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08 (補給依頼)〇

 1754年、ここに来て3年が経っていた。

 ケベック商会で換金出来る手段を手に入れた事で トニー王国の物を売れる様になり、港の近くにある幅が1kmはある セントローレンス川の川岸(かわぎし)の土地を正式に購入…。

 川に浮き桟橋を作って 夜に川から浮上して来る 潜水艦から荷物を受け取れる様にした。

 まず、トニー王国から潜水艦で運ばせたのは、折り畳みが出来るコンテナハウスだ。

 これを組み立てて クラウド商会のケベック支店を建設する。

 建物は ガラス繊維と炭素繊維の複合装甲で作られているが、外側にレンガのタイルを張り付けており、この時代に最低限浮かない イギリス式のレンガの建物に見える。

 中に入ると涼しい風が吹き付ける。

 川の底に沈めたマイクロ水力発電機からの電気を使う事で、エアコンや電球、冷蔵庫などの家電製品が動かしているので、トニー王国の時と大して生活は変わらない…。

 まぁ不便なのは ネットが出来なくなる事位だが、量子通信が使えるナオ(オレ)達は、ホープ号を中継する事で トニー王国のネットにアクセス出来る。

 そして、イギリスのブライトンには ジガが担当しているクラウド商会のブライトン支店があり、ここの支店と物のやり取りをしている…と言う事になっている。

 実際は、物の名前や数字のデータを帳簿上で架空の貿易をして業務実績を膨らませて行き、少量の(きん)と、その金と一緒に取れるこの時代では不純物として廃棄されているプラチナをブライトン支店が買い取りトニー王国の本店に送り、プラチナのインゴットや、鉄の表面に金メッキ処理をしたインゴットを作って、こっちに持って来ている。

 持って来たインゴットは 店の中にある 大きくて頑丈な金庫の中に積んで入れる…。

 これで 見かけ上の保有している金の量を増やせて、商人に見せれば信用が得られる訳だ。

 で、貿易の他にクラウド商会がやっている仕事は 輸送業務の委託(いたく)だ。

 これは 速度が速く、盗賊に襲われても確実に荷物を届けてくれるクラウド商会を頼って、かなりの数の仕事を請け負っており、本国から追加で持って来た6台バギーを使った流通業は、上々な成績を出している。

 今は 稼いだ金で畑を買って、ライムを植えて大量生産を始めている。

 これが実になるのは3年後…その頃には、壊血病の特効薬である このライムは 爆売れしている事だろう。

「ご主人…輸送 終わりました」

「ご苦労…明日は 開けておくから ゆっくり休んでくれ」

「感謝します」

 そう言って、ここで雇った従業員のマシューが階段を上がり、2階の自分の部屋に行く…。

 元黒人奴隷で オレ達を襲った盗賊達は、今ではクラウド商会と雇用契約をしている ちゃんとした従業員だ。

 彼らは ここら辺の道に精通していて、盗賊との繋がりも まだ持っている。

 なので その繋がりから、ライバル企業のルート情報を教えて襲わせたり、盗賊達に貴族の屋敷に忍び込んで帳簿をコピーして来て(もら)ったりと言った裏方の仕事も頼み、その情報を使って(さら)に商会が成長する好循環になって来ている。

 やっぱり ちゃんと衣食住を保障して教育をすれば、肌の色に対する性能差は無い。

 この支店を運営した事で それが数値として ちゃんと証明された。

「ナオ…またブリテンの徴募官(ちょうぼかん)が来た」

 クラウドが言う。

「今は戦時中だからな。

 とは言え、戦列歩兵になって敵から撃たれる気にはなれない。

 いつも通り断ったのか?」

 今は 後にフレンチ・インディアン戦争と呼ばれる戦争の真っ最中だ。

「ああ…ただ 今回は仕事の依頼を持って来た。

 仕事内容は ニューヨークで物を積んでネセシティまで持って行く、補給部隊だ。」

 クラウドが地図を広げて指を差す。

 ここから ニューヨークまで 約300kmか…。

 馬なら1週間…オレ達なら2日になる。

 そこで物を積んで(さら)に200km先のユニオンタウンの位置にあるネセシティまで運ぶと…補給線が長いな…。

「ネセシティ…ネセシティ砦か」

 アメリカの初代大統領…ジョージ・ワシントンが敗北する砦だ。

「砦?あそこには 砦は無かったはずだが…」

「これから出来るんだよ。

 よし、金次第だが 交渉に応じる。」

「分かった…アイツは 酒場にいるはずだ。」

「了解」


 酒場…。

「やあ、先ほどは どーも、依頼の交渉に応じる事にしました。

 報酬次第ですが…」

 クラウドが徴募官(ちょうぼかん)に言う。

「おお 有難い…では、2階で…マスター」

「商談か…2階の1号室が空いている…。」

 そう言い、鍵を渡す。

「ありがとう」


 2階の部屋に入る。

「それで…やけに補給線が長いようですが…」

 クラウド()徴募官(ちょうぼかん)に言う。

「確かに…フランス軍は この町から食料を集めて補給を行っています。

 ご存じの通り、こちらの方が補給線が長い。」

 徴募官(ちょうぼかん)は地図を広げて言う。

 長さは およそ200km…馬で4日の距離だ。

「ですが、物資の量は 海上輸送で送れる こちらが圧倒的に上…。

 つまり、如何(いか)に ニューヨークの港から現地に大量の物資を送るかが勝利の鍵となってきます。

 今回クラウド商会に仕事を頼むのは、積載量と速さが欲しいからです。」

「ふむ…それで、敵との戦闘は?」

「移動中は、こちらの物資を狙った盗賊が出る可能性があります。

 ただ フランス軍と戦闘が起きるならネセシティでしょう。」

「私達は商人であって イギリス(ブリテン)軍じゃありません。

 なので、フランス軍と接触した場合、こちらは 物資を捨てて全力で逃げさせて(もら)います。

 あなたの国の為に死ぬ気は全く無い…。」

「それで構いません…。

 では…期間は半年で、報酬は こちらで…。」

「相場の1.5倍ですか…」

 金額を見て私が言う。

 吹っ掛けて来ると思ったが割と良心的な値段だ。

「仕事が無事に終わりましたら、成功報酬を別で払います。」

「かなりの好条件ですが、良いのですか?」

「ええ…今インディアンの民兵の募集もしているのですが、両軍とも戦力が拮抗(きっこう)していて、勝ち筋が見えません。

 なので、民兵の募集に応じない…。」

「負ける軍には 着きたく ありません からね」

「ええ…アナタの活躍でブリテン側が優勢になれば、民兵の数も増えるでしょう…それを 考えれば安いものです。」

「分かりました…こちらは、馬車を6台出します。

 出発は3日後です。」

「よろしくお願いします。」

「こちらこそ…」

 そう言い、私は握手をした。


「ニューヨークですか…結構遠いですね」

「ああ…オレの他に5人連れて行きたい…。

 クラウドと他は ここで待機…店を頼むよ」

「分かった」

 ナオ(オレ)の言葉にクラウドが(うなず)く。

「オレは ご主人と一緒に行きます…」「オレもナオには 恩がありますから…」「オレも」

「あっさりと決まったな…よし、今日入れて2日…ゆっくり休んでくれ」

「はい」

 マシュー達 従業員が、元気よく返事をして それぞれの部屋に戻る。


 朝…。

 夜明けの中、屋根付きのバギー6台の幌馬車(ほろばしゃ)がオレを先頭に並んでいる。

 荷台には 食料や日用品の他に メイン2本予備2本の計4本のガスタンクとマイクロ水力発電機、それにドラムを2台が それぞれ積まれている。

 輸送ルート上に川が流れているので、そこで発電して酸水素を作れば 燃料は十分に持つだろう。

「そんじゃあ、行くぞ」

 オレは アクセルを回して加速させつつ、時速40km程の速度でニューヨークへと向かった。

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