13 (鋳造-ちゅうぞう-)〇
翌日…。
ナオは 3時位まで道路工事を行い、その後 木と竹を持って拠点に帰って来た。
クオリア達は 追加の砂を海岸から運び、オレが作った風力選別機を使って選別作業を行っていて、石英だけが入った背負い籠が3籠も出来ている…ガラスを作るには十分な量だ。
「おっお帰り…早速ガラスを作るぞ…。」
クオリアがファントムに乗るオレに手を振りながら言う。
「待ってくれたのか?」
ファントムを駐機姿勢にして降り、オレは クオリアに言う。
「まぁそれもあるが、選別作業用に風車をもう一基作っていた。
2基体制になった事で 2号機は風力選別機にして、1号機を炉に空気を送る 送風専用にする。」
「あ~昨日オレが1号機を改造しちまったからか…。」
「そう…炉は動かせないから2号機に組み入れた。
さて、ガラスを作ろう。
今回作るガラスは『ソーダガラス』…一般的なガラスだな。
まずは、珪砂7、酸化ナトリウム2、酸化カルシウム1の割合で混ぜる。」
「で、測りが必要だな…。」
「持って来てる…最大200㎏…精度誤差は0.1gだ。」
よし、十分 高性能だ。
「それで肝心のガラス作りは?」
ガラス作りに興味があるのだろうか?クラウドが やって来て言う。
「ああ…それじゃあ行こう。」
クオリア前を歩きいて炉まで少し速足で進み、その後ろをオレとクオリアが付いて行った。
昨日もそうだったが、新しい炉は 既に使われているみたいで、炉の煙突からは白い煙が出ている。
が、炉自体には 木や竹が燃えているだけで何も融かしていない。
「今は何を作っているんだ?」
オレがクオリアに聞く。
「竹炭と木炭に灰、木酢液に竹酢液だな…。
この炉は4段構造で各階に煙突を貫通させて その熱で温める構造だ。
1段目には燃料を燃やす炉、2段目が素材を融かす為の炉…。
3段目が 空気を抜いて竹と木を密閉して温める事で竹炭と木炭を作っている。
それで4段目、竹炭と木炭の生成時に出る水蒸気を冷却して回収。
これは 不純物が多いが木酢液と竹酢液の混合物…。
これでホルマリンが出来るから、プラスチックのフェノール樹脂と、炭素繊維に使うコールタールが取れる。
それと 今は造れないが 煙突にタービンを付ければ 排ガスから電気を作れるようにもなる…排ガス発電機だ。」
「欲張りセットだな…。」
「熱エネルギーを有効活用した結果だ。」
クオリアは そう言い、2段目に窯に土器の鍋を入れる。
1段目の熱が天井に伝わっていて2段目の床は非常に熱い。
「問題なのは 土器の性能だ。
ガラスの軟化は730℃前後…完全融解が1200℃
一応、モルタルと珪砂も混ぜ込む事で耐熱性は強化しているし、直接火で熱している訳じゃないから1500℃から2000℃位までは 持つと思うんだが、何処まで耐えられるか…。」
「材料試験も その内やって行かないとな~」
そう言いながらオレは熱せられてている土器の中のガラスを見続けた。
しばらくして ガラスが赤くなり始め、溶け始める。
予め炉が熱せられていたからか、予想より随分と早く熱せられ、土器も普通に耐えている。
窯の温度を担当していた奴隷が 竹パイプを鍋型の土器に突っ込み、パイプを回して飴のような柔らかくなっているガラスを回収する。
パイプを下に向けて 回転させつつ息を入れ、ガラスを膨らましてフラスコを作ろうとするが、容器の形にならない。
「貸して見ろ」
クラウドが奴隷から竹パイプを奪い取って 土器に突っ込み、ガラスを回収し、下に向けて回す…。
ただやはり、容器の厚みにムラが生まれ容器の形にならない。
しかも竹パイプが熱で若干焦げ初めて来ている。
鉄のパイプが使えない以上仕様が無いが、そこまで長く持たないだろう。
「う~ん 確かに難しい…。
どおりで これ一本で生活出来ている職人がいる訳だ。」
クラウドが言う。
「まぁ難しいだろうな…こればかりは慣れるしかない。」
「慣れね…」
クオリアがそう言い…オレがポツリと言う。
『慣れ』と『見て覚えろ』は職人の常套句だが、オレはその言葉は嫌いだ。
と言うのも 数値的な客観性が無い物は 再現性が著しく低くなるからだ。
科学と言うのは 手順通りにやれば、確実にその現象が起きる事を言い、再現性が重要になって来るのだが、これは それが出来ていない。
「毎秒何回転で回して、どれだけの息の量を吹き込めば容器になるんだ?」
「さあな…実際にやった事は無いからな 詳しい数値は 分からない。
やっている所を見て実測値が分かれば 一番良いのだが…。」
クオリアが言う。
「職人レベルの技術が必要な時点で量産化は難しいな。
別のアプローチで行くか…。」
オレは炉から少し離れた所にある土の地面に腰のハーネスを使って綺麗な円を描き、そこを手で掘って行く…。
サイズは竹の容器より一回り大きい位だ。
その穴と竹の容器の外側に丁寧にグリスを塗り…完成。
後は 土器の鍋の取っ手を掴めるためのトングだ。
竹を縦半分にし、火で炙りながら力業で折り畳み、そこを竹の紐で広がらないように紐で しっかりと固定すれば完成だ。
「オレがやってみよう」
オレは土器の鍋の取っ手をトングで持ち、ドロドロの飴のようなガラスを穴に流し込む。
「鋳造か…。」
「そう言う事…」
最後に竹の容器を穴の真ん中に押し込み、中のガラスが押し出され、穴からあふれ出る。
「おっと…」
余分なガラスをトングで切り離し、丸型になるように成型…。
後は竹の容器に水を入れ、内側から冷却する。
「これでビーカーが出来るな」
後は自然冷却を待って外側を掘って丁寧に取り出せば ソーダガラスのビーカーの完成だ。
成分は違うだろうが鋳物砂を使った鋳造方法だ。
ただ、この弱点として一回ごとに型を破壊してしまう都合上、また型を作らないと行けなくなり、形が複雑な物程 面倒な事になる。
「ガラスが あふれるのは問題だな。
竹の容器を少し浮かせた状態でガラスを流し込めば良いか?」
「火傷の心配は?」
オレらが着ているパイロットスーツは宇宙での活動を想定されて造られているので手袋で鍋を直接つかんでも問題は無いが、皆が同じ方法を取れる訳ではない。
「なら紐で宙吊りにして固定してしまえば問題無い。」
「あっそっか…。」
オレが楽をする為に方法を提案して、クオリアが それを修正する…良い流れだ。
さっきとは別のビーカーの穴に4方向に竹を刺して紐で宙吊りした竹を差し込む…。
オレは融けたガラスを持って来ようとするが、クオリアが別で調合していた灰色の液体を穴に入れる。
「主成分が珪砂のモルタルだ。」
「ビーカーの型を作るのか?」
「そう、これで型の量産が出来るようになる。」
クオリアはそう言う。
しばらくして モルタルが固まり、掘り起こせば モルタルのビーカーが出来る。
その モルタルビーカーをひっくり返してグリスを大量に塗り、またモルタルを流し込む。
そして モルタルビーカーをモルタルを満たした穴に入れる。
これでモルタルが固まったら モルタルビーカーを引き抜いて 型の完成だ。
炉の周りの地面には 大量のビーカーの穴が空けられ、ガラスやその型の珪砂モルタルが流し込まれている。
夕日に照らされてビーカーは 宝石のように輝いて見えた。
【解説メモ】
鋳造での製造
(参考にしているドクターストーンは職人のカセキがいたが、本作は職人がいない為、簡単な鋳造が使われている。
基本的に少数生産で収まっていたドクターストーンに対して、大量生産前提の工業化をメインにして作品の差別化をしている。)