兄が異世界転生してるあたしと、姉が異世界転移してる彼
それは兄のお通夜での出来事から始まりました・・・
@短編95
『召喚に巻き込まれたアラサー女ですが、なんだか殿下が優しいです?』
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『やらかし王子の起死回生』
https://ncode.syosetu.com/n5190gx/
のスピンオフです。
時系列で言えば、『やらかし王子の起死回生』→『召喚に巻き込まれたアラサー女ですが、なんだか殿下が優しいです?』→この話 の順です。
「え。岩城のにいちゃん、異世界転生したんだな。おれのねーちゃんは異世界転移だけど」
「えーーー!!うっそ、安芸くんのお姉さんも異世界に?」
なぜこんなぶっちゃけトークになったかと言うと・・・
両親に親戚、みんな休んでいて、あたしが寝ずの番をしていて(1時間交代でね)。
兄ちゃんのお通夜の時にね、安芸くんもお悔やみに来てくれたんだ。
訃報を聞いたのがさっきだったそうで、わざわざ夜中なのにね。
兄ちゃん小さい頃から空手道場に通っててさ。安芸くんはそこの後輩だったわけ。
そしたらさぁ・・・びっくりだわよ。
兄の枕元に、背の高い男がいるのよ。
外国人のよう、いやあれは見覚えがあるぞい。
そうだそうだ!あの乙女ゲーの王子だ!あのやらかし王子だ!
うわあ、ハンサム〜〜。
『あれ?火輪?おれ、ひょっとして・・元の世界に来て、どわああ!!おれの体じゃん!!』
そこの布団で寝ている死装束の男は、あたしの亡くなった兄ちゃんですよ。
で、あなた今『おれ』って言いましたね?
あたしの傍にいる安芸くん・・・割と平気な顔をしてにいちゃん?を見ている。驚かない?普通。
王子は頭をガシガシと乱暴に掻き、たはぁと苦笑した。よく兄ちゃんがしてた仕草だ。
『あー、やっぱり死んじゃってたんだなぁ。親父とオカンは、その・・・どうなんだ?』
「そりゃ泣いて泣いて・・あたしだってさっきまでは泣いちゃってたよ、兄ちゃん」
『うん、ごめんな。カツオノエボシに刺されてさぁ。足は吊るわ刺されて激痛だわで、溺れたんだ』
「体にすっごいミミズ腫れがあったよ。痛かっただろうね」
『火輪、お前も夏の終わりに海に行くなよ〜、おれみたいになるぞ〜』
あの綺麗な王子が、兄ちゃんの口調で話している・・不思議。
「で、兄ちゃん。その格好は何?まさか異世界転生ってか?」
『大当たりぃ〜〜、ドンドン。あの乙女ゲーの王子様に転生したぜ』
「ひゃあああ!で、で!サリィムちゃんはどうなったの!!」
『見事救ったぜ。勿論ダムールもな!ビッチは幽閉したった。そして、サリィムちゃんは今はおれの嫁だ』
「ど、どひいい!!死んで良かったんだか悪かったんだか・・でもあたしは寂しいよ、兄ちゃん」
『うん。まあおれはそこそこ楽しくやってるから安心しろ。心配かけたな、火輪』
あ。兄ちゃんの体がゆっくりと薄く透けていく・・
「兄ちゃん!体が透けてるよ!」
『あー。もう時間ってことかな・・そうそう、お前、まだやらかし王子が出てくる乙女ゲープレイしてるか?』
「おれって・・まあおれだよね。やってるよ」
『宰相を言い負かしたら、激ムズパズルになるだろ。解けたか?』
「解けてないぃ・・・兄ちゃんに聞こうと思ってたのに、死んじゃうんだもん・・ぐすっ」
『やっぱし解けてなかったか。いいか、ヒントは時計、そして時計台のプレートの文だ。ここまで言えば解るな?』
「・・あ!あー!そう言う事?」
兄ちゃんはもうスケスケな姿で、足ももう見えなくなって・・・優しくニコッと笑って・・・
『じゃあな、火輪。親父とオカンを宜しくな。これが伝えたかったんだよなぁ。隣国王子はいい奴だからな、スチル期待しとけよ。また会えるといいが・・・じゃあな・・・・
消えるように姿がなくなった。
「変な遺言残しちゃって・・ぐす、ばかぁ・・・兄ちゃんのばかぁ・・」
あたしはおいおい泣いて、傍にいる安芸くんが背中を摩って慰めてくれて・・・
そういえば安芸くんのお姉さんは突然行方不明になったんだっけ?たしか1年くらい前だったかな。
姉弟の2人暮らしだったんだよね。事件か事故か、まだ捜査と捜索が続いている。
安芸くんも大変だ。
なんとか涙を堪え、あたしは安芸くんにペコリと頭を下げる。
「ごめんね、なんか」
「・・・岩城のにいちゃん、異世界転生したんだな」
と言う流れなわけだ。
あたしは兄ちゃんが行ってしまった異世界、乙女ゲーの事を説明すると、安芸くんもお姉さんが連れて行かれた異世界の事を教えてくれた。
安芸くんのお姉さんはちらと見た事があったけど、背が低くてぽっちゃりだった。
なんと今は聖女化してしまって、蜂蜜色の金髪に身長が160センチくらい、別人になってしまっているそうだ。
「でも話すと『ああ、ねーちゃんだわー』って解るから不思議なんだよな」
最近異世界に行って、お姉さんと王子殿下の結婚式に参列して来たとか。
とても良い旦那様なんだってさ。『お義兄様』って呼んでるそうで、つい最近も姉のところに遊びに行ったんだとか。
「そうだ。お義兄様の写真、撮ってたな。姉さんとのツーショット。見るか?凄い変身を遂げてるんだぜ。それとお義兄様がとんでもなく美男子」
見せてもらった。
うわ!何この美女は。これがあのぽっちゃりお姉さんかよ。すげえな聖女化。
そして隣が、王子殿下でお義兄様でお姉さんの旦那様か。
あれ?
この人・・・見覚えがある・・・?
ああ、この人・・・
「・・隣国の王子だわ、この人」
「ん?」
確かゲームでは、まだ婚約者がいなかったんだっけ。
100年に一度、定期的に聖女を呼べる技術と魔術を確立している、まさに大国の隣国。光教も擦り寄るわけだわ〜。
「と言うことは!!」
てなワケで・・・
安芸くんと聖女姉さんのご好意で、わたしも異世界に行って、兄ちゃんと再会を果たしたのでした。
生サリィムちゃんとも会えて感激!!
しかもおなかがぽこっと大きくなっている・・・ベイビーですかー。やったね兄ちゃん!
転生前は彼女を一度も作れなかったのに、人生大逆転じゃーーん。
死んじゃった時は本当に悲しかったけど、こうして幸せならいっか!
この事を、両親にも知らせるべきかちょっと迷っています。
だって兄ちゃんの姿が、もうね『王子様〜』って感じなのよねー。
ちょっと受け入れられないかもね、両親には。まあその件は追々と言う事で・・・
「おーい、岩城。明日は大丈夫か」
「大丈夫〜。今回も頼んまっせ〜」
あたしも安芸くんと一緒に異世界に行くようになった。
「一人で行くのも二人で行くのも力量は変わらないそうだ」
と言ってくれるので、便乗させてもらっているのだ。
あたしも安芸くんも今は大学2年。一緒の大学に通っています。
一緒の方が都合がいいのでね〜。異世界に行くときも『安芸くんと出かけてくる』と言えば誰も邪魔してこないし、言い訳にもなるし。
「ええ〜〜?日出生、あなたまだ伝えてないの?」
「あ、うん・・・」
「火輪ちゃん可愛い子だから、早く先手を打たないと知らないぞぉ〜〜?」
「・・・うん」
「気付いてくれてもいいのに、なんて考えてんじゃないでしょうね。男からリードしなくちゃ。アルティス様みたいにね!アルティス様は男らしくあたしを甘やかして、いっぱい愛を囁いてくれたわよ〜〜」
「惚気んなって・・はぁ・・」
安芸くん、聖女姉さんとなんか話してる。説教かな?
しゅんとしているし。
あ。兄ちゃん、サリィムちゃんと一緒にこっちに来る〜〜!長男のデライトくんもいる〜〜!
我が兄が美男子王子に転生し、美女の妻にかわゆい息子と幸せにしてるのを見るにつけ、いいなぁ〜〜って思う。
「あたしも素敵な旦那様にかわゆい子供のいる人生を手に入れたいなぁ〜〜」
そしたら兄ちゃん、麗しい笑顔でさら〜〜っと宣った。
「日出生くんなんかいいんじゃない?空手も強かったし、頼もしいし。お前のワガママも聞いてくれてるし」
「んがっ?!」
な、なんだなんだ?
安芸くん顔が真っ赤だし。
聖女姉さん、親指おっ立てて『グッジョブ!』とにこやかだし。
聖女姉さんの旦那様もくすくす笑ってるし。
兄ちゃんもサリィムちゃんもにこにこしてるし。
「きええええええええ」
あたしはなんか居た堪れずに駆け出した!!
聖女姉さんの声が聞こえる。
「追え!日出生!」
「言われなくても!」
うわあああーーー!!
安芸くん男だし、足速いし、あたしはすぐに追いつかれた。
がしっと腕を掴まれ、引き寄せられて・・・
「・・・岩城・・と言う事だ」
「え?」
「それで伝わるかーーー!!ちゃんと言いなさいっ!!アルティス様はちゃんと言ってくれたわよーー!!」
「うるせえな!姉さんは!!ったく」
そして安芸くんはあたしの耳に口を近寄せて、あたししか聞こえない声で言いました・・・
え?
なんて言ったかって?
あたししか知らなくていいんです〜〜、ふふふ。
異世界転生と異世界転移した身内がいるあたしと彼だから、まあ、上手くいく・・のかな?
後日。
大学の友人に『あたし達付き合うことになった』と報告をすると・・
「え?あんたたち、まだ付き合ってなかったの?」
って言われた。
まああれだけ一緒にいれば、そう思われても当然か。
何故かみんなに『うんうん、やっと付き合えたんだな』と言われている日出生くんでした。
どう言う事なの。女友達には『あんたにぶっ!』『鈍感!』とか言われ・・・
はー、分かりました〜〜。つまり〜〜・・
あたしを好きだってあからさまだったんですね、日出生くん。
みんなはそれに気付いていて、それなのにあたしったら全く気付いてなくて・・・き・・
「きええええええええ」
「おい、姉さんの嫌なところ似るなよ火輪」
恥ずかしい!!恥ずか死ねる!!
逃げるあたしだけど、あっさりと日出生くんに捕まって。
日出生くんは、耳元であたしにしか聞こえない言葉を囁いた。
ええ、言いません!教えませんですとも!!
日出生くんのピカピカ輝く言葉の宝石は、あたしの頭の中で保管です!
短編だけでも90以上ある。笑う。
ここに投稿するようになって、早一年!これからもぼちぼち上げていきます〜。