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16 (月人-ルナリアン-からのメッセージ)〇

 4月14日…正式にパリ万博が始まった。

 馬車に乗った一般客がゾロゾロと入って来る。

 ナオ(オレ)達は 保育器の赤ん坊を動かせないので ずっと寝袋生活だが、大体の人は パリの付近で宿を取っているらしい。

 ハルミとクーニー夫妻が 来たお客に 保育器の売り込みをしている中、輸送の担当が主だったオレは 万博が始まってしまうと暇でしか無く、同じくかまって貰え無くて不機嫌だった10才になった マーティンの娘のヒルデのお()りをする事になった。

「で、何処に行くんだ?」

 バギーの後ろに乗っている 10才になったマーティンの娘のヒルデに聞く。

「たべものや…」

「あ~朝食 食って無いもんな…」

 こっちがメシを食べる事が無いから結構 忘れがちだ。

「それじゃあ、広場で 何か食べるか…」

「たべる~」

 広場にあるジガとクオリアの店は 結構 繁盛していて、幌馬車のバギーにも 注目が集まっている。

 まぁ動力車なんて100年前から有った訳だが、出力問題と燃料補給の問題があり、全然普及していなかったからな…。

「おっ朝食か?」

「ああ…サンドイッチを1つ…」

「挟む物は?」

「お任せで…」

「そうだな…」

 クオリアは、ミドリムシを焼いて作った緑色のパンの上にチーズ、ハンバーグ、レタス、それにマヨネーズとケチャップを乗せたサンドイッチ…まぁハンバーガーだ。

「助かる…」

 オレはハンバーガーを受け取り、フランスの通貨、フランで支払う。

「まいど…あっそうだ…入りは如何(どう)だ?」

「ボチボチ…まぁ目を引く物でも無いからな…」

「チラシは無いか?

 こっちは 海を渡って来た外国人が多い。

 保育器を広めるなら紹介した方が良いだろう。」

「分かった…頼む」

 オレはクオリアにチラシの束を渡す。

「それじゃあ、オレ達はブラブラ観光して来るわ」

「行ってらっしゃい」

 ヒルデが美味そうに後部座席でハンバーガーを食べている中、オレはバギーを動かして、万博の観光に向かった。


 人が多い…ヒルデが動く歩道に乗って移動する中、オレはバギーを低速で動かし 追いかける。

「なお~」

「はいはい、追っているよ」

 床の下には、直流電源で動くローラーが並べ立ていて、その上にヒルデ達が立っている木製の床が乗っている形だ。

 動く歩道は 低速と高速の2つのレーンがあり、低速が時速4km、高速が8km程度になっている。

 慣れていないと転びそうな速度だ。

 途中で飛び乗る方法の他に、万博内にある9つの駅から安全に乗り降りする事も出来る。

 万博を1周はするには、30分程度…1駅辺りだと3~4分だ。

 ユイは2駅乗り、パレードの会場の近くで降りる。

「楽しめたか?」

「うん」

「そっか…」

 ヒルデは、またバギーの後ろの席に座り、オレは 音楽が鳴り響く パレードの会場まで進みだした。

 パレードの近くでは、馬に乗った警備員が通行規制を引いている。

 近寄って迂回ルートを聞こうとしていたオレは、警備員がオレ達を一目見た後に通してくれる。

 あれ?何でだ?と、思ったが すぐに状況が分かった。


 オレ達は派手音楽の中、車やパレードの最後尾の列に着く事となった。

「あ~出し物だと思われたのか…」

 そりゃ、オレの服装ってスーツ姿じゃなくて甚平だしな~。

 後ろに座っているヒルデは観客に手を振り、ノリノリだ。

 車は灯油じゃないな…軽油を使ったディーゼルエンジンか?

 なんか、少し音に違和感があるが…。

 その前には、馬に乗った兵隊と 徒歩の兵隊が行進をしている。

 脚並みがしっかりと揃っているが、銃を構えている訳では無く、剣を腰から吊り下げている。

 ここの治安維持部隊か?

 まぁ、向こうも場違いな連中が来ている事は知っているだろう…引き返さず、大人しくしているか…。


「なお、つぎ、あこ…」

 720mはある湖を指して言う。

「あこ?水族館か…」

 バギーを止めて、ヒルデと一緒に地下に行く。

 水族館は天井がガラス張りのトンネルとなっていて、トンネルから上を見上げると、太陽光に照らされて輝いている水面が見え、周りには どっかから持って来たのか、色々な魚達が泳いでいる。

「うわああ、きれい」

「確かにな…」

 そう言えば、オレの人生で水族館に来るのは これが初めてになるのか…。

 オレからすれば 魚は食料でしか無く、観賞魚を楽しむ なんて、考えなかった。

 本当に人の人生を何度も繰り返せるだけの時間を生きているってのに、まだ オレの知らない事が起きている。

 やっぱり 機械人には、巻き込んで状況を変えてくれる人が必要か…。

 効率だけじゃあ、文明は築けないな…。


 時間的に ここが最後か…。

 水族館を楽しんだオレ達が最後に行った場所は、直径125㎝で長さが60mの巨大な筒に鉄の車輪が付いている世界最大の巨大な列車望遠鏡がある展望台に来た。

 望遠鏡は 機関車に使う鉄のレールの上に乗っけられて、この望遠鏡の性能は最低倍率で500倍…。

 これだと、太陽の黒点や月の表面なども詳細に写せる。

 倉庫の端には、この望遠鏡で撮影されたと思われる白黒の写真が額縁に入れられ、飾られている。

 その中で 最も大きく、客達の注目を集めているのは、後に『静かの海』と呼ばれる月面に掘られている文字列だ。

 月の文字列には『Ni venis ĉi tien per kunlaboro kun maŝinoj.』と月面に深い塹壕を掘って書かれている。

 今からちょうど200年前の1700年にオレ達が月から地球に行く時に土を掘って残したメッセージだが、月の大気は極僅かしかない為、未だに風化しておらず、まだ当時の状態を保っている。

「まだ、この言葉が意味する物は分かりませんが、土を掘り返して ここまで綺麗な文字が出来る事は、自然現象では出来ません。

 これは月人(ルナリアン)が私達に残してくれたメッセージです。

 アルファベットの様な文字も使っている事ですし、私達と祖先を同じくして別れた人類なのかもしれません。」

 関係者であろう 天文学者が、興奮した様子で皆の前で言う。

 この時代の一般的な宇宙の認識は、宗教の教えを絶対だと信じている人がまだ多く、以前と変わらず天動説を信じている。

 が、海の航海など現実面での様々な不都合が発生しており、学のある人は 次々と地動説に変わって来ている状態だ。

 で、その学が有る人も ロケットを打ち上げるまでは、宇宙には大気が存在していないとは 殆どの人が考えておらず、月、火星、金星には、地球と同じ生物、もしかしたら人型の宇宙人がいるかも知れないと、本気で思っている。

 更に 宗教と現実との整合性を持たせる為、自分達が何処かの星から地球にやって来た 超文明の宇宙人『アダムとイブ』の子孫であると言う主張が今の流行の宇宙観だ。

「なっ何でこの文字が…」

 40代のオッサンが 月の文字を見て涙を流している…。

「なお…あれ、なんて書いてあるの?」

 ヒルデがオレに聞く。

「う~ん『私達は機械と協力する事で ここまで来ました。』かな…これは エスペラント語だな」

「きいた ことない ことば…」

「まぁそうだろうな…」

 エスペラント語が生まれてから今年で13年目…。

 しかも、エスペラント語の教科書は 眼科医で けして裕福では無い家庭のエスペラント博士が、なけなしの資金を使った自費出版の為、本自体の希少性も非常に高い。

 オレの言葉に涙を流したオッサンがこちらを見る。

「キミ…これが読めるのですか?」

「ああ…エスペラント語だろ…。

 オレ ベルリンを拠点にしているんだが、あそこ言語が色々あるせいでケンカが絶えないから、最低限の意思疎通は出来る様に色々な言語を学んだんだ。

 で、共通言語があればな~と思って探したら、エスペラント語が出て来て…まぁ話す相手もいないし、文字の学習がメインだったから、発音が怪しいんだけどな。

「Saluton!(こんにちは!)、Mia nomo estas…Nao(私の名前は、ナオです)Kio estas via nomo(あなたのお名前は?)…発音合ってる?」

「ええ大体は…Mia nomo estas Ludovico.(私の名前はルドヴィーコです。)」

「ルドヴィーコって…D-ro Esperanto?(エスペラント博士?)

 まさか本人だとは…出店か?」

「ええ、エスペラントの本の出版と宣伝に…。」

「また自費出版ですか?あなたの生活もラクじゃないでしょうに…」

「いえ…今回は出資者がいます。

 クラウド商会のドーバー支店の印刷部です。

 彼女にはグリム童話のエスペラント語 翻訳の本を書く事を条件に製本と販売をクラウド商会で やって貰える事になりました。」

「あ~本当に手広くやっているんだな…。」

 エスペラント語は、後に地球を出て宇宙で生活をする人類の公用語となり、更にその人類は 身体を変化をさせつつ 銀河系中に散らばって行く事となる…つまり、エスペラント語は 異星人達との共通言語だ。

 異星人との コミュニケーション方法が これで構築 出来るなら、本当に安い投資だ。

「後で本を買わせて貰いますよ…それじゃあ、オレ達の出し物も見に来てくださいね」

 オレはルドにチラシを渡す。

「保育器、人工子宮ですか…私は内科医でしたが、興味はあります。

 それに私は祈祷師(きとうし)の妨害で診療所を続けられなくなりましたから 私としては、保育器を広めようとしている あなた方に協力したいと思います。

 ぜひ、見させて頂きます。」

 ルドはそう言い、オレ達の元を離れた。

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