06 (二足歩行の壁)〇
高齢者施設
「あら…ナオですか…珍しい」
オレを出迎えたのは SDLを着こんだ 中年になったフィリアだ。
「1年位 会って無かったか…今回は 現場の視察だ。
あのSDLは 如何なっている?」
「ええ…私達の仕事って、思いの外 力仕事が多いので、かなりラクになっていますよ。」
フィリアが個室に向かい、ベッドに座る老人を軽々と持ち上げて車椅子に乗せる。
「うん問題 無さそうだな。」
「ええ…後は 大きさや 見た目が如何にか なれば良いのですが…。」
「大きさは分かるが、見た目か…」
「多分、慣れていないから なのでしょうが…多少 見た目が怖い見たいで…」
確かに ドレイクが ロボットを作るのが目的の為、装甲を取り付けた カッコイイ デザインに なっているのだが、介護のデザインとしては不評か…。
「そっか…要望を書類に まとめて出してくれ、ドレイクに送っておく」
「分かりました。
それで…ドレイクは 如何して いますか?」
次の個室に行って また車椅子に乗せる。
オレ達は2台の車椅子を押してリビングまで押して行く。
「変わりないよ…会ってくれば良いのに…。」
「あの子…如何も私を母親と見てくれなくて…。」
「まぁ保育院で フィリアが育てた記憶は無いだろうしな。」
ドレイクは フィリアの第2児になるのだが、子供の頃から色々な大人に育てられる都合上、両親と言う価値観を持ちにくい。
更に言うなら、ドレイクは 発達障害持ちだ。
自分の欲求に正直で 一切の妥協が無く、こう言った やからは 周りとトラブルを起こして孤立するのだが、ドレイクの場合、金と言う利益を周りに与えて 巻き込んで 自分の思い通りにする傾向にある。
彼の場合、全部プラスに働く様に壊れたと言う事だろう…そう言った人は 世間では 発達障害とは呼ばれず、彼を天才と呼ぶ。
やっぱり 遺伝より、環境を整える方が天才は生まれやすいか…。
「そう言えば ナオは SDLのプロジェクトに参加するのですか?」
「いや…基本は 見ているだけで、手を出す気は無いよ。
資金や開発何かのアドバイスは するけどな。」
「ナオは この技術の最適解を知っていますよね。
なら、ドレイクに教えてしまえば早いのに…」
「開発の仕方を開発するっても重要な研究なんだよ。
何より、まだまだ時間は たっぷりあるからな。」
「ナオ達と違って 私は 人生の半分を もう過ぎてしまっているのですが…。
せめて私が生きている間に 世の中がもっと快適に便利に なってくれれば良いのですがね」
「今の生活に不満があるなら、要望を出してみたら如何だ?それが需要になる。
それを作りたい奴が作って供給をして行けば、更に国が発展して行く。
正直 オレは、コンピューターにネットにバギーが使える 今の生活が あれば快適だからな。」
「う~ん考えて見ます。」
「それじゃあ、オレは 仕事に戻るぞ。
そろそろ ガキ共が学校から帰って来る時間だ。」
「分かりました。
それでは 私も仕事に戻ります。」
フィリアは そう言うと、今度は大きな荷物を抱えて倉庫に向かって行った。
港の街…トニー王国 海軍基地。
トニー王国海軍が試験購入したSDL 6機は、主に重い荷物運びに使われ、オレが持って来た バギーの荷台から、訓練用の重い弾薬箱を次々と降ろしている。
他には、折り畳まれたコンテナハウスの組み立ても やっており、これも 人力より各段に設置が早くなっている。
射撃場では 重くて人には 扱えなかったドラムの為の高性能銃…F-2000をSDLが軽々と持って 撃っているが、人工筋肉の指の反応に若干の問題があり、上手く撃てない。
ここは改善点になるだろうな。
数日後の放課後、保育院。
皆が外で元気 良く遊んでいる中、ドライク1人が リビングのテーブルにSDLの試験運用をしている各会社からの改良要望の書類を広げている。
「おお やっているな。
結果は如何だった?」
「大きく別れましたね…これです。」
オレは要望をまとめた書類を受け取る。
「ほう…大型化と小型化か…」
軍からの要望だと 荷物運びの用途としては問題無いが、重機としては力不足…。
両手で最低1トンを持ち上げられる性能が欲しいとの事で大型化を希望。
対して介護などの一般仕様の場合、横幅の問題で、たまに個室のドアに接触する問題が上がって来ている。
それと 350㎏もの重量を持ち上げる必要が無い為、装甲や人工筋肉の量を減らして 100㎏位を軽く持ち上げられる位にし、小型化、軽量化をして見てはと要望が上がっている。
軍側が 後に4.5mのサイズになる人型機動兵器…DLの系譜…。
一般側が これから パイロットスーツに発展して行く。
「その反応だと正解みたいですね。」
「ははは…まぁね」
答えを隠している オレの反応を見て、ドレイクは 自分が正解を選択していると確信する。
ドレイクは 時々、正解を知っている オレの反応を見て方針を決めている様な気がする。
まぁオレは 分かり易く顔に出るらしいからな。
そして、ドレイクが10歳になって保育院を卒業し、職場の付近に建っているコンテナハウスを借りて住みだした頃…。
「ふう…これで完成ですかね。」
数人のスタッフがいる中、ドレイクがテストをしている下着姿のクラウドの方を向いて言う。
クラウドは 下着の上から筋肉アシスト機能が組み込まれたパイロットスーツを手慣れた様子で着ている。
「まだ動きに少し違和感があるが、性能面では問題無いな。」
軽く準備体操をしながらクラウドが言う。
結局、指の精密作業を阻害するので手には 筋力アシストは 搭載しない事に決定し、100㎏を軽々と持ち上げられる位まで性能を落とした。
ただ その分、バッテリーの消費が抑えられ、重量が減った事で、一番負担が掛かる人工背骨をより丈夫にする事が出来た。
後は細かな制御プログラムの補整はあるだろうが、製品としては 十分完成だろう。
「ただ…本命の大型機…DLはダメですね。」
ドレイクが少し離れた所に足を抱えて座っている人工筋肉が剥き出しの4.5mの巨人…DLを見る。
彼の最終目的であるDLの開発は 非常に難航していた。
パイロットスーツを着たクラウドが、DLサイズの歩行器を引っ張って来て、頭が無く、コックピットブロックの前方が強化ガラスになっている機体を立ち上がせる。
『おっと…』
だが、すぐにバランスを崩して倒れかけ、歩行器にしがみ付く形になる。
「ニューロ型の学習の限界ですかね。」
クラウドの動きを見てドレイクが言う。
「重心位置がヒトより高いからな。
高いって事は それだけ転倒し易いって事…。
安定を得る為には、足をぶっ太くすれば良いんだけど、それじゃあ二足歩行の長所が失わる。
もう少し 処理能力が高いコンピューターを積んで、地道に学習して行くしかないかな。」
とは言え、歩行器がありで遅いが、4.5mの機体を歩かせる所までは 行けた。
これを造る為に新型の人工筋肉やバッテリーが必要だった事もあって 企業側には いくつかの技術革新が起きており、それに つられる形で 民生品の性能も一段階上がっている。
ここでDLの計画が失敗したとしても、既に元は取れている。
「人の歩行モーションだと 意図的にバランスを崩して、腰や腕を動かしてす事でバランスを調節をしているって事は 分かっているのですが…。」
「まぁ中間報告としては、これで十分だろう。
この問題を如何やって解決する気だ?」
「そうですね…とにかく、歩行パターンのデータを集めるのが先決かと…」
ドレイクはそう答えた。