11 (文明は道路から始まる)〇
翌日…。
暗い夜が明けて 朝日が竹の家を照らし、皆が起き始める。
今日は 少ないが、皆は朝食にフルーツを食べ、ハルミの簡易検査を受けて それぞれの仕事に向かって行く。
栄養失調が原因で ハルミがドクターストップを掛けていた奴隷が何人か復帰し、あまり動かない竹編み組にまわされていて、確実に生活が改善されて来ている。
ある程度落ち着いた所で、ハルミが焚火を囲んでいる丸太の椅子に座る…もう習慣になりつつあるナオ達の早朝会議だ。
昨日は 地べたに直座りだったのだが、今日は丸太を輪切りにした椅子がある。
つまり磨製石器の斧で 座れる程に太い木を切り倒す事に成功した見たいだ。
「ナオ…何をしているんだ?」
クオリアが丸太に指を当てているナオに聞く。
「年輪を数えている…110年か…。
これで今までの気温が分かる。」
丸太に刻まれている輪っかを年輪と呼び、年輪の数を数えれば 樹齢を割り出せる。
更に年輪の隙間の太さで その1年の気温と雨量が大まかだが 分かる。
「これによると、年輪の隙間が綺麗に一定になってるから、年間の気温は ここ110年は 安定している…。
ただ、夏はそこまで暑くなく、冬の温度は 氷点下に行く 寒冷地帯。
ただ日射量と雨量は それなりに有り、植物の生育環境としては 比較的良い環境…かな?」
「そこまで分かるのか…。」
「ああ…オレは山育ちだからな…爺さんに一通り教わっている。」
オレは小学校の中頃から北海道の山奥にある神崎家で3年程 面倒を見て貰っていた。
その時の知識が ここで役に立つとはな…。
オレは丸太の椅子に座り、早朝会議が始まった。
「で、今日は如何するんだ?」
ハルミが丸太に座るナオとクオリアに聞いてくる。
「私は今の炉を使ってモルタルを生産し、本格的な炉を作る…。
その後はガラスの製造に移るのだが、今日は 炉を作る所までだ。
ガラスに入るまで 2日か3日と見てくれ。」
「OK…あっ先に生石灰の量産を頼む…。
衛生管理に必須の石鹸を作るから」
ハルミが言う。
「……石鹸か…了解した。
なら、貝殻を集めて欲しい…。」
石鹸は木炭を燃やした時に出る灰…炭酸カリウム。
貝殻を高温にして作る生石灰の酸化カルシウム。
それを動物の脂肪の油で固めれば完成だ。
「分かっている…。
海に牡蠣を取りに行っている ヤツがいるから、今日中には 素材は揃う。
ロウは、ウサギの世話だな…。」
「分かた」
昨日、ロウは 小さいが石製の壁で囲っただけのウサギ小屋を作り、捕獲したウサギ、オス6匹メス6匹の合計12匹をウサギ小屋に入れた。
これで3ヵ月後辺りに肉の安定供給も出来る様になるだろう。
「なら、問題無い…ナオは如何する?」
クオリアがオレに聞いてくる。
「オレか…オレは道路工事だな…。
ここと現地民の村を最短距離で結んで移動し易くする。」
オレはクオリアが作ってくれたARの地図を皆が見えるように表示し、最短ルートを表示する。
「この通り、間には竹の森があるから伐採して最低限の道路を作って こっちが徒歩で向こうに行けるようにする。」
「とは言っても…向こうまでの距離は 35kmだ。
鉄器を使えたとしても道路開通には数年は掛かるな。」
クオリアが言う。
人の平面での速度は 時速5km。
35kmを歩くなら単純計算で7時間…。
舗装されていない事を考えると早朝に出発して、夕方に到着出来る位の距離だ。
ただ、距離が長くなれば なるほど 通勤時間が長くなるので、現地に移動出来る簡易拠点を作って行きながら 泊まり込みで作業する事になり、作業員は 少人数になる。
そうなると 食料は現地調達だとしても野生動物が常にいる状態なので危険だし、冬は食料が取れないので 戻って来る事になり、道路工事が出来なくなるので 効率が悪い。
一番良いのは 村ごと移動する遊牧民生活にして、防御や食料を確保しつつ進む事なのだが、現状 炉は重すぎて運べないし、水車も川が無いと使えないので、文明生活を維持するなら 遠回りの川沿いルートになり、道路の距離が更に伸びる。
そうなると どうやっても数年コースになり、文明のスタートダッシュが大幅に遅くなってしまう。
「ああ…だからファントムで道路を作る。
それでもジガが帰って来る1週間後に なるかな…。
毎日 3時位まで道路を進めて、その後は 切り倒した木や竹を回収して持ち帰る。
資源回収に人員を割かなくて良くなるから、建築や食料採取に人員を当てられるだろう。」
平らな道さえ出来てしまえば、竹でリアカーを造って 人が引く事により、大量の物資輸送が出来るし、木炭で燃やした火で温めるスターリングエンジン自動車や、鉄道も走る事が出来るだろう。
そうすれば 35kmの距離を1時間半程度で行けるので、人員、物資を輸送して補給線を確保し、道を拡張、新しく道を作る事も遥かに容易になり、より効率よく道を作る為の重機の運搬も可能になる。
クオリアの資源マップによると各鉱山が分散している状態なので、移動システムが非常に重要になって来る。
そのスタートダッシュに必要な最も大変な苦労をオレとファントムが引き受ける。
そうする事で かなりの時間短縮になるはずだ。
「それじゃあ…オレは行くよ」
オレはファントムに乗って立ち上がり 大型シャベルを召喚して、現場に向かった。
上空からルートを確認しつつ、ナオ機は竹の根本にシャベルを差し込み、脚を乗せて てこの原理で根っこ部分から掘り出して行く…。
特に竹の根っこは 完全に排除しないと すぐに 竹が生えてくるので特に念入りに やらなくてはならない。
例えば 今回はやらないが舗装したアスファルトをタケノコが貫通した事もあるし、地下に敷設した水道管やガス管に穴を開けて周りを水浸しにしたり、ガス爆発を発生させた事もある。
万能素材の負の側面だ。
根本から掘り出した竹や木は道路の脇に置き、全体が均等に混ざるように土を掘り返して行く。
「やっぱり、重機があるとラクだな~」
DL…パイロットの神経を機体に再接続し、自分の身体のように動かせるダイレクトリンクシステムと言うシステムを使う機体で、サイズは4.5m…。
最近は銃を装備して宇宙人と戦う事が多かったが、本来の用途は土木重機だ。
戦車のような戦闘特化型は 兵器である為、戦争でもない限りは量産によって単価を下げる何て事は出来ない。
なのでDLは『戦闘も出来る土木重機』に設計する事で、大量生産と単価を下げる事に成功した。
値段は一機当たり2000万ほどで、大型の油圧ショベルと同じ位の金額になる。
掘り返し終わった後は土を均等に慣らして、5tのDLの足でしっかりと踏み固める。
道路建築の業者から『踏み固めが甘い』とか クレームが入りそうだが、効率が最優先だ。
これで一応道路が完成…。
後は これをひたすら繰り返し、竹の森を掘り進めていくだけだ。
掘り進めて気づいたが、果物の木が道路の左右に配置されていて、その間隔が4射線道路の幅と ほぼ一致し、面白い事に進行ルートもオレと一緒で現地民の村に向かっている。
多分、クオリアが言っていた 昔の高度文明が移動中に食料を補給出来るように 道路に沿って果物の木を植えたのだろう…かつて ここは大通りだったようだ。
杉の木を切って年輪の数を数えてみるが 100年以上の木が多く、高度文明がいたのは その前だと分かる。
「一体どんな文明だったんだろうな」
空を見上げると太陽が4分の3地点まで来ており、午後3時位だと分かる。
そろそろ時間だ。
オレは大きな木を両手で抱えて持ち…拠点に戻って行った。