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12 (歌う七面鳥)〇

 翌日…ナオ(オレ)達は 当日に来ていく服装について食堂で考えていた。

「服装か…ここに来てから全然、気を使っていなかったからな…。

 貴族の服を取り扱っている服屋に頼んで、オーダーメイドで作って貰うのが一番 無難 何だろうが…」

 オレはクラウドに言う。

 オレ達は 撃たれる可能性を警戒して、この時代の景観に合わない 防弾チョッキを付けたパイロットスーツの上から黒いローブを着て隠している。

 その服装は まるで魔法使いの様で、貴族の服とは程遠い。

「こちらの売り込みとしては、外国企業らしく服装のデザインに珍しさを与えたい。」

「民族衣装って感じか?」

「そう…ただ奇抜過ぎてもダメ…」

「って言っても、ウチらの国じゃ 男の服って3種類位しかないだろ。」

「まぁな…」

 1つ目は ワンピース スタイル…。

 ワンピース…つまり、上下が一体化になったロングスカートの服で、下から着こんで 腰ひもを締めるタイプだ。

 これは 簡易な作りで、男女共用で使えて、サイズもある程度 調整が 利くので、子供から大人まで 広く普及している。

 この服は トニー王国の建国前の先住民が着ていた服なので、民族衣装とも言えるが、ここの女性の私服に似ていて珍しさはない。

 2つ目はジーパン、Tシャツ スタイル…。

 バギーに乗る時にスカートが邪魔になった事で ズボンが普及し始め、それと同時期にTシャツが開発された。

 オレ達の中だとジガやクラウドが このスタイルになる。

 で、最後のジャージスタイル。

 これは オレが普段ジャージ姿でいる為、代えのジャージが欲しくて オーダーメイドした事がキッカケで広まった服だ。

 この3種類がトニー王国の男らが着ている服で、オレが服に無頓着な事もあり、女の服と比べて 完全に素人の民間の職人に任せっきりの為、発達が遅い。

「となると オレ達は オフィスカジュアルになるのか?」

「ナオは ジャージで良くないか?」

「良いのか?」

「ああ…別に問題無いだろう…。

 何かあれば こっちでフォローする。」

「了解…」


「戻りました~」

 朝…市場から戻って来たオリビアが言う。

 その手には 丸ごと1羽の七面鳥が握られ、次々とキッチンテーブルに食材が並べられていく。

「七面鳥の丸焼きか?

 ん?…水銀!硫黄!

 まさか…ハンコックを殺す気か?」

 七面鳥の横に並べられた小瓶を再度確認して見ると、確かに水銀(mercury)硫黄(sulfur)と英語で書かれている。

 明らかに料理には相応しくない…ハンコックを仕留める為の銃弾でも作るのか?

「いえいえいえ…ナオは 知らないのですか?

 singing(シンギング) turkey(ターキー)?」

歌う七面鳥(シンギング ターキー)?」

「ええ、締めたターキーに水銀と硫黄を流し込んで、下から火で(あぶ)って熱を加えるとターキーが鳴き出すのです。

 ドロシー様の好物で、お祝いの時には 必ず召し上がっていました。」

「あ~この時代だと まだ水銀は健康食品か…。

 って事はドロシーは 水銀中毒だったのか?」

 確か ハンコックの妻、ドロシーは2人の子供を産まれて すぐに亡くしているはずだ。

 彼女が水銀中毒なのだとしたら、腹の中の子供に 何らかの影響が出ていても不自然(おか)しくない。

「水銀も硫黄も即死は しないが毒物だ。」

「え?…じゃあ何で、寿命が延びる健康食品として扱われているのですか?」

「中国…いや今は清国か…の不老不死の霊薬を見つける事が目的の煉炭術(れんたんじゅつ)の知識が広まった物だ。

 多分、清国では もう毒だと認知されている はず…なんだけど、距離的に真偽を確認しようがないからな…。」

「そんな…」

「栄養学の知識はあるってのに…何で毒物の知識が無いんだ?」

「それは…そう教えられたから」

「なら、これからは自分の力で その情報が正しいかを確認して行かないとだな…取り合えず、定番のターキーの丸焼きを頼む」

「はい…」

 ターキーの首を切断して 皮を剥ぎ、内臓を取り出して足から吊るす事で首から血が落ち、血抜きを行う。

 その間に鍋に水、塩、黒胡椒、オレガノ、ローズマリー、ナツメグ、唐辛子を加え、血抜きしたターキーを水で軽く洗って鍋の中に入れる。

「これで、夕食前まで待てば、下ごしらえはOKです。」

「何か香辛料マシマシって感じだな。

 普段は そんなに使ってないのに…」

「香辛料は値段が高いですからね。

 こちらの財力を見せつける為には必要です。」

「え?財力?味じゃなくて?」

「ええ…パーティ料理だと いくら高級食材を投入出来るかで決まります。

 美味しさは二の次…いや、高級食材は 美味しいになります。

 そこの調整を何処(どこ)まで出来るかが、料理の出来になります。」

「価格と美味しさは 本来 比例しないんだけどな…。」

「私もそう思います。

 ですが、貴族の皆様が香辛料が効いた食事を好むのも事実です。

 後は…砂糖料理があれば…」

「砂糖…また高い香辛料だな。

 アイスクリームなんて如何(どう)だ?」

()()()()()()()ですか…良いですね。

 こちらなら、冷凍庫で冷やしておけますし…。」

 そう言うとオリビアは アイスクリームを作り始める。

 ボウルに牛乳、卵、砂糖を加え、ポレンタを作る時に使うハンドミキサーで、10分程 よく かき混ぜる。

 多少の粘性が出て来たら ボウルごと冷凍庫に入れて、冷えて固まれば完成だ。

「ナオの国の肉料理で歌う七面鳥(シンギング ターキー)より興味を引きそうな物は何か ありませんか?」

「あ~そうか…。

 そうだな…こっちって揚げ物(フライ)は まだ無かったよな。

 フライドチキン…いや(チキン)は いないから フライド ターキーになるのか?」

「作り方を教えて貰えれば作れますが…」

「よし、作ろう、作ろう…」

 オレは ステンレスの鍋に豚の脂のラードを大量に入れ、酸水素コンロで熱を送り、代用てんぷら油を作る。

 それに一口サイズにカットしたターキーにコーンミールに卵を混ぜた衣をたっぷりと付ける。

「揚げ物の基本は 低温と高温で2度揚げる事。

 温度は鍋に衣を落とした時の沈み具合で判断する。

 鍋の下まで沈むのが低温、油の表面付近で衣が広がる辺りが高温。

 まぁオレは知識としては知っているが、料理は専門外だ。

 実際に衣を落として見て、挙動を確認してくれ」

「はい…確かに これは 温度調節が苦手な薪や石炭の かまど だと ちゃんと作れない料理ですね。」

 オリビアは ガスコンロの出力を こまめに調節ながら油の温度を上下させ、ひたすら衣を落として油の中での振る舞いを確認している。

「だろ…出力を簡単に調整出来るガスコンロだからこそ 美味く出来る料理だ。

 向こうも これを再現するのは 難しいだろうな…。」

「ですね…しばらくは揚げ物を練習して見ますね…奥が深そうです」

「頼んだよ」

「さて、料理は何とか なりそうだ。

 クラウド…マシューは?」

「服は大丈夫なんだけど、作法がな。

 はい…姿勢を伸ばして…」

 オフィスカジュアル姿のクラウドは、流行にそったイギリス紳士服を着ているマシューに礼儀作法を教えている。

「何と言うかキッツイな~」

 服装はシッカリしているのに、元々盗賊の出だからなのか、立ち振る舞いに粗雑さが出ている。

 まぁそれは オレもなんだけど…。


 夕方…。

 下ごしらえをしてあったターキーの中にジャガイモや野菜などを入れて、220℃の温度のガスオーブンで焼き上げる。

「ターキー焼き上がりました。」

 鍋つかみを持ち、綺麗なキツネ色の七面鳥の丸焼きが出来上がる。

「おおっ今日は豪華だな…」

「試食会だからな…」

 仕事を終えて食堂に来た従業員に対してオレが言う。

 続いて、たっぷりの衣で包まれたターキーを油が入った鍋に入れ、こまめに温度を確認しながら、低温、高温でターキー揚げていき、唐揚げが出来上がる。

 いつもと比べて肉料理が多く、従業員達のテンションも上がっている。

「それでは…」

「「食べ物に感謝を」」

「うんめぇな」

「唐揚げだっけ?

 これ 通常の食事メニューに入れてくれないかな」

「人気は上々の様だな…」

 オレはクラウドとマシューを見る。

 マシューは 慣れない手つきで クラウドが監視をする中、普段使わないナイフとフォークを使い分けながら食べている…テーブルマナーの訓練だ。

 そして 食後のアイスを食べ、従業員は誰もが満足そうだった。

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