03 (帰る場所)〇
「うおっ」
月面で2機の巨人がシャベルを持って接近戦を行っている。
1人がクラウドが乗るファントムで、もう1人がナオが乗るファントムだ。
ナオは シャベルと体術を駆使して、こちらに攻撃を仕掛けて来る。
商人として人生を捧げて来た私は、一応 護身用の為 銃の訓練はしたが、戦闘訓練は 受けていない。
ただ、かなり手加減しているのだろう…所々、ナオが意図的に作った隙が見える。
そんな風に正確に状況を分析 出来るのも 機械の頭になったからだろう…かなり考える余裕がある…あの一瞬の隙に打ち込めれば…。
『そうだ…今の動き…。
クラウドは義体の性能を自分で縛っている…人の動きじゃ付いていけないぞ。』
「分かっている」
この1週間のリハビリで、私は 制御が難しい この義体を 押さえ付ける様にして来たから、私がこの身体の性能を出しきれていない事は十分に知っている。
「見えた!」
その瞬間、ナオのファントムの動きが スローモーションになり、私の放った水平斬りを回避するが、すぐさま足を1歩先に進み、返しでまた水平斬りを行う。
その動きは 前にロウが見せていた身体の動きだ。
シャベルは ナオのファントムのコックピットブロックを掠った。
『お見事…良い腕だ。』
「ロウのデータに助けられた。
とは言え、手加減していただろ…」
『人が出せる 反応速度の範囲で 戦っていた だけだ。
今、クラウドは人の反応速度を超えたんだ。』
「そっそうか…この感覚か」
『何か掴めた様だな…それじゃあ、戻るぞ』
「ああ…」
ナオの後を追う形で 私のファントムは、ホープ号の中に入って行った。
私がファントムの慣らし運転が終わり、ホープ号の整備も終わり、私の祖国である トニー王国へ戻る日だ。
「それじゃあ肩組むぞ」
「了解…」
ホープ号を出たファントム4機が互いの肩に手で掴み、4機が向かい合う形で連結する。
ファントムは 空間内にある量子の情報を書き換える事で動いている。
なので、肩を組んで空間の書き換え面積を減らす事で、演算効率が各段に上がる。
「カウント…5、4、3、2、1…GO!!」
推力を一点に集中させたファントム達が機体が加速をし続け、月の第一宇宙速度を超えて地球に向かう。
地球に近づくと今度は 機体を反転させて速度を落とし、大気圏に再突入…。
断熱圧縮による熱を無効化しつつ、地球を半周する浅い軌道を通ってトニー王国がある死の海域を目指す。
そして、高度1万m…。
ファントムが肩を掴んでいた手を放して散開…通常飛行に移行して速度を落として行く。
ボン…。
機体が音速以下になった事で衝撃波が発生し、機体を立て直しつつトニー王国に進路を修正して進む…。
「見えた…あれがトニー王国か…」
『クラウド…下に貿易船が見える。
高度を上げろ…』
「ああ…」
ナオの指示で私はファントムの高度を上げる。
「ナオ…ファントム以外の空を飛ぶ機械は まだ無いのか?」
『飛行機か…。
多分、基礎研究は出来ているんだけど、飛行機の開発をすると死人が出るからな…』
「それなら、私がテストパイロットをするよ…。
私なら最悪、壊れても直せる。」
『……。』
「如何した?」
『ナオもそうだったが、人が義体化すると、危機管理 能力が下がるんだ。
人の危機管理は、壊れたら容易に治らない脆い身体から来ているからな。』
クオリアが言う。
「なら、やめた方が良いか?」
『ウチとしては 国産の義体の限界を知りたいから、死なない程度に壊してくれた方がデータも取れて ありがたんだが…。』
ジガの声だ。
『おいおい…まっ最終的にはクラウドの判断に任せるけど…本当に気を付けてくれ』
『ナオは義体を2度も全損しているしな。』
『そりゃ仕方ないだろ、敵が敵だったんだから…』
「私はファントムじゃなく、私達の技術で空を飛びたい」
『それじゃあ、クラウドの義体が壊れない様に 安全を重視してやりますか…』
「ああ…よろしく頼む。」
雲を抜けてトニー王国の真上に出て速度を落としつつ、アトランティス町の冒険者ギルドがある デパートの駐車場に着地した。
そこで待っていたのは、車椅子に乗る老いたミアと青年になったククルだった。
「お帰りクラウド…。」「お帰り…じいちゃん」
「ああ ただいま…また よろしく頼む」
私は、未来の世界を見れるなら 家族が全滅し、1人になっても良いと思っていた…。
だが、家族、知人が生きている環境と言うのは良い物だ。
私は そう思い、迎えに来てくれた家族を抱きしめた。