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28 (瞬きもせず)〇

 1783年…この年の冬前…。

 フランス側が間接的に『リバティ通貨に金の担保が無く、金庫に保管してあるのは、ただの金メッキを施した鉄のインゴット』だと言うウワサが広まり、あちこちで リバティ通貨の価値は一気に暴落…。

 恐らく フランス側からの経済攻撃だろう。

 これにより 大陸通貨の価値は 暴落し、売り手と買い手が ちゃんといるのに、金が無いから取引きが成立しなく、国民が総貧困化する経済危機が始まった。

 クラウド商会も 食べ物を売れる状態だと言うのに、その購買者は 餓死し掛けているのにも関わらず、価値が暴落した大陸通貨では 食べ物を買えない…と思い込んでいる。

 今まで 皆、普通に使っていて、ちゃんと取引きが出来ていたと言う実績があると言うのに、フランスの情報を操作された住民の思い込みによって 大陸通貨での取引きが 次第に無くなり、実質の廃止に追い込まれた。

 これに変わって使われ始めたのが フランス通貨で、アメリカ市場へのフランス通貨の侵略が始まり、多分、これから米ドルが誕生するまで、通貨の独立が出来ない…フランスの経済属国となるだろう。

 しかも、経済に影響が出ない範囲で無制限に発行出来る 大陸通貨に対して、米ドルは 前時代的な金本位制で、暴落のリスクが少ないが、通貨の発行に大幅な制限を受ける事となる。

 何というか、誰もが得をする 新しい経済論が生まれたと言うのに、住民が感情的に それ受け入れず、誰もが不利益を得る選択を取ってしまう。

 そして この貨幣感は、これからも 永遠と引きずり、第二次世界大戦の引き金になってしまうのだが…。

 まぁこれが問題になるのは、まだまだ先 なんだろうがな。


 さて、年が明けた1784年 春…。

 クラウド商会、ケベック支店…。

「閉店?」

 マシューがナオ(オレ)とクラウドに言う。

「ああ…経営が難しくなって来た。

 アメリカも表向き、独立 出来たしな。

 オレ達も国に帰るつもりだ。」

「オレ達は?」

「悪いが、退職金として給料を半年分払う。

 それでクビだな。」

「そんな…オレ達は また盗賊をしないと行かないのか?」

 マシューの近くにいる 親子で、この商会を運営して来た従業員達が ざわつく。

 まだ赤ん坊だが 孫世代も生まれており、これからの生活は 過酷になって行くだろう。

「皆、ここを退職しても 真っ当な仕事に就けるように教育して来た つもりだ。

 何なら 退職金で移民権を買うなら、オレらの国に移民として連れて行く事も出来るが…」

「おおっ…」

 オレの言葉に何人かの小さな子供達が喜ぶ。

「いや…ここは オレ達が命を賭けて勝ち取った国だ。

 外国に帰れるナオには 科学技術が低い、単なる土地なんだろうが、オレは この土地を愛している。

 だから…オレ達の退職金で この商会を売ってくれ!」

「ほう…」

 マシューの言葉に クラウドが驚いた様に言う。

「売る事 自体は問題無い。

 ただ…潜水艦やバギーは 回収するから使えない。

 足が無くなれば、オマエ達は 馬車と帆船を新しく買って 営業して行く事になるぞ。」

「むむ…」

「なら、こちらで バギーを作れば良い」

 子供達の中から出て来た12歳の少年…マイクが言う。

 彼は オレ達の技術に興味を持ち、バギーの保守メンテナンスやリボルバーライフル何かの工業技術をオレ達から学んでいる。

 確かに彼なら 性能が幾分(いくぶん)か落ちるだろうが、動力機を作る事も可能だろう。

「食事と治療は私が…」

 次に出て来たのは マイクより少し身長が低い少女…パールだ。

 彼女は 食事と医療に興味があり、食事はオリビアが、医療は オレが教えた。

 先日の戦闘でも衛生兵として現場に出ており、既に実戦 経験済みだ。

「経営とコネは 私があります。

 ハンコック家の傘下に入れば…」

 そう言ったのは マシューの妻で、食事と今は 金勘定などの経理を任せているオリビアだ。

 彼女は ハンコックの子供になるので、ハンコックの力を借りる事が出来れば、商会の運営も可能だろう。

 ハンコックの寿命も近づいているだろうから、ハンコック海運の今後を考えても悪い選択ではない。

「なぁナオ達が育てて来たクラウド商会のオレ達 従業員を信用して貰えないか?」

「う~ん…ナオ?」

 クラウドがオレの方を向く。

「オレは良いが?

 こっちに伝手(つて)を維持 出来るのは良いし、何よりコイツらの選択だ。

 先生としては、自立をしても やっていけると思う。」

「分かった…店を売ろう。

 ハンコックとは 私が話を付ける。

 後ろ盾としても ハンコック家の名前が有った方が、良いだろう。」

「よし!」

「ただ、無理強(むりじ)いはダメだ。

 オレ達の国に行きたいヤツが いただろう。

 そいつらは 連れて行く。」

 オレがマシューに言う。

「分かった。」


 そこから1ヵ月程掛けて ハンコックに格安でクラウド商会を買い取って貰い、クラウド商会のアメリカ支部は 正式に子会社となった。

 ただ 経営権自体は マシューが握っており、オレ達の経営方針である 肌の色、性別に変わらず、白人男性と同じ給料を支払う体制は 維持され続けている。

 その他、物流では無く、技術者志望の子供達は、ハンコック家の製造専門の会社を立ち上げた事で、これからハンコック家は 流通だけでは無く、自前である程度 物を製造が出来る様になり、かつ その製造技術は ハンコック家によって守られる事となり、ハンコックが寿命で死ねば、オリビア経由でマシューに財産が移り、実質 ハンコック家を乗っ取ってしまう事になる。

 のだが、そうなっても良い様に、昔からハンコックの手で マシューもオリビアも鍛え上げられている。

 なので、結果的に双方 利益が得られる最良の結果に落ち付いた。


 そして、トニー王国に戻る日…。

 好奇心旺盛で、あまり この土地に対して未練が無い小学生位の子供達が潜水艦の上部から次々と中に入って来る。

 潜水艦の中は、ジガの注文で 買って来た さまざま写本が積み込まれており、これは 核戦争後に残る重要な歴史的資料となる。

「本当に行くのか?」

「ええ…多分、もう会えないと思うけど、私は、ナオの国を見て見たい」

「まぁ…オマエも良い歳だしな。

 分かった行ってこい。」

 そして最後に マシューに見送られる形で、今年で26歳になるフィリアが中に入る。

「そんじゃあ、次に ここに 来る時には 皆、寿命で死んでいると思うけど」

 全員が乗り込んだ所で、オレが皆に言う。

「ああ…そうだ。

 ナオ…不老不死の生活って実際、如何(どう)なんだ?」

 老化が気になり始めた マシューが オレに聞いて来る。

「持っているから こその悩みなんだろうけど、それなりにキツイな。

 いくら仲の良い友人でも、すぐに老けて 死んじまうんだからな。

 瞬きする位の一生だったけど、アンタ達との生活…それなりに楽しかったよ。

 じゃあ、時間と身体を大切にな~」

 そう言うとオレは 潜水艦のハッチを閉じて、潜航を始めた。

 次に アメリカに来るとしても 1860年以降の西部開拓時代。

 今が1783年だから…77年。

 赤ん坊ですら老衰する程の年月で、まして オレ達を記憶している人は まず いないだろう。

「良い奴だった。

 けど、私達は 同じ時を歩めないんだよな。」

 子供達とフィリアを引き入れて潜水艦の中を歩きながらクラウドが オレに言う。

「まぁそれが、不老不死の代償かな」

 オレは この一瞬を強く輝く 少女達の頭を撫でつつ、そう言うのだった。

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