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消えた村

作者: 神名代洸

いまからそう…30年ほど前だろうか?

地図から消えた村があった。

それはある日突然だった為誰も理由は知らない。例え知っていたとしてもガンとして口を開くものはいなかった。



編集者として売り込みやすく人気が高いであろう心霊スポットをメインに昔の新聞記事を読んでいた。

するとね?気になる記事が小さく載っているのに気がついた。


それは小さな村がダムの底に沈んだという事。

住民は全員で50人ほどの小さな村だったそうだ。

その村ではちょっと変わった信仰があり、ダムの埋め立てにはひどく反対したそうだが,役人が強引にことを勧めて全員立ち退きをさせたという。


そこはまぁごく普通のよくある話なのだが、住人が村を出てひと月もしないうちに埋め立てを請け負った業者の人間が1人、また1人と事故に遭うということがあったそうだ。


これは記事の種になると直感で感じた私は過去の資料で関係する類のものを片っ端から集めはじめた。

だがなかなか思うような記事は出て来ず、苛立ちだけが募っていった…。


諦めかけたその時ようやくそれの類の記事が見つかった。編集長に面白そうな記事が書けそうだと言ったらトップ記事にしてもいいというから力が入る。嬉しかった。はじめての表紙となるのだ。

でも1人での作業は難航し、仲間の手を借りたかったのだが、誰1人として誘いにのるものはいなかった。その記事はなんせタブーとされていた記事だったからだ。関わり合うものが謎の死を遂げる。

それを皆知っていたのだ。

この時点で知らないのは新人のメンバーだけ。

新人といってもいるのは4人しかいない。

集まって作業をすることになった。

場所は使われていない会議室。

一つ上の階だ。

鍵もかかっていない為入るのは簡単だった。

先輩も使ってもいいと言ってくれたし。


さて、集まった資料を整理することにした。

分担作業の方が効率が良い。

だから私は特に難しいであろう昔あった村の場所を探す担当になった。

他の面々も各々担当はある。

手が空いたらお互いのカバーをしようということになっていた。



地図から消えた村。



いったいどこに?


あったのは写真が数枚のみ。

目印になるものは…なさそうだ。

実際に当たってみるしかないか…。

どうするかをここで皆と相談することとしたが、皆の意見は場所を探すという点で一致しており、後日皆で集まって場所探しをすることになった。



場所は多分某県某市。

詳しい場所は話せないということを前もって決めていたのでこう表現するしかない。

なにぶん伝え聞いたのがヤバイ話ばかりだったから。


呪われた村。

曰く付きの廃村。

多発する事故。

などなど数え出したらキリがない。

怖気付くものも出てくるかもとあえて黙っていた。



道中は交通の便を考えて車二台で行くことになった。

それがこれから始まる恐怖の始まりとは今もって誰も気づいていなかった。もちろん僕も。




看板等は何もなかった。

村がどこにあるかわからない。

そこで近くに住んでいた住人をまずは探すことから始めた。

最新のナビを使い、車を走らせると開けた場所に何軒かの住宅が見つかった。

そこで聞き込みを始めたのだがなかなか皆口を割らない。

いったいその村で何があったのか?

住人は今どこに住んでいるのか?

探したが、見つけられない。

その町唯一の図書館を見つけた僕らは最後の頼みの綱と言うか、望みをかけて資料を漁った。

そしたら出るは出るは…。



資料はまとめられて保管されていた。

どうやら誰か他にも目をつけて調べた人がいたようだ。その人を探せばすぐ見つかると信じ、書いた人の名を見た。

すると上司の名が入っていた。


なんて事はない。

初めから知ってて黙っていたのだろう。

腹立つなぁと言うか何というかとにかく社に戻って上司に問いたださないとと言う思いのみで2台の車はその村を後にした。

もちろん資料は借りてきた。

村の発展のためという名目ならばと快く貸し出してくれたのだ。

本当は別の目的のためだったなんて今更言えない。

ひきつった顔のまま村民と別れ帰路に着こうとしていたところ、僕の携帯に一本の電話が入った。何だろうと不思議だったが、相手の電話番号は勤め先の社内の電話だったので何の疑いもなく電話に出た。


「もしもし?、どちら様ですか?」

「……ツーッ、ツーッ、ツーッ。」

「?何なんだ?この電話。」

「ん?どうかしたのか?」

「いや、さぁ、電話がなったから電話に出たら話し中?の音がして切れた。」

「なんだ?それ。」

「だろ?変なんだよ。よくわかんない。またなったら出てくれるか?」

「あぁ、いいぞ。出てやるよ。どうせ誰かの悪戯だろうけどな。」



暫くしてまた携帯が鳴った。

また僕のだ。

相手先はやはり社内のようだ。

一緒の車に乗っている同僚が電話に出てくれるみたいだ。人差し指で口元を押さえ、通話のボタンを押した。


するとみるみる顔色が悪くなっていく。

思わず急ブレーキを踏んだ。

後続で走っていた同僚の車も急ブレーキを踏んで車から降りて近寄ってきた。

「おい、どうした?ビックリしたぞ?急ブレーキなんかかけてくるから。」

言われた本人は反応しない。

いったいどうした?

反応がない。

僕が聞いたのとは別の声が聞こえたのか?

両肩を掴んで思いっきり譲ると放心状態だった同僚は正気に戻ってこう言った。



「この記事、ヤバイよ。やめないか?」

「何言ってんだよ。わざわざこんなど田舎までやってきたのに何の収穫もなく、記事も取り下げるって?馬鹿も休み休み言え。俺はやるぞ。」

「なら私は帰るよ。ヤバイんだ。知らないぞ?どうなっても…。じゃああとは必要な機材だけ持ってけよ。」

同僚の一人が動揺してしまった為、唯一の女性の同僚も不安な顔をしている。

大丈夫だって。

そう言い聞かせて今後の仕事の割り振りを考え直すこととなった。なんせ一人抜けたから、その分仕事量はどうしても増えるわけだ。

負担も大きい。



仲間一人とはその場で別れ、社に戻った。

上司に聞く為に急いでデスクに行くも上司の姿はなかった。どこに行ったんだろうと首を傾げていたら上司が外から戻ってきたようだ。何故か顔色が悪い。

「課長、どうかされたんですか?顔色が優れないようですが…。」

「君達三人だったか?あともう一人はどうした?」

「抜けると言うので現地で別れましたが…それがどうかしましたか?」

「今な、親御さんから電話があってな、君らが別れた場所からそう遠くない場所の崖下に車が落ちていたそうだ。彼は…亡くなったよ。」

「っなっ?冗談ですよね?まさか…呪い?まさか…ね。」

「君らは何の取材であんな山奥の村に行ったんだ?あそこは何もない場所なんだぞ?近くにダムがあっただろう?崖下は元村があった場所なんだ。」


僕らは絶句するしかなかった。

仲間が死んだ。

ついさっきまで喋り合っていたのに。


僕のせいか?

あの電話に出させてから様子がへんだった。

真っ青な顔していたし…。

録音でもされてたなら聞けたのに〜と携帯を見たらどうやら何か録音されているようだ。知らない間に誰が?

死んだ仲間か?


その場にいたもの達は皆固唾を飲んで僕の携帯を見ている。いまここでながせってことかな。そう思い、携帯を操作して再生ボタンを押した。


【………。◯※✖️◁⬜︎〜。「何なんだよ。コレ。何喋ってるんだ?」…死。「へ?…死って。何なんだよ。誰だよ!悪戯はやめろよな!」…ツーッ、ツーッ、ツーッ。お前は死ぬ。お前は死ぬ。ハハハハハ。「ふざけるな!呪いか?そんなのにかかってたまるか!」】


何なのか分からなかったが,確かに【死】と言う言葉だけは聞き取れた。上司もみんなも真っ青だ。

僕はその録音を消すことができなかった。何かの証拠になると思ったのだ。それが何なのかは分からないが…。


集めた資料は封印し,直属の上司に相談した。

その事件は多少知っていた為「分かった。」とだけ言ってその場からいなくなった。





それから数日後、今度は一緒に資料をまとめていた新人の女性がビルの屋上からの飛び降り自殺をする。

遺書はない。警察は事件性を探したが,何も進展がないまま自殺と断定され処理されることになった。

残ったのは2人。僕ともう一人だけ。

その一人は仲間の自殺を聞いてから自宅に籠り一歩も出ようとはしなかった。どうやら家族にも原因は話していないようだ。自室に籠りきりでほとんど出てこないらしい。

会社としては出社しないといけないが,ことが事だけに強く出ることができず、2日が経っていた。


会社に一般の電話が入った。どうやら休んでいる仲間の家族からの電話のようだ。


いつものように朝食を持って部屋に向かったが、トントンとドアを叩いても反応がなかったのでドアを開けて見たら布団の中で冷たくなった姿を見つけたと言う。顔は恐ろしいものでも見たような形相で固まっていたらしい。実際見たわけではないので分からないのだが,これで残っている関係者は僕だけになってしまった。



これは完全に呪われてしまったと恐怖に震えた僕は、神社に行ってお祓いを受けようとしたが、足が神社の方を向かずたどり着くことができずに困り果てていた。とにかく何とかしないとと思うのだが、何故か急に後ろに何かの気配を感じて振り返ることができなくなっていた。一体何がいるんだ?



怖い。

怖い。

怖い。



誰か助けて!!



初めは歩いていたがついてくる気配にびびっていた為猛ダッシュをかけた。けど、それでも追いかけてくる。どうしたらいい?どうしたら…。


その時ふと思ったんだよね。



居なくなればいいんじゃないかって。



まるで何かに取り憑かれたように踏切の遮断機を潜って線路内に入っていた。電車の音がして、それでもその場から動けずにいると後ろから腕を引っ張られてその場は助かったが、放心状態の僕は何が何だか分かってはいなかった。

助けてくれたのは上司だった。

何故?と思ったが、そもそも何でこんな場所を歩いているのかさえ理解できてはいなかった。


「何をしている!死ぬ気か?」

言われてああ僕も死んだ同僚の元に行くとこだったんだなって初めて気づいた。

涙が出て来たよ。

生きててよかったって…。



「すみません。すみま…うう。」

涙が止まらなかった。

上司は黙って僕の肩をトントンと叩くとどこからか取り出した塩を振ってまたトントンと肩を叩いた。するとスーッと身体が軽くなった気がしたんだ。

そしてポツリと話し出した。

僕らが調べていた記事についてを。


上司がまだ駆け出しだった頃この事件は起きた。

ただ住人が少なかった事と、不可解な事故が続いた為上からの指示でストップがかかり小さな記事で終わらせたという。

「本当なら大きな記事になるはずだったのに…。」上司はそうポツリと言った。

議員の力で記事が揉み消されたのだ。ただ地図には村の名が残されていた為地図上からも消すためにダムを建築しそこに沈ませたのだそう。

元いた住人には多額の金が渡り散り散りになるように画策され皆出て行ったと。最後までいたのは村長だけで、反対の意思を持っていたが長年連れ去って来た妻が心労の為亡くなるとアッサリと出て行ったと聞く。

今はどこかの施設に入っているはずだと教えてくれた。なぜ知ってるかと聞くと、今も交流があるからだと教えてくれた。

高齢ではあるが、元気に過ごしているらしい。

差出人の欄には住所が書かれてはいなかったが,最初の手紙の中に書かれていてそれ以降は名前のみで送られてくるそうだ。

なんか呪いとかとは関係ない気がしないわけではないが、相次ぐ事故には訳があるそうだ。



村には小さな祠があった。

その祠は気がついた頃には村の中心に立っていたらしい。祠の中には何があるのかは誰も知らないと言っていた。鍵もかかっていたから大事な仏像でも祀っていたのだろうと思っていたそうだ。

しかし、年月とともに錆びて壊れた鍵が外れ扉を開けたものがいたそうな。

村長曰くそれは生首のミイラだったと聞く。

なぜそんなものがこの村にあったのかは誰一人として知らず、そのまま放置されていた。しかし、ある日事件が起きる。

その祠を開けたものが不可解な死を遂げたのだ。

まるで見ては行けないものを見てしまい、身体中の骨がバキバキになって発見されるのはいなくなってからひと月が過ぎた頃と聞く。それ以降村の中での不可解な事故や死が相次ぎ、はじめは大勢いた村人達は一軒、また一軒と土地を離れていった。その後どうなったのかは誰も知らない。

連絡が取れないのだ。

神隠しにあったんだと年老いた者たちは言うが、若者達はそんな事はないと言って真っ向から否定する。

村の端から端を探し回る自警団も現れ、捜索隊が結成されるとしらみつぶしに探す日が続いた。

そうすると、村の端でいなくなった家族の死体が発見され、村内は大騒ぎとなった。

村から逃げ出すものは呪われる。いつしかそんな風に言われるようになり、村から出るものはいなくなる。

そうなると年頃の子供を持つ親は同じ子どもを持つ子との婚姻を結び、血の結びつきを濃くしていった。

そうなると必然的に奇形児が生まれやすくなり、ますます住人は減っていく。

それでも逃げ出す事はできず、ただ時が過ぎるのを待つしかなかったそうだ。

そんな時たまたま有名議員の子供達がこの村にやって来てどんちゃん騒ぎを起こし、村の祠を壊してしまった。

事情を全く知らないその子らは白骨の首を手に振り回して遊び倒し、最後はその場に放置して去っていくと言うとんでもないことをしていたのを見た住人は村長に話をし、村長からその父親である議員に抗議を起こした。それに腹を立てた議員が今回のダムの建設を強行で行い、工事が終わる前に謎の死を遂げた。


そんな経緯があったなんてどこにも書かれていなかった。簡単に事故により数名が死亡と書いてあるのみだった。

僕はどうするべきかと考え、上司にその住民と連絡を取ることをお願いし、上司から渡された塩を手に仕事を済ませると資料を見直した。その祠が別の場所に奉納されているかもと期待したのだ。しばらく地図と睨めっこしていたらそれらしきものが祀られている場所が見つかった。

それで慌てて出かけ、近くの店で花とお供物を持ってその場所に向かった。

そこは何もない辺鄙なものところにあった。

僕はすぐに作業に取り掛かった。

荒れ果てた雑草が所狭しと咲いていて、掃除をする前にまず雑草を抜く事から始めた。上司もついて来ていたので一緒に汗を流しながら黙々と作業をし続けた。

ある程度抜き終わったら今度は墓石の手入れだ。

綺麗に磨き上げ,花と供物を捧げる。

祈りながら考えたんだ。

なぜこんな間に合わなければなかったのか、それはこの村に住んでいた住人しか分かりようもない。それでも大変だったということだけはわかる。

どうか心安らかに眠ってくださいと祈るしかなかった。




その後は大きな事は起きてはいないが、引っ越しを余儀なくされたものたちへと話は伝わり、祭壇の周りは綺麗な花々で途切れる事はなかった。

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