01 (大西洋三角貿易)〇
西暦1700年…死の海域。
木造の奴隷船『テセウス号』が荒れた大雨の海を進んで行く…。
船長が航海ルートを間違って大幅に時間を喰った事で、水や食料が所定日数では足りなくなり『死の海域』と言われる危険海域を通過する大幅なショートカットを行うコースを選んだ。
明らかに悪手だ…。
奴隷に与える餌を減らしたり、奴隷を海に捨てれば済む話だろう…何で わざわざ危険な道に踏み込む?
私はクラウド…イギリス出身の商人で、東インド会社に『砂糖農場で働かせている『黒人』が死にまくっているので原因を特定して改善し、黒人を買い付ける経費を削減する』仕事を任されている。
正直、博打要素は高いが…その分、実入りは多い。
商売に失敗して借金の返済の為に受けた仕事だが、成功すれば 借金を返済しても 念願だった店を建てられる位の金が手に入る…この仕事、何としてもやり遂げる。
大波と嵐が船を襲い、船が大きく揺れる。
運が悪い事に死の海域で船体が大きく破損してしまい、一部で浸水が始まっている…。
砂糖農場に辿り着く事には問題は無いだろうが、積み荷を降ろして船体を軽くする必要があるだろう。
船長の指示により、私の予想通り 積み荷を海に投棄して船体を軽くする事が決まる。
「うわっ止め…」
大雨の甲板から次々と すし詰め状態で積まれている奴隷が海に捨てられて行き、逆らう積み荷は私が殺して海に捨てる。
奴らは動物ではあるが、人では無く 家畜の類だ。
損害保険で補填も出来るし、法的にも なんら問題は無い。
なので積んでいる積み荷の中では一番価値が低い…合理的な選択だ。
が、積み荷が暴れ出し、こちらに向けて体当たりして来る。
「オイ!そっちに行ったぞ!!」
私は 骨が見える程やせ細った積み荷を軽く受け止めるが、背中の板がこの雨の中で腐っていたのか耐えきれず、バキッと折れた。
「は?」
背中には海…。
上には体当たりして来た家畜…。
白人の私が黒人に殺される?
私の価値を理解していないのか?いや 理解していないんだな…。
直情的で知性が低い動物…それがコイツらだ。
「クソが…」
私はそう言い、冷たい海に落とされて行った。
私を突き飛ばした家畜が 私にしがみ付き、身体が沈む…。
「放せ!!」
「せめて オマエを道連れにぃ!!」
ドスッ ドスッ…。
私は 家畜の顔面を何度も何度も殴り続けて 海に沈め、破損した船の板に掴まる…身体が冷え、動きが鈍くなる…。
周りには 投げ出された家畜は ロクに泳げもせずに沈んでいく…。
どの位の時間 流された だろう…。
星の光しかない状態で浮かんでいるが…もう意識が朦朧として来ている…ダメかも知れない。
私は夜空を見ると緑色の流れ星が4本こちらにやって来る。
その流れ星の中にいたのは 緑色に輝く巨人だ。
「神様?」
私は朦朧とした意識で手を伸ばす
『こんにちは!お元気ですか?』
巨人が私の国の言葉で挨拶をして来る…。
『お元気な訳ないだろう…ナオ。
私は 軍 医です。
私達は あなたを助けに来ました。』
隣にいる巨人が少し笑いながら彼らの言葉で話し、そしてまた私の国の言葉を話す。
「そうか医者か…こりゃ死んだな…。」
私は最期に言い意識を失った。
【読んで頂きありがとうございます】
もしよろしかったら↓の【ブックマークの追加】。
【高評価】【感想】【いいね】など もドシドシお願いします…。
皆さまの反応をお待ちしております…。
【派生作品のお知らせ】
ヒトのキョウカイ01…未来に転生した本作の主人公 ナオが機械の身体を貰い、宇宙生物、ワームと戦う話。
https://ncode.syosetu.com/n1549fy/
【解説メモ】
本編では書ききれない所、登場人物の心情や伏線などをメモしています。
ネタバレ注意です。
クラウド。
(この作品の現地人、イギリス人で黒人差別 主義者で、黒人を人間だと思っていない。
ただ、この時代の価値観としては普通の事。
商人をやっているので、学がある。
黒人奴隷達と一緒に生活する事になる。)
「そうか医者か…こりゃ死んだな…。」
(この時代の医療技術は まだ未発達で、科学的根拠に乏しい薬や感染症で死ぬことが多く、漢方などの民間治療の方が進んでいたりする。)