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21 (通貨の独立)〇

「うわあ派手にやったな…」

 戦闘が終わり 双方 重傷者と死体の山が出来上がり、さながら地獄と思うような風景だ。

「私は軍医だ。

 生きている奴はいるか?

 治療が必要なヤツは手か声を上げろ~」

「オイ…女…!」

「何か?」

 戦闘が終わったブリテンの兵士達が ハルミ()に向かって銃剣を向ける。

「私達は 同盟軍側から派遣された 軍医です。

 あなた方の指揮官の許可は 事前に取って います。」

「女の軍医?」

 兵士は怪しそうな目で こちらを見ている。

 この時代、女性の仕事は 子育てや家事がメインで、女性1人で収入を得る仕事となると性風俗位しか無く、女では 学校に入学する事も出来ないので、学が必要な医者になる事は まずあり得ない。

 と言うか そもそも『女性蔑視(じょせいべっし)』だったり、『女性の社会進出』なんて発想が無い時代だ。

 その問題をクリアして医者になったとしても、男だらけの現場が 受け入れる訳がない。

 立場の低い女の私が 男に指示を出しているのは、コイツらには異質に見えるのだろう。

「そうです。

 コイツは まだ助かりそうだ。」

 腕の根本を止血帯で締め付け、腕時計を見て 今の時間をラベルに書いて、止血帯に張り付ける。

「テントに持って行ってくれ、30分後に止血帯を緩めさせろ」

「分かりました。」

 衛生兵が男を担ぎ、バギーが けん引するリアカーに乗せて行く。

 止血帯で血の流れを止めてしまうと 供給を断たれた場所が壊死してしまうので、30分後に止血帯を緩めて血の供給を再開させる必要がある…その為のラベルだ。

 銃剣を突きつけられてる中、私は何事も無かったかの様にトリアージを行い、助かる人と助からない人を選別して行く。

 その作業は 非常に洗練されていて、素人では到底 真似出来ない動きだ。

「オイ…話を聞いているのか?」

「聞いています。

 ですが、今は 応急処置をしています。

 ながら作業に なるのは許して下さい。」

「おい…そいつら何か ほっといて、こっちを手伝ってくれ!

 血が止まらないんだ!!」

 近くでにいる イギリス側の兵士が 太ももを撃ち抜かれた兵士の傷口を布で必死にキツく縛っている。

 が、太い血管を傷つけたのだろう…布はみるみる赤くなり、血が止まらない。

 顔も血が抜けて青白くなっており、非常に危険な状態だ。

「分かった。」

 私は銃剣が持った兵士が助ける前に動き出し、敵兵の元に駆け寄る。

「おい…」

 腕を握り血圧を測る…よし…血圧は まだ高いな。

 通常、出血して血圧が低下した場合、血圧を維持しようと心拍数を上昇させて、血圧を維持しようとする。

 ただ 細い血管から出血しただけなら これでも収まるが、太い血管だった場合、血が流れる速度が上昇して しまい、結果的に失血死になるまでの時間が短くなってしまう。

「焼いちゃった方が良いかな…。

 太ももの上をキツく 抑えてくれ…よし」

 私は縛っていた布を外して小型のバーナーで血管自体を焼いて行く。

「あがががが…」

「はいはい…痛みがあるって事は まだ生きているって事。

 ちょっと 我慢して…。」

 流れ出していた血が血管を焼いた事により止まり、代わりに 火傷を負った。

 この方法は 焼灼止血(しょうしゃくしけつ)(ほう)と言い、出血面を焼くことで タンパク質の熱凝固作用によって止血する方法で、この時代では 割とメジャーな止血方法だ。

 傷口を縛っても 止血 出来ないなら、この方法が一番 確実だ。

「取り合えず これで血は止まったな。

 ただ、血管を焼いたから 火傷になっている。

 傷口から細菌が入って来る可能性があるから気を付けて…。」

 私は焼いた傷口に消毒液を掛けて 軽く包帯を巻いて行き、メモ帳に症状を書いて 患者に持たせる。

「はい、これを持ってテントに行ってくれ…そこで火傷の薬が(もら)える。

 まぁ…今は 修羅場の真っ最中だから優先順位が降りてくるまで 結構待つと思うけど…」

「分かった。

 助かったよ…だが、何で敵である私を助ける?

 敵が減った方が アンタ達にとっても良い事だろうに…」

「怪我人に敵味方はいない。

 私達は 最大数の兵士を救う為に ここにいる。

 それじゃあ行くよ…次の患者が待ってる。

 助けが必要なヤツは声か手を上げろ~」

 銃剣をこちらに向けていた兵士は、こちらを見て銃剣を降ろし…自軍の兵士の治療の為に向かって行った。


 大規模 戦闘が終わってから1週間後…。

 クラウド商会 ケベック支店 食堂。

 各部隊の撤退が進み、フランスの国境に近いケベック支店に各部隊の指揮官が この商会に集まって来ている。

 その中には フランス軍の指揮官と思われる人物も私服で参加している。

「投入した戦力が1000人。

 死者、重傷者を含めた 戦闘不能になった人数が300人。

 手当すれば まだ戦える軽傷は山程…。

 全滅と言って良いでしょうね」

 ナオ(オレ)とフィリアの隣にいるクラウドが、ハルミから貰った書類を見て言う。

「赤服の損害は?」

「正確では無いですが、現場に放置されていた死体は 50名程です」

「こちらの大損害じゃないか…。

 このまま だと 作戦の継続は不可能だ。」

「私の国としても、アメリカが独立出来ないなら これ以上の融資は望めない。」

 独立側の現場の指揮官とフランス軍の指揮官が言う。

 なるほど…フランスからの支援も受けていたのか…。

「ちょっと待って下さい…。

 それだと 組織の運営すら出来無くなります。」

 ハンコックが言う。

「こちらも先の戦争で 国の経済が疲弊している。

 今回の金額も本国から『採算に見合わないなら削れ』と言われている位だ。

 何か上を説得出来る交渉材料でも あれば良いのだが…。」

「交渉材料ですか…なら、これは如何(どう)です?」

 クラウドは立て掛けてある リボルバーライフルを取り出し、皆に見える様に机に置く。

「兵士が撤退中に拾ったフリントロック銃です。

 ブリテンは まだ1列目…60丁位の生産だけでしたが、いずれブリテンの部隊全体が この銃を使う事になります。

 これが普及すれば いずれフランスにとっても脅威になるでしょう。」

「ふむ…具体的には?」

「基本の構造は 私達が使っているマスケット銃と同じです。

 ですが、予め弾を入れておいた状態の このレンコン部分を回す事によって、次弾の装填が素早く行えます。

 しかも このレンコンは取り外しが可能なので、複数持ち歩いて交換をする事も出来るので、こちらが 1発撃つ間に この銃は10発は撃てる事になります。

 これは明らかな脅威です。」

「確かに…」

 フランス軍 指揮官がリボルバーライフルを取って確かめる。

 仕組み自体は 銃弾の尻を叩いて火薬に引火させるオレ達が使っているパーカッション方式では無く、この時代で一般的な 火打石で直接火薬を叩いて引火させるフロントロック式の銃だ。

 使用している使っている弾も 薬莢で包まれて先が尖っている銃弾では無く、火薬とパチンコ玉を直接シリンダーに詰めた物になっている。

 バレルを見て見るとライフリング加工もされていないので、命中率はマスケット銃と同等程度…。

 と言うか既存のマスケット銃にシリンダーを ただ取り付けた急増感が出ている。

 如何(どう)やら こっちから流出したリボルバーライフルは 採算の問題から大規模な部隊配備まで出来なかった見たいだ。

 まぁ専用の弾を運用するだけでも兵站(へいたん)に重くのしかかるからな。

「これで説得出来ませんか?」

「う~ん やって見よう。

 だが、我が軍に資金を頼り切るのも問題だ。

 商会や一般人から もっと寄付金を(もら)えないか 頼めないか?」

「いや…何処(どこ)のサイフも限界だ。

 と言うか寄付金を募ると言いつつ やっている事は 実質 恐喝だからな。」

 オレがフランス軍 指揮官に言う。

 寄付金を払えば 愛国者と見なされ、払えなければ 反独立側勢力と見なされる。

 で、反独立側勢力と見なされれば、独立勢力側から暴行を受ける事も普通にあり、周囲の人が離れて行って孤立し、不買運動が発生して 客足が減り、商売が出来なくなる。

 つまり、まともに商売する為には 金を払うしかない状態だ。

「なら、何処(どこ)から金を得る?」

「得る必要は無い…(かね)を作ってしまえば良い。」

「作る?まさか、錬金術見たいな絵空事を言っているのか?」

「いや…じゃあ、試しに作って見るか…」

 オレは紙を切って100Liberty(リバティ)と書き、皆に配って行く。

「じゃあ、その(かね)でコップ1杯の酒を買ってくれ」

 それぞれの注文が入り、食堂を担当しているコックメイド姿の初老になった女性従業員…オリビアが100リバティを受け取り、代わりに酒の入ったコップを渡す。

「はい…これで金のやり取りが成立した。」

 皆に酒が行き渡った所でオレが言う。

「だが、クラウド商会側が ただの紙っ切れを受け取っただけになる。

 明らかに損だ。」

「いや…オレは、このリバティ通貨に すんごく価値を感じているぞ。

 ただ 他の店がリバティ通貨の支払いに対応していないだけだ。

 だが、ケベック商会が このリバティ通貨を取引きに使い出したら如何(どう)だろう?

 重い硬貨での支払いより、軽い紙の方が持ち歩きやすいだろう…。

 リバティ通貨を使う需要は あるはずだ。」

「……確かに…私達も硬貨の移動をさせずに 帳簿上の数字で取引する事も多いですからね」

 ケベック商会の商人が言う。

「可能なのか?」

「ええ…ただ ケベック商会だけでは足りません。

 自由(サンズ)(・オブ・)息子達(リバティ)と繋がりのある関連企業、すべてがこの通貨での取引きに対応させないと…」

「そうなりますね。

 そもそも ここで使ってる通貨の発行権をイギリス側が握っているから 通貨の供給量をコントロールする事で、間接的に この国を支配している訳だ。

 商人なら他国の通貨に市場を占領されている今の状況は、好ましくないはずですよね。

 独立派の企業にリバティ通貨での支払いを認めさせて、リバティ通貨が対応してる商会との取引きは リバティ通貨で取引き させる。

 通貨が普及して来たら イギリスが輸入する貿易品をリバティ通貨以外での支払いを認めなくする事で、イギリスの経済支配から ある程度の独立が出来る。

 まずは、通貨の独立から始めて見ませんか?」

「ふむ…。

 確かに私達は 今回の戦いで 兵を大量に失ったから、次の大規模な攻撃が出来るのは当分先になる。

 それに銃を連発式に強化しないといけないしな。

 私達は これから また、赤服への盗賊行為を繰り返して行く事になるだろう…商人達の意見は?」

「ナオ氏の意見は利に適っています。

 我々は力が無く、ブリテンと戦えませんでしたが、商戦なら 私達は戦えます。」

「やりましょう」「そうだやろう…」

 先の戦闘で戦闘能力が無かった為 戦えなかった商人達が言う。

「あ~ナオ…そのリバティ通貨の担保(たんぽ)は何だ?」

 ハンコックが親しくなったオレに軽口で言う。

担保(たんぽ)?…商業 取引きが既に成立しているってのに担保(たんぽ)が必要か?

 この通貨と交換出来る すべての物が担保(たんぽ)になるはずだが?」

「理屈ではそうだが…金銀などの交換レートを決めないと…」

「なんで、金と銀で取引き するのかね~

 貴金属とは言え、工学的な価値は あまり無いってのに…。

 一応、(そろ)えているんだが…こちらに」

 オレは 皆を引き連れて 大型金庫に鍵を挿して中に入る。

「うわっ…なんだ この量…。」

 真っ暗な金庫の中のスイッチを押して天井の電球が点灯…。

 その光景を見たハンコック達が驚く。

 中には 光り輝く 金の延べ棒が大量に敷き詰められている。

「こんな大量の金を何処(どこ)から…」「これだけ あれば、軍の運営だけでは無く、小さな国が築ける量だ。」

「これを自由(サンズ)(オブ)息子達(リバティ)に提供しましょう」

 オレは皆の方を向いて笑みを浮かべながら言い、こっちの事情を知っているクラウドとフィリアは 少し苦笑いしている。

「これを すべて…アレ?軽い?」

 ケベック商会の商人が延べ棒を持ち上げて言う。

「おっ気づいたか」

「これは金メッキですか?

 錬金術師が詐欺に使う」

「そう…鉄の延べ棒に金で薄~く表面にコーティングしているだけ…だけど、何だっけ?これで小さな国が築けるんだっけ?」

 金の比重は19.32…対して鉄の比重は7.87。

 見た目と持った時の重量感が2.4倍は違う。

 金の延べ棒を持った事がある人なら重さで一発で分かるが、これでも 金の延べ棒を触った事が無い 素人は十分に騙せる。

「メッキ加工した鉄の延べ棒に そこまでの価値は無い。」

「だが騙せた…種を明かすまで アンタ達の信用を勝ち取れた。

 これを担保(たんぽ)にして紙幣を発行する。」

「だが、金の延べ棒と交換する場合は如何(どう)する?

 その時点で嘘が発覚するぞ。」

「純度が異様に低いだけで これは立派な金の延べ棒だ。

 気になるなら一般人には 買えない値段にしてしまえば良い。

 そうだな…1億リバティとかで交換するのは如何(どう)だ?

 わざわざ大金を掛けてまで、市場価格より遥かに高い延べ棒を手に入れようとは 思わないだろう。」

「……アンタが敵じゃなくて本当に良かったよ。

 詐欺師に向いている。」

「今 一番重要なのは 物を生み出してくれる生産者がいて、それを買ってくれる消費者がいるってのに、金が無いから 商業取引きが成立しないって事…これが不景気の原因だ。

 これさえ解決出来るなら、詐欺師になろうが問題無い…。

 最悪、オレ達に全部 責任を丸投げして貰って、オレ達は国外に逃げる事も出来るしな」

「法や道理より必要性を重視すると言う事か…」

「そう言う事…で、その法や道理も この国を独立させて自治権を得てしまえば合法にする事が出来る。

 それで、この一応の詐欺に協力してくれる人は?」

 オレは手を上げ、クラウドも手を上げる。

 そして、その場にいる指揮官や商人が 次々と手を上げて行く。

 その中には フランス軍の指揮官もいる。

「よし、それじゃあ 資金の目途(めど)は 付けたから、後は政治家達に任せるよ」

「こちらとしては金に詳しい政治家が欲しい所なのだが…」

「オレに政治家をやれと?

 外国人に国の運営を任せたら今と変わらなくなるぞ。

 それにオレは民主主義とは合わない…。

 オレの国は封建政(ほうけんせい)だからな」

 そもそも、オレのやり方は消費を(うな)して経済を活性化させるやり方だ。

 産業革命に入ったとは言え、この時代では まだ機械化が進んでいなく、基本 人力なので、消費が加速すれば、簡単に供給不足になって餓死が多発してしまうだろう。

「……残念だ。

 それでは、今後の事について詳しく詰めましょう…」

 その後は ハンコックを中心として話が進み、今後の政治面での戦略について話して行った。

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