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25 (神様からの補給物資)〇

 1782年…12月24日。

「殺せ!殺せ!敵を生かすな!」

 ワシントン()が味方の兵を鼓舞し、マスケットを構えた兵士達が 敵に向かって横一列に並び、腰程ある雪をかきわけて 銃剣突撃を行う。

 敵も最初こそ 景気良く大砲などの火器を使っていたが、今では殆ど使用されず、残りの火薬が残り僅かになった所で、私と敵の指揮官は 同じ結論に達した。

 味方は 無駄弾を避ける為に遠距離の攻撃を行わず、銃を槍の様に構え、敵に銃剣を刺して 引き金を絞り、通常の3分の1の火薬で発射された弾を相手に弾を当て行き、同じ やり方で こちらも殺されて行く。

 今では もう、マスケット銃は ただの強力な槍となっている。

 敵と こちらで同じ戦術を使っているが、こちらは 集団で連携して 対処出来ているので 相手に比べて損害が少なく、敵側は 餓死寸前の身体を 食べ物を確保する執念で無理やり動かし、無茶苦茶な攻撃を繰り返している。

 人は ここまで変わってしまうのか…。

 飢餓状態の兵士は 食べ物の事しか頭に無く、こちらが いくら殺しても 死を怖がる素振りも無く、次々と雪をかきわけて突っ込んで来る。

 食糧を確保出来ればOK。

 死ねば、飢餓状態から解放されるのでOK…と言った所だろうか…。

 死を恐れない兵士は 本当に厄介だ。


「今回は何人やられた?」

「10人です。

 まだ 持っている方だと思いますが…春まで何人生き残れるか…。」

「そうか…」

 今回の戦闘で 戦闘部隊の数が100人を切った。

 今までは 包囲部隊から薄く補填(ほてん)をしていたが、それも もう限界だ。

「補給があれば、一気に巻き返せるんだが…」

「この雪の高さ じゃあ 無理です。

 まともに進む事も難しいです」

「はぁだろうな…。

 雪が融けるのを待とう…今は それしかない。」

「……了解しました。」

 私は 寸胴鍋に入ったミドリムシを入れた コーンスープを綺麗に並んでいる1人1人に平等に器によそい ながら言う。

 食糧や物資に触れるのは 私だけなので、私が1人1人に対して平等に器によそって行くルールになっている。

 飢餓状態になると『我先に』と食糧に群がる様になり、綺麗に並んでくれなくなるので、まだ統率は 取れている見たいだが…。

 全員に行き渡った所で 最後に自分の分をよそい、コーンスープを飲む。

 もう味わっている余裕もなく、これは もう燃料補給に近い。

「そう言えば、今日は クリスマスだな」

 身体の熱を一切逃がさない様に 何枚もの毛布に包まった状態の私がテントの中から空を見上げて言う。

 神は この地上に生まれた地獄を如何(どう) (とら)えて いらっしゃる のだろうか?

 そう思いつつ私は 目を閉じ、眠りに付いた。


 真夜中…午前3時位…。

 パタパタパタパタパタパタパタパタパタ…。

 聞きなれない音に私達は テントの外に出て空を見上げる。

 空は月と星が微かに光っているだけで、何も見えない…が、ドン…と言う音と共に 気球の様な物を取り付けられた 赤く光る煙を放つ箱が、近くの森の中に2つ落ちて行く。

「隊長」

「捜索隊を編成…私が出る」

「了解しました。」

 私達は松明を持って雪をかきわけて、未だに光る 赤い煙を放っている何かが落ちた場所に向かう。

 そこにあったのは 赤い煙を出す筒と布が取り付けられた木箱だ。

 その箱の側面には 赤い帽子で白髭の老人の絵と『Merry(メリー) Christmas(クリスマス)!』、『Gift(ギフト)』の文字が描かれている。

「まさか…神からの贈り物か?」

 兵士の1人が言い、箱を開ける。

 中には 袋詰めされた 黒色火薬と弾が入っており、2つ目の箱には 緑色の粉が限界まで詰まっている。

 これは ナオの祖国の主食…ユーグレナ。

 と言う事は ナオの仲間が 空飛ぶ機械を使って、補給物資を空から落としたと言う事か…。

 ナオの祖国である未発見の国は、車が実用化出来るレベルになっている事は知っているが、まさか…原理が 見当もつかない飛行機械を持っているとは…。

「そう見たいだな。

 『これで敵を叩け!』多分、神はそう おっしゃっている。

 さぁ運ぶぞ…そして、勝つぞ」

 私は、おそらく ナオの国の最重要機密である飛行機械の事を伏せる為に神の名を借りて味方を鼓舞する。

「おおう!」

 神が こちらの味方に付いた事で、捜索隊の士気が うなぎ上りだ。

 神よ…私の この嘘をお許しください。

 兵士の士気が上がっている中、私は手を組んで神に謝罪した。


 上空。

『あ~風に流されたな。

 補給物資は無事だと思うが…メリークリスマス』

 後部ハッチを開けた状態のティルトウィング機の荷台から補給物資を落としたパイロットスーツ姿のハルミ()が言う。

『ハッチを開いたままだと、やっぱり速度が下がるな…。

 フラップ代わりに使えそうなんだが…』

 コックピットの副操縦席に座るクオリアが言う。

 機長席には、毎日ティルトウィング機に乗って試験飛行していたテストパイロットが乗っており、今は彼が操縦(かん)を握って操縦している。

『暗闇での計器飛行は やっぱり怖いですね。』

 まだヘリの存在を 世界に気付かせる訳には行かないので、ナオの要請で深夜で無灯火での難易度が非常に高い飛行任務で、今、彼は 電波の反射を使ったレーダーを頼りに飛行している。

 航空管制が 当然 一切無い この地域は、計器以外頼りにならない 殆ど目隠しの状態での飛行だ。

 その状態で普通に操縦出来ている機長を サポートしているのが、副操縦席に座るクオリアで、ナオから量子通信で送られて来た 現地の優秀な測量士が描いた 詳細な地図を元に彼をナビゲートしている。

 確か この地図を作ったのは フィリアだったか…。

 オリビアの出産で騒動になってから もう25年 経っているんだよな。 

『20°左旋回…用意』

『左20°了解…用意OK』

『……実行』

『20°完了』

『行き過ぎ、修正右、2°』

『右2°了解…OK』

『速度、そのまま』

『速度そのまま 了解』

『ハルミ…後10分で最後の投下ポイント…補給物資の準備』

『了解』

 私は 補給物資に繋がっているパラシュートの開閉紐と発煙筒の紐を天井のロープに引っ掛ける。


『目標まで60…50…40…30…20…10、9、8、7、6、5、4、3、2、1今!』

 クオリアのカウントダウンに合わせ、私は補給物資を思いっきり押して ヘリから落とし、天井のロープに 引っかかっていた紐が引っ張られ、パラシュートと発煙筒が開き、光る赤色の煙を放ちながら降下して行く。

 まだパラシュートは 実用化していなく、人間が使えば 確実に骨折するだろうが、木製で組まれた丈夫な箱なら この性能でも十分に耐えられる。

『おっ今度は 上手く行ったな』

『投下 任務完了…ハッチ閉め、これより母艦に戻る。

 進路、右40°ゆっくりとだ。』

『右40…ゆっくり、了解…燃料は?』

『計算中…十分(じゅうぶん)持つ、高度3000…速度500』

『3000…500…了解』

 ハッチが閉まり 機内が揺れ、私が壁に手を付く中、機体は加速し、高度を上げて行く。

 私達が戻るのは、このヘリを近くまで運んでくれた 新型潜水艦の後部 甲板だ。


『ビーコンキャッチ』

 潜水艦から発せられている誘導電波を受け取った所で、進路を微調整して速度を落とし、ウィングの向きを斜め上に向けながら降下…。

 この潜水艦は 初の長距離航海のテスト中で、ジガがサポートしている潜水艦クルーだ。

 今では、どの業務も 私達の手を離れて運用しても 問題無く 行える様に なっている。

『目視で確認…』

 席を乗り上げる形で 潜水艦を探していたクオリアが、エレベーターの上でライトをチカチカさせている作業員を見つけ、潜水艦を目視で確認。

 計器をずっと見て飛行していた機長は 前を向いて目視飛行に切り替える。

 ヘリは音がうるさいので、住宅が無い海岸から離れた海に浮かんでいる潜水艦への着陸だ。

 ガクッ…。

『着陸 おめでとう』

『ふう…ちょっとスピードが速かったな。

 エンジン停止…』

『こちらオペレーター。

 エレベーターを下げる。』

 ガクッと振動が機体に伝わり、ヘリを乗せた エレベーターが下がり始め、格納庫に向かう。

 格納庫まで降りた機体をバギーで けん引して引っ張り、エレベーターが上昇…。

 この艦に搭載されている2機のヘリが(そろ)い、ワイヤーによる固定作業が素早く 始まる。

 数年前に 固定作業中に船が移動したせいで 中の物が動き、船の重心位置が変って傾き、ヘリが整備クルーに突っ込んで 潰してしまった事があるので、その教訓から固定作業が終わらないと潜水艦は動けなくなっている。

『こちら整備クルー…機体の固定 完了。

 動けます』

『了解した…これより、トニー王国に帰還する。

 任務ご苦労だった。』

 艦長の声がし、機体の進行方向を変えて加速して トニー王国に向かう。

「そろそろ…この戦争も終わるだろうな。」

「ああ…後は彼ら次第だ。」

 私の言葉にクオリアはそう答えた。


 この2日後…十分な食事と神からのお墨付きを得た我が『ワシントン部隊』は、砦の敵に対して聖戦を仕掛け、多大な犠牲を払うが 見事に勝利し、この神からの補給物資は、後の歴史書に組み込まれるのだった。

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