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⊕ヒトのキョウカイ02⊕【未来から やってきた機械の神たちが造る 理想国家₋ユートピア₋】  作者: Nao Nao
ヒトのキョウカイ2 4巻 (Rabbit Wars-ラビッド ウォーズ-)
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15 (生きる₋ライブ₋)〇

 1708年冬…。

 アトランティス村、診療所(しんりょうじょ)

 建国当初は 医療機器の不足と生徒達の練度の問題で 手術は ハルミ()が全部担当していたが、血圧計、オシロスコープを使った心電図、電気メスが導入された事で、手術もかなりラクになって来た。

 今では 年2、3回、野生動物との戦闘で重傷を負った人の手術を 生徒の医師に任せ、私は 後ろから見ているだけになっている。

 最近では『レントゲン』や『磁気共鳴映像法(MRI)』まで導入されており、より詳細に不調の原因を特定出来る様になった。

 だが…良いのか、悪いのか…見たくない物まで見れる様になってしまった。


 患者は 多幸感(たこうかん)の意味を持つ名前の ユーフィティア…ユフィ…年齢は23歳だ。

 彼女は、奴隷船から捨てられてトニー王国の海岸に流れ着いた最年少の性奴隷で、奴隷になる前は 服職人だった。

 この国に流れ着いてからは ジガが作った風呂屋の従業員として働きつつ身体を売り、一定の収入を得た所で それを元手に服職人になる。

 今では ユフィが服職人として優秀だと言う事もあり、機械による自動化を積極的に取り入れつつも 比較的高級な服を製造販売する民間の店へと成長している。

 そして この時代の価値観としては かなり遅いが 妊娠が発覚し、第一子が ユフィの腹の中で大きくなろうとしていた。

「え?…」

「子供は (あき)めた方がいい。

 人工中絶(ちゅうぜつ)…つまり、腹の中の子供を殺す事をオススメする。

 今ならまだ殺せる時期だ。」

 私はユフィに対して冷静に言う。

何故(なぜ)…せっかく(さず)かった命を殺さないと いけないの?」

 ユフィが(ふく)らんだ腹に手を当てて 涙目になりながら言う。

 ユフィは 不妊症(ふにんしょう)持病(じびょう)を持っていて、極端に子供が生まれ にくい。

 トニー王国 建国当初、私は 性感染症の防止の為に 住民の全員を徹底的(てっていてき)に検査したが、全員該当(がいとう)しなかった。

 その後は、フックや侵攻して来た イギリス軍に数名いたが、抗生物質で治療済み。

 つまり、クラミジア感染症以外での原因で、確定では無いが排卵(はいらん)障害が原因だと(にら)んでいる。

 そんなユフィに授かった奇跡の子供だ…ユフィが大切にしたいと思う気持ちも十分に理解出来る。

「まずは、これを見てくれ…これは頭の画像だ。

 こっちが正常な脳、こっちがユフィの子供の脳。

 ここが違うだろ…全前(ぜんぜん)脳胞症(のうほうしょう)の可能性がある。」

 私も 人口が増えて行けば 出るとは思ったが、全前(ぜんぜん)脳胞症(のうほうしょう)は、1万分の1の確率の為、350人程度の人口で この症状の子供が生まれるのは、非常にレアだ。

「それは どんな病気?」

「いわゆる奇形児(きけいじ)だ。

 人の顔っぽくならない事も多い…目が1つの子供が産まれて来る事もある。」

 この国は全員がエクスマキナ教を信仰している事になっているが、心の中では まだキリスト教徒の人も多い…私もその中の1人だ。

 私が心配しているのは、元キリスト教徒が ユフィの子供を悪魔()きとして見る可能性だ。

 そうなった場合、その子供を産んだユフィは悪魔と性交渉をした魔女として扱われ、最悪、ジガがやられた火炙(ひあぶ)りにあう可能性もある。

 もちろん、そんな事は私達がさせないんだが…この子の人生は地獄になる可能性が極めて高い。

(さいわい)い ナオは 奇形児(きけいじ)に理解があるヒトだ。

 ここの問題自体は まだ如何(どう)にか出来る。」

 ただ 私達が住民全員を洗脳 出来ない以上、健康優良児でも肌が黒いと人として扱われない 今の時代。

 顔のパーツが崩れていたりしたら 絶対に差別が発生する。

(さら)厄介(やっかい)なのは、重度の知的障害や運動障害が出てくる事が多いと言う事だ。」

「………。」

 (さら)脳幹(のうかん)機能の異常が出る最悪のケースでは、低体温症、呼吸 循環不全、成長障害、尿崩症(にょうほうしょう)などの内分泌(ないぶんぴつ)障害、摂食(せっしょく)障害と、悪い方向で考えればキリが無い位に、不安要素の(かたまり)だ。

 正直、ここまで来ると、エルダー見たいに 脳をデータ化してブレインキューブにデータを移して全身義体になるか、マイクロチップで脳の回路に電気信号を与えて正常な状態にし続けるかの選択肢しかなく、その方法は 技術的な問題で まだ使えない。

「ただ 症状の度合いは 落差があるし、上手く行けば 働けなくても 金や多少の補助をして(もら)う事で、自分で生活を出来るかもしれない。

 悪く行けば、ユフィが一生、子供の面倒を見る事に なる。」

 労働力としての戦力外は 当たり前、周りにどれだけ迷惑を掛けないで生活が出来るかが鍵だ。

 ナオも生身の時は アスペルガー症候群として軽度の障害者として過ごしていたので、この子が産まれてしまえば 見捨てる事は まずない。

 ナオの事だから この子をテストケースとして、障害者に対する対応や介護の仕方などのデータを取って将来の障害者が産まれて来た時の為に役立てるだろう。

「私、産みます。

 例え 不完全でも産まれて来た命…私が責任を持って大切に育てます。

 それに保育院の皆も協力してくれるはずです。」

「まっそうだろうな…」

 普通の家族なら 子供の面倒や治療費などから発生する育児疲れで 家庭内で問題が起きる所だが、トニー王国は誰の子供でも国全体で育てる仕組みだ。

 まだ カバーしきれるだろう。

「よし、ユフィの気持ちは 分かった。

 私も医師として全力で協力する。」

「ありがとう…。」

 ユフィは 大粒の涙を流して私に言った。


 このやり取りから おおよそ8ヵ月後…。

 1709年の秋、男の子である生きる(ライブ)が産まれた。

 目と目の間が(せま)くて細く、それと比較して鼻が大きく多少 違和感があるが、ちゃんと人の顔をしている。

 見た目の問題は クリア出来るだろう…問題は頭の中だ。

 そして、この子に対してだけは 私は Hello(ハロー) World(ワールド)とは言えなかった。

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