07 (先住民)〇
翌日…。
「何と言うか遅くねぇか?
前の馬車を引き殺さないか怖いんだが…。」
森の中をバギーの幌馬車を引きながらナオが後ろに座るクラウドに言う。
今はバギーは 時速10kmしか出ていなく、完璧に徐行状態だ。
「荷馬車なら それなりに速い速度だ。
普通なら6km位だらかな。」
「それって徒歩より ちょっと速いくらいじゃないか」
「そう…行き先は 地図で見た所 60km程。
ただ、道も真っすぐじゃないし、この貰った地図の縮尺も本当に正しいのか怪しい。
隊長が言うには 片道1泊2日らしい。」
クラウドがアメリカ大陸の東部を拡大した地図を広げながらオレに言う。
クラウドが持っている地図は、馬車が移動する道の目印も含めて書いてあるが、開拓中の場所は 海岸からの地形だけで一切の記載がない。
「マジか…オレらなら信号も無いし、3時間も あれば着けるよな。」
「そうなんだが…ケベック商会が買った物を私達が盗む可能性があるから、馬車隊の監視役を付けているんだ。
自前で商品を購入して ケベック商会に売る事も出来るけど、手持ちの金だと荷台を満載にする事も出来ないな。」
「はぁ…信用を得るまで どの位 掛かるんだか…」
オレは また前を見て慎重にアクセルを入れた。
「今夜は ここで野宿をする。」
空が夕焼けになり、赤くなって来た所で 馬車隊の隊長が馬車を止める。
「隊長…見張りは?」
「いい…盗賊が近づけば コイツが気付くから…。
クラウド達は 起こされたら すぐに動ける準備をして休んでくれ。」
隊長は一緒に馬車に載せていた愛犬を撫でながら言う。
「了解…しました。」
なるほど…自分の犬に警戒させているのか…。
焚火が暗闇の森の中を照らす中、馬車隊のメンバー達は 次々と寝て行く。
「犬がいるとは言え、本当に見張り無しかよ…」
「ナオ…私達は?」
「寝てて良いよ…オレが見ておくから…」
「助かる…それじゃあ、おやすみ…」
「おやすみ…クラウド…よっと」
幌馬車の上にオレは上り、座った状態で ホルスターの留め具を外して目を閉じる。
オレは生身の時から 家のベッド以外だと眠りが浅く、ちょっとした事でも起きてしまうので、見張りには適任だ。
「来たな」
馬車隊を包囲している集団がいる…距離は15m位か?
オレは目を開けてリボルバーを取り出し、辺りを見る。
オレの目は 設定次第で、紫外線から赤外線までを見る事が出来る。
つまり、サーモグラフィや暗視装置としても使える便利な目だ。
敵は26人…黒色の肌の黒人…。
開拓地に運ばれて来た黒人奴隷達か?結構多いな。
「ウォオオン」
「警戒警報?」
隊長の犬が警戒警報を放つと メンバー達は すぐに起き上がり、1分で馬車隊の周りを囲み、1発分の火薬が入った紙袋を歯で引きちぎり、マスケット銃に火薬と球体の弾を入れて棒で奥に押し込み、警戒態勢に入る。
こちらの武器は、銃剣を付けたマスケット銃と腰の剣だ。
敵は遠吠えでビクリとするが、想定内だった様で、更に包囲を狭めていく。
クラウドが馬車から出て、PP-2000を構える。
「早いな…隊長!殺して良いか?」
「許可する…」
「了解…」
オレは リボルバーを構え、敵の隊長ぽいヤツの額に低殺傷弾を撃ち込み、相手がストンと倒れる。
これでビビって引いてくれれば良いんだけど…。
「あらら…逃げないで向かって来るか…」
「撃て撃て!」
隊長の合図でメンバー達が横に並び マスケット銃を構えて、撃つ。
発射された弾は パチンコ玉の様な球体で、バレルは ライフリング加工もされていないので 命中率は あまり期待出来ない。
だが、その分 相手との距離が近い…。
5発撃って3人に命中…暗闇で この精度を出せると言うのは、かなり良い方だろう。
その反対側からは、6人の敵がマスケット銃を構えて狙いを付けている。
マズイな…。
パパパ…パパパ…パパパ…。
3点バースト…クラウドか…。
クラウドの放った弾は 敵の腹部や胸に当たってマスケット銃を構えていた敵が、次々と倒れる。
「良い腕…次はこっちか…」
オレがウージーマシンピストルを取り出してセレクターを押し込み、セミオートで射撃、敵が持っているマスケット銃を撃ち抜いて 弾き飛ばす…。
敵がオレに気付いた…撃つ。
「な…」
如何やら、オレの弾が敵のマスケット銃のバレルの中に入った様で、異物を入れられ発砲した銃は爆発し、バナナの皮の様にめくれて広がる。
銃を破壊された敵は逃げ始める…。
敵26人中こっちが無力化 出来たのは10人か…。
「無事か?」
「ああ…助かった。
それにしても その銃 凄いな…単発式じゃないのか…」
「そう…さてと、生きている奴はいるか?」
オレとクラウドは 医療キットを持ちながら 周りを歩きながら撃たれた敵を見て行く。
マスケット銃から離れれる弾は パチンコ玉の様な球体だが、口径が大きく、威力が低い黒色火薬を使っているが、詰め込んでいる火薬の量が その分多い。
おおよそ その威力は1000J程度…。
オレ達が使っている9パラの2倍の威力で5.56mmのライフル弾なら3分の2位の威力になるので、それなりにヤバいはずだ。
「コイツは ダメだな…」
太い動脈をやっちまったんだろう…。
顔面が蒼白で血がダラダラと流れて続けている。
流れている血の量は 1L以上…まだ生きているが、失血死は確定だ。
次…次…。
「これで全部か…」
比較的、救える負傷兵4人を集めて治療を行う。
後で病院で治療を受けられるなら やりようはあるが、治療を受けられないだろうし、これしかないか…。
まずは出血を止める為、傷口をバーナーで焼いて その後の火傷から来る感染症の防止の為に消毒液を掛けて 布を巻いて行く。
「あががが…」
「はい…暴れない」
「ナオ…行くぞ、ソイツらは、私達を殺そうとして来た盗賊だ。
放っておいて構わない。」
メンバーを集めて出発しようとしている隊長が言う。
「オレ達だって食いっぱぐれば、盗賊になって人を襲う事もあるんだ。
その時に撃たれて治療されなかったら嫌だろう。
先に行ってくれ…後で追い付く。」
「分かった。
よし、皆行くぞ…夜明け前までに村に着くぞ」
「はい…」
警戒しながら馬車隊がゆっくりと進んで行く。
「はい、これでOK…クラウドは?」
「終わった。」
「何故オレ達を助ける?」
「盗賊をやるだけの理由があるんだろう。
普通なら こんなにリスキーな事はやらない。」
「オレ達は 主人から逃げ出して来た元奴隷だ。
だが、仕事を得ようにも主人に噛みついた黒人のオレ達を金を払って雇ってもらえる所なんて無い。」
「なるほど…まともに衣食住を保障して貰えなかったのか…。
ほら行け…もう やるんじゃないぞ」
「昔は金なんて無くても食い物に困らなかったってのに…」
「それが植民地だ…物も人の命も全部、金に換算されて誰もが儲ける事しか考えてない…オレ達も含めてな。
それじゃあ、行くぞクラウド…。」
「ああ…」
オレとクラウドは バギーに乗り、元奴隷達を横を通り過ぎる。
オレはアクセルを回して、馬車隊を追いかける。
「ここでの仕事は決まったな…」
「ああ…そうだな」
オレの言葉にクラウドが そう答え、馬車隊に追いついたのだった。