラスの大瓶1杯100トニーで売る。

 後は そこに果汁を加えたジュース。

 今の所 毎日の食事は オレ達が保証しているから、食べ足りない人向けの追加食になるな。

 最終的には 1食300~500トニーで食事のバリエーションも増やして行こう。

 可能な限り流通している物に適正価格を付けて通貨を流通させるんだ。」

「それじゃあ 私がやろう…私は商人だからな…。」

「いや…クラウドは まずは 造幣局(ぞうへいきょく)の仕事だ。

 作った数と発行した数を帳簿(ちょうぼ)に書いてくれ、通貨の通流量が上がってきたら国から給料を払う。」

「わっ私が金を作るのか?」

 クラウドは顔を引きつりつつ言う。

「ああ…オレ達以外で 今の話を理解出来て、文字の読み書きと計算が出来るのはクラウドだけだからな…。

 しばらくは 紙幣の発行と人材育成をメインにやって、仕事を任せられるようになったらクラウドには 商会を任せる」

「とうとう私も店を持てるのか…。」

「そ…それも大きなね…。

 それじゃあ頼むよ。

 1週間以内に1000枚は必要だからな」

「えっ1000枚も?」

「そう、1枚刷れば16枚も出来るんだから1日当たり10枚…多分2時間(6分の1日)も掛からないん じゃないか?」

「そうだが…」

「オレは道路工事に行かないと行けないからな…。」

 オレは そう言うとファントムを召喚して道路工事に向かって行った。

【解説メモ】

2600年の種をわざわざ持ってこなかった理由。

 (2600年の世界では、遺伝子改良された大豆や藻などを加工して作ったソイフードがメインで、畑で栽培する食べ物は天然物と言われ、非常に高価になっている。

 ただその割に味覚や食感を自由自在に出来るソイフードに比べて、あまり美味くない。

 食用の種や球根などの品種は、人類全体が畑による栽培からソイフードに切り替えた事で栽培する人がいなくなり、家畜も含めて大半が絶滅している。)


経済システム

 (日本政府が日銀と毎年やっている国債による通貨獲得システムを使いつつ、現在の経済システムが複雑で面倒になっている為、MMTを利用しつつ、徹底的に簡略化している。

 基本的に人も国も 金の数字に振り回されるが、本質は労働者を働かせて、物を生産させ、労働者が物を買わせるシステムで、労働者が満足に働けて給料が貰えるなら、どんな理屈で金を作っても良い。

 こうする事で、国の仕事である予算に対しての心配が無くなり、予算配分の議論も無くなり、金では無く、国の問題その物に集中出来る。

 更に外国からの金融制裁や外国企業の国内進出による国内の経済衰退による内政荒らしも、防げるので国の防衛として非常に重要。)


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