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07 (小さな巨人)〇

 あれから3年…。

 筋肉アシスト付きのパイロットスーツは見事に普及して 正式にトニー王国軍の制服となり、SDLは パイロットスーツを着る前提で 再設計され、装甲を強化する方面に進んで行った。

 まだまだ 土木作業をするには 出力が足りないが、数機を使って 一緒に持ち上げる事で対処している。

 これで 歩兵に対しては十分に戦える様になったのだが、問題は 対戦車兵器であるDLだ。

 ドレイクが提案したのは、歩行パターンの徹底解析…。

 トニー王国人、1万人の歩行パターンの映像データを取り、ニューロコンピューターに それを学習させ、コンピューター内の仮想空間 内で、24機を並列して ひたすら歩かせて学習させる。

 これには 強力なサーバーが大量に必要になり、この国のインターネットを運営している各街の役所に設置されているコンピューターの一部の処理能力を運用に支障が出ない範囲で借りる事となった。

 その頃には、人型兵器の魅力に取りつかれた ネットユーザーを中心に情報交換やアイデアが大量に生まれ、ファンアートやゲームが生まれたりと、国民全体を巻き込んでコンテンツとして広がって行った。


 そして、その需要は 新しいDLのテストパイロットを生み出し、この難関を乗り越える為に12機による1ヵ月にも及ぶ、地獄の歩行実験が行われた。


 職業訓練校の校庭…。

 12機のDLが運ばれ、匍匐(ほふく)前進の状態で身体を引きずりながら グランドを何度も周って行く。

 現地の情報を取得して 匍匐(ほふく)前進のモーションをリアルタイムで最適化し、各DLに共有情報として情報を送り、それを瞬時に機体の制御に反映…制御プログラムが学習を繰り返して行く。

 そして、学習過程で 機体の装甲が削れに削れ、1時間程でバッテリーの交換と装甲の取り換えなどの補給作業を行っている。

 それが 12機なのだから、整備班は本当に忙しく、早くも装甲の取り換えや四肢の簡単な取り外しを出来る様にしたい などの改善点が上がって来ている。


 校内の教室を一部屋 借りた開発班は、リアルタイムで送られて来る実験データや要望から、次世代機の機体の細かな構造変更を ブラウン管のパソコンを操作しながら図面レベルで話し合っている。


 最初の1週間は 匍匐(ほふく)前進とハイハイを繰り返して、スムーズに進める様になった所で、2週間目は 歩行器を使った歩行練習。

 これだと 装甲は削れないが、今度は 各関節や脚への負担が問題になり、脚の骨折による転倒など、事故が増え始めた。

 意外だったのは、人工筋肉には 大した損傷は無く、普通に使えたと言う事…。

 関節部分は 設計段階から見直しが入り、急遽(きゅうきょ)作った 新型の関節のテストを行って、摩耗具合を調べたりと言ったテストが頻繁に行われ、その都度…システム側は 歩行パターンの最適化をして行き、これも1週間で終わった。


 3週間目には 手を前に出して、バランスを取ったゾンビ歩き、手を動かしてバランスを取りながら進む通常歩行を繰り返し、そして…4週間目には 軽く走る事も出来る様になった。

「おおっ…」

 学校の生徒が拍手を繰り返す。

 馬鹿にならない整備費用を掛けたゴリ押しだったが、実用レベルで移動が出来る様になり、DLの開発は また1歩進んだ。

 次の実験機は、ガラス張りのキャノピーを廃止して、装甲を取り付け、後は 頭などのセンサー類を取り付けて、コックピットに映像や音を投影する機構になる。

 後は、重火器である 20mm機関砲とグレネードランチャーを装備させ、戦車に対抗 出来る様にする。

 その他、複雑化した機体の構造が単純化し、各パーツの接続(ジョイント)部分を変更する事で、整備時間の短縮と整備師の負担を大幅に減らす…もちろんコストもだ。


 そして…ドレイクが14歳になった頃…。

 クラウドが乗るDLが立ち上がり、DLサイズに大型化したF-2000とライオットシールドを手に取って、縦横無尽なコースを走り出す。

 DLが走る速度は 時速40kmと 車両に比べて遅いが、DLの最大の特徴は、瞬発力が非常に高い事だ。

 胸部分にある装甲の厚く重量があるコックピットブロックが DLの重心位置を上に()げ、非常に倒れやすい構造になっており、それを姿勢制御システムで、無理やり倒れない様に維持している。

 こうする事で、敵からの攻撃を察知した場合、機体を少し傾けて 地面を思いっきり蹴る事で、一瞬で機体の方向転換が出来、回避行動が素早く取れる。

 これが車両だと、直線での速度は 速くても 方向転換に時間が掛かる為、警告を受けたとしても 実質避けられず、当たってしまう。

 後は もしも回避が出来なくても、敵の攻撃に対して盾で受け止める事で、砲弾や対戦車ミサイルをコックピットブロックの手前の盾で爆発させる事が出来、威力を大幅に減衰させる事が出来る。

 まぁ盾を持ってる腕は 吹っ飛ぶので 実質、戦闘不能になるだろうが、少なくともコックピット内のパイロットは生き残れる…そんな仕様だ。

(つい)に完成しました。」

 ドレイクは涙を浮かべながら言う。

「おめでとう…長かったな」

 とは言え、この規模の研究だと 投入予算の関係で 普通に2~30年は時間が掛かるから、早いと言えば 早いのだが…。

 クラウドが乗るDLは、折り畳まれた状態のコンテナハウスを組み立てており、人が折り畳みコンテナ(オリコン)を組み立てるのと同じ要領で組み立てているので、家1件に対して 建築時間が1分程度しか掛からない。

 銃を持たせれば 警備も出来ので、前線で拠点を築く時には 非常に役に立ってくれるだろう。

 まぁDLの真価は、これだけでは 済まないのだが…。


「この分だと、生産と戦術の組み立てで 運用まで50年位は掛るかな~」

 外国からの外圧に(さら)されていない この国は、身の危険や生活不安が無いので、技術的な進化が少なく、停滞し易い。

 もっと生活がラクになると分かっていても、個人では 研究、開発する努力を惜しんでしまうからだ。

 だから オレ達 神が、技術者のモチベーションを上げたり、ドレイクみたいな一見 無茶な事を言っている変人に協力したりしている訳だ。

「しばらくは退屈な日々が続きそうだ。」

 ここは平和で争いが無いが、それ故に退屈だ。

 それは オレが強者で、高所得者だから言える事なんだろうが…。

 オレは そんな事を思いつつ、まだ最適化されていないDLを見つめた。

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