カルガモの親子(中編)
菜々子は夢の中でカルガモの赤ちゃんになっていた。赤ちゃん達の一番後ろに並んでいて、先頭にお母さんカルガモがいた。
突然、行列が動き始めて、菜々子も置いていかれないように必死で後に着いていった。
皆スムーズに母ガモに着いていく。菜々子は着いていくだけで、息が切れて、しんどくて、置いていかれそうになる。
「待ってよー!」と声を発したが、母ガモも赤ちゃんガモ達も振り向きもしない。
菜々子は必死で足を動かし続けるしかなかった。
周りにいる人間達は誰もカルガモの行列など見てはいなかった。
視界にすら入っていないようだ。
車は普通に走っているし、スマホを見ながら歩く人に菜々子は危うく踏まれそうになった。
声援など聞こえないし、川まで誘導なんてしてくれない。
それでも、菜々子以外のカルガモ達は粛々と前に進んでいく。
いよいよ引っ越し先の、目的の川に辿り着いた。
とは言っても、川の上に架かっている橋にだが。
まず、母ガモがお手本を見せるように、川へとジャンプした。
続いて前から順番に赤ちゃんガモ達が、躊躇いも見せず、ジャンプして橋から川へと落ちていった。
一番最後の菜々子の番になったが、
(こんな高いところからジャンプなんて出来ないよ。)
怖くて、全身が震えて、身動き一つ出来なかった。
母ガモや他の赤ちゃんガモは皆、川で悠々と泳いでいる。勇気を出して飛ぼうとするが、どうしても、菜々子だけが飛び込めなかった。
しばらくすると、母ガモが菜々子のところへ飛んできた。
ホッとしたのも束の間、
母ガモは菜々子を見て、
『アンタは私がいないと何にも出来ないのね。』
そう言って、いきなり後ろから菜々子を突き飛ばした。
何も言えず、菜々子は暗闇へ落ちていった。