01 (少子化対策)〇
1785年…春。
死の海域の中の国、トニー王国、アトランティス街…その役所。
トニー王国は 各街に 都市長と 呼ばれる貴族がいて、その都市長に領地内の全権限が与えられる。
その為、領地内の国民に その決定を覆す権限は 基本的に無い 封建制の社会だ。
だったら、都市長が領地を好き勝手やって良いかと言えば そうでも無く、圧政を続けた場合、民衆が銃を持って役所に突入して来て 都市長の頭に銃を突きつけた 交渉が始まってしまうので、民意が非常に重要になって来る。
なので、多数決で決まるのでは無く、問題に対しての討論を行い、それを都市長が聞いて 方針を決める為に定期的に議会が開かれている。
その議会に呼ばれたのが、ナオとジガだ。
トニー王国の基本の法律は オレが作ったが、システムが動き始めてからは トニー王国 国民が主体で国を運用させ、最高権限を持つ オレ達 神は、緊急時以外 助言程度に抑えて権限を行使しない様にしている。
つまり、オレ達 2人を呼んだと言う事は、かなり重要な案件になる。
会議室には 12人の議員がおり、一番奥には 議員の話を聞いている都市長がいる。
「少子化か」
「ええ…女性の生涯出産数が、この10年前は6人だった所が、おおよそ4.5人まで落ちています。」
「は?それでも十分に増えているじゃないか?」
オレが都市長に言う、
「ですが、1939年までに 人口20万人以上、それに 2万人の規模の軍を作らないと行けません。
このままでは 目標の達成が困難になります。」
「あ~とは言え、移民は 入れているだろう」
今は収まったが、アメリカが独立する まで 結構な頻度で難破船や領海侵犯を行う船がいたので、乗員を移民させて 船は爆破して海底に沈めている。
「ええ…確かに…ですが、船に乗っている 水夫は男です。
元々、この島の女性達は アトランティス村にいた女性と、奴隷船で運ばれてきた 性奴隷の子孫になります。
なので、女性の人口が圧倒的に少ないのです。
恐らく、男の移民を いくら入れた所で、大半は 子を残せずに一生を終えるでしょうね。」
「あ~男女比率の問題か…。
と言う事は、この世代が寿命で死んだ場合、人口が激減する事になるのか…1939年まで持つ訳ないしなー」
考えて見れば 当然の事だが、男女比率まで考えていなかった。
「そうなります。
これを解決する方法は 現在2つ…。
1つ目は、生涯出産数を6以上にする事…。
2つ目は、女性の移民を入れて子供を産ませる事です。
まずは、1つ目 から行きましょう…。
トニー王国の法律を作ったナオには 何か解決策はありますか?」
「悪いが思い当たらないな。
オレは 少子化対策も織り込んでトニー王国の法律を作ったから…」
「と言いますと?」
「少子化は 文明が成長すると必ず起きる現象で、主な原因は コスパとタイパだ。」
「コストパフォーマンスとタイムパフォーマンスですか?」
都市長が考える素振りをする…が、多分、理解出来ていないな。
「そ、文明が成長すれば するほど 専門性が進んで、産んだ子供を真面な仕事に就かせる為に掛かるコストが上がって来る。
大体 1人を育てるのに 3000万は吹っ飛ぶな。
2人で6000万、3人で9000万…。
つまり、親の稼いでいる額が少なければ 少ない程、出生数が下がっちまうんだ。」
「ですが、この国の子供も その位の金額は普通に掛かっていますよね」
「あ~この文化が普通過ぎて 知らないのか…。
本来なら両親 2人の収入だけで、子供を育てるのが普通なんだ。」
「確かに それだとキツイですね…。
子供を産めば産むほど 生活が出来なくなってしまいます。」
「そ、で、タイパの方は、女性が働いて忙しくなると、出産、育児までの時間が捻出 出来無くなって、子供を産めなくなる。
女性の労働が一般化すると起きる現象だな。
さて、この問題に対してトニー王国は如何やって対処している?」
オレは 都市長が 話に付いて来れているか?を試すか の様に言う。
「それは…産まれた子供は 国の資産として国が全額負担し、専門の教育を受けた保育士が 生まれた子供を一括で育てているからです。」
「そう言う事…。
母親は 子供の将来の事を気にせず、軽い気持ちでヤッて子供を産んで、子供を育てる育児も 保育士として ちゃんと金が出る様にしている。
しかも、そこから教師や医者も目指せるから、収入だけなら 男より稼ぎやすくなっている。」
更に言うなら、結婚制度が無く、浮気が当たり前の乱交 文化なので、遺伝子の多様性を維持し易い。
これだけ やっても 少子化になると言う事は、オレが想定していない何かの要因が発生しているのだろう。
「コンテンツの縮小だな…。
ネットコンテンツの普及で、子作りより楽しい事が あふれているから…」
ジガが言う。
「子作りを娯楽扱いかよ」
「性風俗店なんて、まんま性の娯楽化だろ。
それに ネットが経済の主体になった事で、リアルでの接触が減っているんだ。
だから 効果的なのは、大量の男女が安価に飲食が出来て、子作りも含めた娯楽を楽しめる場所。」
「カップルで来るんじゃなくて、もっとオープンなラブホか?」
「そう言う事…倫理的、心情的には 色々と問題があるんだろうけど、そうでもしないと これ以上の出生数は 望めない。」
「確かに この方法だと 人権が成熟している国では 難しいしな。」
「分かりました。
細かい所を詰め直したら、風俗関連の会社に相談をしてみましょう。
それでは、2つ目の女性の移民を入れて子供を産ませる案ですが…これはジガの案です。
それではジガ…」
「ああ…現状だと水夫は 行方不明の事故で片付くが、女性だと こちらの存在を知られずに 穏便に連れて来る事が出来ない。
やるとすると拉致、誘拐などで失踪させて 行方不明にする位だな」
「流石に女が大量に行方不明になったら、その土地の領主が警戒するだろう。」
「そう、なので、女性では無く 女児にする事にした。
これを見てくれ…イギリスの産業革命が始まった事で、農民達は金を稼ぐ為に ロンドンに工場に出稼ぎに行っている。
その為、農村部の人口が全体の3割、ロンドン付近に人口の7割が集まっている。
この為、農村部では 慢性的な人手不足、食料不足だ。」
「なんで農家が食料不足になるんだ?」
「毎年、決まった作物の量を領主や教会に送らないと いけないからだ。
で、農民は 最低限の食料だけを残して売るしか無く、働き手に出来ない女が産まれると、教会に預けたり、金持ちに売ったりしている。」
「口減らしか…」
「そうなるな。
で、ここで 引き取られた彼女達…修道女は育てられて、将来、無給か薄給で、教会系列の娼館で働く事になる。
で、娼館で産まれた子供は 教会に送られて、女は娼館、男は売られて 奴隷か奴隷に近い仕事をさせられる。」
「まるで家畜だな」
「実際、家畜の方が待遇が良いかもしれない。
で、引き取るのは この修道女達になる。
条件は 生涯で6人の子供を産んで貰うだけ。
相手も自由に選べるし、割と好条件だろ。」
「それで、その修道女は 本当に買えるのか?
将来金を稼ぐ事になる人材だろ」
「普通なら 大人にならないと身体が売れないから 売れる様になる年まで、修道女を育てないといけなくなる からそれなりの経費が掛かる。
だから、育てる経費が掛からないで売れるなら それなりに安くなる。
商館で産まれた赤ん坊が、狙い目だな。」
「はぁ…オレ達と教会…やっている事は 同じなんだよな。」
「まっ待遇 面では雲泥の差だ。
で、許可が出次第、ウチらは仲介を開始する。
ブライトン支店は まだ営業しているしな。」
「年間12名を目途に お願いします。
後、買取金額と相場のリストを送ってください」
「分かった。
それで、少子化の相談は 以上か?」
「ええ…お2人ともありがとうございました。」
「いえいえ…」
「それじゃあ、次の議題に取り組みましょう…次は…」
オレ達の役割は終わり、大人しく席に座り、議員達の会議が始まる。
眠っている人も、ヤジを飛ばす人もおらず、論点ずらしなどの詭弁論法も使わず、感情的にならず、基本的に数字をベースに話しており、非常に論理的で良い会議で、ちゃんと行政が機能している事が分かる。
本当に良い国なった物だ。
オレは そんな事を思いながら会議の内容を聞いていた。