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⊕ヒトのキョウカイ02⊕【未来から やってきた機械の神たちが造る 理想国家₋ユートピア₋】  作者: Nao Nao
ヒトのキョウカイ2 4巻 (Rabbit Wars-ラビッド ウォーズ-)
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16 (動物愛護)〇

 1707年…ユーグレナ パウダーは 食品業界に革命をもたらした。

 既存のすべての食べ物が このミドリムシで再現可能になり、1日で2倍、1ヵ月で元の10億倍に増やせるユーグレナ パウダーから作れる食品は 非常に生産効率が良く、既存の食べ物とは 比べならない程 安価に製造出来、しかも加工がし(やす)いと来ている。

 この為、味覚剤に使われる香辛料作物、着色料の植物、ミドリムシでは再現が出来ない 飲料用アルコールを抽出(ちゅうしゅつ)する為に必要なビールの原材料の小麦が生き残り、その他の食べ物は、採算(さいさん)の問題から次々と畑が縮小化して行き、今では たまに食べる高級食材になってしまっている。

 そして、畑の縮小と引き換えに 拡張された 大型の食品工場内が 各町に1つ置かれ、ミドリムシのプールもより効率が良いカプセル型の水槽になり、数も36基に増え、天然栽培では 絶対に不可能な毎日が収獲日 状態となっている。

 さて、畑の縮小については それ程 問題は無いのだが…。

 問題はソイフードの肉が美味すぎて、ウサギやヒツジの肉が不要になってしまった事だ。


 1709年秋。

 冒険者ギルド。

「家畜の廃棄(はいき)か…」

「そうだ。

 ソイフードの品質が上がった事で、最高級の良質な肉を再現出来る様になってしまった。

 ヒツジのミルクも再現 出来るから、家畜の需要(じゅよう)が少なく もう育てる事 自体に意味が無い。

 残すとしても 品種の保存と畜殺(ちくさつ)の授業の為に使う少数だけで良いだろう。」

「とうとう来ちまったか…。」

 クオリアの言葉にナオ(オレ)()め息を()く。

「人に飼われている家畜である以上、採算が合わなければ 生きられない。」

「分かってるよ。

 ソイフードの普及が 家畜 動物の絶滅に繋がったんだから…」

「いや…各コロニーには 家畜の受精卵をフリーズドライ加工して保管してあった はずだから、種としては まだ生きている。

 ただ、家畜が必要とされる日が いつになるかは 分からないが…。」

「それを 絶滅していないと定義するのは問題がありそうだが…」

 コロニーで牧畜をしているかは 分からないが、未来の地球では インダストリーワン以外では 天然肉の製造はされていない。

 これはソイフードの普及と『家畜を殺すのは可哀(かわい)そう』と言う動物愛護団体の有難迷惑(ありがためいわく)が原因で、家畜を育てる需要(じゅよう)が無くなってしまい、結果 ほぼ絶滅の状態に追い込んでしまったからだ。

 海では もっと悲惨で、絶滅危惧種(ぜつめつきぐしゅ)で知能が高いと言われているクジラを狩る捕鯨(ほげい)を禁止した事で、クジラの餌となる大量の種類の小魚が絶滅し、クジラが大量繁殖。

 したのだが まだ絶滅危惧種(ぜつめつきぐしゅ)と言われ続け、クジラを捕食しているサメが大量発生していて 人が海に潜れば すぐにサメに喰われるので自殺行為だと言われる程になった。

 結局、家畜を育てても採算が合わず、動物愛護をしても結果的に動物を殺してしまう。

 人が(から)んでいる以上、大筋の結果は変わらない。

「分かった…ウサギの繁殖の禁止とガス室を用意する。

 窒素(ちっそ)を流して窒素(ちっそ)酔いで安楽死させる。」

「各部署の通達と施設の追加は 私がやろう。」

「頼む…それとウサギの安楽死は オレが担当する。

 増やしちまった責任があるからな」

「了解した…では私は行く」

「はぁ…殺るって言ったけど気が重いな…」

 クオリアが冒険者ギルドから出た所でオレは また大きな()め息を()いた。


「今の聞いた?」

 ハインに けん玉を教えていた 9歳のミア()が 3歳にハインに言う。

「ハイン みみ いい よくきこえる。

 でも、ウサギ、ころしてるのは いつものこと。」

 自販機で買ったフリーズドライジュースの袋に水を入れて、振っているハインが言う。

「ウサギの肉を買う人が いないって言っていたから、このままだと食べないで 捨てられるわ」

「それ、ダメ…ころしたら ちゃんと たべないと いけない、ロウ いってた」

「そう、食べないのに 殺しちゃいけないわよね。」

「うん…」

「ウサギを助けよう。

 私達が食べる為に捕まえて来たんだから、責任を持って森に帰そう。」

「うん…ハインも それが いいと おもう」

「それじゃあ 夜、保育院を抜け出そう…」

「よる ねむる じかん、ねないと」

「夜じゃないとウサギ小屋に入れない。

 私は『本当に必要ならルールを破っても良い』ってマザーに教えて(もら)ってるわ。

 今がルールを破る時。」

「う~んハインも そう おもう。

 もう たべないんだから にがしても いいよね」


 その日の夜。

 保育院の6人部屋で眠っている皆が眠っている中、ミア()とハインが起き上がる。

 私達は 手早く着替えて 事前に計画していた通りに 静かに廊下に出る。

 この時間帯だと夜泣きの赤ちゃんの為に 何人かの夜勤勤務の保育士が起きているけど、大半(たいはん)の保育士は寝ている。

 倉庫からガスタンクとライムライトを持ち出し、ハインが背中にガスタンクを背負って ウサギ小屋に向かう。


 最小の出力のライムライトで辺りを照らしつつ ウサギ小屋に到着する。

 ウサギ小屋は 厳重な2重構造になっており、出入口には 南京錠(なんきんじょう)で入れない様になっている。

 ジーッ……。

 私はライムライトを外して酸水素ガスバーナーにし、南京錠(なんきんじょう)を焼き切る。

 数秒で鉄製の南京錠(なんきんじょう)が熱で赤くなり鍵が外れた。

「行こう」

「うん」

 そして、もう1つの扉…よし、私達は南京錠(なんきんじょう)を破壊してウサギ小屋の中に入る。

 ウサギ達は 繁殖が出来ない様に(たな)仕舞(しま)われていて、私達の気配を感じ取ったのか皆 警戒している。

「大丈夫…落ち着いて…ハインは向こうから」

「わかた」

 (たな)のロックを外してウサギ達を開放して行く。

 解放した数は1万…。

 前は5万位いたのに結構 減ってる。

「もう じゆう…」

 私達は ウサギの後ろからライムライトを照らして追い立て、森まで送って行く…。

「元気でね…」

「たべられない でね」

 私達はそう言って森に去って行くウサギの大群を見つつ保育院の自分達の部屋に戻って行った。


 翌日。

 ロウ()は狼だ。

 だけど雪の森でジガに助けて(もら)って人の世界で生活を始め、私は変わってしまった。

 今では ハインを後ろの席に乗せてバギーで移動する事が当たり前で、(やまい)は ハルミが調合してくれた薬で治る。

 ナオやクオリアは 次々と新しい便利な物を生み出して、私達の生活を快適にして行く。

 苦労していた狩りも銃が使える様になった事で 単純な力に意味が無くなり、比較的ラクに狩れる様になった。

 もう私達は、食物連鎖…自然の輪の中から離れた存在…自然に生きる動物の行動としては間違っている存在。

 なら、今すぐハインを森に連れて行って自然の中で生活を始めれば 良いのかと言うと そうとも言い切れない。

 自然生まれの私と違い、ハインは 文明生まれだ。

 まだ文字や計算を勉強中だが、これから各薬品の作り方や製鉄の仕方を教わり、道具を次々に 使いこなしていくだろう。

 何よりハインは デジタルゲームに夢中で、保育院にあるコンピューターをミアと一緒に使っている状態だ。

 そんな状態のハインは 確実に森では 生活が出来ない。

 そして、散々(さんざん) 弱肉強食と言ってウサギを殺して来た私だが…今回は 食べないと言うのに ウサギを皆殺しにしなくては いけない。

 ウサギが あの(おり)から出て言った場合、森の環境に深刻な影響を(およ)ぼすからだ。

 本当に人は動物と共存出来ない動物だ。

「なっ」

 私はウサギ小屋の出入り口の扉を見る。

 扉は閉まっているが、地面にはバーナーで焼き切れた南京錠(なんきんじょう)が転がってる。

「と言う事は!」

 私が走り出す…次の扉…やっぱり、鍵が焼かれている。

 そして、ウサギ小屋…。

「なっなんて事を…」

 そこには、1匹のウサギもいなく、(たな)の個室も開けられている。

 誰かが ウサギを逃がしたんだ。

「これは 大変な事になる」

 私はナオとクオリアが普段いる冒険者ギルドに直行した。


「マジか…誰だよ…変に動物愛護を(こじ)らせたヤツ…。

 クオリア 無線で 各冒険者ギルドに連絡、家畜小屋の警戒と畑のバリケードの強化を指示。

 緊急事態宣言だ。」

 ナオ(オレ)はクオリアに指示して行く。

「了解…」

 クオリアは キーボードで文字を入力し、各冒険者ギルドに送信。

 最近 電波の安定制御に成功した事で ニューロ型にモールス信号を学習させ、こちらが文字を入力すると それをモールス信号に変換する仕組みを作り、各冒険者ギルドに電子メールを送れるようになった。

「ロウは 討伐隊(とうばつたい)を編成…ウサギ狩りを頼む。」

「分かった…でも逃げたのは1万…全部殺せない。」

「知ってる。

 だけど拡散(かくさん)させるのだけは もっとマズイ…。

 犯行は昨日の夜だから長く見て12時間位だろ。

 だったら まだ、近くにいるかも知れない。」

「分かった…行って来る。」

 ロウは言うと冒険者ギルドを走って出て行く。

 ……………。

 ………。

 …。

「ナオ…各冒険者ギルドからの一次報告だ。

 家畜、作物共に無事…。

 今、狩人が周辺の森を見に行っている。」

 クオリアが言う。

 各冒険者ギルドからモールス信号での通信が返って来て、こちらは ニューロ型を通して 信号を文字に変換する事で、速度は遅いながらメールを受け取れる。

「と言う事は 敵は大規模じゃない。

 アトランティス町の住人がやった事になるのか…。」

「そう、ただ 政府が所有してる家畜を意図的に逃がした事になるんだけど…。

 これは窃盗(せっとう)になるのか?」

「保有している人が ウサギを使えなくしている訳だからそうなるよな。

 ただ…昨日の時点でウサギの始末が決定しているから 所有権を放棄(ほうき)していると見る事も出来る。

 まぁ犯行は 皆が寝ている夜で目撃者もいない訳だから 証拠不十分で捕まえようがない訳なんだけど…。

 農場に監視カメラの設置が必要か…」

「まだカメラは無いからな。

 他のウサギの処分は?」

「状況変わった手早くやる…射殺だ。」

「了解した。」

「始まるぞ…長い長い ウサギ戦争が…。」

 オレは今後の事を考え、そう言うのだった。

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