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アルフレッド英雄譚  作者: 昨夜名月
第1章 アルフレッド冒険する
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第2話 アルフレッド12歳出会う①

 草原をつっきる一本道を何台もの馬車が行き来している。

 一本道の先に見えるのは、白い壁に囲まれた大都市クラングラン。

 魔法学院の『黒の塔』と『白の塔』が空を突くように伸びている。


 荷馬車のはしに座り、積まれた樽にもたれかかって眠っていたアルは、馬車が急停止する振動で頭を強くぶつけ、目を覚ました。


 御者ぎょしゃが乱暴な運転で進路を妨害した馬車をののしる声が聞こえてきた。


 アルは座ったまま伸びをした。

 いつのまにか眠ってしまっていたらしい。


 ヘストンの村を出て3日目。

 馬車を何度も乗り換えての旅なので、予想以上に時間がかかっている。


 アルは空を見上げた。

 太陽はちょうどてっぺんに昇っている。時間的にそろそろ到着してもよい頃である。


 立ち上がった。

 強い風がアルの硬い黒髪をバサバサとなぶっていった。


 クラングランの街がアルの目に入った。

 思わず、声がもれた。


 とうとうやってきた。

 父カルロスが冒険者を始めた街。

 アルがこれから冒険者を始める街。


 ヒャッホーと叫んでいた。


 それを聞いた御者ぎょしゃも彼の気持ちのたかぶりを共有してくれたようで、ヒャッホーと叫んで馬に鞭を当てた。

 馬車の速度が増した。


 アルは浮かれる気持ちを鎮めるために、目を閉じて、深呼吸をした。

 2度、3度、4度。


 ぜんぜんダメだ、うわぁ。


 アルはバタバタして、御者ぎょしゃに怒られた。


 アルが顔を赤くして目をキラキラと輝かせて見守るうちに、クラングランの街は近づいてきた。


街を囲っている壁は高くそびえている。天へと伸びる白と黒の塔はいったいどれだけ高いのだろう。


 馬車が門の前についた。

 石造りの重厚な壁。

 門は頑丈そうな巨大な白銀の鉄格子で、今は吊り上げられている。

 その下をひっきりなしに馬車が入っていき、あるいは外に出て行く。


 馬車は入る前に赤紫色のオルデン王国軍の制服を着た者に止められて、積み荷の確認をされている。

 そのせいで、門の前には馬車の列ができていた。


「ほら、降りろ、坊主。こっちは時間がかかるからよ」

 御者ぎょしゃが言った。

「くそっ、今日はやけに混んでるな」


 アルは荷袋や矢筒などを背負うと馬車を降りた。

 腰の小袋から銀貨を数枚出して、御者ぎょしゃに払う。


「置き引きとスリに気をつけろよ」

「ありがとう」


 アルは御者ぎょしゃと別れると、馬車の脇を通っていく人々の列に交じった。


 こちらはどんどん進んでいく。

 徒歩の者は特に呼びとめられることはないらしい。


 すぐに門まで来た。

 アルは人々の隙間からチラリとのぞく街の様子に、胸を高鳴らせた。


「おい、君。ちょっとこっちに来て」

 赤紫の制服の男に呼び止められてしまった。


 馬車のチェックで忙しく働いていた方とは別で、暇そうに通行人を眺めていた男である。


 人々の視線がアルに集まった。

 アルは今度は恥ずかしさのために赤くなった。

 アルは基本的にシャイなのである。


 アルは男に腕をつかまれて人々の列から離れた場所に連れていかれた。


「なんか、まずかった?」


 どこか頼りない感じの青年である。

 赤紫色の上着、ズボン、ベレー帽。そしてマントを羽織っている。腰には細身の剣。


 男はアルを上から下まで何度も眺めている。


「君はなんだ?」

「アルフレッドだけど」

「名前なんか聞いちゃいない。何者かと聞いているんだ」


 そう言われてもアルにはなんと答えていいのかわからない。


「怪しい。見るからに怪しい」


 アルのまわりを歩きながら、ときどき、アルの装備品を引っ張ったりつついたりしている。


「年齢は?」

「先月12歳になったとこ」

「どこから来たんだ?」

「ヘストンの村」

「知らないな。他国かい?」

「王国内だよ。ギルからずっと東に行った山奥にあるんだ。地図を描いた方がいい?」

「いや、必要ない。そんな名もない村、一生行くことはないだろからな」


 失礼なことを言いながらも、アルが背負っているクロスボウをツンツンしている。


 それから正面に戻ってきて、胸を張ってアルを見下ろした。


「要するに、君はなんだってそんなかっこうをしているんだ?」


 アルは自分の着ているものを見回した。

 フラオークと戦った時の冒険仕度である。

 金属板のついた太い革のベルトを斜めにかけて、腰のベルトと連結。

 厚手のシャツと革のズボン。小手とグローブ。脚絆にブーツ。首にはマリーのくれた赤いスカーフをなびかせている。


 旅用のフード付きのマントを羽織り、腰には剣と短剣、背中には矢筒と短弓、さらにクロスボウを背負っている。


「冒険者になりに来たんだ。あの、武器を持ち歩くの、まずいの?」


 クラングランにはそういう法律があるのかもしれない。


「いや、そういうわけじゃない。剣だろうが、斧だろうが、クロスボウだろうが、勝手に持って歩けばいい。物騒な世の中だからね。誰もとがめはしないさ。問題は12歳の少年がそんなかっこうをしているってところだ。冒険者? わかる。わかるよ。男の子は憧れるよなあ、カーラッドにさ。冒険者に憧れてド田舎の村を出てきた。うん、うん、よくわかる」


 腕を組んで、何度も頷く。

 それから男はアルに人差し指をつきつけた。

「だからって、本格的すぎやしませんか?」


 アルはなにを言われたのかわからなかった。

 きちんとした装備をしているとまずいのだろうか。


「なんだって弓とクロスボウ、どっちも持ってるの? やたら使い込まれてるしさ」

「だって、使いどころが違うじゃないか」

「ああ、そのとおりだよ。軍学校でちゃんと習ったさ。速射の弓、射程のクロスボウだ」

「弓の方が携帯しやすいしね」

「それにそのベルトはどうだ? 冒険者に憧れるなら普通は鎧だろ。そでなし、前開きのオシャレなやつが流行してるんだぞ。俺も、1つ持ってる。軽くて動きやすくて快適だ」


 異世界パルミスで一般的にいう鎧は革鎧である。

 金属製の鎧は滅多に使われることがない。肉体がある程度損壊しても即死でなければ教導師きょうどうしが治すことができる。

 それに、いくら金属製の頑丈な鎧を着ていても、巨大な魔物に踏まれたり、灼熱しゃくねつの炎にまかれたりすればまるで意味がない。


「でも、鎧だとサイズが合わなくなったらそれっきりじゃないか。これなら、調整が効くし。それに俺が大人に勝ってるのは身軽さだけだから、そこを生かしてかないと」


 アルは言った後に、自分がおかしなことを言わなかっただろうかと、不安になり男を見た。


 男はますます難しい顔になっていた。


「なんだよ、その隙のない回答は。君、本当に12歳か? 怪しい、怪しすぎるぞ」


 そんなに怪しまれても困るんだけどなあ、とアルは思った。


「だいたい、そんなゴテゴテといろいろ身につけておいて、なんだって平然と歩いてられるんだ。重くないのか」

「うん、鍛えてるからね」

「そういう問題じゃないだろう」


 じゃあ、どういう問題なんだろう、とアルは思った。


 どうもこの男性との会話は噛み合わない。いったいいつになったら街に入れるのだろうか?


 アルを救ったのは男の同僚だった。

 忙しく馬車の確認をしていた髭面の体格の良い男である。


「こら、ケイン。なにを油を売ってるんだ」

 ガラガラ声で怒鳴った。


 アルの目の前の男、ケインが飛び上がるように姿勢を正した。


「いえ、自分は不審者をただしていたところで」

 男が、あん、と次なる怒号をためるような声を出した。

「お前の役目は子供の相手をすることか? 違うだろうが。この役立たずのアオビョウタンが」

 カミナリが落ちた。


 ケインは返事なのか悲鳴なのかわからないが、とにかく悲痛な声をあげて、アルから離れた。

 直立不動の姿勢のまま、また徒歩の列に目を光らせる。


 どうしたものか、とアルがそのまま突っ立っていると、コホン、とケインが咳払いした。


「君、もう、いってもいいよ」

 ボソボソと言った。


 アルは再び列に並び直した。

 今度はケインも呼び止めることはなく、アルと目が合うと、運が良かったな、今回は見逃してやろう、というような顔をした。


 こうして、アルはクラングランの街へと入った。

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