10 (科学の始まりモルタルGET!!)〇
翌日…。
夜明けと共に活動を開始したナオ達は それぞれの担当に分かれる。
オレは 昨日クオリアが地面に書いていた設計図を見て 細部に調整を掛け、大型水車の作成に取り掛かる。
「まずは、上を塞いだ背負い籠を6籠作って円状に設置して、籠を更に竹で編んで繋げる。
重要なのは水が入らないように網目を詰める事だ。」
クオリアが手本を見せつつ、オレ達は 竹を編んでいく…。
基本はクオリアが言っていた通り、背負い籠と同じだが、オレに比べて もう竹編み組となって ひたすら竹を編んでいる奴隷達の方が作業が早い。
3時間程 掛けて 6籠の背負い籠の編み込みが完成し、これを繋げる事で竹に編まれたドーナツ型の本体が完成する…。
「軸部分は 竹を数本束ねてサイズと強度を確保する。
その固定には 竹を削って出来た竹のコットンを ひねって紐にし、それを複数束ねたロープだ」
クオリアが竹の紐を束ねてロープにしながら 持ってくる。
「オレが作ったのと大規模になっているだけで基礎は同じか…。」
オレは ドーナッツの穴の中に竹をしっかり入れ、ロープできつく固定…。
「後は4本を束ねた竹を川に刺して柱を作る」
柱は8本作られ、平らな石を紐で棒にくくりつけたハンマーを使い、川に刺し込んで慎重に高さを合わせる。
手前と奥側に4本ずつ柱を設置して、その上に竹の板をU字になるように折り曲げた竹を設置…。。
「こうする事で 主軸の接地面と摩擦を減らして回転力を強める事が出来る。」
その上に竹編みのドーナッツを乗ってて、主軸と柱部分との接続位置を確認する。
「後は羽を付けるだけだな…。」
羽の無い直径2mの水車を手で回して動作を確認しながらオレは言う…。
竹編み構造の為、中は殆ど空洞なので非常に軽く回る。
ただ、柱と軸の摩擦が まだ大きいのか抵抗がそれなりにある…まぁ誤差の範囲で機能的には問題の無いレベルだろうが…。
オレ達は一旦ドーナッツを外して、羽を付ける…羽は竹を縦に真二つに折った物だ。
「強度面に不安が残るな…。」
「そこは しっかりと固定するしかないな…。
これなら 木材と違って壊れても簡単に作れるし、ガラスと鉄が出来るまで持てば それで良い。」
主軸の先端の竹に穴を開けて別の竹の棒を刺し、更にその先端を半分に割って、竹の歯車を作っているクオリアが言う。
「歯車?プロペラじゃ無くて?」
「そう、炉に対してプロペラが大きくなりすぎるからな…。
これはトルク用のギアだ。
そしてスピード用のギアが…これだ。」
昨日オレが作った竹水車を持って来てクオリアが言う。
「これで、ナオが作ったプロペラの回転スピードが上がるはずだ。
後は…潤滑剤があれば良いんだが…。」
「作れるのか?」
「ああ…ごく簡単にね」
クオリアがそう言った所で「もどた」と声がし、竹の森に狩りに入ったロウと奴隷達が無事帰還…。
背負い籠の中にいるのは、竹槍で殺された大量のウサギ。
ロウの籠には、生きたままのウサギが押し込められている。
多分、繁殖用だろう。
ウサギは僅か1ヵ月で出産し、1回の出産で最大10匹産み、更に2つの子宮を持つので同時生産が出来ると言う あり得ないレベルの繁殖力を持っている。
肉になるまで、2ヵ月半…大き目が良いなら8ヵ月から1年と言った所…。
なので、食料としては非常に優秀だ。
「今日はウサギ鍋かな…」
ハルミが奴隷が背中から降した籠の中のウサギを見て言う。
「ハルミ…ウサギの脂肪を貰えるか?」
「何に使うんだ?」
ハルミが答える。
「潤滑剤に使う…グリスだ。」
クオリアが水車の柱に指を差して言う。
「ああ…なるほど。」
ハルミが納得し、ウサギの解体に取り掛かる。
ウサギの皮を剥がして背負い籠に入れる…。
これは毛皮としての利用か…。
血抜きした肉から 付き過ぎた脂肪分を竹の容器に入れ、鍋に投入…。
骨も細かく砕いてカルシウム剤として投入…基本的にウサギは無駄がない。
残った部分も肥料に出来るのだが、背負い籠に入れられ、農耕は まだ先の為、森に捨てられて動植物の食料となる。
数匹のウサギを解体し、脂肪で一杯になった竹の容器をクオリアに渡す。
そして次の竹の容器に また脂肪を溜めて行く。
「動物性の脂肪は そのまま潤滑剤として使える…。
更に これに熱を入れて液体にすれば、工業用の潤滑油になり、鋳造やプレス加工時に型への癒着を防ぐ 大切な役割を持つ。」
クオリアが水車の可動部分に手でグリスを丁寧に塗って行き、皆で水車を持って柱に乗せると 川の水を羽で受けて竹の水車が動き始めた。
そしてその回転する主軸の大きな歯車は、竹一本のサイズの小さな歯車に動力を伝達し、竹トンボのプロペラを高速回転させ、大きな風を生み出す。
「これで風力としては これで十分だろう。」
最後に石窯から数mの距離が離れている為、竹パイプで エアダクトを作り、風を効率よく送り完成…。
「やっとか…」
オレは空を見る…太陽は真上から横に傾いて来ており、4分の3日…午後3時位だと分かる。
ハルミはウサギの解体を終えて鍋に川の水の投入し始め、竹の家も順調に増えて来ている。
ロウは石を積んで 小さなウサギ小屋を作り始めている。
「さて、目的の生石灰を作るぞ」
クオリアは 窯の中の石のテーブルに石灰を乗せ、下の段の竹に火を付ける。
現状、風の出力調整が出来ない為、空気が吐き出される竹の筒を部分的に手で塞ぐ事で調節している。
竹を次々と投入して どんどん燃やす。
竹は、燃焼時間は短いが、燃焼速度が速く火力が高い。
その為、窯が高温になって行き、夕方になり始め、終業時間になった奴隷達が 仕事を止め始めた所で火を止め、焼いた石灰を竹の容器に1摘まみ入れ、水を少し入れて見る…。
生石灰になっている なら 水に付けると発熱状態になり、水が沸騰するはずだ…結果は……。
「沸騰したな」
「と言う事は…生石灰の完成だな。
よし、これで石灰モルタルが作れる。」
知識だけで実践した事が無かったオレは ほっとしてクオリアに言う。
「明日は これの増産だな…これで まともな炉を作れる。」
「その まともな炉ってので、次は何を作るんだ?」
「ガラス、銅、鉄に、木炭や竹炭、木酢液に木タールと言った所だろう。」
「何だ…もう大体作れるようになるのか…。」
鉄と銅があれば磁石を作れるから発電が可能になる。
そうなれば、水を電気分解して酸水素ガスを作れる。
鉄でガスタンクを作れば、バーナーや車の燃料にも出来る。
「ああ…この炉を量産して 国民に国の生活製品を作らせる事で工業技術を学ばせ、こちらの技術も上げる。
それに国の基盤を作らないと行けないし、ジガが持って来てくれる種を蒔いて育てる農場の開拓、後はインフラ設備を作って 冬に備えたら 今年は終わるだろうな…。」
「やっぱり時間が掛かるか…漫画のようには行かないか…。」
「あの漫画はアルコールと硝酸さえあれば 義務教育を受けている優秀な人間を大量に確保出来るからな…。
私達はマンパワーが圧倒的に足りないから可能な限り 自動化して行くしかない。」
夕日が沈み、100人分の竹の容器とフォークが完成した奴隷達は使いまわす事も無く…1人1人、ハルミからウサギのスープを貰っている。
奴隷達は学習をしたのか、慣れないフォークを使って食べている。
ただ、現状では栄養価は高いと言っても1日1食…。
食料調達組は、昼食に森にあるリンゴなどのフルーツを食べているらしく、フルーツが2籠分ある…。
種類はリンゴにオレンジ、サクランボにジャムの材料になる桑の実にブルーベリー、梨、栗、確かどれも家庭菜園に使われる放置しても大丈夫な品種で収穫時期が5月の物だ。
となると今は5月なのか?
竹の家の数は それなりに増えて来ているが、全員が屋根のある部屋に住めるにはもう少し時間が掛かるだろう。
「となると明日は道路工事かな…。」
オレはそう 呟き、クオリアの元に戻るのだった。