11 (トイブロック建築)〇
1708年…夏、アトランティス村、冒険者ギルド。
「ナオ…硫黄の村の住民からの要望だ。」
「え?てことは 元イギリス人か?」
ナオは クラウドから要望書を受け取る。
「そう…彼らは コンテナハウスのデザインが気に入らない見たいだ。
これでは 硫黄の村を観光地に出来ないと言って来ている。」
「まぁあれは 効率優先でデザイン性 皆無だからな。
分かった…明日 硫黄の村の冒険者ギルドに行く」
「分かった」
ナオは翌日の朝にバギーに乗って硫黄の村へと向かうのだった。
硫黄の村、冒険者ギルド。
「おっ来たか…ナオ」
冒険者ギルドで待っていたのはロバート・フックだった。
確か、フックは建築家でもあったな。
「フックが建築の主導をしているのか」
「ああ…まずは これを見てくれ…。」
フックが大きな紙を出してテーブルに広げる。
「おおっ…これが温泉旅館か…」
レンガで造られた建物で 各部屋の配置も しっかりとしていて、旅館としては 十分な設計だろう。
「良い感じだな…これを作るのか?」
「ああ…だが、これを作るには レンガとモルタルが必要だ。
今は殆ど作っていないだろ…増産を頼みたい。」
「う~ん…」
難燃性のレンガなら火災の心配は無いだろうが、耐震性がな…。
「よし、トイブロック方式にしよう。」
「トイブロック?」
「そ、手が空いているヤツを集めてコイツを作る。」
オレは紙に設計図を描いて行く。
「これ、レンガより手間が掛かるんじゃないか?」
「それでも簡単で頑丈に家を作れるからな」
オレはフックに そう言うのだった。
炭素繊維をプレス加工して上部にチョコレートの様な切れ目が入っている板を作り、それを底が空いた箱を作る。
後はこれを大量生産するだけだ。
出来たのは8個の四角が刻まれたブロック…これを組み合わせる事で自由に家を造る事が出来るトイブロック方式。
レンガとは違い 軽いブロックを組み上げているだけなので重機も必要無く、組み立て 解体が容易に出来るし、箱の中にグラスウールを詰め込めば 断熱効果も期待出来る。
フックは家の設計は出来るが大工では無い。
だが、規格化されたブロックのお陰で、誰でも簡単に組み立てる事が出来る。
そして1ヵ月後…。
「出来たな…これなら、客もやって来るだろうな」
フックがそう言い、オレ達が完成した旅館を見上げる。
旅館の本体 自体は1週間も掛からず出来たが、レンガのタイルを壁にくっ付けて行く 塗装作業に かなりに時間を費やした。
が、時間を掛けただけ あって イギリス風の建物は美しく仕上がっており、これなら観光客の興味も引けると思えるだけの魅力もある。
「問題なのは 観光資源が全く無いって事だよな…。」
オレがフックに言う。
「観光資源?」。
「そ、ようは遠くにいる人が わざわざ時間を掛けて ここを利用させる為には、動機…理由が必要なんだ。
こう言うのは 歴史がある建築物とかを売り出すんだが…」
「この国は 建国した ばっかりだからな。
この建物が歴史になるには後 100年は必要かかるな。」
「観光地を作るのって かなりの時間が掛かるんだよな~。
まずは、仕事で硫黄の村に来た人達に泊まって貰う工夫からだな。」
オレはフックに そう言うのだった。
「いらっしゃいませ~ようこそ」
白人の従業員が引きつった作り笑顔を浮かべながら、黒人の客に言う。
観光の営業を始めて数ヵ月程で赤字状態は変わらないが、効率特化の他の村を比べて ここは何処も景観が良い為、それなりに客が入る様になって行った。
客層は、港の村にいる元イギリス人が多く、白人が黒人の世話をしないといけないと言う 人種問題から黒人への接客の態度が非常に悪かったが、徐々に改善されて行き、黒人が多い クラウド商会の運送業者も泊まる事が多くなり、次第に表向き 顔の色を気にしなくなって来た。
この生活を何年も続けていれば、これが当たり前になって来るだろう。
それに旅館の中に設置したゲーセンの収入もそれなりにあり、温泉も好評で 共同浴場とは また別の味わいがあるらしい。
ただし、食に無頓着な文化の元イギリス人が作る食事は、不評と出ており、これは今後の課題になるだろう。
そして、少しずつでは あるが、観光客目的で民間で店を出す人が、現れ…村に活気が生まれて来た。
硫黄の村の観光名物は、景色が良い温泉と建物…それに地熱発電機だ。
電力不足から電化が進まない他の村と比べ、ここは 地熱発電機から生まれる大量の電気を電柱や電線を使って 様々な場所の電子機器を動かしている最先端の村になっていた。
そして今は 他の村に電気を送る為に電柱と電線設置作業を担当している。
目指しているのは 電力不足が問題となっている工場の村だ。
ここは 景観の問題で大規模な工場を設置出来ない 硫黄の村に代わって物資を運んでいる所になり、生命線になる。
そんな重要拠点に 攻撃を仕掛けて来た恐るべき相手がいる事など、この時のオレらは 誰一人として想定していなかった。