表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
154/339

12 (保育器)〇

 クラウド商会は ベルリンに土地を買って倉庫の支店を作り、商売をする事にした。

 こちらの支店の店長は ハルミだ。

 ナオ(オレ)達の仕事は、近隣の村、町から出した配達物資をベルリンに集め、そこから 最近 動き始めて まだ発展途中の蒸気機関車に乗せる仕事だ。

 そして、大量に物資を積んだ機関車は 遠くの町へと運ばれて、そこから馬車で各町に運ばれる。

 まぁ時速30km位のスピードしか出ないので、バギーの方が まだ早いのだが、積載重量は 蒸気機関車の方が圧勝だ。

 産業革命を支える大量輸送社会の始まりになる。

 クラウド商会では 色々な物を運んでいるが、この時代で一番 重要なのは肉だ。

 肉は冷蔵庫の無かった時代、常温だと すぐに腐ってしまうので、乾燥させて 塩漬け肉などの保存食にして運ぶのが一般的だった。

 新鮮な肉を食べるには、牛や羊などをカーボーイ達が1ヵ月 歩かせて目的地まで運び、現地で畜殺して肉にした業者から買う必要がある。

 なのだが、家畜の可食部は 大体 半分位なので、例え 肉が自走してくれるとは言え、足が遅いので 効率が悪い。

 そこで、機関車の登場だ。

 これにより、遠くの牧草地で肉に解体し、その日の内に機関車に乗せて2~3日で食卓に届く、そんなシステムが出来上がり、都会である ベルリン付近で 生肉が安い価格で手に入る様になった。

 ちなみに熱交換式では無い物の氷を使った冷蔵車や冷蔵庫も普及してきている…その為、家畜の運搬業者 カーボーイが大量失業する事になった。


 さて、次は雇用の問題だ。

 クラウド商会の方針として現地で仕事が無い 被差別 民族などを積極的に雇用しているが、ここら辺では 多民族が当たり前なので、特に差別や迫害させている人はいない。

 気にしていた ユダヤ人も まだ迫害をされていなく普通に生活している。

 あれは第二次世界大戦からだったか?

 ただ、蒸気機関車の誕生で 家畜の運搬業者が 大量に浮浪者になっていて ベルリンの治安を悪化させていたので、クラウド商会で 大量雇用し、バギーを使って運送業者を再開して貰った。

 まぁ運搬業者は荷物を守る為に荒事もやっていた為 気性が荒く、小柄なオレ達は 舐められていたのだが、格闘技を使った肉体言語で交渉して 手懐ける事に成功した。

 そんな、感じで 従業員達に教育を与えつつ オレ達は 鉄道事業やアーサーに投資をしつつ暮らしていた。

 そんな事をやりつつ、数年後。


「アーサー…遂に完成したか…。」

「ええ…あなた方の出資のお陰です。」

 クラウド商会の受付兼食堂の端に置かれている棚の中で、タオルの上に乗せられた従業員の赤ん坊が すくすくと大きくなっている。

 保育器は 木製の棚を流用し、ガラス窓の内側に水銀の温度計を取り付けただけの物で、アルコールランプで加熱された水を水蒸気にして 赤ん坊の下の床に空いた小さな穴から噴き出し、箱の中を満たす事で37℃に保温する仕組みになっている。

 こんな単純な仕組みなのだが、ここに来るまで何匹ものネズミの胎児が犠牲になっており、一番最初にアーサーが見せてくれた ガラスケースのネズミの胎児は、アルコールランプと一緒に入れた事により、減った酸素と増えた二酸化炭素で死亡した。

 アーサーは 二酸化炭素の発見までは いかなかったが、火を付けたアルコールランプと動物実験を同じガラスケースに入れた場合、アルコールがまだあるのに、火が消える現象が起き、箱のネズミは死亡する。

 アーサーは これを毒ガスと認識していたみたいで、箱の中に毒ガスが入らない様に箱の外から箱を温める間接過熱 機構を採用した。

 ただ、毒ガスとの隔離は成功したが、安価な木製で作ったので、箱自体が燃えて 中のネズミが焼死した。

 次に燃えない 鉄板で作った保育器は、熱が伝わり易く、ネズミが鉄板でこんがりと焼けてしまった。

 この実験から、燃えない安価な素材で、熱を通しにくく、熱を上げる素材で、保育器を作る必要があると言う矛盾した素材が必要になり、研究は難航…。

 それを打開したのは、鍋だ。

 鍋フタは木製なのに、鉄板を熱して沸騰した100℃の水蒸気に晒されても燃えないからだ。

 なので、鍋に水を入れて37℃の温水し、ネズミを入れて溺死…。

 その次は 温度を上げ過ぎて 茹でネズミになり、最終的に沸騰した水蒸気で暖めるのが最適と言う結果となった。

 しかも空気と水蒸気では 水蒸気の方が熱の温度上昇が速い事も発見し、その後、オレ達からしたら、バカだろうと思う保育器の改良で何度もネズミを死なせ、遂に動物実験から人体実験に移った。

 その記念すべき1号が従業員の赤ん坊である この子だ。

 この子の体重は おおよそ2000g…正常体重には 後500g程足りない。

 なので、安全圏内の3㎏になるまで人体実験をさせて貰う事になった。

 実験は おおよそ1ヵ月…アーサーに赤ん坊の両親、オレ達を含めた24時間体制で赤ん坊を見守り、母乳に排出される糞尿もサンプルとして回収され、更に子供に触る時には、蒸留酒でアルコール除菌された酒臭い手で触る事を推奨された。

 これはアメリカ独立戦争前のクリミア戦争で、フローレンス・ナイチンゲールが、不衛生な環境だと治療した兵士が余計に死ぬ事を統計学を元に 既に証明していたが、アーサーは これを顕微鏡を使って、蒸留酒で病原菌(病魔)が死ぬのを 目視で確認している。


 そして1ヵ月後…。

「うん…健康優良児…おめでとう。」

 測りに乗せて体重が3㎏を越えた事を確認したハルミは、母親の腕の中に戻される。

「お疲れ様…良い実験 結果でした。

 ありがとう。」

 アーサーが保育器から出た男の子に言う。

「ネズミの実験は知っていましたが…良かった。」

 母親は 男の子を抱きしめる。

「次は、病院での試験導入だな。」

 オレがアーサーに言う。

「ええ…これで子供を救えます。」

「本当にそうなのかな…」

「え?」

 オレは保育器を見てそう言った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ