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13 (サルモネラ菌)〇

 オリビアの作ったクリームアイスは、従業員達に好評で、揚げ物と同時に 通常のメニューに組み込まれた。

 これにより、週2~3回のペースで クリームアイスを食べられる様になり、甘味料は 力仕事が多い 労働者の大きな支えとなった。

 そんな、クリームアイスを食べだした 1週間後…。

 朝、夜明けと共に起きたオリビア、ナオ(オレ)、クラウドは、身支度を整えて 自室から食堂に降り、オリビアは 朝食の準備を…オレ達は 商会の掃除を行っている。

 掃除をしていると しばらくして、3人が階段から降りて来た。

「うっ…イタタタ」

「うっ…熱が…」

「ヤバイ…吐く…ウエっ仕事…」

 それぞれ 腹痛、発熱、吐き気をしており、かなり苦しそうだ。

「苦しそうだな…無理に働かなくて良い 今日は休め」

「助かります…うわっ」

 ゆっくりと降りていた従業員が階段を踏み外し、バランスを崩して 倒れる中、オレが受け止める。

「おっと…重っ…平衡感覚が狂っているな。

 風邪か?」

 オレが従業員の額に手を当てる…確かに熱い。

「見たいです…あ~」

 何とかテーブル席に座って従業員が ぐったりとしている。

「おはよーございます…クラウド…。

 申し訳ない…今日は体調が悪くて…」

「あ~休んで良いよ」

「感謝します…あ~」

「これで4人か…オリビア、配膳はオレがやる。

 風邪がうつるかも知れないから、極力近寄らないで…」

「分かりました…食事も負担が軽い物にしましょう」

 しばらくしても、残りの従業員が降りてこない…今日は 後3人いるはずだが…。

「もしかして、起きられない?」

「オレっ見に行って来る」

 オレはクラウドにそう言うと、階段を駆け上がり、従業員の個室に向かった。


「当たり…オリビアとオレ達以外全滅…。

 確実に集団感染だな。

 仕事は もちろん休業…てか、動かせる人員がいないしな…」

「今日戻って来る奴は?」

「荷物を降ろして貰って 最悪、車中泊。

 希望するなら宿代も出す。」

 オレがクラウドに言う。

「分かった。

 病人は任せて良いか?」

「ああ…こっちは大丈夫…。

 経営は任せる。

 さてと、まずは 検査からだな…」

 オレは倉庫に向かうクラウドの背を見ると、リュック型の救急箱を持って来て、中から 水銀温度計を取り出し、患者の体温を測って行く。

 結果は38℃~40℃…十分高熱だ。

『こちらナオ…ハルミ…今、大丈夫か?』

 オレはトニー王国にいるハルミに量子通信で話しかける。

『急患か?』

『そう、集団感染だ。

 ドラムのアップデートデータを送ってほしい。』

『分かった。』

 オレは倉庫に置かれているドラムを起動させ、普段充電に使っているマグネット端子が付いたケーブルをオレとドラムに取り付け、有線接続する。

 ハルミからトニー王国で 今も学習中のドラムのデータが、オレを経由してドラムに流れ込み、ドラムのアップデートが始まる。

 時間にして30分は 掛かるな…。

 食堂に降りて来た従業員達 全員が、オリビアが用意したミドリムシとコーンミールで作ったコーンスープを食べ、部屋に戻って休む。

 ドラムのアップデートが終わった所で、オレは降りてこれない従業員にコーンスープを届け、ドラムが出して来る問診に ひたすら答えて行く。

 結果、風邪、もしくは インフルエンザの可能性があり、と診断が出た。

「まぁインフルエンザのワクチンが無い以上、対処方法は一緒だよな」

 対処法を見ると、風邪のお決まりの対処法『消化がし易い 食べ物を食べろ』『水分を十分に取れ』だ。

 水分補給用の水は 水1リットルに食塩2g、砂糖40gを溶かしたスポーツドリンクが推奨されている。

 薬の処方は、解熱 鎮痛効果がある薬『アセトアミノフェン』まぁ一般的な 風邪 薬に入っている成分だ。

 この薬を600mgを1日2回6時間の間隔を空けて飲ませろとの事だ。

 ただ、この薬は ウイルスを殺すのではなく、苦痛を緩和させる為の薬で、菌への対処は 身体の免疫機能に頼る事になる。

「何か分かったか?」

 テーブル席で 今後の運搬スケジュールを調節しているクラウドがオレの方向を見て聞いて来る。

「ああ…どんな菌かは 分からないが、対処法は 風邪と同じだ。」

 そもそも風邪とは 軽度な発熱を行う病気の総称で、原因になっているウイルスは200種類以上も あるので、正確な菌の特定は不可能に近い。

 だが、肺炎などの合併症(がっぺいしょう)を起こさない限り、この方法で対処可能だ。

『ハルミ…ドラムからの結果が出た。

 問診の内容も含めて 確認してくれ』

『はいよ…。

 ふむ…私もドラムと同意見だが、ドラムは食中毒の可能性も考えている。

 ありそうなのは ジャガイモの芽に含まれるソラニン、チャコニン、後は サルモネラ菌だな。』

『確か卵に入っている菌だよな。

 ちゃんと過熱して出しているぞ』

『他に肉やら牛乳にも含まれている。

 ここ1週間の食事リストは あるか?』

『確か、オリビアが記録を残していたはず…「オリビア、ここ1週間の食事のメニューの記録はあるか?」

「ええ…調理日記ですが…どうぞ」

 オリビアが キッチンの引き出しから日記帳を取り出し、オレに渡す。

「えーと、やけに細かく書いてあるな」

 食事のメニューだけでは無く、料理の改善点、食べた感想、オリビアが見て気になった従業員の健康状態が書かれている。

 これなら十分 役に たちそうだ。

「食事が原因で病気になる事もありますから」

 オレは1週間前の日付から速読で文字を読み込んで、テキストファイルに変換する。

『よし、日記を送った…受け取ってくれ』

『受け取った…ふむ…ジャガイモは日常的に調理しているから問題無いとして、そうなると 原因は 最近作り始めた生クリームだな…レシピに過熱処理の記述がない。

 サルモネラ菌は 凍らせても 死なないし、砂糖を加えると熱耐性が上がる。

 これだと 感染ルートは 卵と牛乳かな…。

 サルモネラ菌は 75℃で1分程度で死滅するから、良く加熱すれば まず当たる事は無い。』

『助かった…とは言ってもドラムが誤診か…まだまだ だな。』

『まぁ 完全無菌で増やしているミドリムシで作った ソイフードだと食中毒は 起らないからな…ドラムが学習する為の症例が足りなすぎる。

 とは言え、対応自体は 風邪の時と変わらないから 合っていると言えば 合っている…それじゃあ』

 ハルミは簡潔にそう言うと、接続を切った。


 個室で咳をしながら辛そうに寝むれない従業員達に薬を飲ませ、ある程度 落ち着いて来た 午後…。

 オリビアと直接市場に行き、卵と牛乳を無作為に少量ずつ買い、クラウド商会の食堂に戻る。

「さてと…」

 オレは プレパラートに牛乳を数摘垂らし、顕微鏡を使って中を確認する。

「おお…いるいる…ほらコレ」

「うわっ…私達、こんなのを食べていたのですか…」

 オリビアが顕微鏡を覗きながら言う。

「まぁ過熱すれば死ぬから、問題がないんだろうが…」

 オレは七面鳥の卵を手に取って見る。

 殻には 七面鳥の糞が少し付いていてる…まぁ七面鳥は糞も卵も同じ肛門から排出するから 付いていて当然と言えば 当然なのだが、殻の洗浄も一応やっているが適当で、衛生問題は大あり、殆ど確信しつつも割った卵の黄身を顕微鏡で見て見ると、やっぱりサルモネラ菌がいた。

「確定だな…原因は 卵と牛乳か…。

 それにしても、衛生環境が酷過ぎだろ」

 実験で使った卵と牛乳は、オリビアがコンロで加熱し、再度 顕微鏡で検査…。

「うん…加熱をすれば 大丈夫だな。」

 サルモネラ菌は普通に見えるが、おそらく死んだのだろう動きがない。

「原因が分かって良かったです。

 さて、皆さんに昼食を作らないと…」

 オリビアは 生クリームと牛乳、コーンミールを鍋に入れ、肉や野菜を入れてコトコトと煮込み始める。

「コーンクリームシチュー?」

「そう呼ぶのですか?

 これは ミルク煮込み(ラグー)です。

 生クリームを入れるとトロミが増すので、入れて見ました。」

 クリームシチューは、第二次世界大戦後の日本の給食で普及したはずだが、オリビアは 自分のアレンジで作ってみたいだ。

「ただいま…今、戻った。

 ナオ…倉庫に誰もいないんだが…」

「お帰りマシュー…。

 クラウド商会は 集団食中毒で3日程休み…原因はクリームアイス」

「あ~…オレ達は、アイスが出る時は 外に出ていたからな。

 結果的に助かった訳か…。」

「今は大丈夫ですよ…食べますか?」

「ああ…貰おう」

 オリビアは 一度、加熱処理して再度凍らせた アイスクリームを冷蔵庫から出す。

「今、食中毒の話をしたってのに良く食べられるな」

 オレがマシューに言う。

「だって 改善したんだろう。

 誰かがアイスを食べて安全を証明しないと、今後 皆がアイスを食べられ無くなる。

 それに オレが食べてみて 食中毒になったら、まだ改善せれていない事が証明されるだろう。

 おお…これは美味いな。」

 マシューは、アイスにスポークを突き刺してパクパクと食べて行く。

「まぁ 食中毒に気付かず ハンコック夫妻にアイスを食べさせて、暗殺を疑われるより、今 分かった方がマシか…。」

「昼食の準備、出来ましたよ。」

 オリビアが人数分のコーンクリームシチューが入った器をキッチンテーブルに並べて行く。

「え~とドリンクは向こうにあるから、後は薬と体温計か…。

 それじゃあ 行って来る。

 マシュー達は 上の従業員との接触は抑えて…感染が広まるから」

「分かった。

 となると…今日は 倉庫で寝泊まりかな」

「悪いな…他の宿に泊まりたいなら、金は出すよ」

「いや…ここの方が清潔で便利だ。

 ここで良い。」

「そうか…」

 オレはそう言うと階段を上がり、従業員の個室に行ったのだった。

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