表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
140/339

26 (海戦)〇

 1783年春…イギリス軍、フランス軍の戦艦が ひしめく海…の海中。

 潜水艦内 発令所。

 雪が融けた春に補給を受けた味方が 敵部隊に攻撃を仕掛けて 次々と部隊が帰還し、敵部隊は 大量の餓死者、凍死者を出し、運良く…と言うか 運悪くなのか? 生き残ったとしても 帰還前に現地部隊に攻撃され、殲滅される。

 ナオ(オレ)が知っている 史実では、この時代だと まだ壊血病の特効薬であるビタミンCの食べ物が発見されておらず、両軍共に 大量の壊血病患者を出し、一番の死因は 銃では無く、圧倒的な壊血病だった。

 ただ、ケンブリッジ大学に ジガが行った事で歴史が変わり、まだ理屈は 分かっていないが、ザワークラウトやライムなどの酸っぱい食べ物が薬になる事が分かり、船に常備され、壊血病は一気に消滅した。

 ただ、壊血病で兵士が死ななかったせいで、イギリス軍の死者が大幅に減って 一強状態になってしまうが、今回の冬で万単位の餓死者を出した事で、そのパワーバランスも 一気に こちらに傾き、勝ち筋が見えた所で 今まで隠れて こちらを支援をしていた フランス軍が 大っぴらに参戦し、イギリスからの補給を遮断する為、艦隊を向かわせた。


「何と言うか、敵さんにも同情したくなりますね。

 もう負け確定じゃないですか…」

 潜水艦の艦長が 発令所で レーザーを壁に照射して映し出している映像を見て ナオ(オレ)に言う。

 この映像は 海上に浮かんでいる有線ドローンから送られてくる映像で、今は 大量のフランスの軍艦を港に配置して 海上封鎖を行って イギリス軍艦との にらみ合いをしている。

 もうそろそろ 海戦が始まるだろう。

「止められないんだよ。

 イギリスは 軍に 損失を出しまくっているからな。

 だから 損失額を取り戻そうと 軍を追加派遣して、傷口を更に広げて 負ける。

 損失額が どんどん増えて行くから 更に追加して損害を増やしていく。

 ちなみに イギリス側が逆転勝ちした場合、こちらも損失を取り戻ろうと軍艦を追加で送るだろうから、現場での死者が跳ね上がるな。

 で、双方の軍が疲弊すると周辺国を巻き込んでの戦争に発展して、損失を取り戻そうとする。

 最初の ちょっとの損失で 損切りをしていてば 良いってのに、上手く負けられないから最終的に 世界大戦まで発展すると…。」

「まるで、ギャンブルで身を崩す人ですね。」

「そ、それと同じ 心理状態。」

「では、この戦争を終結させるには?」

「一番良いのだと 親類縁者を誘拐して、銃を突きつけた状態で トップと交渉するのが一番良いんだが…。」

「気畜ですね。」

「でも、奴らは 自分や身内が 助かる為なら、関係ない人が何万人 死んだ所で、戦死者と言う数字で 処理するからな。

 交渉のコツとしては 相手のプライドを傷つけず、軍を指揮していたトップを戦犯として処刑しない事。

 これが最低限の条件かな…。」

 オレが壁の映像を見ながら船長に言う。


「始まったな」

 双方の船が距離を保ちつつ 横に並んで並走を始め、側面に並んでいる砲を向けて 複数の艦が一斉に砲撃…。

 双方 ロクな回避も出来ず、砲弾が次々と甲板に命中して行く 削り合いが始まった。

 この時代だと 大規模な戦闘の場合 船を連携して動かす事が難しいので、砲弾の射程ギリギリの距離からお互いに撃ち合う 戦いになり易い。

 その為、こう言った船の側面には 鉄などを使って補強され、容易に沈まない設計にされている。

「イギリス船…次々と着弾」

「よし、爆弾を起爆」

「了解…」

 観測手の言葉に船長が指示を出していく。

 海戦前に、装甲が薄い イギリスの艦の底部や舵部分に 取り付けた爆弾が 味方の砲弾の着弾に合わせて爆発し、中には 火薬庫に引火して盛大に爆発が起きて炎上している艦もある。

 大半のイギリスの船は 沈まない程度の浸水だが、舵を破壊されたので真っすぐにしか進めない。

 真っすぐしか進めなくなった イギリス側の艦は、後方マストの向きを変えて当たる風の向きを調整して 曲がろうとするが、舵に比べて旋回速度が遅い。

 そして、臨機応変に対応出来なかった艦や、後方マストの操作を誤った味方の船は 次々と衝突事故を起こす。

「手伝えるのは この位かな。」

「この位って…殆ど全部じゃないですか」

 イギリス側は 味方の船と衝突をしたりした事で、今 大砲を撃ったら射線にいる味方に当たってしまう。

 対してフランス側は 船を寄せて砲撃をしながら、イギリス側の艦隊を囲んで行き、内側に向けて砲を撃ち続ける。

 砲弾による爆発で甲板が燃え、次々と水兵達が 命令を無視して 海に飛び込み、破壊された船の板切れにしがみ付く。

 しばらくして フランスの勝利で戦闘が終了し、一応飛び込んだ兵も回収される。

 海水の水温は 10℃程しかないので、10分程で低体温症で身体が動かなくなり 沈んでしまう。

 ドンドン…。

 一応まだ生きている 沈んだ兵が、潜水艦の上に降って来ていて、筒状の船体にぶつかり、海底に落ちて行く。

 オレ達は この戦場に いない事になっているので、救出は不可能だ。

「艦長…2番ドラム用の水密ハッチが水兵に取り付かれました。」

「何!!」

 低体温症状態の身体で、ここまで来たのか。

「今ならギリギリ助けられます。」

「分かった。

 ハッチ解放…兵を入れたら海水を排出…。

 急げよ。」

「了解…」

「まぁ、自力で取り付いて来たんだし、仕方ないか…。

 オレは 2番で、その幸運の水兵を救って来る。」

「すいません。

 捕虜を取らない事になっていたのに…」

「いいさ…この救いの無い戦場で、1つの幸運があっても良い。

 それじゃあ、ここ頼むな。」

 そう言うと オレは、潜水艦の前方の底面にある 2番のドラム発射管に向かった。


 ドラム発射管は 今後、手動装填になるが 魚雷も射出 出来る様に大きく作られており、今は 水中仕様のドラムを有線接続して、海中探査や爆弾取り付けなどの工作 活動をさせるのに使っている。

 オレは ドラム発射管が 外との隔壁が閉じて 発射管内に空気を入れて排水作業が終わった所で、後ろの水密ハンドルを回して 扉を開け、水兵を引っ張って取り出す。

「ヤベ、息してねぇ」

 すぐさま 服を脱がせて上半身裸にし、手動の人工呼吸器を口に当てて空気を送り込む。

 胸に手を当てて30回…胸骨圧迫を行い、人工呼吸器で2回空気を体内に入れる。

 それを繰り返す。

「せっかく(つか)んだ幸運…物にして見ろ!」

「かはっ…ゲホゲホ」

 男が海水を吐き出し始め、オレは 男を横にして人工呼吸器を外す。

「生還おめでとう」

 呼吸はまだ荒いが ちゃんとしており、水銀式の体温計を脇に入れて 体温を確認してみると、体温は35℃…低体温症ギリギリだ。

 まだ真面に話せない見たいだが、目は ちゃんとオレの方向を見続けている。

 オレは 70kg程の男を担いで、後部 発電 動力室の手前にある 暖簾(のれん)が掛った風呂場に入る。

 本来 ここは、隣の小型原子炉の熱で 取り込んだ 海水を沸かし、真水と塩を取り出す 部屋になるのだが、通常時は 風呂として機能 出来る様に設計されている。

 ここでは数少ない実物の娯楽だ。

 男の服を脱がして 裸にし、大型の湯船に放り込む。

 温度は40℃…30分程度で 身体が温まり 回復して来るだろう。

 オレは ロッカーからタオルとバスローブを出して 籠に入れ、風呂の横に置いて、男を風呂場に放置して すぐ近くにある発令所に向かった。


「戻った。」

「具合は?」

「問題無い…今、風呂に入れている。

 状況は?」

「今、フランス側から小舟が出されました。

 皆殺しにしないで 捕虜として回収する つもり みたいです。」

「向こうにも良識は 残っていたか…。

 それじゃあ、深度60に潜ってアッパー貯水池に向かおう」

「ええ…アッパー貯水池に向かう、深度60、速度30、進路そのまま。」

 潜水艦が静かに潜り始め、速度が上がって行く。

 これで イギリスから ボストンに駐留しているイギリス部隊への補給を断つ事が出来る様になり、食べ物はともかく、火薬の入手が困難になって来るだろう。

 オレは そう思いつつ、放置している水兵の様子を見に風呂場へ戻って行った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ