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15 (1900年パリ万国博覧会)〇

「ひやあ~スゲーな」

 この場にそぐわない甚平姿のナオ(オレ)は、幌馬車を引いているバギーを運転しながら周りの景色を見る。

 まだ遠いので小さく見えるが、万博に向けて新しく塗装され 電極を取り付けられた エッフェル塔が見える。

 その近くには 直径40mの球体に星座の動物を描いた建物がある世界最大のプラネタリウムも見え、少し遠くには巨大の観覧車が見える。

 周りは馬車に乗った スーツやドレス姿の人が多く、入場券を払えるだけあって 皆 身なりが良く、浮浪者や貧乏人は いない。

 その中で、オレは甚平と言う民族衣装を着て、この時代では珍しい幌馬車のバギーを運転し、入場ゲートにいる 馬に乗った受付に くじ付きの前売入場券チケットを見せて中に入る。

 オレの後ろの荷台には、ハルミとクーニー家族 それに保育器には パリの病院で保育器で育てられている未熟児の赤ん坊が眠っている。

 ベルリンの博覧会で一定の成功を収めて この5年間 博覧会で出来たコネを利用して 辛抱強く病院と手紙と金での交渉した事で、パリの病院では 人体実験の為の少数ではあるが、保育器の導入が始まっており、この万博の期間中 未熟児を貸してくれているまで成長している。

 万博の期間は 4月14日から11月12日までなので、7ヵ月…この期間中に5000万人が来たとされている。

 3~4回位は 未熟児の交換が必要になって来るだろう。

 クーニー家族は この万博の後にアメリカに渡り、保育器の宣伝活動を行う事になっている。

 その為、クーニー診療所は クラウド商会のベルリン支店に売られ、ここで教育したハルミとマーティンの弟子が診療所を引き継いでいる。

 もう、ベルリン支店の車は 燃料の補給が容易な現地の灯油車に置き換えているし、仕事も現地の人を教育して任せている為、技術流出の可能性も少ない。

 ガタっ…。

「おっと」

 未熟児は ちょっとした振動でストレスを感じて死ぬから気を付けないと…オレは スピードを出さず、壊れ物を扱う様に慎重に進む…。

 万博の建物は、仮設の物で鉄骨の上から石膏にセメントやグリセリンを混ぜたスタッフと言う素材を使い、その上から漆喰(しっくい)を塗ったものだ。

 このスタッフは、型に流し込む事で どんな形でも作れる万能な建築素材になる。

 ただ 所々、未完成の建物がある…工期が間に合って無いんだな…。

 道路には 電線から電気を受け取って走るバスであるトロリーバスが通り、()()()()で動く、動く歩道は 人を乗せて 9つの駅を移動している。

 事前情報だと この2平方kmの万博会場を1周 30分で回れるとか…。

 それに まだ実用段階には程遠いのだろうが、電気自動車(EV)もあり、電気は 最近発明された最新の技術の為、レトロな未来感が出ている。

 後は 石油を使った新型のエンジンである ディーゼルエンジンの機構を採用した車が実用レベルで走っていて、この万博が終われば 各国で本格的に車が普及して行くだろう。

「おっ来たか…」

「遅かったな…」

 ジガとクオリアだ。

 広場に業務用テントを建て、酸水素ガスコンロを使った キッチン…。

 折り畳みのテーブル席が設置されている。

「なんだクオリア…来ていたのか」

「祭りだと聞いてな…。

 それに この祭り光景を記録に収めておきたかった。

 映像や記録媒体も未発達だったから、この時代の情報は少ないからな…。」

「まぁそうだろうな…店は?」

「順調…まだ万博は始まって無いけど、工事をしている労働者達が食べに来ている。

 稼ぎは上々だな…」

「まぁミドリムシの原価って めっちゃ安いからな…。」

 ジガ達は クラウド商会からの出店として、輸入品の食べ物や ミドリムシの緑色のパンにスライスチーズ、スライス肉を挟んで食べるサンドイッチ。

 それに ミドリムシのポレンタもある。

 ジガの店の周りには 労働者の需要を狙った店が いくつか並んでいるが、(ロウ)に絵の具で色を付けた食品サンプルも飾られているのは ここだけになる。

「それに ここの人達にとってミドリムシは未知の食材だからな…。

 ここら辺の外食店は、パリ付近で手に入る素材を使った料理が多い。」

「そりゃ遠くから船で来るなら腐るだろうからな…精々が保存食と言った所か…。」

「そ、ただ日本からは醤油と味噌、酒が運ばれて来ている。」

「日本人も来ているのか…後で行ってみるか…。

 日本語 ()び付いてないと良いけど…。」

 オレはそう言うと、オレ達のブースに向かってバギーを走らせた。


 オレ達のブースは 比較的 人の通行量が少ない建物の中だ。

 隣には 和風ぽい絵画と石膏で作られた裸の女性の彫刻が置かれており、比較的 静かな場所になる。

 これは、ベルリンの万博で 大量の客人と騒がしい環境に保育器を置いた事で、保育器の中の赤ん坊が 騒音によるストレスで死にかけたからだ。

「よっと…」

 オレ達は、バギーごと建物の中に入り、赤ん坊が入った保育器を降ろす。

 保育器の室温は 大丈夫…後は 英語で()った紙のチラシを渡して、観客を呼び込み、マーティンが実験の結果と保育器の説明を英語でするだけだ。 

 と言うか、英語の文字を読めるヤツは どの位いるのだろうか?

 身なりからして教育は受けているのだろうが、英語の読み書きが出来るのか非常に気になる…複数言語のチラシを作る必要があるか?

「なぁマーティン…保育器の特許は取らないのか?

 この原稿…製造方法まで書いてあるが…」

「確かに特許を申請すれば 特許料で私達の生活がラクになりますが、特許料が治療費に上乗せされてしまえば、金が無い貧乏人には 普及しなくなってしまうでしょう」

「保温する為の燃料代も掛かるし、アンタも そこまで裕福じゃないだろうに…」

 保育器は 蒸留した清潔な水を熱して、容器内を常に37℃に維持しないと行けない為、アルコールと水が必要…。

 それを1人頭 1ヵ月から2ヵ月間 常に動かさないと行かない。

 それは この時代の一般労働者の3日分の給料を1日で使ってしまう金額になる。

 しかも それを価格に含めてしまうと、金持ちの赤ん坊しか助けられなくなる。

 こんなの小型核分裂炉を積んだ 原子力潜水艦を使えば、一発解決なのだが、マーティンには その存在を知らせていないので、この子の燃料代は 彼の診療所の医療費から賄っている。

「だから、ここで寄付金を(つの)るんですよ。

 肌色に関係無く、どの人種でも未熟児は 産まれて来るんですから、需要はあるはず…。」

「ただ ここに 来るのは 医者じゃなくて、外交官や技術者だって事だよな。

 オレ達の話に興味を示して理解してくれるかが 鍵だな。」

 そう言うと、降りて来たクニー家族と共に万博の準備をするのであった。

メモ


()()()()で動く、動く歩道は 人を乗せて 9つの駅を移動している。

(トーマスエジソンが宣伝の為に作った…ただし史実では無い。)

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