04 (不可能を可能にする男の子)〇
トニー王国内で 産まれた子供は 国の財産とされ、法律上の親はトニー王国となる。
その為、書類上では 国民全員が、父親、母親の名前が不明の孤児だ。
そもそも この国は 恋人が複数いるのが当たり前だし、結婚の制度はあるが、名前を登録するだけであり、法的には何のメリットもデメリットも無く、例え 離婚しようが 慰謝料も発生せず、浮気もやりたい放題だ。
この為、親から子への財産の相続が出来ず、子供が産まれた家の資産で人生が決まる『親ガチャ』を防止する事で、高所得者と低所得者に 二分される 所得格差を抑える事が出来る。
そして、産まれた子供は 専門の資格を持った保育士達が しっかりと育て、子供が興味を持った事に対しては、何でも 大金を投資して やらせて見せる。
例え 子供が飽きて 興味を失ったとしても、色々な事を学んだ 経験が 他の分野で生きて来る 可能性も十分にある。
しかも、子供の教育と言う需要に対して 国がバンバン金を使い、その金が 習い事や 娯楽に使われば、その会社の利益となって 国の経済が回って行く。
実際 国民の人口が1万人も行かない この国で、生活保障金や教育費などの社会保障費の為に 国が通貨発行して生み出した借金は、年間予算の10倍を超えてしまい、財政破綻論者なら発狂しそうな 額になっている。
が、実際の経済では 若干の好景気を維持し続けていて、全く破綻の傾向が無い。
まぁこの国は、銀行と政府が一体化している政府銀行なので、政府側の借金が増えたとしても、銀行側が『借金を免除する』と言って借用証書を破棄して貰えば、いくらでも金を生み出せるので破綻する心配がない。
アトランティス街…保育院…朝。
「何と言うか…ナオが保育士の資格を取るとはな~」
これから80年位 暇になるので、ハルミの勧めで取った資格だったが…最近のハルミは、やけに オレに子供の面倒を見せたがるな。
子供部屋のドアを開けて中に入る。
部屋の中にテーブルとカーテン付きの2段ベッドが左右に設置されていて、4人全員が カーテンを閉めて寝ている。
「はいはい…起きろ、起きろ」
オレは 手を叩きつつ、子供達を起こす。
「ふぁあい起きた」
カーテンを開けてベッドの2階から5才位の男の子が降りて来る…が、寝ぼけていたのか階段から足を踏み外し、オレが咄嗟に受け止める。
「あぶな」
「起きる~」
次は 女の子だ。
「はいはい…着替えたら、さっさと流しに行くぞ」
「わかった」
子供達は クローゼットを空けて、それぞれの服に着替えて部屋から出て行く。
オレは 次の子供部屋に行き、また子供達を起こして行く。
子供達は 横長の流しで並び、眠たそうに 朝食前の歯磨きを始める。
ここでは 朝と晩の2回 決まった時間に歯磨きを行い、歯垢がある場所を赤く染める歯垢染色液も使って、徹底的に歯磨きを習慣化している…ちなみに歯磨き後の食事は普通にアリだ。
子供の頃の習慣は 大人に なってからも 引きずる事になるし、ここでの歯磨き教育は 部分麻酔がまだ無く、歯科医の難易度が高くなってしまっている歯科への通院数を減らす事が出来、30…40になった時の生き残っている歯の本数に大きく影響して来る。
30人程の子供達が 歯磨きを終えて 食堂に集まって来ると、保育士のクオリアが鍋で湯を沸かし始める。
ここ25年 別居状態だったからな…これから80年程 一緒に生活する事となる。
キッチンの上には ソイフードで再現されたポレンタのパン、目玉焼き、ベーコン、サラダが並んでいて、それらがフリーズドライされた状態で ガラス繊維の袋に真空包装されている。
それを子供達は それらを 重なっている珪素鋼の銀色のプレートを取り出して 盛り付け、後は 保育士が沸かしている湯を貰って元に戻すだけだ。
今は どの家庭でも趣味以外で自炊する事が無くなり、フリーズドライ食品に お湯を入れて調理が終了する食生活になっている。
この国の主食は、イネ科のトウモロコシ、小麦、米では無く、ミドリムシを加工して作ったコーンミールだ。
まぁ一番 手間が掛からず、大量に収獲が出来て、栄養価が高いと言う主食になる条件を満たしているんだが、米やパン、麺を食べているオレからすると少し意外だった。
これが この国の食文化なのだろうか?
しばらくして 銀色のプレートのせいで ディストピア飯に見えてしまう朝食が 各テーブルの上に並ぶ。
「「いただきます」」
子供達は 先割れスプーンを使って食事をし始めた。
トニー王国の食べ物は ミドリムシに 味や食感を付けて加工したソイフードがメインの為、産まれた時から食べ続けていれば、栄養の偏りによる病気の確率を極限まで減らせる。
これで 高齢になった時の健康寿命を向上させる事に繋がる訳だ。
やっぱり、子供は親に任せるのでは無く、一括で 国が教育をした方が良いな。
さて、トニー王国の学校は 初等学校と職業訓練校の2種類がある。
子供達が通うのは 初等学校で、語学や数学、経済学など、生活する上で必要な知識を身に着けさせ、学習能力にもよるが、大体10才から職業訓練校に行き、各会社から派遣される人材育成の為の先生の授業を受けて テストに合格すれば、その会社に入社する為の資格が得られる。
その後は、面接やら雇用条件の交渉をして働くのが一般的だ。
まぁ現在 労働人口の半数がニートか低所得者なので、趣味や交流の為のクラブ活動もあり、年齢 性別 種族関係無く、さまざまな人が参加している。
で、オレは 子供達が学校に帰って来るまでに 子供部屋以外の施設の掃除を行い、帰って来た子供達の遊び相手になったり、子供達が怪我をしない様に見守っていたりと言った感じになっている。
基本 年上の子が、年下の子を支えるシステムが もう出来ているので、30人もの子供を見ている訳だが、そこまで苦にならない。
まぁ時々、突拍子もない事をやらかすのだが、それは それで面白い。
「絶対に作れるんだ」
「バカだな…作れる訳ないだろう」
「いや絶対に作れる~」
「おいおい…ケンカか?
何が作れるって?」
「あ~ナオ…これ…」
仲裁に入ろうとしたオレに 小さな男の子…ドレイクが、画用紙に描いた 人型の巨人の絵を見せて来る。
「コイツ…人が乗って動かせる巨人を作りたいんだってさ…絶対に無理だろ。
ムービーに出て来るロボットは 全部 着ぐるみだし…」
「いや出来る。
だってファントムが あるもん」
「あれは、神様が作った物であってだな。」
「まぁ『出来ない』『無理だ』って決めつけるのは簡単だ。
が、無理を可能にするのも また科学だ。
如何やれば 作れるのか…真剣に考えてみるのも また面白い。」
オレが言う。
「そうそう…。
で、これを見て…お腹にバッテリを入れて、筋肉は ドラムやナオ達が使っている人工筋肉を大きくした物。
人工筋肉の量が大きくなれば、力も増える。
昨日、クラブのお兄さんに計算を頼んだ。」
「アンタ 行動力があるな~」
まだまだ 落書きの範囲で、図面では無いが、巨人にシャベルを持たせて穴を掘らせたり、銃を持たせて戦わせると言うコンセプトは、人型機動兵器の基本コンセプトだ。
やっぱり 子供の発想力は優秀だな。
「そうだな…まずは、巨人を作る為に必要な技術は 何かを調べて、難易度が簡単な物から作っていく。
例え 巨人が作れずに失敗したとしても、その過程で得た技術は 別の所で役立つかもしれないから…」
「うん、わかった」
オレの言葉にドレイクはそう答えた。
数日後…。
「ナオ~これ」
「おっ…計算結果が出たか…ふむ」
オレは ドレイクから書類を受け取る。
二足歩行は脚に全体重が掛かり 負担が増えるので、18mとかにすると 両足が骨折…。
仮に耐えられる素材で作ったとしても 今度は地面が耐えられず、地面が陥没してしまう。
この条件を元に実用に耐えられる人型の巨人を作るとした場合、身長5m以下…体重が5t以下となる。
その他に 人工筋肉の量と それに掛かる電力…積むバッテリーの重量に稼働時間など概算だと思うが、良い所を攻めている。
「おお…良い線行っている。
本当に これをやるんだったら、学校でクラブを作って興味がある人材を集めて、事業計画書を作っちまった方が良いな。
ちゃんと計画を書けていれば、Cクラスの研究予算は普通に出るだろうし…」
「多分、金が足りない」
「だろうな…。
ただ 人工筋肉を特注で作らせる位の金は これで確保出来るから、それで何か簡単な物を作って まずは実績を作る。
そうすれば Bクラスに昇格出来るから、そこから 目的のロボットを作っていく事になるかな。」
「うん簡単な物からね…分かった。」
「とは言っても、5才児がやるには 荷が…って行っちまったよ。」
「ドレイクは 周りの事を考えないで 巻き込むタイプだな。」
計算結果の書類を見ながらクオリアがオレに言う。
「話が会う相手が見つかれば、良い人材だと思うんだがな。」
オレは子供部屋に行ったドレイクを見て そう言うのだった。