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10 (やぶ医者の詐欺師)〇

 夜中にジガと別れ、潜水艦に乗って2日…。

 ジガが地図を造る際に 今の時代の川を潜水艦で直接 移動して状況を調べて地図にしていたので、途中、拡張工事前で 川幅や水深が狭まったりと言った事や、上にいる漁船を巻き込みかけたが、そこまで苦労せずに 第一の目的である フランス…いや、今はドイツ領か…のアルザスの近くに到着する。

 そこからは、幌馬車を引いているバギーをオレが運転し、後部座席には ハルミが乗っての移動だ。

 アルザスは 人が多く、少し進むと、布を被せたテントの下に木のテーブルを置き、その上に商品を並べた店が並んでいる市場があり、人々は 物を売り買いしている。

 ここは活気が良い見たいだ。


「ボンジュール(こんにちは)…マダム。」

「ハロ(こんにちは)」

 フランス語で挨拶をしたジガに干し肉などの保存食を売っている店の中年女性がドイツ語の挨拶で答える。

 色々な言語が入り混じる ここら辺の地域では、まずは挨拶をして 相手が何語で答えるかを見る。

 そして ドイツ語を母語にしているなら、英語を話せる可能性が高い。

「Do you speak English?(英語話せる?)」

Ja(イヤ)(はい)…」

「How much?(いくら?)」

 ハルミは英語に切り替え 女性にコインを渡し、食べれないと言うのに干し肉を受け取る。

「マーティン・アーサー・クーニーと言う、民間療法を扱う医者を探している。

 知っているか?」

「この町には 診療所があるが、マーティンじゃないね。

 そのマーティンの着ている服や顔の特徴はあるかい?」

「ああ…こんなヤツだ。」

 ハルミはリュックから紙を取り出して女性に見せる。

 そこには 写真のクーニーの顔を若返りシミュレーションをした青年の姿のクーニーの似顔絵が描かれている。

「アンタ絵が美味いね。

 うん、確かに見かけない顔だ。

 アタシが見覚えが無いと言う事は、この町にはいないか、よっぽど上手く隠れているかだね。

 連絡場所を教えてくれれば、手紙を送るよ?」

「分かった、何か情報が入ったら ここに手紙を送って欲しい。

 送ってくれれば、手紙代と少々の手間賃を入れて送り返す。

 情報が有用なら、本格的な謝礼金を払う。」

 ハルミは、似顔絵と下にドーバー支店の住所とハルミの名前が書いてる紙を渡す。

「分かった。

 でも良いのかい?似顔絵を貰っちまって…」

「それ、木版画(もくはんが)だから、何枚でも印刷が出来る。」

 リュックからノート位の厚さの紙を取り出すとパラパラめくって女性に見せる。

 木版画(もくはんが)は、木の板を削って作った大きな判子にインクを付けて紙に押して作る印刷技術だ。

「それだけの枚数を配るって事は相当に大物なんだね。」

「そうですね…それじゃあ、干し肉ありがとう。」

 ハルミはそう言うと、チップを渡して オレが乗ったままのバギーの後部座席に乗った。

「お帰り…次は?」

「診療所に行って、その後は 酒場で聞き込み、寝泊りは その上」

「なるほど…診療所の場所は?」

「それも探さないとだな」


 診療所…。

 市場の先に立っている一軒家…ここが この町の診療所らしい。

「ハロー」

 ハルミがドアノッカーを叩く。

「おや見慣れない顔だが…急患かい?」

「いえ…人を探しています。

 少しお話が出来たらと…」

「分かった…上がって」

 オレ達は診療所の中に入る。

 中は 調度品の類は無いが、他の家と比べると それなりに豪華で、ふかふかのソファーがあり、ガラスの棚には 各種薬品が器具が綺麗に並べられていて、少なくとも水銀などの毒物のラベルは見当たらないし、もう科学をベースにした真っ当な治療を行っている事が分かる。

「ほお…一通りは 揃っているんだな。」

 ハルミが棚を見て言う。

「あなたも医者なのか?」

「ええ…まぁ今は人を探しています。

 こちらです。」

 ハルミは似顔絵を渡す。

「ふむ…見覚えは無いな。

 私の患者なら一発で分かるんだが…この人は犯罪者?」

「いえ…優秀な医者です。

 マーティン・アーサー・クーニー…。

 医療関係者なら知っているかと思いまして…」

「いや…名前も知らない。」

「そうですか…何か情報を掴んだら、ここに連絡を…それなりの報酬を出します。」

「分かった。

 気に掛けて見るよ」

 医者にチップを渡して、一緒に外に出る。

「次は酒場だな。」


 オレ達は 商人用の倉庫にバギーを幌馬車を預けて金を払い、倉庫の鍵を受け取って 酒場の中に入る。

 室内には、木製のテーブル席とカウンター席があり、まだ昼間だと言うのに結構な賑わいだ。

「マスター 人を探している。

 コイツなんだが…」

「いや知らないな…」

「そっか…情報があったら、ここに手紙を…謝礼金を出す。

 後、1週間位 ここを拠点にするから、1部屋 借りたい。」

「ああ…良いよ…ああ値段は…」

 ハルミは 金を払って、マスターから鍵を受け取る。

 階段を上がって2階の奥の部屋に入る。

 部屋の中は 粗末なベットが2つあり、オレ達は荷物を降ろして落ち着く。

「ふう…やっぱり難易度が高いな。」

 連絡手段は手紙だけ…この時代の人探しは 本当に難しい。

「まぁ…手掛かりは皆無だしな。

 ここを拠点として、あちこちの町を周って 1ヵ月探して見つからなかったら、次は ブレスラウだな。

 ジガの土産に歴史書を買わないといけないし…さて、如何(どう)なる事やら…」


 そして、1ヵ月後…潜水艦。

「はぁ…結局、外れか…」

「とは言え、それなりに包囲網を張れた。

 次は ブレスラウで網を張って、何処の町にいても 情報が来るようにする。」

 各町の酒場のマスターや情報通な人には、似顔絵を配っている。

 これで、クーニーが 何処の町に移動しても何かしらの情報が届くはずだ。

 今は ひたすら川を北上して、イギリス海峡に戻っている。

 向こうの川とは 繋がっていないからだ。


 そして、1週間後…ブレスラウ…。

「おっ知っているのか?」

「ああ、コイツは、アーサー…詐欺師だ。」

「詐欺師ぃ?」

「そう…大手の貿易会社を名乗って、投資を持ちかける手口だ。

 コイツの不思議な所は 口が達者でな。

 誰もがコイツに騙されるんだ。」

「で、そんなにアーサーの事を知っているんだ?」

「私も騙されたからな…それで徹底的に調べた。」

「あ~」

「その貿易会社は?」

「ドーバーとカレー、後は アメリカに支店があるって言われているクラウド商会…。」

「ここで その名前が出るか…」

「知っているのか?」

「ああ…ウチの会社だ。

 こりゃ徹底的に やらないとだな。

 場所の手掛かりは あるか?」

「ワルシャワか、ポズナン。

 基本、大きな町を周って狙って行く…」

「ありがと…連絡が着く様に 名前と連絡場所を教えてくれ」

 オレはメモ用紙を渡して名前と自宅の住所を教えて貰う。

「助かった。

 はい、これチップ…」

「こんなにか…助かる」


「ようやく1人だな」

「ああ、ここら辺を中心に調べよう…後 何人かは、被害者がいるかもしれない。

 とは言え、まさか医者ですら無くて詐欺師だったとはな。」

「全部、話術のテクニックで切り抜けていたって事か?

 そんな無茶苦茶な…。」

「取り合えず、とっ掴まえて見ない事には 分からないかな。」


 その後 オレ達は、ワルシャワ、ポズナンに行き、情報を集めて、彼がベルリンの近くにいる事が 分かった。

 今まで入って来た情報から見ても、間違い 無いだろう。


 そして、ベルリンの酒場…。

「クソーまた負けたぁ」

「まだ賭けても良いですが?」

「まだまだ 次は確実に勝つ」

 テーブル席では2人の青年が賭けトランプを行っている。

 1人はビールジョッキの酒を飲みながらプレイしている屈強な大男で、もう1人はメガネを掛けているシラフの男だ。

 顔の骨格から見て、メガネの男がクーニーだろう。

「あー負けました」

 青年が 少し わざと らしく 悔しそうにする。

「よしっ」

「もう1回」

 オレは テーブルの横からゲームを覗く。

 ゲームは ポーカーだろう…。

 大男に適度に勝たせてゲーム数を上げて行き、トータルでは クーニーは、少額の利益を出している。

 が、その後 一気に勝率を上げて行き、大男は クーニーに勝たせて貰った感覚を忘れられず、『次は勝つ』と根拠のない理由に取り付かれて負け続ける。

 結果、男の財布の中身を空っぽにした。

「うん…良い腕だ。」

「なっなっな…ふざけるな!イカサマだ。

 これは何かのイカサマだ。」

「イカサマなんてしてませんよ。

 実際に勝ててたでしょう?

 それに何処(どこ)がイカサマだと?」

「うるさい」

 テーブルを蹴り飛ばし、腰のホルスターからリボルバーを抜いて クーニーに向ける。

「なっ!!」

 周りの客の視線が2人集まり、オレは すぐさまお守り(アミュレット)リボルバーを抜いて トリガーを引く。

 放たれたゴム弾が 男が手に持っていたリボルバーを弾き飛ばし、床に落ちる。

「オレは途中から見ていたが、2人共 不正はしていなかった。

 この賭けは 正当だ。」

「何を…このチビがああっ」

 酒が入っている大男は 激昂してオレの顔面を思いっきり 殴りかかって来るが、オレは首をひねり回避…。

 ヤケになって次々と繰り出してくるパンチを回避したり、受け流したりしつつ オレは下がり、出入り口を通って酒場の外へ大男を誘導する。

「何で当たらないんだ。」

「動きが直線過ぎるんだよ。

 だから…」

 オレは大男の斜め横にズレて足を掛け、(つまず)いてバランスを崩した大男の背中をヒジでトンと押すと大男は 顔面から地面にダイブした。

「うぐっ…」

「こうなる訳…」

 オレはリボルバーのシリンダーを外して回して、殺傷弾に切り返え、シリンダを入れて、大男の頭に向ける。

「さあ、逃げな…このまま、オレに殺されるのがお望みか?」

「っ!…クソォ…」

 酔いが()めた大男は逃げる。

「はい…お利口さん。

 すまんね…マスター」

「まぁ…ウチの店には ならず者が集まるからな。」

 マスターが 構えていた ポンプ アクションショットガンを降ろす。

 良く見ると ショットガンでは無く、西部開拓時代で大活躍した名銃…になる予定の ウィンチェスターライフルだ。

 使っている弾は マスケット銃の様なパチンコ玉では無く、オレ達と同じで銃弾の背中を叩いて 火花を発生させ、火薬に引火させる方式になっている。

 大男が落としたリボルバーも、黒色火薬の薬莢式だ。

 黒色火薬のままだが、弾の形状が変わった為 威力が上がり、飛距離や命中力も各段に上がっており、技術的格差は 確実に縮まっている。

 ハルミは蹴とばされたテーブルを元の位置に直し、ひっくり返った クーニーを引っ張り上げる。

「大丈夫か?

 まったく勝ち過ぎだ。

 有り金 全部賭けさせる事は ないだろうに…。」

「負け越しが明らかになっているのに、損切りをしない向こうが悪いんです。

 私もここまでやるとは思っていませんでしたから…。

 あっ…私は アーサー・クーニーです。

 助けて貰ってありがとうございます。」

「ハルミ・サカタだ。

 あっちの酔っ払いを追っ払ったのがナオ…。

 さて、ちょっと話を聞きたい…マスター…個室は空いているか?」

「商談か?」

「まぁ…短時間で終わる。」

「ほら、階段を上がって右の部屋だ。」

「どーも」

 ハルミはクーニーと引っ張る様にして 一緒に階段を上がる。

「済まないね…これ、迷惑料…それじゃあ」

 オレは金を置いて階段を上がって行った。

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