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⊕ヒトのキョウカイ02⊕【未来から やってきた機械の神たちが造る 理想国家₋ユートピア₋】  作者: Nao Nao
ヒトのキョウカイ2 4巻 (Rabbit Wars-ラビッド ウォーズ-)
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18 (小型核分裂炉)〇

 水流より速く走れる潜水艦が出来た事で、ロジャー達 船乗りによる死の海域の探索が始まった。

 トニー王国は 本島と呼ばれる500km程度の島を中心に 大小 さまざまな 小島があり、その中には 非常に重要な鉱物が眠っている島もある。

 潜水艦は 3隻作られ、海上には 潜水艦で作ったガラス繊維の筒を浮袋として使った海上ドックも作り、その下の海底に発電機を設置して、海流の流れを利用した海流発電を行っている。

 それでも工場の村の電力は不足気味なんだが…取りあえず これで船に必要な設備が整った。


 1715年…ウサギ戦争の終戦から3年。

 港の村の冒険者ギルド。

「ついに完成した…この国の海図だ。」

 ロジャーは 大きな地図を広げて ナオ(オレ)とクオリアに言う。

「こりゃ凄いな…これで海上からの輸送も出来る」

 そのに描かれていた非常に詳細な地図には、各島の場所や季節ごとの海流の流れや注意事項が事細かく記載されている。

 確かに こんな複雑な海域なら空輸した方が楽だと考えるのも納得が行く。

 とは言え、ファントム以外での飛行は まだ出来ないし、ファントムも輸送量にも限りがある…海上輸送は必須だろう。

「ええ…これからは島の探索と資源の回収をして行きます。」

「よし、探索には私が出よう。

 後3種類の鉱物は離島(りとう)にある はずだからな。」

「てことは、クオリアに任せるのか…。

 まっオレは ラベルが無いと分からないからな。

 分かった…何か必要な物があれば行ってくれ」

「了解した。」

「おっと…そうだ…便宜上(べんぎじょう)本島って呼んでいますが、この島の名前を付けてくれますか?」

「う~ん…ユートピア島」

「ディストピア島の間違いじゃないか?」

 クオリアがオレに言う。

「良いんだよ…ユートピアの方がイメージが良いだろう。

 ユートピア島で…」

「ユートピア島ですか…分かりました。

 それじゃあ私達は 船で出ます。

 今は海が穏やかな半月(はんげつ)ですから…今の内に出ましょう」

「了解した船長」

 クオリアが そう答え、新しい資源を求めた潜水艦での旅が始まった。


 数ヵ月後…クオリアの私室。

 ここ数ヵ月 クオリアは、港の村にコンテナハウスの拠点を置いて 潜水艦で各島に言って資源の探索をしている。

「おお来たか…完成したぞ」

 クオリアが 机の上に置かれている機材に指を差して言う。

「今度は 何を作ったんだ?」

 オレは興味深そうに机の機材を見る。

 机には 水が入ったビーカーに黒い炭素繊維のカプセル型の容器が (しず)められ、火元は何も無いと言うのに 水が沸騰(ふっとう)して水蒸気を作り、その水蒸気が発電機のタービンを回して発電をしている。

 その後、水蒸気は ラジエーターで冷却されて水に戻り、ビーカーに戻って…の、このサイクルをひたすら繰り返している。

「おいおいおい…」

 多少アレンジが入っているが この見た事がある構造は…。

沸騰水型(ふっとうすいがた)原子炉か…」

「そ…私が欲しかったのは ウラン235とウラン238…後は蛍石(フローライト)

「この国…ウラン鉱床があったのか…」

「と言っても不純物(ふじゅんぶつ)が多くて純度も低いがな。

 これを遠心分離機で 不純物(ふじゅんぶつ)を取り除いて、ウランを蛍石(フローライト)から取り出したフッ素と組み合わせると六フッ化(ろくふっか)ウランが出来る。

 それを また遠心分離機にかけて、ウラン235、ウラン238に比重選別で分ける。

 その後、核分裂しにくいウラン238を94%、核分裂しやすいウラン235を6%で調整した物が低濃縮(ていのうしゅく)核燃料(かくねんりょう)だ。」

「まさか…こんな簡単な実験機材で出来るとはな。」

「重要なのは 高純度の炭素繊維でカプセルを作る事…。

 これで構造を相当 単純に出来る。」

「炭素繊維は 放射線の遮断(しゃだん)能力が高くて、熱に強く、丈夫で熱伝導率が高い。

 つまり、このカプセル内で発生した熱を熱伝導で回収しているんだな。」

 なるほど…トニー王国の建国 開始時から作っていた物は、この原子炉を作る為に必要だったからか…。

「そう…これで カプセル内と外は完全に隔離(かくり)されるから、外の水が 放射線で汚染される事は無い。

 ただし、カプセルの中は 危険レベルの放射性 廃棄物(はいきぶつ)になる。

 なので、使い終わったらカプセルごと廃棄(はいき)だ。」

核廃棄物(かくはいきぶつ)か…廃棄(はいき)場所は?」

「地熱発電施設の井戸の中だ。

 発生する熱量が弱まるだろうが、複数個のカプセルを入れれば、崩壊熱による熱で水を沸騰(ふっとう)させて発電が出来る。

 半減期から考えるなら45億年は発電出来るか?

 まぁチェルノブイリに放射線を食べて無毒化してくれる微生物が生まれるから、それを回収して繁殖させられれば、1年程度で安全基準まで下がようになる。

 その後は 解体してリサイクルするから、それまで保管しておければ良い」

「それじゃあ、炉心融解(メルトダウン)の可能性は?」

炉心融解(メルトダウン)は、冷却系統 部分の故障が原因で、炉心(ろしん)の温度が急上昇して容器を()かしてしまう事だ。

 ただ これは 大電力を得るために容器内の熱を冷却し続ける構造にしているからで、最大稼働時でも容器が融解(ゆうかい)しないレベルに温度を(おさ)えた低出力 原子炉を複数基 作って、カバーしてしまえば良い。

 その方が大規模な冷却設備が 必要無くなるから安全でトータルコストも安く済む。

 で、今このカプセルの温度は200℃。

 耐熱温度が3000℃の炭素繊維を炉心融解(メルトダウン)させるには 遠く(およ)ばない。」

 クオリアがオレにも 分かり(やす)く説明してくれる。

「う~んと言っても、これライフル弾で抜けるよな。

 容器の破損は?」

「この実験だとビーカーの装甲を強化してカプセルを守る事になる。

 燃料の入れ()えが出来ない使い捨てのカプセルで、材質も決まっているから複合装甲にも出来ない…これは、この炉の弱点になるな。」

「よし、分かった。

 くれぐれも、デーモンコアは作らないでくれよ」

「いやいや…核兵器を作っている訳じゃない。

 それに最悪の事故を想定しても、タバコ以下の発がん性で済むレベルだ。

 爆発しても 村の住民を全員退去(たいきょ)させるなんて事もない。

 ナオは 核兵器のせいで放射線に 危険な印象を持っているが、低濃縮(ていのうしゅく)核燃料(かくねんりょう)は かなり安全に使える物質なんだ。」

理屈(りくつ)では 分かっているんだけどな…。」

 オレは そう言い、部屋を後にした。


 1715年冬…工場の村…。

 原子力(げんしりょく)発電施設(はつでんしせつ)は、頻繁(ひんぱん)に電力不足に悩まされている工場の村に建設される。

 電力が足りないのは ある意味当たり前で、オレ達のやり方は核融合炉で無尽蔵の電気が供給出来るコロニー住民の生活が元になっている。

 その為、電気を使ったゴリ押しが多く、電力不足になり(やす)い生活だ。

 ただ、そんな電力不足の生活もこれで終わらせられる。

 発電施設の中には 地下24mまで掘られている井戸がある。

 その隣にある大型クレーンで コンテナハウスを縦に入れ、3mのカプセル原子炉をパイロットスーツを着たオレとクオリアと共に コンテナハウスの中に入れ、設置(せっち)作業に入る。

 台座を付けられた カプセルは まだ熱を発していない状態だ。

「よ~し注水…」

 クオリアの指示で井戸内に水が入る。

 コンテナハウスが水に()かり、カプセルの半分まで水没(すいぼつ)した所で、クオリアは カプセルの上部を開けて、(あらかじ)め計測していた量の水を入れて すぐに閉じ、カプセルが 二度と開かない様に溶接による封印作業を手早く行う。

 核燃料が入っているカプセルの中に 減速材となる水が中に入った事で、核燃料から中性子が連鎖的(れんさてき)に放たれる核分裂反応が始まり、その熱が炭素繊維に伝わって周りの水を温め始める。

 炭素繊維を貫通した ごく少量の放射線も検出(けんしゅつ)されたが、普段オレらが浴びている日射の放射線より低い数値だ。

 まぁ過剰なまでに 放射線を気にする日本の原発の基準では アウトなんだろうが、性能、健康面共に問題無い。

「よし、脱出するぞ」

「おう」

 オレ達は クレーンのワイヤーに(つか)まって 引き上げられ、地上に戻る。

 その後は 水を井戸の半分位まで入れて、井戸の上にタービンを取り付けた地熱発電機を乗せれば完成だ。

 カプセルから放たれる熱は、水を沸騰(ふっとう)させて硫黄の村で使い慣れている 地熱発電機のタービンを回し、そこから生まれた大量の電気は、大量のカーボンバッテリーに流れて電気を一時的に保存し、工場の村 全体に流す60Hz(ヘルツ)、240Vの電気に加工して 電線に乗せて各施設に運ばれる。

「来た数値…6万kW(キロワット)…60MW(メガワット)だな。」

 オレ達が普段使っている マイクロ水力発電機が1kWだから、6万基分…。

 これ1基でトニー王国の電力を余裕で(まかな)える。

 と言うか、このままだと 過電流の防止で電気を逃がして 実際に使われる電力は 全体の極わずかになりそうだ。

 この原発の利点は構造がシンプルで 常に表面温度が200℃の温度を(たも)って熱を放ってくれる事…。

 欠点は 出力の調整が出来ず、カプセル自体に液体窒素(えきたいちっそ)()き付けて急速冷凍しないと核分裂(かくぶんれつ)が止まらない事…。

 発電の調整は 上の地熱発電機側でやっているが、使われない電力を無駄に消費する事になる。

「良い出力が出ている。

 後もう1基位 必要になるかな…」

「いやいやいや…もう十分だろ」

「今後、ドラムを大量生産する事になるんだぞ。

 ドラムの食料は電気だ。」

 クオリアが言う。

「あ~人口が増えて 村もオール電化に すれば足りなくなるか…」

「そうなる…まぁ当分先だろうが…。

 まずは、この核分裂炉(かくぶんれつろ)の記録を取ってニューロ型に電力制御を自動で行わせる。

 人だと問題が起きなければ 時間に(したが)って管理が(ざつ)になる傾向があるから、マニュアル化して機械に(まか)せた方が良い」

「一番危険なのは ヒューマンエラーと言う事か…。」

「そう…事故の大半は ヒューマンエラーから来るから、人の関与を徹底的に無くして管理をラクにさせる…それが一番 安全だ。」

「何と言うか…オレもそうだけど、クオリアも人を信じて いないんだよな。」

「人の独創性や開発力は評価出来るが、人のチェックは信用出来ない。

 だから機械と人で得意分野を分担(ぶんたん)する。

 この方法が一番上手く仕事が回る。」

「まっ機械に任せてラクが出来れば オレはそれで良いけど…」

 長い間 悩まされていたエネルギー問題が解決した事で、エネルギーの問題から出来なかった事も これから出来る様になる。

 オレは 期待を胸に原子炉のデータを取り始めるのだった。

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