第10話 アルフレッド12歳、手を焼く②
クラングラン教会は川を渡った橋向こうの『古町』にある。
丘の上に建っており、グルリと半円を描くような坂道を上っていく。傾斜はゆるやかで道幅も広い。
連れ立って坂道を上るアルとティナ。
彼らの他にも多くの人々が坂道を上っていく。
怪我人を背負う者。子供の手を引く者。咳をしながら歩いていく者。
やがて曲がり道が終わり、まっすぐになった。
正面に、大きな青い三角屋根に白い壁の礼拝堂が見える。
その脇には長方形のこれまた大きな建物がある。石造りの古めかしい建物で、その前には長蛇の列ができている。
教導師たちが御力による治療を行う診療所である。
「すごい並んでるよ」
ティナが言ってアルを見た。
「やっぱりやめない? 診てもらうまで時間かかっちゃうよ」
「それで、帰りにはなにを食べたいの?」
「チョコレートケーキ」
ティナは言って、先ほどの発言などなかったかのように、列に向かって走りだした。
「早く並ぼう。あっちが一番後ろみたいだよ」
ティナに言うことをきいてほしいときは、食べ物で釣るのが1番である。
周囲にはリンゴの木が植えてあるが、街中に比べれば風が強い。
列に並ぶ人々は寒そうに手をこすりあわせ、肩を縮めながら立っている。
ティナの食べ頃イチゴ色の髪が突風にあおられておどる。
それを見ながら、アルはヘストンの村の教会に想いを馳せていた。
アルにとっては自宅の次に思い入れのある場所である。
診療所はエピカの住居と合わさっており、よく村人が立ち寄っては、エピカとのんびりと話していた。
礼拝堂は古びていて小さかったが、その分、身近さを感じる場所だった。
ティナの歯を治してもらったら、少し礼拝堂に寄っていこうかな、とアルは思った。
「ねえねえ、アルは神様って本当にいると思う?」
いきなりティナが言った。
明るくてあたりをはばかることのない大きな声。列に並ぶ人たちの何人かが振り返った。
「そ、そりゃあいるでしょう。だから神様の御力で治してもらいにきたんでしょ」
「でも、それって魔法とどう違うの? 魔法は神様とは関係のないものでしょう。アルの『まじない』もそうだよね。どうして教導師が使うと神様の御力になるの?」
「だ、だって、神様にお祈りするから……。ほら、破魔結界だって太陽神の御力でしょ」
アルは周囲からの視線を気にしながら、ドギマギとして答えた。
「ねえ、この話やめない?」
「破魔結界って青い砂を使うよね。教導師も御力を使うときは、青い粒を飲むよね。それって変じゃない。本当に神様の力なら、そんなの必要なのかな」
アルは答えに窮した。実はティナの発したこの疑問は割りとありふれたものである。
学者や魔法使いたちには神の存在を疑問視する者も多い。
「で、でも、俺はやっぱりいると思う」
アルのそれは幼い頃から教導師の世話になってきたことで培われた感覚だった。
神の存在を否定することは、世界を否定するのと同様に感じられる。
「神様がいなかったら、世界はもっと、こう、ひどいと思う」
「アルが知らないだけで、世界にはひどいところもたくさんあると思うよ」
ティナが言って微笑んだ。
なにかいつものティナとは違って影があった。
そういえば、アルはティナの生い立ちをまるで知らない。
知っているのは、自分より1年ほど前にクラングランにやってきたということくらいである。
「やっぱり、シュークリームにしようかな」
両手を頬に当ててつぶやくティナは、いつものティナだった。
列の横をときどき若い女性の教導師が通った。
重症者を見つけては、先に診療所内へ連れていく。
治療の終わった者たちは診療所の脇から出て帰っていく。
列は長かったが、次々と入っていくので、思ったほど待たなかった。
中に入ると、大広間にベッドや長椅子がところ狭しと並んでいた。
そこに患者が腰かけたり、寝そべったりして治療を受けている。
天井は高く、壁にはたくさんの窓。そこから外光が入ってきていて明るかった。
教導師たちが御力を使うときに起こる白い発光、次いで治療を受けている者に起こる黄色い発光。
それらがそこらかしこ起こっているので、暗ければさぞや美しくも目まぐるしいことになっていただろう。
入り口にいた10代とおぼしき教導師の少女が、馴れない様子でアルたちに症状を聞いてきた。
アルがティナをうながして歯を見せると、少女が一瞬笑いをこらえるような顔になった。
笑らいごとじゃないぞ、とアルは思った。
このせいでティナが後々まで結婚できなかったらどうするのだ。
教導師の少女に壁際に並ぶ長椅子に導かれた。
またもや待つことになるらしい。
アルはボンヤリと教導師たちを見ていた。
治療にあたる教導師たちは、若くても20代半ば。入り口にいたような10代の若い教導師たちは、彼らの補助をしたり、患者たちの案内をしている。
そんな中で、1人だけ異様に若い教導師がいた。
その少女はどう見てもアルと同じくらいの年齢に見える。
長過ぎる教導着の裾を踏みそうになりながら、前の長椅子で男の手をとっている。
露骨なほど嫌そうな顔。
あんな若い子も働いているんだなあ、とアルは感心した。
怪我の様子を見ているのだろうか?
少女が腰のベルトに結わえ付けてある袋を開き、青い粒を出した。
それを何粒か口に含む。
胸の正円のアミュレットの前で指を組むと、彼女の体が白く光った。
男にそっと触れる。男が黄色く光った。
速い、とアルは思った。
聖丸を飲んでから患者が黄色く発光するまでの時間があまりにも短かった。
熟練の教導師であるエピカの御力を見慣れたアルでさえ、驚くほどの早業だった。
男の手に現れていた黄色い光はすぐにおさまった。
少女はさっさと男に背を向けると、別の患者の元へと歩いていった。
教導師にも才能の有無があるんだなあ、とアルは思った。
教導師と魔法使いの違いはあるが、彼女はエーテルのような天才なのかもしれない。
そこまで考えたアルは、先ほどティナに言われtが言葉が頭に浮かんだ。
魔法とどう違うの?
アルは頭を振ってそれ以上考えることをやめた。
「こんにちは。どうされたのですか?」
50代前半の女性が話しかけてきた。
細身で、姿勢が良く、生真面目そうな雰囲気の女性である。
微笑みを浮かべてはいるのだが、どこか柔和さが欠けている。
全体として堅苦しさと厳しさを感じさせる女性である。
「ええと、ティナ、いや、この子の歯が、その折れてしまって」
アルはティナの腕をつかんでしどろもどろになって言った。
「『復元』してもらいたいんだけど」
女性はティナをじっと見つめた。
「見せてください」
ティナが先ほどのように歯を見せた。
女性は笑うどころか、眉ひとつ動かさなかった。
しばらく大きく欠けたティナの前歯を見た後、ふむ、と頷いた。
「こちらへ、いらっしゃい」
言って1人さっさと歩きだした。
アルとティナは女性のあとを追った。
女性の足は速く、2人はどんどん引き離される。
ベッドと長椅子のあいだを縫うように進み、やがて奥の両開きのドアを出た。
廊下である。
片側にはいくつもドアが並んでいる。
人であふれていた広間に比べ、静かだった。
女性が、通りかかった若い教導師に耳打ちした。
若い教導師は深く一礼して、小走りにドアの1つを開けて入った。
女性はアルたちに向き直ると、2人を交互に見て言った。
「高いですよ」
「はい?」
アルは思わず聞き返してしまった。
なにを言われたのか、わからなかったのである。
「『復元』は主の御力の中でも特に強力なもの。教導師にかかる負担もまた大きいのです。そのため、教会への寄進)も高額になります。生活に大きく支障が出るような怪我ならば、教会の制度として比較的安価で済ませられるのですが、歯を失った程度ではそういうわけにはいきません」
「で、でも、こんな前歯になっちゃったら……。その、女の子だし。困るんじゃ」
言うアルだったが、彼自身が男女の色恋沙汰にまだまだ関心がないので、どうも説得力に欠けていた。
「見映えのよしあしで生活に支障が出ることはありません。美しくあろうと思うのはただの見栄です」
言い切られて、アルは反論ができなかった。
アルの感覚では美人の方が、そうでない人よりも得をしているような気がするのだが。
「あなたは十分に容姿に恵まれています。前歯が欠けている程度で主の御力に頼る必要はありません」
ティナがアルを見た。
なぜか、うれしそうな顔をしていた。
「帰ろうか」
アルはティナの歯の列に開いた穴を見て心が痛んだ。
そしてティナを治したいのは、彼女のためではなく、自分の負い目を消し去りたいからだと気づいた。
このままではティナの歯を見るたびに嫌な気持ちになるだろう。
「それで、いったい、いくらなんですか?」
「金貨で30枚(30万円)です」
女性が言った。
本当に高い。
体の中がじりじりとするような気分になった。
それでもアルに選択の余地はない。
頭の中で素早く計算する。
コツコツと貯めていた貯金が18ジットほど。
残りはオルビーとレグルから借りるしかない。
「1度、戻って金を持ってきます」
それに驚いたのはティナである。
30ジットもの大金をたかが歯に払うなんて正気じゃないと思った。
「アル、つまんない冗談言わないで」
「冗談じゃない。本気だよ。俺、絶対にティナの歯を治す」
「いいってば。そんなお金あるなら、あたしに美味しいものいっぱい食べさせてよ」
「よくない。俺が治したいんだ。俺がお金だすんだから、ほっといてよ」
そのまま言い合いが始まった。
2人の語気はどんどん荒くなっていく。
「あたしの歯だよ」
「だから、なに」
「治すも治さないあたしの勝手。この人も言ってたじゃない。歯が欠けてても大丈夫だって」
「だから俺が治したいんだよ。俺がきちんとハラワタを抜いとかなかったから悪いんだ。だから、ちゃんと治さないと気がすまない。気分が悪いよ」
「どうしてアルのせいなのよ。アルは美味しい料理を作ってくれたよ。魚だってとっても美味しかったんだよ。アルが悪いなんてことあるわけないじゃない」
「それでもやっぱり俺のせいなの」
ついにアルは怒鳴った。
「だから、絶対に治す」
「アルのせいじゃない」
ティナも応じるように怒鳴った。
「だから、治さないの」
2人は睨み合った。
一緒に住み、一緒に戦ってもいれば、当然、意見がぶつかることはある。
それが同年代ならなおさらのこと。しかし、2人は今まで、ほとんどそういったことがなかった。
アルがすぐに妥協してしまうためと、ティナが物事に対してあまりこだわらないためである。
今回は違った。
アルは絶対に妥協しなかったし、ティナも歯に大金を払うことを強く嫌がり続けていた。
パン、パンと大きな音が鳴った。
それまで2人のやりとりを静観していた教導師の女性が、手を叩いたのだ。
アルとティナの勢いを断ち切るような、絶妙なタイミングだった。
「ケンカなら帰ってからにしなさい。人前で感情にまかせて怒鳴り合うのは見苦しいことですよ」
女性は言うと、また2人を交互に見た。そして、本当にわずかに口元に笑みを浮かべた。
「それにわたくしの話はまだ終わっていません。あなた方を連れだしたのは高額な寄進になることを聞かせるためではありません。それならば、あの場でただちに終わらせています」
女性はひと呼吸おいた。
「あなた方には寄進ではなく、教会への奉仕を求めようかと思っています。それならば金銭的な負担もかからず、歯も治すことができますよ」
「奉仕って?」
アルが言った。教会の掃除とかそういうことだろうか。
「あなた方は冒険者でしょう? わたくしの見るところ、年若いながら充分な力量を持っているようです。ひとつ、魔物退治をお願いできませんか?」
「魔物退治? 30ジットの代わりに?」
ティナが笑顔になった。
「それならいいよ。いつもやってることだもんね」
アルはまだ少し警戒していた。
30ジットに代わる魔物退治なら、よほど危険な仕事なのだろう。
「郊外の集落の1つがオーガーに襲われました。領政府の許可を得ずに集落を作っったために、教会からの恩恵を受けられず、破魔結界を張らずに済ませていたのです。こういったことは珍しくはありません。領政府の管轄下に入れば、税を徴収されることになりますからね。教会は王国や領政府から要請を受けることにより、破魔結界を張ることになるのです。不愉快な話ですが、それが太陽教会の定める規則なので仕方がありません。さて、あなた方に頼みたいのは、オーガーの退治および、教会から派遣する教導師が結界を張るのを助力することです。もちろん、オーガーの退治にはその教導師も加わります」
それからボソリと女性はつぶやいた。
「そこが一番の問題点なのですがね」
オーガーは4星の強敵である。4星の魔物といえば以前エーテルと戦ったケルベルス。
エーテルがいなければ絶対に勝てなかっただろう。
4星、さすがに30ジットの対価だけはある。
しかし、今回はアルとティナに加えて、教導師がいる。
3人がかりならどうにかなるのではないか。
アルにも、半年間冒険者としてやってきた自負がある。
「それなら、それで」
アルは言った。
女性は首を回して、後ろを見た。
それから親指を口元に運んで爪を噛んだ。
その癖は女性の厳しくもしっかりとした様子にそぐわなかった。
アルは、もしかしたらこの女性は自分が魔物退治に加わる気かもしれない、と思った。
自分に任された仕事を手伝わせる気かもしれない。だから、こんなところに連れだして、こっそりと提案してきたのではないか。
女性はなにかを待っているようだった。ときおり後ろを見て、それからまた爪を噛む。
廊下に並ぶドアのうち1つが開いた。
先ほど若い教導師が中へ入っていったドアである。
出てきのは四角い顔をした40半ばの男だった。
背は低めだが肩幅が広くガッシリとした体格をしている。
太い眉、大きな鼻と大きな口。どしどしと足音を鳴らしてまっすぐにやってきた。
「およびですか? メイラ大教会長」
男が言った。低い声である。
アルは驚いて、メイラと呼ばれた女性を見た。
彼女がこのクラングラン大教会の長だったのである。
今まで気にも止めなかったが、よく見ると、胸元の正円のアミュレトとが黄金である。
「はい、呼びました。急ぎで来るようにときちんと付け足したはずですがね」
男がうなった。
それから深く頭を下げた。
「お許しください。我が不徳のいたりです」
「あなたの不徳のいたりということは言わなくともわかっています。毎回毎回、わたくしの呼び出しに遅れるのはわざとですか?」
「なっ、滅相もありません。このダルトン、大教会長の呼び出しとあらばなにをおいても駆けつけたいところ。しかし、そう、かの聖乙女も言っておられます、『温かいスープを飲み終わるくらいの時間を待てない人など私は知りません。温かいスープを食べようとしているところを呼び出す方が悪いんです』、と」
「要するにあなたの都合も聞かずにいきなり一方的に呼び出したわたくしに非があるというのですね」
メイラがぬくもりをまるで感じさせない冷たい声で言った。
「なるほど、よくわかりました」
「いや、そういうことではありません。そう、聖ラミラスも言っておられます。『小さき者は小さき罪にこだわる』と」
「わたくしを小さき者だというのですね」
「い、いや、もちろん、そんなことを言いたいわけではありませんぞ。私が思いますに、聖ラミラスは誰にでもちょっとした失敗や間違いはあるのだから、寛大な心でいましょう、と、そういうことをおっしゃっていたのではないでしょうか」
「まあ、いいでしょう。あなたがわたくしを待たせるのはいつものことですから。今回は比較的に早くきたと言えなくもありませんし」
「そうですとも、そうですとも。さすがは、大教会長です」
なぜかダルトンがうれしそうに言った。
「ところで、オーガーの件ですが」
メイラが言ったとたんに、ダルトンは腹を抱えてうずくまった。
「うう、なんということだ。こんなときに……」
苦しげにうめく。
メイラは冷たい目で、しゃがみ込むダルトンを見下ろした。
「続けても構いませんか?」
「ダメだ、まだ大教会長のお話の最中だぞ。例え、苦しくとも、この場を離れることはまかりならん。耐えるのだ、ダルトン。例えこの身が朽ち果てようとも、今、この場を離れるわけにはいかんのだ」
ゼエゼエとあえぎながら言った。
「見上げた心意気ですね。では続けますよ。オーガーの件については、今朝、きちんとあなたにも話しましたね。知らないとは言わせん。わたくしははっきりとクドクドと説明しましたからね。そしてわたくしは、今回はブラザー・ダルトンに『破魔の行』をおこなってもらうつもりである、と伝えたはずです。昼までには段取りをつけて、報告してくるように、とそうも言いましたね」
淡々とした口調でメイラは言った。
その間、ダルトンは片膝と片手を床につき、まるで満身創痍の戦士であるかのように、苦しみをこらえていた。
「私は負けん」とか「このまま終わってたまるか」とか言っている。
「さらに、わたしくしは段取りについての細かい指示もしました。シスター・リティのところへ行き、経費として8ジットを受け取ること。その後、冒険斡旋屋に行き、冒険者を雇うこと。1度、冒険者ともども教会へ戻ってきて、わたくしに報告すること。ところで、先ほどわたくしはシスター・リティと会いましたが、驚いたことに彼女はブラザー・ダルトンはまだ来ていないと言いました。もう11時を回ろうというのにです。これはいったい、どういうことなのです?」
ダルトンはとうとうその場にうつ伏せに横たわった。
「む、無念」
かすれた声で言った。
「人が話をしているときになにを遊んでいるのです? 多くの見習いや教導師たちに範を示さなくてはならない立場のあなたが。わざわざ確認するのも馬鹿馬鹿しい話ですが、念のため確認しておきます。あなたは副教会長でしたね。この教会、いえ、この教区ではわたくしに次ぐ立場です。それをわかっているのですか?」
ダルトンがうつ伏せになったまま顔だけ上げた。
「も、もちろんです、大教会長。しかし、その、要するに、そう、聖王クラリオンもおっしゃっています。『年はとりたくないものだ』、と。私も、あと5歳若ければ……」
「聖王でなくとも、大抵の人間が同じことを言うでしょうね。ともかく、起きたらどうですか?」
「これは、申しわけない。突然、両膝に痛みに似た違和感を感じ、たまらずに伏してしまいました。ご容赦を」
ダルトンはゆっくりと体の具合を確かめながら起き上がった。
起き上がった後に、フラリフラリと体を揺らす。
「おっと、いかん」
メイラがため息をついた。
「ブラザー・ダルトン、あなたにはシスター・マリアンの件でずいぶんと便宜をはかったつもりです。それなのに、その態度はどうなのですか? わたくしは、あまり短気な方ではないと自負しておりますが」
そこでダルトンがおかしそうに笑った。
そして、メイラが冗談を言っているわけではないと気がつき、即座に笑いを咳払いに変えた。
「これで最後ですよ、ブラザー・ダルトン。あなたは集落に現れた魔物オーガーを退治し、その地に結界を張るのです。いいですね」
「はい」
ダルトンが弱々しい声で言った。
「可能な限り善処します」
さらなる小声で付け足した。
「最善をつくすことを努力していきたいと思います」
「絶対に、確実に、間違いなく、疑問の余地もなく、実行するのです。もし、魔物を退治せずにおめおめと戻ってくるようなことがあったら、そのときは……」
メイラがすっと目を細めた。
ダルトンがゴクリと唾を飲んだ。
「さて、実に都合がいいことに、ここに冒険者が2人います。彼らがあなたに力を貸すことでしょう」
言うと、メイラはアルとティナに向き直った。
「こちらはブラザー・ダルトン。性格にかなり難はありますが、御力と棒術と拳闘の腕前だけは確かです」
「いえ、そんな滅相もない」とダルトンが謙遜した。
今のは謙遜するところなんだろうか、とアルは思った。
「そういえば、わたくしもあなたがたも互いに名乗り合っていませんでしたね。わたくしはメイラ。この教会の責任者です」
「俺はアルフレッド」
「あたしはティナ」
メイラのアルを見る目が、わずかに温かみ帯びた。
「やはりあなたがカーラッドの息子ですか。シスター・エピカからあなたの話は聞いています」
「エピカから?」
「4月に手紙をいただきました。あの方は本当に老いるということを知らないのですね」
アルはこの厳しくて堅苦しい教導師に急に親しみがわいた。




