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14 (盗賊の幻影)〇

 マシュー(オレ)は 自分の黒い肌の色が嫌いだ。

 白い肌と黒い肌 この生まれながらの色の違いで、その後の人生が大きく決まってしまう。

 なんで、オレの両親は黒人なのか?

 せめて片方だけでも白人であったなら…もっと違った生活が出来た だろう。

 肌の色で奴隷になったオレは、その肌色を受け入れる事が出来ず、荷馬車を襲撃して来た 盗賊達の仲間に入り、自由を手に入れた…と思った。

 だが、その仲間の盗賊達もオレ達と同じ黒人で、この色の呪縛から逃れられないと言う事を 改めて痛感した。

 別に人を殺したい訳でも法を破りたいのでも無い…それしか食べる方法を知らないから、人を襲う。

 そんな中で 盗賊のオレ達を殺さずに奴隷としてでは無く、自分の会社の社員としてクラウド商会に拾って貰った。

 クラウド商会は 従業員の大半が黒人だが、奴隷では無く、白人と同じ額の給料が支払われている。

 それは 奇跡だと思ったし、もう一度 やり直せるチャンスだと思った。

 だからオレは 一生懸命 働きながら文字や計算を教わり、教養を付け、輸送隊を任せられるまで信用を獲得し…そして、オリビアと出会った。

 オリビアとの最初の出会いは、この嫌いだった黒色の肌に彼女が興味を持ってくれた事だ。

 彼女が勤めている屋敷には 白人しかいず、単純に珍しかったらしいだけ なのだが、それでも この肌色を気に入ってくれる人が いたのは嬉しかった。

 そして、彼女と結婚して 一緒にクラウド商会で働き、彼女の法的な持ち主であるハンコック家をクラウド商会のパーティに運ぶ為、ボストンで荷物を積んだバギー部隊と一緒にハンコック家に迎えに行くのだった。


 朝、ハンコック家 屋敷前…。

 ここじゃあり得ない 正装姿のオレ達 黒人が運転している6台のバギーの部隊が 門の前に止まる。

 衛兵たちは 銃剣をこちらに向けて近寄って来る。

「わっ私はクラウド商会のマシューです。

 こちらのキッチンメイド、オリビアの夫になります。

 本日はクラウド商会 主催のパーティに参加して頂く為、ハンコック夫妻の送迎を任されました。」

 オレは クラウド直筆の書類を衛兵に見せる。

 まだ オレ達の信用だけでは このハンコックの門を開けられない。

「ふむ…分かった。

 マシューだったか?

 屋敷の敷地内には 武器の持ち込みが出来ない。

 武器を預けて1台だけ馬車を入れろ」

「分かりました。」

 武器を仲間に渡し、門の前に立ってる白人の衛兵に門を開けて貰い、人用の幌馬車を引くバギーで中に入る。

 門の中は 石畳みの道が屋敷まで続いており、敷地の面積は かなり大きい。

 道の付近には まだ花が咲いていないが 花壇や池もあり、景観が非常に良い。

 通りかかる使用人達は 全員白人であり、ここから ハンコック家は 黒人嫌いだと言う事が分かる。

 なるほど…6歳の頃から白人メイド達の中で育っていれば、黒色の肌が珍しく感じる訳だ。

 オレは緊張しながら屋敷に進んで行った。


 コンコン…。

 ドアノッカーを叩き、屋敷の管理を行うハウスキーパーの女性が出て来る。

「お待ちしておりました。

 ただいま 主人が来ますので、そのまま お待ちください。」

「はい」

 オレは だだっ広い玄関で待たされる。

 客間に案内されないと言う事は 下に見られているのか?

 それとも 本当にすぐ来るのか?

 オレは すぐとは到底 思えないが、待たされているとは 思えない位の微妙な時間で、2名の兵士の護衛の元、旅服姿のハンコック夫妻に美しいレディースメイドと、かつては美人だったと思われる初老のコックメイドが 大きな荷物を持って後に続く。

「ジョン・ハンコックだ。

 こっちは妻のドロシー…よろしく頼む…」

「はっこちらこそ。

 あっ…マシューです。」

 オレは手を差し出してくるハンコックの手を握り、握手を行う。

「キミがマシューか…ふむ…予想より真面で驚いた。

 良い教育を受けられたのだな…」

 ハンコックがオレの服装や態度を見て言う。

 早速クラウドの訓練が役に たった。

「はい…クラウド商会で身に着けさせて頂きました。」

「さて、おお…これが車か…。

 蒸気の車を見た事はあるが、こんなにコンパクトに収まるとはな…。

 それで、私達は 何処(どこ)に乗れば?」

「バギーの後部座席に 2人乗れます。

 道中の景色と楽しむのでしたら、夫妻は こちらに乗って頂くのが良いかと…。」

「分かった。

 前に乗ろう…他は荷台か?」

「はい、こちらに…」

 普段は荷物用の為、全方向が布で覆われている荷台だが、側面の布が丸められて上で固定されている。

 中には固定された椅子は無く、乗員は床に座る事になるが、床には高級感を感じられる絨毯(じゅうたん)が敷かれていて それなり快適だ。

「良いデザインだ。」

 2人のメイドが衣装の入ったバッグや食料、簡易テントなどのキャンプセットを乗せて、兵士と一緒に乗り込む。

 今回は 貴族のパーティには 少な過ぎる最少人数の6人での出席なので、荷物は 比較的少ない方のだが、それでも荷台の半分程は埋まってしまう。

「おっクッションが付いているのか…有難い」

 ドロシーが後部座席に乗り、次にハンコックが乗る。

「ええ…短距離とはいえ、旅に慣れていないとツラいですから…」

 ケベックまでの距離は300km…走行時間は10時間位になる。

 ただ、原則 夜間走行の禁止なのと1日の走行時間が6時間までと会社で決まっているので、強行軍でもない限り 1泊2日の比較的ゆっくりとした旅になる。

「それでは 行きますよ。」

「ああ…出してくれ」

 オレはバギーのアクセルを回して引っ張る重量を確かめる様に ゆっくりと加速する。

「おおっ…動き出した。」

 重さは それなりにあるが、いつもの積載量ギリギリの状態に比べて加速が早い。

 他のバギーと一緒に移動した場合、加速力の差が出て前のバギーに ぶつかるかも しれない…気を付けないと…。

 門を開けて貰い、他の5台のバギーと合流。

 武器を仲間から受け取り、衛兵たちに見送られる形で スピードを上げてケベックへ向かった。


 夕日が沈む少し前…。

 ケベック、ボストン間での輸送時に良く使う 川が近くにあるキャンプ地に たどり着き、6台のバギーはエンジンを止め、メインのガスタンクが空になり、サブタンクを使っている車両は、川の中にマイクロ水力発電機を入れ、川の水を入れたガスタンクを逆さにして、ケーブルを接続…発電機からの電気で水を電気分解し、酸水素をメインタンクの中に溜めて行く。

「さて…料理は私が作ります。」

 ハンコック家のコックメイドが言い、木の枝を集めている。

 普通なら石を積み上げて石のかまどを作るのだが、ここは 商人のキャンプ地になっている為、誰かが作った石組みの立派な かまどが残っており、皆が勝手に使っている。

 とは言え、オレらは携帯コンロを持って来ているので、かまどを使う事は無いのだが…。

「火は こちらを使ってください。」

 オレはバギーのガスタンクのホースを外して、携帯コンロに繋げ、つまみを ひねると、火が付き始める。

「へぇ…便利ですね…使わせて頂きます。」

 コックメイドが持って来た水が入った鍋に野菜や干し肉、ジャガイモなどを入れてスープを作って行く。

 それにパンとチーズを切り分けて、紅茶を用意して完成だ。

「何と言うか…貴族の食事だと言うのに結構 質素ですね。」

 オレは ガスコンロの周りに木製の折りたたみ椅子を設置し、ハンコック夫妻とオレ達が座る。

「まぁ…今は移動中だからな。

 そこまでの贅沢な料理は食べられない。

 それに 普段の食事なら、そこまで キミ達と変わらないはずだ。」

「そう みたいですね…。

 違いは 小麦粉の代わりにコーンミールが使っている事でしょうか…。

 おっありがとうございます」

 オレは コックメイドからスープを受け取りながら言う。

「「食べ物に感謝を」」

 オレ達は ハンコック夫妻と一緒に食事を取る。

 メイド達は 座らず、綺麗な立ち姿勢のままで待機。

 護衛の兵士達もハンコック夫妻と食事の席を共にしない。


「それで、見張りは 如何(どう)するのだね?」

 ハンコックが試す様にオレに聞いてくる。

「普段 私達は 2交代でやっています。

 私は 0時までの担当で、もう そろそろ後半組が寝始める時間です。」

 後半組は 荷馬車の上で寝袋に入り、横になっている。

「それでは こちらは1人寝かせよう。

 オイ…警備はクラウド商会に合わせろ…2交代だ。」

「了解しました。」

 ハンコックは手を上げて兵を呼び、指示を出す。

 ドロシー婦人は、馬車より快適とは言え 慣れない移動に疲れたらしく、レディースメイドを呼んで 寝間着に着替え、布を降ろした荷馬車内で眠る。

 メイドと兵士は 荷馬車を囲む様に建てた簡易テントで眠る事になる。

「気になるかね?」

「ええ…多少は」

「マシュー…キミも輸送隊の隊長なのだろう。

 部下に威厳を示さないで 如何(どう)する」

「分かっては いるんですがね…。

 クラウド商会は 上から下まで理想の家族の様に気安い関係なので、如何(どう)しても…」

「家族か…」

 ハンコックは ドロシー婦人がいる荷馬車に視線を送る。

「さて…私も荷馬車で寝るとするよ…警備はよろしく」

「はい…お任せ下さい。」


 午前0時…。

「隊長、交代の時間です」

「ああ…そろそろだな…厳重に警戒しろ」

「はい」

 オレは銃を横に立てかけて寝袋の中に入る。

 しばらくすると、仲間の誰かから警戒の呼子笛(ホイッスル)が慣らされた。

 それを聞きつけた瞬間 オレも縦笛型の笛の穴を押さえ、ホイッスルで警戒音を慣らし、それを聞きつけた仲間が次々とホイッスルを吹いて行く。

 大きな音に驚いて 荷馬車の後ろから ハンコック顔を出してくるが、手で静止する。

「夫妻は顔を出ないで…メイドも そのまま…。」

 ホイッスルを鳴らし続けて 相手を威嚇し続けて周りを確認する。

 ハンコック家の護衛は 急な事で対処が遅れている。

 オレ達はマスケット銃を構え、火薬を入れただけの空砲を敵がいるであろう方向に撃ち込む。

 暗闇の向こうから警戒解除の音が響き渡り、次々と警戒解除の音を鳴らして行く。

「逃げたみたいですね…もう大丈夫です。」

「そうか…ありがとう…次が来る前に移動するのか?」

 ハンコックは顔を出さずに布越しに言う。

「いいえ、見通しの悪い夜の移動は 敵の標的になります。

 警戒を強化しますので、日が昇りましたら早めに出発しましょう」

「分かった…休むとするよ」

「お休みを邪魔して申し訳ありません…良い夜を…」

「眠れるか、怪しいがな」


 翌日…。

 バギーは あれから襲われる事も無く、順調に進んでいる。

 後部座席には コックメイドとレディースメイドが座っている。

 レディースメイドは 主人が見ていない事もあり、うたた寝をしており、オリビアの上司であるコックメイドからは 背中がヒリヒリする程の視線を感じる。

 確か ハンコックも同じ視線を向けていたな…。

 まぁオリビアの夫であるオレを品定めしているのだろう。

 ただ、ドロシー婦人から強い視線を感じなかったのは意外だった…メイドであるオリビアに興味が無いのだろうか?

 で、そのハンコック夫妻は、あの騒ぎから良く眠れなかったので 今は荷台で休んでいる。

 この分だと昼過ぎにクラウド商会に着いて、3階にある貴賓室(きひんしつ)に直行するだろうな…。


 昼過ぎ…。

「ようこそ…クラウド商会へ…。

 私は店長のクラウドです…こちらは、副店長のナオ」

「ようこそ」

 3階建てのクラウド商会に入ると こちらの到着を待っていた2人がハンコック()に言う。

 クラウドと名乗った男は 金髪で白人で、こちらの正装とは違うデザインの服を着ている。

 そして、ナオと呼ばれた男は茶髪の東洋人だ。

 服は白地の薄い服の上から黒色のジャケットを着ているが、こちらは正装と言うより、私服に近い感じで、動きやすそうな生地が使われている。

 民族衣装だろうか?…それにしては飾り気がない。

 クラウド商会は、ブリテン本国が まだ未発見の国の住人が運営している商会で、国の名称や場所に関しては こちらの情報網でも引っかからない程、徹底して秘匿されている。

 そんな怪しげな企業が、この植民地で信用を得て、ここ数年で急成長し、公式には いない事になっている私の娘と結婚するなど、間接的に この植民地を支配しようとしている節があり、非常に気になる企業だ。

「招待して頂きありがとうございます。

 私は ジョン・ハンコックです。

 こっちは妻のドロシー…よろしくお願いします。」

 旅の疲労の中、精一杯 顔を作り、私は握手の為に手を差し出す。

「ええ…こちらこそ…」

 私は クラウドと握手をする。

 確かに服装は気になるが、好印象を受ける。

 周りを見ると酒場の様なデザインとなっていて、カウンター席にあるキッチンには キッチンメイドのオリビアが 気まずそうに頭を下げている。

「さぁ()()()()()()()お疲れでしょう…。

 3階に貴賓室(きひんしつ)と、御付きの皆様の為の部屋を用意しております。

 お屋敷の部屋とは 比べるまでも無いでしょうが、まずは こちらの部屋でゆっくりと旅の疲れを落として下さい。」

 ナオは 疲れを隠しきれなかったドロシーの顔を見て、こちらに気を使って言う。

御気遣(おきづか)い感謝いたします。」

「マシュー…部屋の案内を…」

「はい」

 バギーを止めて後から入って来た マシューは ナオから鍵を受け取り、3階の貴賓室(きひんしつ)に案内される。

「おおっ」

 部屋の中には 大きなガラス窓があり、正面が川と言う事もあって 非常に日当たりが良い。

 部屋には 調度品は無いが、クローゼット、化粧机、全身を写す鏡があり、目隠し用のカーテンまである。

 反対側にある大型のベットが2台には純白で清潔なシーツに包まれいて、ベットに座って見るとベットが 身体を包み込み、毛布も肌触りがとても良い。

 更に部屋の真ん中には テーブルを挟んだソファーがあり、これも座り心地が良い。

 小物を入れる為の棚も高級感がある良質な物を(そろ)えていて、良質な物を見つける商人の目や職人の目利きは なかなかの物だと分かる。

 と言うか、これは クラウド商会のバックに付いている彼らの国の製品なのか?

 まぁ…取りあえずは、今は休んで明日の昼に備えよう…。

 私達は 寝間着姿に着替え、ベットに横になると すぐに意識が落ち、深い眠りに ついたので あった。

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