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⊕ヒトのキョウカイ02⊕【未来から やってきた機械の神たちが造る 理想国家₋ユートピア₋】  作者: Nao Nao
ヒトのキョウカイ2 4巻 (Rabbit Wars-ラビッド ウォーズ-)
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20 (ドラムの成長の為に…)〇

「あ゛~ちっとも仕事が進まねーな」

 クラウド()が倉庫に入ると クラウド商会の倉庫 責任者は、ついにキレて怒鳴り出した。

 彼がキレているのは 最近運用している12体のドラムだ。

 仕事内容は 折りたたみコンテナ(折りコン)(たな)に入れられた商品を正しく入れ、コンベアに乗せるだけの比較的 簡単な仕事だ。

 この仕事を12体のドラムが担当している。

 そして、ドラムが折りコンを流した先のコンベア では、24人の作業員が 折りコンの中に入れられているリストと商品を確認し、間違っているなら 後ろのコンベアに流してドラムにやり直しをさせる。

 コンピューターの画面を見た所、誤り率は1%…つまり、商品100個に対して1個は間違えている事になる。

 これが人だった場合、誤り率は0.001%以下だ。

 (さら)に箱の中には 複数の商品を入れる事が普通なので、10箱に1箱のペースで間違いが発生している事になり、非常に手間で使えない。

「済まないね…ただ 仕事のスケジュールは かなり余裕を持たせている。

 頭の悪い新人が大量に来た と思ってしばらく我慢してくれ。」

「おっクラウド社長…済みやせん、愚痴(グチ)なんか()いちまって」

「いや、気持ちは分かる…とは言っても2週間前は誤り率が10%。

 大半の折りコンが2、3回、周っていた事を考えれば 十分良くなっているだろう…後1ヵ月の辛抱(しんぼう)だ。」

 ドラムの運用を始めて 最初の3日間は 物を上手く(つか)めなかったり、握り潰したりと そもそも仕事にならず、1週間後には 誤り率50%、翌週には10%…今は4週間目で1%だ。

 この分だと後1ヵ月もあれば、人の誤り率を超えられるだろう。

 人が3日で覚えられる仕事を12体のドラムがリアルタイムで情報を共有しつつ仕事を続けて2ヵ月…。

 確かにドラムは 非常に覚えが悪いが、時間経過と共に確実に良くなって行く…。

 今は一般労働者の時給は 500トニー前後…。

 対してドラムは まだ1000トニー位 掛かっているが、1年で本体代を回収すれば、翌年からは整備費、電気代(ふく)めて100トニー以下で運用出来る。

 今後、退職も 文句も言わず、ひたすら働いてくれる人材が 格安で手に入るなら、2ヵ月位 仕事が(とどこお)っても未来への投資として十分 受け入れられる。


「はい次の人~」

 診療所(しんりょうじょ)は 今日も暇をしていて、仕事や野生動物にやられた事での負傷か、高齢者の定期検査が多い。

 外傷は別として 人が病気に掛かるのは、突き詰めれば 体内の栄養バランスの(かたよ)りから生まれる不調が 各臓器に波及(はきゅう)しているからだ。

 つまり、完全に栄養調整されたソイフードを幼い頃から食べ続けていれば、こっちの対処が面倒な大病になる確率を大幅に避けられる。

 まぁその分、実務の回数が減ってしまうので 医者としては優秀になれないのが欠点だ。

 なので それらを(おぎ)い医者の最低品質を保つのが ドラムによる専門家(エキスパート)システム。

 これは人工知能の開発初期である 1965年にエドワード・ファイゲンバウムが開発した『Dendral(デンドラル)』が始まりのシステムで、論文や名医の診断傾向を入力して 病名を当てて、希少で単価が高い医者の代わりを作ろうとしたシステムだ。

 この発展の『Mycin(マイスン)』は細菌(さいきん)感染診断(かんせんしんだん)が可能で、正答率 約65%。

 専門医に匹敵するまでには 行かないが、医療の現場で活躍する可能性が十分にあった。

 ただ、難しい病気は言い当てるが、医者が当たり前にやっている事は 暗黙知(あんもくち)となって入力されていなかった為、簡単な事で間違える。

 (さら)に システムの『誤診(ごしん)』が起きた場合の責任を取るのは 開発者側なのか?担当医師なのか?と言う責任問題があり、実用化される事はなかった。

 ただ そんな問題を気にする必要が無いのが トニー王国で、ドラムは正しいと思われる解答を3つ出し、担当医と同じ診断結果なら 残りの2つの選択肢の可能性も考えつつ その病気に対処(たいしょ)する。

 ドラムと全く違う結論が出た場合、再検査をしてドラムの診断結果が正しいかを判断する。

 それでも分からない場合は、一番 知識量と場数が多い私の所に来る。

 これで 最終手段以外 は 現場に(まか)せられる。

 人口が増えれば 増えるほど、私1人じゃ対処(たいしょ) 出来なくなるから、機械のサポートがあるのは 非常にありがたい…。


「イラッシャイ マセ~」

 食材や日用品を売っている 小さなスーパーマーケットでは、ドラムがレジを(まか)されていた。

 ドラムの前に商品が入ったカゴを置くとパッケージに書いてある値段を見て計算機無しに 合計金額を出して「1200トニーデス」と言い、1000トニー札を2枚、渡された時の釣銭 計算もしっかりと出来ている。

「アリガトーゴザイマシタ。」

 言葉が若干(じゃっかん)不自由だが やっぱり マニュアルがしっかり しているなら、ドラムは非常に使える。


 ドラムは自分では食べられないと言うのに料理が得意だ。

 元々、かなりの工程が自動化されていて 材料を適切な割合で入れるだけの仕事になっていたが、ドラムは 計量カップを使って正確に材料を投入してくれるので、配合割合が非常に重要なソイフードと相性が良く、加工機械の操作も完璧にこなせている。

 ここも すぐにドラムに任せる事が出来るだろう。


 パン…パン…。

「ウサギ、命中…次、熊…命中…」

 ドライゼ()が双眼鏡で目標を見ながら言う。

 ドラムは リボルバーを構えて 25m先のウサギや熊の絵に弾を撃ち込んで行く。

 始めは 全然ダメだったが、撃った弾の数が1000発を越えた辺りから急激に命中率が上がり、25m以内なら確実に当てられる様になった。

 ただ、ドラムのカメラ()の性能の問題で、25mを超えると極端に当たらなくなり、拡大鏡が認識出来ないのか スコープを覗いた場合も変な所に撃ち込んでしまう。

 だが 銃弾で容易に貫けない装甲を持ち、限定的とは言え これだけの事が出来るなら、目の性能が向上して 戦闘技術を学習したら恐ろしい敵になるだろう。

 なるほど…ナオ達がドラムを歩兵の主力にしようとしている意味が分かった。

 確かに覚えが悪いが、ちゃんと教えて行けば 歴戦の兵士にも匹敵するだろう。


 バギーに乗ったドラムが後ろの席に作業員を乗せて走る。

 この2ヵ月でバギーが壊れない程度の無数の事故と6台のバギーを中破させ、直した3台のバギーを大破させた。

 (さら)に死人は出していないが、打撲、骨折などで3人の負傷者が出ている。

 で、文字通り骨を折っただけあり、ドラムは アクセル、クラッチ、ブレーキ操作が やっと実用レベルで出来る様になり、今では 先頭にドラムの誘導を行うバギーを1台走らせれば、ドラムバギーが何台でも追走する事も可能になって来ている。

 ただ、対向車や野生動物が道路に出て来た場合の対処には まだまだ学習が必要で、完全無人は当分 出来なさそうだ。

 そろそろ、荷台を取り付けて 荷物を運ばせても良いかもしれない。

 結局、事故を起こして学習するドラムの都合上、事故は避けられない。

 ただ トータルで見れば、人が交通事故を起こして発生する 犠牲者よりは少なくなるはずだ。

 まぁ その恩恵を受ける前に私が死んでドラムに教訓として学習されるかもしれないが、私の娘が大人になった位には 交通事故が無くなっているはずだ。


「ナオ…今週分の統合(とうごう)データが出来た。

 各企業に行って渡してくれ…」

 データを まとめ終わったクオリアが ニューロ型のコンピューターをオレに渡たす。

「はいよ…何と言うか、光ファイバーが欲しいな。」

 インターネットが出来れば、リアルタイムでドラムの情報を共有させる事も普通に出来る。

 そっちの方がドラムの学習も早いはず なんだが…。

「通信は有線では無くドラムの無線を使う。

 ただ、まだパケット通信が出来ない。

 それにデータの容量が大きいなら物理輸送した方が早い。」

「あ~新幹線通信か?」

「そう」

 オレがいた現代では ネット回線での通信だと1日辺り1TB(テラバイト)位の通信が限界だった。

 一般企業レベルなら それでも良いが、膨大(ぼうだい)な情報量を扱う スパコンに使うには回線が遅過ぎる為、量子通信などの超高速通信が生まれる前まで20TB(テラバイト)などのHDD(ハードディスク)を大型スーツケースに限界まで詰め込んで 新幹線で送信先に物理輸送するのが一般だった。

 と言っても 今オレ達が運んでいる ニューロ型の脳配列データは 12GB(ギガバイト)位な物だが、帰りは荷台が一杯になるほど 数が多い。

 現状では1週間ごとに ドラムを運用している企業に行き、ドラムの脳の学習データの回収して、脳データを1つに統合(とうごう)させる。

 こうする事で 別分野で働いているドラムの知識を今やっている仕事に応用する事が出来るので、アップデート後は 少し賢くなる。

 これを繰り返して行けば、すべての仕事で並み以上の性能を出せる優等生個体が誕生する。

 ここまで 出来れば、全く知らない所見でも ある程度の対応が出来る様になるんだが…。

「さて、何年先になる事やら…」

 オレはそう言い、バギーに乗って 各企業のアップデート作業に向かった。

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