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12 (手を抜く事には 手を抜かない)〇

 切り倒した木と竹を何回かに分けて拠点(きょてん)と現場を往復し、今日の仕事が終わって川まで行くと 生石灰に水と砂を加えて出来た『石灰モルタル』製の新しい炉が完成していて 煙突からモクモクと煙が出ている。

 側面から出ている竹パイプから 何かの液体がポタポタと下の竹の容器に落ちていて、定期的に奴隷が竹の容器を交換しているようだ。

 蒸留器(じょうりゅうき)か?

 一回 物を蒸発させて気体にし、温度を下げる事で液体に戻し、必要な物質を高濃度(こうのうど)で集める方法だ。

「戻ったか…。」

 クオリアがこちらに気付いて言う。

 ナオ(オレ)はファントムから降り、新しい炉を見上げる。

「生石灰はもう出来たのか?」

「ああ…今は土器で容器を作っている。

 容器が完成すれば 次はガラスだ。」

 土器は粘土質の土があれば簡単に出来る。

 粘土で形を作って焼けば完成だ。

「2、3日って言っていたのにもう出来るのか…。」

「ああ…ハルミの石鹸(せっけん)は失敗したからな…こちらが急いでいる。」

「ハルミが失敗?珍しいな…。」

「炭酸カリウム+酸化カルシウムで アルカリ水溶液を作ったのだが、竹の容器が耐えられず 溶けてしまった。

 予想よりアルカリ濃度が高かった見たいだ。」

「やっぱり誤差は出るか…。

 ここだと ロクに計測も出来ないからな…。

 それで薬品耐性を持つガラスか?」

「ああ…ただ、強アルカリは ガラスも溶かしてしまうので長期間の保存は不可能。

 だが、5倍程希釈すれば 強アルカリからアルカリに濃度を落せるから十分に耐えられるはずだ。

 ただ、何で溶けたのだろう?

 通常ならそこまで高い濃度になるとは思えないのだが…。」

クオリアが言う。

「うーん…考えられるのは容器の問題かな?」

「容器?竹か?」

「ああ…竹は弱アルカリ性だから容器と反応して濃度が上がったとしか考えられない。」

 元々濃度は それなりに有ったのだろうが、ほんの少しでも竹を溶かせれば、竹の中に含まれる 弱アルカリを使って濃度を増して行き、竹の溶ける速度を加速して行ったのだろう。

「あっそこは盲点だった。

 なら、ガラス容器なら問題無いな…。」

「オレが考えられる範囲で、だがな。

 それで ガラスは?」

「ああ…これだ。

 砂浜の砂…持って来て(もら)った。

 この中の約20%がガラスの材料の石英(せきえい)だ。

 選別を頼む。」

 クオリアは作った土器を奴隷に渡して言う。

「OK…とは言え、これは地獄だな…。」

 細かい砂の中に透明感のある灰色の砂が石英(せきえい)で、コレがガラスの材料になる。

 クオリアは 縦半分に割った竹の容器に砂を入れて砂粒がよく見えるように均等にして行く。

 そして、竹を縦に割って細い板にし、熱して曲げ 紐で止めただけのピンセットを使って一粒一粒、別の竹の容器に入れて行く…。

 途轍(とほう)もなく面倒な作業ではあるが、クオリアは 機械生まれの機械人の電子生命体(エレクトロン)であり、作業アームの(ごと)き正確さで作業をこなしている…。

 が、当然ながら同じ作業をしている人間の奴隷やクラウドには無理な事で、作業スピードが非常に遅い。

「うん…面倒だな…。」

 人間出身のエレクトロンのオレは 即座に手を止めて諦める。

 『手を抜く事には 手を抜かない』が信条(しんじょう)なオレにとって、こんな効率の悪い方法で地道にやる筋合いはない。

 オレ達が手を抜けるように より楽な方法で砂と石英(せきえい)の選別を出来るようにしなくちゃな。

 まずは 竹の容器に石英(せきえい)が混ざった砂を半分ほど入れてシェイクする。

 石英(せきえい)の比重は2.7程度で他より比重が重いだろうからシェイクして行けば重い石英(せきえい)は砂の上に上がって来る。

 ブラジルナッツ効果と呼ばれる現象だ。


「全然浮かんでこないな…。」

 10分程 竹の容器を振ってみるが全然浮かんでこない。

「ミューズリー効果か?

 それは 砂に対して石英(せきえい)の面積が大きい場合には有効だが…現状 粒の大きさは ほぼ一緒だ。

 と言うより、比重で選別するなら下に溜まっているのではないか?」

 ピンセットで石英(せきえい)を選別する手を一切止めずにクオリアが言う。

「下か…」

 オレは竹の容器の上から砂を少しずつ丁寧(ていねい)に取り除いて行くと、容器の底には石英(せきえい)と砂が混ざった層がある。

「おお有った。

 少なくとも石英(せきえい)の純度を上げるのには役に立ったな。」

「とは言え、それもピンセットで選別しないと行けない。

 手間が増えるだけだ。」

「むう…。」


 なら、遠心分離機だ。

 砂の入った竹の容器を紐でしっかりと止め、投げ縄のように頭の上で高速で回して行く。

 回転させる事に事により、竹の筒の底に遠心力が発生して比重の重い石英(せきえい)が下に(たま)まるはずだ。

 結果はブラジルナッツ効果より純度が上がったが、回すのに疲れる…。

 なので 自動化だ。

 竹トンボが付けられて高速回転しているスピードギアに竹の筒を取り付け、自動で回して貰い 遠心分離機にする。

 結果は楽には なったものの純度は変わらず…。

 選別を行っているクオリアや奴隷の竹の容器を見ると石英(せきえい)がどんどん()まって来ており、クオリアは6ケースを越え、奴隷達とクラウドのチームで3ケース…オレは0ケースだ。

 これだけ見るよオレは仕事をしていないように見えるが、これは労働力の先行投資だ。

 効率化して必要な労働力を減らせれば 元を取る事も簡単に出来る。

 オレはそう信じ、次の手を考える。


 次の手は風だ。

 竹トンボの扇風機の前に砂を落とすと風で吹き飛ぶ…。

 扇風機に竹のエアダクトを取り付け、エアダクトを手で(ふさ)いで出力を調整しながら、砂は飛ばされるが石英(せきえい)は下に落ちる風量を探り、成功…。

 (ふさ)ぐ係と上から落とす係の2名が必要だが だいぶ仕事が楽になった。

 純度も高くなって来ており、装置自体を改良すれば もっと楽に純度が上がるだろう。

 

 長い竹のパイプを横にして 上部の片一方の端だけを切り、砂の投入口を確保…。

 下部には穴を開けて 竹の容器を繋げるように配置して行く…。

 これを扇風機の高さに合わせて設置し、竹の柱で地面にしっかりと固定する。

 これで行けるか?

 オレは上から砂を(つま)まみ、竹パイプの投入口からサラサラと落とす。

 扇風機の風は出力の調整をしていない全力…。

 ただ、比重が重ければ 近くに落ち、比重が軽ければ それだけ飛ぶ距離が長くなる。

 そこに合わせて容器を設置してやれば 同じ比重の物質だけが集まる。

 まぁ実際は水車を使っている以上、風の出力が完全に一定じゃない為、誤差は出るだろうが…。

「どうだ?」

 オレは石英(せきえい)の砂の容器を持ち、クオリアに見せる。

 クオリアは選別に使っていた半分に割った竹の容器の砂を戻し、砂が付いていない事を確認し、オレの砂を入れ 砂粒がよく見えるように均等に慣らして行く。

「純度は90%程度…。

 私達が95%以上と考えると、確かに純度は低いが、低純度のガラスなら これで十分だ。

 何より簡単で早いしな…。」

「よし…。」

 クオリアのお(すみ)付きを得た。


 そして そこからは早かった。

 一度 風力選別機に掛けた石英(せきえい)を もう一度 選別機に掛けて更に純度を上げて、最終工程としてピンセットで目視での砂の排除に入る。

 粒の石英(せきえい)丁寧(ていねい)に採取していた状況から砂粒の排除(はいじょ)が中心になり、効率も各段に良くなっていて、クオリア達が3時前から 今まで やっていたガラスの選別作業の9割の石英(せきえい)が この1時間で選別され、めでたく背負い籠1杯分の砂から石英(せきえい)の選別をしきった。

 空が赤くなって終業時間になり、皆が仕事を中断して食事にあり付こうとハルミの元へやって来る。

 如何(どう)やらハルミは 調理が出来る奴隷を見つけた みたいで、奴隷の中では珍しい太った体型のどう見ても性奴隷には見えない中年のおばちゃんを指導をしている。

 奴隷達の食事係だった人だろうか?

 そう思いつつ、オレとクオリアは ハルミの元へ向かった。

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