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アルフレッド英雄譚  作者: 昨夜名月
第1章 アルフレッド冒険する
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第9話 アルフレッド12歳、誓う⑦

 翌朝、マリーは眠る両親のあいだで目を覚ました。

 3人川の字になって寝たのである。かなり大きなベッドではあるが、3人寝ると窮屈きゅうくつだった。


 昨夜はアルに送ってもらってから、風呂に入り、また眠った。

 今度は夢も見ずに朝までグッスリだった。


 格子窓から赤みを帯びた光がさし込んでいる。

 まだ早朝のようだ。

 あまりにも頭がスッキリしているので、二度寝する気になれず、そのままベッドから抜けだした。


 途中、ケルトンの足を踏んでしまい、父がうめいた。


 顔を洗ってから台所に行ってパンを食べた。

 パンをかじっていると、昨日の自分の行動が頭をよぎった。

 大胆すぎたのではないか、と思った。


 アルフレッドを相手にするなら、あれくらいの方がいいんだわ、と自身を納得させる。


 とにかく、物事はすべて良い方にいったし、こんなにも清々しい朝を迎えることができた。


 パンを食べ終わると、そそくさともう一食分を作った。パンを切り、その中にベーコンや卵焼きを挟む。こちらの世界でいうサンドイッチ。

 アルに朝食を作って持っていこうと思ったのである。


 それから着替えにかかったが、これが案外時間がかかった。

 服を選ぶのに悩んでしまった。


 アルに綺麗だと思ってほしいので、妥協はできない。

 結局、悩みに悩んで、黒い襟なしのシャツにげ茶色のスカート。クリーム色のショールを肩にかけていくことにした。

 髪の毛はうしろでポニーテイルに結ぶ。


 アルから貰った『赤邪香せきじゃこう』のバラのついた白いリボン。これはもう、マリーにとってはお守りだ。



 朝露あさつゆに濡れた道をバスケットを手に下げて歩く。


 外は思ったよりも寒くて、もう少し厚着した方が良かったかと後悔した。

 しかし、あまり着こむと太って見えそうだ。このまま行くことにした。


 途上、何人かと会った。

 全員、挨拶のあとに、「おめでとう」と言ってくれた。

 アルとの婚約はすでに広まっているらしい。


 今までのマリーだったら、こういうことに照れくささを感じただろう。

 しかし、もはや開き直ってしまっている。

 祝福に対して礼をのべ、幸福をかいまみせるような笑みを浮かべる余裕がある。


 村人たちはマリーが元気になったことにホッとすると同時に、彼女がもう子供ではなくなっていることを知るのである。


 アルの家にやってきたマリーは勝手に入った。

 この家は昔から鍵をかけない。

 アルが留守中はさすがに不用心なので鍵をかけ、それをマリーが預かっていた。


 まだ薄暗い家の中に入り、居間のテーブルにバスケットを置いた。

 そろそろアルも起きるだろう。せっかくだから起してあげよう。


 アルの部屋へと足音をたてないように向かう。

 起きてしまったらつまらない。アルの寝顔が見たかった。


 静かに寝室のドアを開ける。

 きしむような音が鳴ってしてしまったが、まあそれは仕方がない。


 アルがいた。

 裸の尻をこちらへ向けている。着替え途中だった。


「おはよう、マリー。早いね」


 アルは尻をプルンと振ってマリーを見た。


 マリーは無言でドアを閉めた。

 怒るべきか喜ぶべきか、よくわからないままおろおろとする。


「アル」

 顔を赤らめたままドアに背を預けて、マリーは言った。

「ごめん」


「なにが?」

 ドア越しの声はいたって普通。

「どうかしたの?」


 こういう奴だった、とマリーはアルの子供っぽさを思いだした。

 マリーは3年ほど前に裸を人に見られるのは恥ずかしいと思うようになったが、アルはいまだにそれがないらしい。


「なんでもない。朝食、持ってきたわよ。着替え終わったら食べて」

「ありがとう。でも、その前に朝の鍛錬をしてくるよ」

「見ててもいい?」

「いいけど、退屈じゃないの」

「いいの」


 着替え終わってでてきたアルは、ツギだらけの麻のズボンと洗いざらして襟元が伸びに伸びたTシャツという姿だった。


「ひょっとしてパンツはいてないの?」


 アルの尻が妙にプリンとしてるので、恐る恐る聞いた。

「はいてないよ。どうせ、汗だくになるから」

「その、大丈夫なの?」


 言ってみてからまた赤面した。

 男性の前にぶら下がっているアレはパンツをはかないで大丈夫なものなのだろうか?


「なにが?」

「わ、忘れて。ほら、練習だか訓練だか、するなら急いでしなさいよ。デートの時間がなくなっちゃうじゃない」

「デートってどういうの?」

「2人で一緒に出かけたり、ご飯食べたり、遊んだりすることよ」

「なんか曖昧あいまいだなあ」

「そう思うのはあんただけ」

「だって、出かけるのも、食事も、遊ぶのも全部別々のことじゃないか。どうして、デートのひと言でおさまるの?」

「2人一緒にってことが重要なの。恋人同士、仲良く、手をつないだり、肩を寄せあったりするのよ。なにをするかは問題じゃないの。2人でいることが重要なのよ」

「じゃあ、俺の鍛錬をマリーが見てるのもデートになるの?」

「私の気持ちの持ち方によってはなるかもね。でも、嫌よ、私は。デートじゃないわ」

「なんかよくわかんないな」


 言ってから、アルは、あっ、と声をあげた。

 マリーを振り返り、上から下まで見る。


「な、なに? なによ」


「似合ってるよ、その服。すごく可愛い」

 さわやかな笑顔で言ってのけた。


 マリーは思わずしゃがみこんだ。顔をおおって照れた。

 不意打ちもいいところである。



 庭で鍛錬するアルを、マリーは家の外壁に背を預けてながめた。

 剣を振り、短剣を振り、短弓やクロスボウで的をつ。


 マリーは出発以前のアルと動きが変わっていることに気がついた。

 動きの1つ1つが軽やかで躍動感がある。


 鍛錬が終わった頃にはアルは汗びっしょりになっていた。

 恐ろしいほどの運動量だったので、それも当然である。


「ちょっと待って。シャワー浴びてくるよ」


 半裸である。鍛えぬかれた体がほてっている。


 マリーは恥ずかしくて目をそらしたい反面、触れてみたいという妙な欲求が起こった。



 シャワー後、アルはマリーが作ったパンを食べた。


「うまい。さすがマリー。とっても美味しいよ」と、やや過剰なほど褒めるアル。

 エピカの教えを忠実に守っている。


 しかし、マリーには効果的であった。

「そうかしら、ただ挟んだだけなんだけどな……」

 顔が思いっきり緩んだ。


 食べ終わり、さて、どうしよう、ということになった。

 デートと言われてもアルにはなにも思いつかなかった。


「久しぶりに泉の方に行ってみない?」

「いいけど。最近、オークはどう? あっちまでは来ないかい?」

「エピカのおかげで、昼間はめったに村の近くには来ないわ」


 マリーは今朝のことを思い出した。


「そういえば、もうみんな知ってるみたいよ。私たちのこと」

「まずいなあ。エピカになんて言おう」

「別にいいじゃない。いまさらどうしょうもないもの。でも、あの2人にはちゃんと私たちから言わないとね」

「もう知ってるかなあ。セイルもジャックも驚いただろうなあ」

「いいのよ。私が元気になったんだから」


 マリーは幼なじみたちがどれほど自分を心配していたか知っている。

 自分がしっかりと立ち直ることが一番大事なのだ。


「帰ってきたら、まっ先に知らせに行こう。すごく心配してたんだから」


 マリーはジャックとセイルが自分たちの婚約を知って、どんな顔をしたか考えた。


 きっとジャックは口をあんぐりと開けて、それから、「マジかよ、アル」とか言って、最後に大笑いしたように思う。


 セイルは目を閉じて、混乱した頭の中を整理し、それからいろいろなことを考えたのではないだろうか。



 朝食を終え、2人は村の外にある泉に向けて出発した。

 念のため、アルは冒険支度になっている。マリーはああいったが、破魔結界はまけっかいの外に出るのだ。

 いつなんどき魔物に襲われるかわからない。


 ただしフル装備ではなく、金属板のついたベルトと籠手こて脚絆きゃはんは外し、武器も短剣と短弓のみの軽装である。

 昨日のことがあるので、赤金属レッドメタルの針金入りのスカーフはしないつもりだったのだが、それをマリーは見とがめた。


「ちゃんとしててよ。せっかく私がプレゼントしたんだから」


 どうやら本当に事件を克服したようである。

 アルはうれしかった。


 しかし、実際のところはアルが思うほど簡単ではなかった。

 マリーは赤色が苦手になっていたし、アルがスカーフをするのもなにか嫌な気持ちがした。

 それを強がってみせるのがマリーの気丈きじょうさである。


 丘から下りて村の中心部を通り、村外へ出ていく。

 途中、『ヘストンの宿』の前を通りかかった。


 ちょっと待ってて、とマリーが中へ入って、すぐに戻ってきた。


 バスケットを置いてくるかと思いきや、マリーは依然いぜんバスケットを下げたままだった。


 道すがら出会う村人たちに、はしから祝福された。

 誰もがマリーが元気になったことを喜んでいる。

 アルはヘストンのそんなところが誇らしかった。


 村の入口で青い服を着た老婆、ようするにエピカにでくわした。


「おはよう、エピカ」

 マリーが言った。

「ごめん、私、しゃべっちゃったわ」


「2人ともおはよう」

 言ってからエピカは2人のつないでいる手を見て、うれしそうに笑った。


「いいんですよ。いいんですよ。年をとるとなにかにつけて、心配性になるものですから。それに結果としてみれば、秘密にするよりも話した方が良かったと思いましたよ。村の人たちはみんな本当に喜んでいたんですから」


 マリーは自分の決意をエピカに知らせようと思った。


「私、決めたの。絶対に幸せになってやるって。あんな人殺しに邪魔されてたまるもんですか。夢に出てきたって、何度だって殺してやるわ」


 エピカが目を丸くした。

 それから口に手をあてて、声をあげて笑った。笑いすぎて途中で咳込んだ。


「素晴らしい成果ですね。お父さんに感謝するのですよ。ケルトンがことの発起人ほっきにんなんですから。最初聞いたときは、なんて無茶なことを、と思いましたけど、こうしてみると、彼こそ慧眼けいがんの持ち主ですね。ボンヤリとして、お人好しで、流されやすい、そう、要するにアルみたいな子でしたけど、賢く育ったものです」

「そうか、言われてみればアルってお父さんに似てるわ。優柔不断なところとか」

「ロゼリアはあなたにそっくりでしたよ。あなたたちを見てると、小さい頃の2人を見てるみたいです」


 エピカと別れてから両側に畑の広がる坂道を上っていく。


 坂道の終わりには森が見える。

 昨日に引き続きの好天で、陽ざしはさっそく強くなり始めている。

 森の木陰が心地よさそうである。


「なんでかばってくれたの?」

 アルは言った。

 マリーが自分がしゃべってしまったといったことに対してである。

「俺がしゃべっちゃったのに」


 アルがマリーの発言に戸惑っているうちに、話題が変わってしまい、訂正するタイミングを失ったのである。

 なんだか後ろめたかった。


「だって、アルってエピカのことが大好きなんだもの。約束を破ったなんて思われたくないでしょ」

「でも、マリーだって同じだろ」


 村の人間でエピカのことが好きでない者などいないだろう。エピカは村人全員の母親のような存在なのである。


「私はいいの。いつでも挽回ばんかいできるもの。アルは村にいないんだから、そうはいかないでしょ」

「でも……」


 マリーはアルの前に回り込むと、その鼻に指を突きつけた。


「いい? もし私に悪いと思うんなら、その分優しくしてちょうだい」


 それからマリーはまたアルの隣に戻って手を握った。


 アルはなにかマリーに褒め言葉を言おうと思った。

 しかし、綺麗も、可愛いも、似合ってるも、どうもうまく当てはまらない。

 困っていると、マリーが言った。


「ねえ、アル。クラングランに戻ったら、今までよりも手紙をもっとほしいわ。だって婚約してるんだもの。いいでしょう?」

「うん、わかった」


 1週間に1回は書くようにしようとアルは思った。


「それにね、もう少し、いろいろ書いてほしいのよ。どんなことを思ったとか、日常的なこととか、私のことをどう思っているとかもね。あんたが手紙なんか書きつけなくて、苦労してるのはわかるけどさ」

「がんばるよ」

「あと、たまには会いに来てね。本当は私も会いにいった方がいいんだけど、ちょっと都会って怖くて」

「できるだけ帰ってくるよ」


 言いながらもアルは、今頃、『太陽の剣』は大丈夫だろうか、と不安に思った。

 ティナもエーテルもマグ爺も腹を減らしてはいないだろか?

『月の雫』はてんてこ舞いになっていないだろうか?

 出てくるときはマリーのことで頭がいっぱいで、留守中のことなどまるで考えなかったのだ。


 マリーがアルの手の甲に爪をたてた。

 アルはチクっとした痛みで我にかえった。


「私といるのにほかのこと考えないでよ。なんか腹が立つわ」

「ご、ごめん」

「なに考えてたの?」


 足を止めて、アルを横からじっと見つめるマリー。目にけんがある。


「えっと、クラングランのことだよ。ほら、セイルの手紙を貰って、急いで駆けつけたから、留守が大変だろうと思って」


 マリーの目もとがやわらいだ。


「まあ、それなら仕方ないと思うけどさ。帰ったらまずいことになってない?」

「たぶんね。大丈夫だと思うんだけど」


 半年前まではアルなしで回っていたのだから問題はないと思いたい。


「ねえ、ティナってどんな人? 一緒に住んでるんでしょ」


 マリーは手紙でアルの仲間や友人のことは知っている。

 怪力の持ち主で一緒に住んでいるティナ(女みたいな名前だが怪力の持ち主というからマリーは男だと思い込んでいる)。

 老魔法使いのマグ爺。

 小さな魔法使いのエーテル。

 斡旋屋の店主オルビーに、隣の料理屋の店主レグル。

 その娘のフィアニーにメアリー(この2人ことをマリーは警戒している)。


「ティナは無邪気っていうか、あっけらかんとしてるというか。正直で素直だよ、すごく」


 アルはティナの顔を思い浮かべながら言った。

 年齢はアルやマリーよりも1つ上なのに、妙に子供っぽい。

 雰囲気も性格もマリーとは正反対である。


「アルよりも強いの?」


 アルは頷いた。


「すごく強いよ。俺が武器を持ってても素手のティナに勝てないと思う」

「へえ、そんなにすごいんだ」


 マリーの頭の中に身長2メートル近くの巨漢で、子供っぽい顔をした男が思い浮かんだ。


「あと、すごく食いしん坊だよ。とにかく、いつでもひと言目には、お腹すいた、だもん」


 マリーの頭の中の童顔の巨漢が大きな肉にかぶりついた。


「それから、髪の毛をすごく大切にしているよ。引っ張ったりすると、すごく怒る。怖いよ」


 ハゲてるんだわ、とマリーは思った。

 ケルトンもここ数年、後頭部の頭髪が薄くなり、髪の毛についてかなりナイーブになっている。


「それで仲良くやれてるの?」

「うん、たぶんね。ティナは……」


 アルは、エピカがほかの女性の話をあまりしてはいけない、と言っていたことを思いだした。


「ティナとはうまくやれてると思うよ。オルビーについても聞きたい?」

「もちろん聞きたいわ。あんたがクラングランでどんなふうにしているのか、そいうこと、もっともっと知りたいもの」


 それからアルはオルビーやレグル、マグ爺の話などをした。

 エーテルやフィアニーについてはエピカの言葉に従って話を避けた。

 しかし、マリーはレグルの娘たちについても聞きたがった。

 しかも自分から聞きたがったくせに、いざ、アルがフィアニーの話はじめると不機嫌になった。


 フィアニーにときどき街のいろいろな場所に連れていってもらっている話をすると、ついにマリーがアルの手を振り払って前に回り込んだ。


「つまり、あんたはそのフィアニーって年上の女と2人っきりでいろんなところに行ってるってわけね」


 アルはしまったと思った。

 エピカの忠告を守らずに、ついついフィアニーについて話しすぎてしまった。

 そのせいでマリーを怒らせてしまったようだ。


 アルはあのときのエピカの言葉を正確に思い出した。

 恋人が女性の名前を口にしただけで自尊心を刺激されるのが女性というものです。また、いくら男でも信頼をしめしすぎるような発言はひかえるべきです。要するに、自分が一番大切に思っているのは君なのだ、ということを常に言葉や態度にあらわしておくこです。


 アルは最後の部分にマリーの機嫌を直すためのヒントがあるように思えた。


「それはね、別にいいのよ。あんたがいままで誰とデートしようと」

 マリーは、とても別にいいとは思っていないような尖った口調で言った。

「でも、つまり、あんたは私の婚約者になったわけだし、これからはそういう不謹慎なことはして欲しくないわね」


「ええと、マリー。君のことを1番大切に思ってるよ」


 アルとしてはエピカの言葉をそのまま口にしたのだが、これはタイミングが悪かった。

 まるで浮気を責められた男のいい分である。


「つまり2番目だか、3番目だか知らないけど、そのフィアニーさんのことも大切に思ってるってわけよね」

 マリーの表情がさらに険しくなった。

「年上の人って素敵よね」


「マリー、なんで怒ってるのかわからないよ」

 アルは正直に言った。

「俺、どうすればいいの?」


 マリーは目を閉じて、大きく息を吸い込んで、ゆっくりと吐いた。


 胸の中でうずまいている嫉妬の炎を沈めようと努力する。

 アルといれる時間は限られているのに、ケンカなんかしたくない。


 マリーは目を開けると、引きつりながらも、微笑んだだ。


「まあいいわ。小さなことでカリカリしてたらつまらないものね。あんたがその年増と、もうデートをしないって信じることにするわ。約束してくれるわよね」


 アルはフィアニーと出かけて、街のあれやこれやを教えてもらうのを楽しみにしていたのだが、マリーがなにか非常に妥協しているように思えたので、素直に頷いた。


「わかった。フィアニーとは、もう2人で出かけりしないよ」


 マリーは少し自分の嫉妬深さを後ろめたく思ったので、自分ももちろんアル以外の男とデートするようなことはしない、と約束した。


「でも、それじゃあ、ジャックやセイルと2人で出かけられないじゃないか」


 すごく不便なんじゃないだろうか。


「そんなのいいのよ。それがつつしみというものだもの」


 アルは婚約ってのはいろいろと大変なんだなあ、と思った。


「マリーの方はどう? 学校はうまくいってる?」


 アルは今度はマリーの話を聞くことにした。話を聞いている分には、いきなり機嫌を損ねてしまうこともないだろう。


 マリーはもう少しアルのクラングランでのは話を聞きたかったが、彼女もまた嫉妬してしまうことを恐れた。

 女の話はもとより、アルが楽しげにあちらの話をするだけでも、嫉妬心が頭をもたげてきそうである。


 マリーは学校の友人たちの話をした。

 そうするうちに、早熟そうじゅくの女友だちに恋人がいることに話がおよび、その友達が恋人から貰ったプレゼントなどを自慢してくることに話が進んだ。


「俺もなにか送った方がいい?」


 アルはなにか催促されている気がしたので言った。


「あら、贈ってくれたじゃない」


 マリーは髪の毛を結んでいるリボンに触れた。白いリボンには虹色に光る赤邪香せきじゃこうのバラの飾りがついている。


「私にとってはなによりも大切なお守りよ」

「血に触れないように気をつけてね」


 人の多いところで万一血に触れてしまうと、大変なことになってしまう。

 しかし、それさえ気をつけていれば護身用具としては最適かもしれない。


「でも、プレゼントをするなと言ってるわけじゃないのよ」

 マリーは付け足すように言った。

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