27 (アメリカの誕生)〇
1783年…夏、草原の丘の上。
「いよいよですね。」
ナオの隣にいる 独立活動を始めてから大分老けた ハンコックが汗を拭きながら言う。
「ああ…これで終わりだ。」
丘の下では両軍の部隊が並んでいる。
赤服を着ている敵…イギリス側の数が3000。
こちらのアメリカ独立軍側は、補給部隊などの非戦闘員を除いて1000…。
民兵、フランス軍、傭兵、アメリカ先住民、餓死し掛けて所で食べ物で懐柔して裏切らせた元イギリス軍兵士、盗賊など所属も服装も多岐に渡る。
その後ろで料理を作っているのが、クラウド商会のコックをしているオリビア。
オリビアの隣で料理を配っているのが、その夫のマシュー。
その周りには 高校生位に なった少年達がいる。
「それにしても、キミも普段から来ている あの服…甲冑ですか?
何と前時代的な…銃弾の威力の前では 役に立ちませんよ」
ハンコックが単眼鏡で少年達を見て言う。
少年達は トニー王国製のヘルメット、パイロットスーツ、防弾チョッキを着ている。
ヘルメットは 炭素繊維を重ねて作られており、繊維の中には 衝撃を加えると瞬時に硬化する ダイラタンシー流体で来た耐弾ジェルが入っている耐弾ジェル装甲だ。
急所である胸を守っている防弾チョッキは、炭素繊維を12枚重ねただけの弾を貫通させない為だけの装甲。
その下のパイロットスーツは、耐弾ジェル装甲と、内側に 血液との接触で瞬時に固まる 合成ハイドロゲルをガラス繊維で挟みこんだ止血装甲が入れられている。
オレのパイロットスーツはホープ号製で、トニー王国では まだ試験段階で 人が着た状態で撃たれた事は無く、今回はトニー王国側の人体実験も兼ねているのだが、この時代の歩兵が着る甲冑としては 一番動きやすく、一番防御力が高い。
周りは 全員『銃弾には 装甲が無意味』と割り切って、動きやすい軽装をしているので、クラウド商会の部隊は 周りから異質に見える。
「まぁ子供の頃から面倒を見ている 彼らには 死んでほしくないしね。」
彼らの装備は、今はもう末端の部隊まで使い始めている フリントロック式、リボルバーライフル。
星条旗を持つ少年は この日の為にデザインされた 13の星が円状に描かれた新しい旗を掲げている。
他には 音楽が好きで、ラッパと太鼓で 部隊の統率を取りながら前進する少年が2名。
それと彼らの父親で クラウド商会の従業員が、機動力の高い私服で6名参加している。
こちらとしては、色々と手間と面倒を見て来た 子供達や従業員に 戦ってほしくはないのだが、オレは 外国人で部外者だ。
自分達の土地を侵略者から勝ち取ろうとしている 彼らの意思を否定する事は出来ない。
「私達も準備をしましょう」
コンテナを引いているバギーから降りて来たフィリアが言う。
扉が開けた荷台から 黒いポンチョで顔や体を覆ったドラム6体が 降りて来る。
手に持っているのは ブルパップ アサルトライフルのF-2000…ドラム用に最適化され、もはや人には 真面に扱えないレベルに なって来ている凶悪銃だ。
コンテナ後ろのから中に入って見ると、ガンガン冷房が効いた部屋にトニー王国海軍の全然筋肉が無い FPSゲーマーが6名いて、カラー表示されている ブラウン管型のレーザーディスプレイに キーボードとトラックボールマウスで入力する事で、ドラムに指示を出している。
「殺れるか?」
テーブルにお菓子やジュースを広げて摘まんでいる兵にオレが聞く。
「こちらは ロクに動かない 遠距離狙撃で、しかもオートエイム付き、難易度 very easy…YO-YOUですよ。」
これから『殺し』をやると言うのに兵士は 笑いながら言う。
「そっか…こちらでターゲットを指定するから、ソイツを撃ってくれ」
「了解」
オレは扉を閉めて外に出る。
周りが これだけ ピリピリしてると言うのに、コンテナ内では ゲームの予選大会に出る様な 真剣なのだけど 遊び半分な感じになっている。
まぁ…心的外傷後ストレス障害 的な事に悩まされない分、マシと言えばマシなのだが…。
オレが荷台から降りるとドラムが着ている黒いポンチョにクラウドがその辺の草木を張り付け、即席のギリースーツを作っている。
オレは双眼鏡で敵の陣地を覗く。
赤一色の3000の兵士は、旗持ち、演奏者、指揮官などを除き、全員がリボルバーライフルを携行している。
前の大規模戦闘では 大砲が使われていたが、火薬の不足か、向こうが不要だと判断したのか、配備されていない。
戦闘が起きるであろう中央の両端には 双方の部隊が共同で参加している医療部隊が配置されており、戦闘後は 双方区別なく助ける事と この戦闘だけの戦時協定が結ばれている。
そこには 当然、トニー王国から派遣されたハルミの部隊もおり、専門の野戦病院も築いている。
今回は 前の戦いとは違い、双方 毎分12発位撃てるリボルバーライフルを使う為、リロードタイミングを狙った戦法は 今では もう時代遅れになっている。
その為、今回は 弾数に物を言わせて 撃ちまくり、相手を すり潰す戦法が基本戦略だ。
なので、こちらは最前列には 荷台に大量の土を入れたリアカーを後ろ向きにした状態で配備してある。
戦闘が始まったら 荷台の土を盾にしながらリアカーを押して行く戦法だ。
そして、前の部隊が 敵を正面から抑えている隙に、後ろの部隊が両翼に広がって敵を包囲して攻撃する予定になっている。
今回のオレの役割は、双眼鏡で この部隊の中から ターゲットを見つけ出して マークする事になる。
双眼鏡の中央の照準を演奏者、指揮官に合わせて双眼鏡の横に付いているスイッチを押して行き、次々とドラムに送信…。
オレ達が殺す相手は 合計で32名…目標まで1kmの距離だ。
敵、味方の射程は 50mが限界の為、敵の指揮官は この丘の上にいる事は認識しているだろうが、ここから狙撃されるとは 夢にも思っていないだろう。
「はい、マーク終了…と…」
『勝敗は、戦う前に決まっている』と言ったのは孫氏の言葉だったか…。
今、この時点で敵の敗北が決まった…後は 実行に移すだけだ。
敵からの使者が送られ『戦う前に降伏しろ』と最後通告が掛かり、こちらの最高指揮官は 敵の要求を拒否し、両軍が戦闘準備に入り、立ち上がる。
しばらくして 敵の部隊から演奏が始まり、それに合わせる形で 味方側も リアカーを押して歩き始める。
敵も味方も足並みは揃っており、両軍の間が100m…50mを切っても まだ進み続ける。
25…20m…音楽が止まり、敵の足が止まった。
「構え!!」
民兵を率いて奇襲作戦を行い、補給部隊を次々に壊滅させて来た、ゲリラ戦のスペシャリスト…マリオン大尉が叫ぶ様に言う。
「構え!!」
敵も ほぼ同じタイミング。
「撃て!」「撃て!」
敵、味方、双方から音速を超えた銃弾が次々と飛び交い、次々と負傷者を出して行く。
ただ、土が積まれたリアカーを盾にしているお陰で、こちらの被弾面積が大幅に下がっており、負傷者の数は 相手に比べて少ない。
敵が6発撃ち、シリンダー交換に入るタイミングで、大量の発煙筒が投げ込まれ、辺りは煙に包まれ、視界が塞がれる。
『狙えるか?』
『YO-YOU』
『発砲を許可』
オレが発砲命令を出すと ドラムが構えているF-2000が火を吹き、オレがマークした1km先の煙でロクに見えない赤服を着ている敵兵の頭に正確に7.62mm弾を撃ちこんで行く。
1人辺り1~2発…一切の無駄な弾が無く、経済的にも非常に優しい。
味方からのリボルバーライフルの攻撃も次々に当たっており、逆に敵からの弾は リアカーに積んでいる土に阻まれたりしてロクに当たっていない。
原因は発煙筒による煙幕だ。
煙幕は 敵味方 共に狙い難くなるが、敵は 味方への誤射を防ぐ為に赤服を着ているので、比較的狙いやすく、対して こちらは 目立たない色々な私服を着ているので 煙の中で見つける事は 非常に困難だ。
更に煙が晴れた時に 敵は気付く…自分達の近くにいた指揮官が軒並み、正確に頭を撃たれて死んでいる事に…。
これが兵士達の恐怖を加速させる…1人逃げ出す兵が出た事で、次々と兵が連鎖的に逃げ始め、背中から こちらの兵により撃たれて行き、そして 本来、逃亡を 止める役割の指揮官は もういない。
続いて 煙幕に紛れて両翼に移動した別部隊が、敵部隊を挟む形での攻撃が始まり、次々と敵兵が倒れて行く。
唯一の逃げ道は後ろに後退する事…。
「掃討戦に移行した。
これで終わりだな。」
「これで、ブリテンを大陸から追い出す事が出来ます。」
「ん?ヤバイな…」
「まさか巻き返しでも?」
「いや…敵を皆殺しにする見たいだ。
よっと…」
オレは 地面に寝そべり、M24ライフルを構えスコープで戦場を覗く。
「別に相手は敵です。
殺した所で…」
「いや…治す側が面倒になるし、それに 上と交渉する事が出来る相手は 残しておく必要がある。」
えーと…一番後方にいる この戦場全体を取り仕切る最上級 指揮官は…と…いたいた 馬に乗った状態で仲間を切り捨てて、護衛と撤退を開始。
馬だし逃げ切れるかな…。
「なっ」
無駄に腕の良い こちらの兵士達が、リボルバーライフルの連射をして逃げる馬の足を撃ち、最上級 指揮官は落馬…。
「マズいな」
パン…パン…。
オレは 彼らのリボルバーライフルだけを撃ち、銃を使え無くして行く。
「曲芸撃ちは、本来、オレの役割じゃないんだがな…『ドラム部隊…狙えるか?』
『足なら…』
ドラムからの狙撃により、戦意を喪失した敵兵を殺そうとする味方兵の足を丁寧に撃ち抜いていく。
「ナオ…味方を止めに 行って来る。」
クラウドがアメリカの国旗を取り付けたバギーに乗り、後ろには ジョージ・ワシントンが乗っている。
現状で アメリカの旗を振り回し、戦意を失った兵士を殺す事に酔っている兵達を止めるには、今回の最高責任者である ワシントンしかいない。
万国共通で、戦意の無い人を いたぶる弱い者いじめは 大好き見たいだ。
現状で一番 無駄な活躍をしているのは、何故か前線で手斧で接近戦を行っているマリオン大尉。
確かにゲリラ戦なら皆殺しが普通だが…今回は兵の命を賭けた外交戦だ。
負けた兵は 人道的に扱わないと交渉に悪い影響を与えてしまう。
「アンタの戦争は終わったんだよ。
マリオン大尉…」
オレの髪が熱により赤く光始め、髪が緑色に染まり、緑色の量子光を発生させる。
空間ハッキング…精密狙撃…。
発射された弾丸は、あらゆる力学を無視して真っすぐに飛び、敵 指揮官に振りかざそうとしていた マリオン大尉の手斧に当たり、手斧が吹き飛ぶ。
マリオン大尉は こちらの方向を見ると、戦意を下げて、暴走する味方を止めに入った。
「ふう…」
量子光を放っていたオレの緑色の髪が赤色になり、空間ハッキングを使う前は 茶髪だったオレの髪は 塗料が剥げ、クオリアやジガの様な無塗装の銀色に変わっている。
こりゃトニー王国に戻って染め直しかな。
オレは そう言い、ワシントンが部隊を止めに入った事で、戦闘が落ち付き、ハルミ達、衛生兵部隊が両軍の治療の為に動き出した。
この戦闘での勝利が決めてとなり、その年の1783年9月3日。
イギリスが正式に アメリカの独立を認め、正式に北米13植民地は、『アメリカ合衆国』となった。
それは、オレ達の歴史修正 任務を終えて、トニー王国に帰還する事を意味していた。